竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか 作:Amur
まさか原作10巻以降も映像で観られるとは思いませんでした。
散りゆく髪こそ美しい(ナザリック編)
ナザリック地下大墳墓――
今まさに、ナザリックの今後を左右する重要な会議が始まろうとしていた。
議長席にはアインズ・ウール・ゴウン魔導王その人が座り、各席には守護者たちが座している。
また、席にはついていないが、周囲を複数の高レベルのシモベが囲む。
「では『どうすればドラウにもっとナザリックにいてもらえるようになるか』について、会議を始めるとしよう」
魔導王が重々しく会議の開始を告げる。
「さあ、各々自由に意見を出してほしい」
アインズが会議室を見渡すが、議題の重要さからそうそう声を上げる者は――
「はい!」
「うむ。皆が委縮する中、素晴らしい。流石は守護者統括……道開く者……!」
「ドラウディロン様は女王の仕事で忙しいと思いますので、ナザリックへの滞在を増やすことはやめた方が良いと考えます!」
意気揚々と会議の趣旨に真っ向から反抗するアルベド。
アインズの表情は変わらないが、心なしかどう突っ込もうか考えているような気配が感じられる。
「なあ……」
「どうした? ドラウ」
「普通こういうのって、本人がいないところでやらないか?」
アインズの横の席に座るのは、竜王国女王ドラウディロン・オーリウクルス。
指にはギルドメンバーの証であるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが光っている。
ちなみにこの指輪を貰うとき、いたずら心を刺激された彼女は、嵌めてくれと左手を差しだした。一瞬、硬直したアインズだったが、結局は薬指に嵌めてあげたのだった。
「それはそれで水臭いだろう。それに、本人がいた方が具体的な意見も出しやすいと思ってな」
「まあそうか」
「はい!」
反対側のアインズの隣の席に座るイビルアイが元気よく挙手をする。
「おお、イビルアイ。ドラウと同じく、王族にして冒険者。期待していたぞ!」
「常駐するギルドメンバーはアインズと私の二人で十分だ。ドラウには普段は竜王国にいてもらえばいいと思う」
先程とほぼ同じような方向性の意見をかます吸血鬼。
チラリとアルベドの方に目をやれば、何やらイビルアイと頷き合っている。
――こいつら結託してるじゃないか。
二人で組んでドラウディロンを追い出そうとしてるのが見え見えだったが、とりあえず黙っていてあげる竜女王。
「……イビルアイ。退場」
「なっ!? 何を言うんだ、アインズ!」
「構わないな? ドラウ」
「ああ」
「ではギルドメンバー三人中二人の同意により、イビルアイは会議から退場が決定だ」
「ちょ、待て! 待ってくれ!」
喚くイビルアイだが、アインズとドラウディロンは無視をする。
それを見てほくそ笑むアルベド。さっきは手を組んでいたような素振りがあったが、所詮は儚い同盟である。
「あとアルベドも同じく退場な」
それを聞いて白目になり、固まるアルベド。なぜ自分は許されると思ったかは不明である。
ちなみに、自身もアインズの妃の座を狙っているシャルティアは冷静さを保っている。元々、ドラウディロンには比較的、好意的だったことに加えて、魔導国建国前にリ・エスティーゼ王国の使者を惨殺してしまった件で、精神的に成長しているからだ。
「失礼イタシマス」
コキュートスを筆頭に複数のパワータイプのシモベに連行されていくイビルアイとアルベド。暴れ叫ぶ二人だが、徐々に声は小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。
クイッ
静かになった会議室で一人の悪魔が無言で眼鏡の位置を右手で調整する。
その動作だけでアインズは待ってましたとばかりに声をかける。
「おお、デミウルゴス。いよいよ、真打の登場だな」
皆も一斉に彼の方を向くが、ナザリック最高の頭脳に動揺はない。
「では僭越ながら私が意見を述べさせていただきます。――我々シモベから提案するのは不敬ではありますが、もし叶うならば、ドラウディロン様にお世継ぎをつくっていただくのが望ましいかと」
「なるほど。私の子供に竜王国を継がせるわけか」
そういえば曾祖父の竜王にも子供を産めと言われたなと思い出すドラウディロン。
「実際、ドラウが子供を産んだとすればどうなる? 人間の子かドラゴンの子のどちらになるんだ?」
「産んだことが無いので分からんが、そのときの形態次第ではないかと思う」
人間形態で産めば人間種が、竜形態で産めば竜が産まれるだろう。半竜半人形態ではどうなるかは未知の領域である。
「ドラウディロン様はどの種族と子をなすことが可能なのでしょうか?」
「人間種とドラゴンは確定だが、他はやってみないと分からん」
「やってみる……」
「もしお世継ぎを産んでくだされば、女王としての仕事の後継者としても、またナザリックの支配者の後継としても期待が出来るというものです」
その言葉におおおおおっと盛り上がるシモベたち。
「子供といえば、アインズはアンデッドだが、魔法かアイテムで一時的にでもそういう行為が可能になったりはしないのか?」
「私が完全に種族を変えるにはワールドアイテムが必要だが、一時的にであれば、超位魔法の<
「もし可能になったら私と子供をつくれば諸々の問題は解決だな」
いい案だと笑うドラウディロンだが、子供を作るということはそういう行為をするわけで、経験のないアインズはいささか返事に困った。
「な、なんと! アインズ様の魔法であれば、お二人の子を誕生させることが可能であると!?」
デミウルゴスの言葉を皆も理解したのか、途端に騒がしくなる会議室。
「アインズ様! それはわらわとも子供がつくれるようになるのでしょうか!?」
アンデッドであるがゆえに子供は産めないシャルティアも話に食いつく。
「どうだろうな。アンデッド二人の子となれば、さすがに願いの範囲を超えるような気もするが、限界まで試せばあるいはと言ったところか」
「おおおお!?」
可能性を感じさせる言葉に目を輝かせるシャルティア。
「まあ、可能性の一つくらいに考えておけ。そうそう気軽に使う魔法でもないからな」
「はっ。承知いたしました」
「わかりました!」
デミウルゴスもシャルティアも大人しく引き下がったが、その顔からは期待が隠しきれていない。
――子供をつくってドラウがナザリックに住むようになれば万々歳だが、彼女自身が俺とそういうことをしてもいいと言っては……いや、言った? 先程の言葉はOK的な意味なのか?……分からん。
チラッと隣の竜女王を見るが、首をかしげるだけで内心は窺い知れない。
ドラウディロンに子を産んでもらうという案はかなり有効だが、相手を誰にするかという問題もあるので、ひとまずは保留となった。
その後もそれなりに可能性のありそうな意見は出たが、ひとまず『ドラウディロンにもっと長くナザリックに滞在してもらおう会議』は終了した。
ーーーー
会議が終わり、デミウルゴスは参加していた仲間たちを集めて、内容を整理して聞かせていた。
「イビルアイ様とアルベドには子供の話をするのは控えるように。アインズ様とドラウディロン様の二人で子供をつくれる可能性があるなどと知ったら、大爆発が起こりかねませんからね」
そんなことになったら私が(物理的・精神的に)死にますと思いながら、そこまでは口に出さないデミウルゴス。
話も一段落したころ、退場処分となっていたアルベドとイビルアイが会議が終わったと聞いてやってきた。
「デミウルゴス。話し合いはどうなったの?」
「色々と意見は出たが、これといって具体的な方策は決まらなかったよ」
「そう」
その言葉に笑みを隠そうともしないアルベド。隣のイビルアイもうんうんと頷いている。
「女王の仕事を疎かにするわけにはいかんからな。アインズを支える役目は私に任せてもらえばいい」
「いえいえ、イビルアイ様。そのお役目はアインズ様の正妻であるこのアルベドにお任せいただければよろしいかと」
「は? 誰が正妻なんだ。起きながら夢を見るのはやめてくれないか」
「それはもちろん、アインズ様が自らを愛するように定めたこのアルベドです」
睨み合いながら言い合う姿は最近のナザリックではよく見る光景なので、もはや誰も止めない。
正確には止めないというか、通常はデミウルゴスが対応している。頼りになるパンドラズ・アクターは、今日と同じく魔導国でアインズの影武者を務めることが多いので、彼に負担が集中していた。
「わらわも諦めてはいないけど、可能性としてはドラウディロン様が一番ありそうでありんす。だって――」
そこでデミウルゴスが目線でシャルティアの台詞を遮る。
言葉は止まったのだが、口喧嘩をしていた女二人に不穏な気配を感じさせるには十分であった。
「……シャルティア。なぜドラウディロン様に一番可能性があるの? なにを隠しているの?」
「い、いや……何でもないでありんすよ」
「シャルティア。隠していることを言え。まさか、私に嘘はつかないよな?」
アルベドに続いて、イビルアイも彼女に吐かせようと威圧する。
「そ、その」
「シャ――もが!?」
止めようとするデミウルゴスの口を手で強引に塞ぐアルベド。
「アインズ様とドラウディロン様。お二人であれば子供をつくれ――っ!?」
階層守護者最強とされるシャルティア・ブラッドフォールンが思わず息を呑んだ。
目の前にはこれ以上なく両目を見開くアルベドとイビルアイ。自分の力で握りつぶしかねない程、その両手は握りしめられている。
そして、程なくしてゆっくりと並んで歩きだす二人。
「ど、どこに行かれるのですか!?」
パサッ
慌てて後を追おうとするデミウルゴスだが、妙な音がしたので思わず下を向く。
そこには一房もある黒髪が落ちていた。頭に手をやると、明らかに髪の量が少ない。
従来の激務に加えて、アルベドとイビルアイへの対応による、限界を超えたストレス故だろうか。大悪魔としてはありえないことに、まるで人間のようにデミウルゴスの頭皮にダメージが蓄積していたのだった。
しばらく無言で落ちた自分の髪を眺めていたデミウルゴスは、眼鏡を抑えるように手を顔にやり、久方ぶりに悪魔でありながら天を仰いだ。
ジル「気を落とすな」