竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか   作:Amur

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滅国の魔女(10歳)と漆黒聖典

 リ・エスティーゼ王国第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは人間種最高の頭脳を持つ。

 だが、それ故に疲れていた。周囲の人間のあまりの愚かさに。誰一人として自身を理解してくれない現状に。

 唯一、彼女を癒してくれるのは愛するクライムだけ。

 

 そんなラナーが自室に戻ると、奥から物音がする。

 

「……?」

 

 一人になりたかった彼女はメイドに誰も入れないよう言付けてあった。

 従者のクライムは訓練中なので彼ではない。

 では誰なのかと訝しみながら、音の主を探すと――

 

 

「おかえり」

 

 

 そこには我が物顔で紅茶を飲んでいる少女の姿があった。

 

「???」

 

 一を聞いて十、いやそれ以上を知る黄金の姫にもこの展開は予測できなかった。

 

 

ーーーー

 

 

「竜王国女王、ドラウディロン・オーリウクルスである」

 

「竜王国の女王……」

 

 ラナーはその頭脳を回転させ、状況を推測する。本物、偽物、目的、手段……だが、流石に元となる材料が少なすぎた。そこでまずは情報を引き出そうと話をする。

 

「かの国の女王陛下がいったい何よう――」

 

「この紅茶一つとっても王国の豊かさがよく分かる」

 

 わざとか偶然か、ラナーの台詞に被せるように女王は話し始める。

 

「我が竜王国とは全然違うな。流石は大国だ」

 

「……」

 

「突っ立っていないで座ったらどうだ? ラナー王女」

 

「……失礼します」

 

 失礼するも何もこの部屋の主はラナーである。もちろん、ドラウディロンが勝手に飲んでいる紅茶も彼女のものだ。だが、それをツッコむ者はここにはいなかった。

 

「……」

 

 今度はラナーは自分から話しかけず、じっと女王の動向を窺う。

 

「リ・エスティーゼ王国では平民がどれだけ功を上げても一代で成り上がれるのは男爵までだろう。それでは王族の降嫁は認められん」

 

 ドラウディロンがそう言ってチラリと黄金と呼ばれる姫を見る。

 

「!」

 

 まだ情報は不十分だが、今の言葉だけでもラナーには女王が来た目的が理解できた。

 

「……例えばの話ですが」

 

「うむ」

 

「竜王国に他国の王族が平民の従者を連れて亡命してきた場合、どうなりますか?」

 

「我が国を頼ってきた以上、基本は受け入れるだろう。その者たちが望むなら元の身分が違えど結婚することも可能だ。当然ながら、持てる能力は竜王国の為に発揮してもらうがな」

 

「それは素晴らしい……ですが、本当にそんなことが可能なのですか?」

 

「私のチカラを疑うか。まあ、当然だな。では……」

 

「あっ」

 

 ドラウディロンはひょいっとラナーを抱き上げた。

 

「転移」

 

 女王が一言呟くと、一瞬で景色が変わる。室内からどこかの中庭に出る。

 

 

「……ここは?」

 

「竜王国の王城だ」

 

「竜王国……こんな一瞬で」

 

「第三王女の部屋に転移阻害の術式も施されていないとは不用心だな」

 

「我が国は魔法を軽んじていますので……」

 

「そうだったな。愚かなことだ」

 

「はい。私もそう思います」

 

 そこにドスドスと地響きを立てて走り寄る者がいる。

 

「お帰りなさいませ! 女王陛下!」

 

「出迎えご苦労、ヘジンマール」

 

 女王に抱き上げられたまま、ラナーが振り向くと一頭の霜の竜(フロスト・ドラゴン)がやってきていた。

 

 本来、ドラゴンの中では細身の種だが、この個体は体格がよかった。有り体に言うなら太っている。しかも、鼻の先に小さなメガネを掛けていて、およそ強大なドラゴンの雰囲気からは程遠い。

 

「これは……ずいぶん個性的なフロスト・ドラゴンですね」

 

「はっきり言ってよいぞ。太っているとな」

 

「いや~、これでも多少は痩せたんですよ」

 

 地面に下ろしてもらうラナー。

 周りを見てみれば他にも様々な種族のドラゴンが我が物顔で歩き回っている。

 

「すべてこの私の配下だ」

 

「……」

 

 どや顔のドラウディロンに対してラナーは無言だ。

 

 ――何という圧倒的な軍勢。このドラゴンたちがすべて女王の指示で動くというのですか。その武力を背景とすれば逆らえる者などいない。個人が持つチカラとしては大きすぎる……。

 

「どうした? 驚いて声も出ないか」

 

「……ええ。これは凄い。ここが竜王国であること、そしてあなたの御力が理解できました。疑ったことをお許しください、ドラウディロン・オーリウクルス女王陛下」

 

「わかればよろしい」

 

 

 再びリ・エスティーゼ王国のラナーの部屋に戻ってきた二人。

 

「誠心誠意、仕えさせていただきます。偉大なる竜の女王」

 

「勧誘した私が言うのも何だが、こうも簡単に信用してよいのか?」

 

「女王陛下の御力は確かなものです。それに断ればここで私を消すのでしょう?」

 

「ふ……さて、どうかな」

 

「どちらにしても私の望みを叶えるには強者の庇護下に入るよりありません。今まではそれをバハルス帝国皇帝で考えていましたが、あなたと会ってしまえば鮮血帝に魅力を感じない」

 

「はっはっは。はっきり言うものだな」

 

「女王陛下には私の内面がバレているようですので」

 

「まあ、そうだな。……さて、お前を我が国に招く手段についてだ。事故死を装うというのも手だが、王国とのパイプを残す意味でもやはり亡命がいいだろう。当然ながら、一時的に王国とは関係が悪化するがな」

 

「苦労をかけます」

 

「問題ない。いくら愚かな王国上層部も我が国に戦争を仕掛けることはあるまい」

 

「……そうですね。竜王国が少なくとも数頭のドラゴンを使役していることは我が国でも知られています。普通であれば、戦争などありえませんが……」

 

 先程見た巨大なドラゴンたちが相手では王国の兵など相手にもならないだろう。

 

「その普通でないことをするのが王国貴族か」

 

「はい……その愚かさは時に私の予測すら上回るほどです」

 

「ある意味凄いな」

 

 人間どころか異形種でも最高の頭脳の持ち主に比肩するラナー。その彼女でさえ、思惑を外されるほどの愚かさ。それを聞いた女王は苦笑するしかない。

 

 

「さて、紅茶もいただいたことだし、帰ることにするか」

 

「え? もうですか」

 

「女王である私は忙しいのでな。竜王国での衣食住に心配はいらない。準備にどの程度必要だ?」

 

「至れり尽くせりですね。それであれば、クライムさえ説得できればよいので、1日いただければ十分です」

 

「ふ……早いな。では明日の同じ時間に迎えに来る」

 

「よろしくお願いします、女王陛下」

 

「うむ」

 

 そう言うとドラウディロンは転移で姿を消した。

 

 しばらく女王がいた空間をじっと見ていたラナーだが、少し経ってからホッと息を吐いた。いくら精神の異形種と呼ばれる存在でも、未成熟な少女であることに変わりはない。強大な存在を前に、さすがに緊張していたようだ。

 

「……いかなる手段で竜王国の女王が私とクライムの関係を知ったのか? いえ、そもそも私のことを理解し過ぎている。まだ10歳の第三王女に過ぎない私を何故……?」

 

 竜女王の行動に疑問が次々湧き出てくるラナー。

 

「けれど問題ありません。私はクライムと過ごすことだけが望みなのですから。考えていたすべてのプランが無駄になりましたが、あの方の庇護下に入ることが出来るなら惜しくはない」

 

 黄金の姫にとって愛する従者との穏やかな生活だけが全て。それが保障されるのであれば、どこに行こうと構わないのであった。

 

 

ーーーー

 

 竜王国・王城――

 

 

「ラナーがこのまま成長していけば人間としての歪みが大きくなり、精神の異形種として完成されてしまうだろう。10歳か……本当なら物心つく前がベストだったが、まあ仕方ない。これ以上歪まないようにビシバシ教育するとしよう」

 

 竜王国に戻ってきたドラウディロンは自室で状況を整理していた。

 

「フールーダとラナー。ひとまず帝国と王国の裏切り者トップを取り込むことは出来た。ナザリックが来てからも連中に靡かないように手を尽くさねばな」

 

 ちなみに、正規ルートで入国した帝国と違って、王国には密入国だ。女王単独であれば、誰にも気づかれずに王城のラナーの部屋まで侵入するなど造作もない。

 

「ナザリックが来た時にラナーは16歳前後だったはず。ならば猶予は5~7年か。法国あたりにプレイヤー転移時期の正確な情報はないだろうか? ……よし、行ってみるか」

 

 思い立ったら即行動が竜王国女王である。

 

 

ーーーー

 

 スレイン法国――

 

 

「神官長たちは前回のプレイヤーの来訪は194年前で、後6年で100年周期と言っていたが……」

 

 ドラウディロンは法国の中でも限られた者しか入ることが出来ない書庫でプレイヤー関係の書物を漁っていた。

 

 最重要機密がいくつもあるこの書庫には他国の王族であろうと普通は入ることが出来ない。法国にとって重要な協力者である竜王国女王の依頼ということで、漆黒聖典隊長(第一席次)の監視付きで特例として認められていた。

 

「――むうっ!」

 

 目当ての記述があったのか、勢いよく席から立つ女王。

 側にいた隊長が思わずビクッと反応してしまった。

 

「……前から思っていたのだが」

 

「は、はい?」

 

 ジト目で女王に見られ、隊長は声が詰まってしまう。

 

「お前、妙に私に怯えていないか? 私が何かしたか?」

 

「い、いえ! もちろん、何もありません! 女王陛下にはよく鍛えていただいていますので、感謝しかありません。そのご威光に緊張しているだけです」

 

「ふうん……」

 

 納得していない顔のドラウディロンだが、それ以上の追及はしなかった。

 実際、隊長はそこまで彼女個人に怯えているわけではない。ただ、フリーダム過ぎる女王に割と振り回されているので、その挙動につい反応してしまうだけである。

 

「まあいい。それよりこの記述だ。『××××年に神が降臨された。荒れ狂う魔神たちを滅するために異世界より来てくださったのか』。これは今の年号に直すと194年前。十三英雄の話だな」

 

「そうだと思われます」

 

 ――よし。私の記憶、神官長たちに伝わる口伝、書物の記録。すべて合致している。ナザリック地下大墳墓の来訪は6年後で確定か。

 

「次にプレイヤーが来る可能性があるのは6年後か」

 

「周期的にはそうなります。ですが、必ず100年なのか、多少ズレることがあるのかは分かりません。なので我々はいつ神が降臨してもいいように備えています」

 

「うむ……」

 

 ――たしかに隊長の言う通りだな。6年後と決めつけてしまうのは危険。裏付けが取れたのは大きいが、数年前後しても問題ないように準備せねば。……せっかくだ、他にも興味深い資料がないか見てみるか。

 

 女王が別の書物を探し始めたのを眺めながら、漆黒聖典隊長は過去を思い起こす。

 

 

ーーーー

 

 数年前――

 

 

 スレイン法国の秘匿された領域を一人の少年が歩いていた。

 小柄な体格と幼い面貌から年齢は10をいくつか過ぎた程度に見える。

 数年後の漆黒聖典隊長本人である。

 

「この聖域にいるのが“自称”法国最強の女。だがそれも今日まで。俺こそが真に法国の、いや人類の頂点だと教えてやる」

 

 自信と傲慢に満ちた言葉だが、単なる大言壮語ではない。

 事実、彼は難度100を超える伝説のアンデッド、デスナイトすら一蹴できる。

 

 少年が聖域の奥にある訓練場に近づくと、剣戟の音が聞こえてきた。

 

「ん? 戦闘訓練でもしているのか。ちょうどいいタイミングだな」

 

 にやりと笑った少年が訓練場に足を踏み入れようとするが、そこには一人の老人がいた。

 

「水の神官長……」

 

「ん? お前……そうか、番外席次に挑みに来たのか。困った奴だな」

 

 無許可で聖域に入ったことを叱責されるだろうと考えていた少年は、苦笑する程度で済ませる神官長が意外だった。

 

「近いうちに顔合わせはさせるつもりであった。それに、今日来たことは運がよい」

 

「運がいいですか?」

 

「そうだ。仮にお前が番外席次に挑めば完膚なきまでに叩きのめされていたが、先客がいたおかげでそうはならなかった」

 

「先客とやらは知りませんが、俺は誰にも負けませんよ」

 

 少年はむっとしながら言い返す。

 

「ならば中での戦いを見てから、もう一度いまの台詞を言ってみるのだな」

 

 神官長に促され、訓練場に足を踏み入れる少年。

 そこでは漆黒聖典番外席次、またの名を絶死絶命と誰かが戦っているはずだったが、姿が見当たらない。

 

「いない……? いや、違う! 速すぎて見えないだけか!?」

 

 実力者の少年であっても肉眼で捉えることが出来ない程の高速戦闘。剣戟の音だけが室内での戦いを証明していた。

 

「そんなバカな……俺が……俺が……」

 

 その事実に少年が愕然としていると、部屋の中央で両者が動きを止めた。

 

 一人は身長ほどもある戦鎌を振るう10代前半の少女。

 長い髪は白銀と漆黒のハーフ&ハーフ。瞳の色も左右で異なっている。

 彼女が法国最強の女、番外席次。

 

 対するは両手から鉤爪を生やす10歳前後の少女。

 竜王国女王、ドラウディロン・オーリウクルスだ。

 

 ガン!

 

 戦鎌が女王に襲い掛かり、両手の鉤爪で受け止めるが、明らかに力負けしている。

 

「ちっ!」

 

 押し切られる前に辛うじて戦鎌を弾いて距離を取る女王。

 

「……ふうん。神人よりも珍しい、真なる竜王の血を覚醒させた存在。たしかに今まで戦った中だと一番強いね。けど、それでも私に敗北を教えるには足りないかな」

 

「ふ……それは悪かった。なら、お詫びに教えよう」

 

「あら。何かしら」

 

「このドラウディロンは変身をするたびにパワーがはるかに増す。その変身をあと2回も私は残している……その意味がわかるな?」

 

「む――!?」

 

「絶死絶命よ、お前には特別に私の変身を見せてやろう!」

 

 ドラウディロンが腰を落とし、全身にチカラを漲らせる。

 

「はああああああああ……!」

 

 腕や足が膨れ上がり、全身が肥大化していく。

 高まったエネルギーの余波で大気が揺れ、神殿が激震する。

 

「う……あ……うあ……」

 

 あまりの威圧感に鼻息荒く乗り込んできた少年は怯え、震えている。

 

 小柄だった女王の身体は徐々に大きくなり、ついには成人女性ほどとなる。

 続いて頭から二本の角が生え、背には皮膜のある翼が出来上がる。更に尻から竜の尻尾が生えた。

 

 実は一瞬で変身可能なのだが、演出のためにわざと時間をかけているエンターテイナーな女王。

 絶死絶命も空気を読んで何もしない。

 

 

 カシャッ

 

 

 変身が完了し、両手の竜の鉤爪を構えるドラウディロン。

 

「さあ……始めようか!」

 

 半竜半人と化した女王が猛烈な速度で飛びかかる。

 

 ズギャッ!

 

 振るわれる右の鉤爪を絶死絶命が戦鎌で防ぐ。

 先程までとは逆で、今度は彼女が力負けしている。

 

「ぐ……ぬっ……」

 

 必死に押し返そうとするが、そこに女王の尻尾が襲い掛かり跳ね飛ばされる。

 轟音と共に壁面に叩きつけられ、倒れ伏す絶死絶命。

 

 今の一撃はたとえアダマンタイト級の冒険者でも即死は必至。

 しかし、法国最強の女に痛痒を与えるには足りなかったようだ。

 

「……ふ……ふふふふふ……ようやく、ようやくよ」

 

 立ち上がった彼女はこれ以上ないほど笑っていた。

 

「私と対等に戦える存在。あわよくば、私に敗北を教えてくれる存在!」

 

 絶死絶命の身体から闇色のオーラが立ち昇る。それは戦鎌の柄を伝わり、刃全体を覆うように広がる。

 

「喜べ。今日、お前の望みは叶う」

 

「やってみせてよおおおおおお!!!」

 

 スレイン法国最強と竜王国女王は再び激しくぶつかり合う。

 ここが六大神の残した結界の中でなければ大破壊が起こっていただろう。

 

 

 後日、戦いの一部始終を目撃した漆黒聖典隊長は、今まで威張り散らして迷惑をかけていた関係各所に謝罪して回ったという。

 

「世界の広さを知りました。俺は……いえ、私はカスでした」

 

 

ーーーー

 

 再び現代――

 

 

「……あんな光景を見せられてしまえばね」

 

「?」

 

 隊長が何を言っているのか理解していない竜女王。

 

「ここにいたのね、ドラウ」

 

 書庫に入って来た絶死絶命こと漆黒聖典番外席次がドラウディロンを見つけて寄ってくる。

 

「ん? お前か」

 

「お前かじゃないでしょ。どうして私のところに来てくれないのさ」

 

 本を探す女王に後ろから抱き着きながら文句を言う。

 

「遊んでいるわけではなく、調べ物をしているんだ」

 

「むう……それ終わったら、こっちにも来てよね」

 

「いやいや、番外席次。あなた、勝手に抜け出したらマズいじゃないですか」

 

 本来は聖域から出てはいけない彼女に隊長が注意をするが、本人は気にしていない。

 

「少しくらいは平気よ」

 

「しかしですね……」

 

「調べ物が終わったら、お前のところに行くから大人しく戻ってやれ」

 

「ん……わかった」

 

 ドラウディロンが約束をしたからか、思いの外素直に持ち場に戻る絶死絶命。

 

「……申し訳ありません、女王陛下」

 

「まあ、気にするな」

 

 謝る隊長にひらひらと手を振って答える女王。

 

 

ーーーー

 

 番外席次の部屋――

 

 

 竜王国女王、漆黒聖典番外席次、漆黒聖典第一席次の三人は仲良くテーブルを囲んでいた。

 

「ふーん。それで帝国とも協力関係を結んだわけか」

 

「ああ。だが、プレイヤー関係の話はまだしていない。もう少し信頼関係を築いてからだな」

 

「神々の情報は法国上層部との密約に関わってきますので、慎重に扱っていただければ……」

 

 第一席次が遠慮気味に要請する。

 

「ああ。わかってるよ」

 

「法国上層部は百年間隔でぷれいやーが来ることを世間に隠しているからね」

 

「その方針は仕方あるまい。民衆が安心して眠れるようにということだからな」

 

「ご理解いただいていて、よかったです」

 

 女王が配慮してくれているのを聞いて安心する第一席次。

 

「王国はどうするの?」

 

「今のところ、国そのものには手を出す予定はないな」

 

「リ・エスティーゼ王国……あれほど安全で肥沃な土地を持ちながら、堕落しきった愚か者ども」

 

 第一席次は目に怒りを宿しながら、王国を罵った。

 

「いきなり怒りださないでよ」

 

「すみません、番外席次。しかし……」

 

「わかった、わかった。過去の法国が希望を託した国の腐敗が許せないんでしょ」

 

「はい……」

 

 番外席次はさほど気にしていないが、真面目な第一席次は割り切れないようだ。

 

「王国なあ。国王ランポッサⅢ世は無能ではないが、油断すれば人類が滅びるようなこの世界で王に向いているとは思えん。慈悲深さは美徳だが、ジルクニフのような苛烈さも必要だ」

 

「女王陛下のおっしゃる通りです。ランポッサⅢ世は鮮血帝のように、血を流してでも改革を強行すべきです」

 

「手っ取り早くドラウのところが併合すればいいんじゃない?」

 

 悪い顔をした番外席次が提案する。

 

「そんなことは出来ないと分かっているだろ。我が軍のドラゴンたちを数頭派遣すれば、王国軍など蹴散らせるが、その場合、法国の民衆は騒ぎ出すだろうな」

 

「そうでしょうね。ドラゴンやその血を引く女王が人間の国家を襲ったという形になるのはマズいです。事情を知る法国上層部はともかく、大多数の国民は竜王国討つべしという声を上げかねません」

 

「法国にしても王国を併合すれば評議国と隣接してしまうので駄目。隣国が異形種国家となれば国民が討伐の動きを見せかねん」

 

「この国のそういうところは面倒ね。人間絶対主義の弊害だわ」

 

「人類が一致団結するためには仕方なかったのだろうがな。……となるとやはり、帝国に王国を併合してもらうしかないな」

 

 

 ――実のところ、私が鍛えたスーパーフールーダがいれば王国を叩き潰すのは造作もない。ただ、早期に帝国が王国を飲み込んだ場合どうなる? 王族に腐敗貴族はすべて処刑……いや、流石に一気にやれば国が立ちいかんか? そもそも王国が帝国領となった場合、来訪したナザリックの動きはどうなる?

 

 ドラウディロンとしては、ナザリック来訪までに協力者の意思を統一しておきたい。それには帝国が王国を制圧するのが一番だが、そうなれば女王の知る歴史から更に世界は外れていく。アドバンテージである知識を活用するほどに、自身の知る未来から乖離していくジレンマに女王は悩むのだった。




ラナーは結婚とか言ってますが、相手のクライムは9歳です。


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