「お待ちしておりました、竜三様、安達政子様、巴様」
どうも、上県の菊池砦からお送りします。竜三です。名の通り、上ノ岳砦の蒙古を殲滅したので我々安達家抹殺下手人への報復隊は一直線に菊池家が治める地域に赴きました。
菊池家が所有する砦は大家である菊池の傘下である兵や侍たちがいて、防備は完璧に等しい。砦に着く前の道のりには蒙古の死体が山のように積まれていたので、上県の制圧の際、菊池家は蒙古の脅威を退けたのだろう。
うむ、上ノ岳砦を押さえてから来て正解だったわ。砦の兵力は下手すると志村様の敷いてた陣地並みに固められてる可能性も出てきた。
砦の城門前で馬から降りた俺たちは、奇襲(正面突破)を仕掛けると言った政子様の後に続き、城門前に到着。
すると、冒頭のセリフが俺たちに投げかけられたのだった。刀を抜いてキョトンとする政子様というかなりレアな絵面を目撃することになったのだが、招き入れる門番の言葉に罠を警戒しながら菊池砦へと入る。
なんと言うことでしょう。俺や政子様、巴を見た菊池家傘下の侍たちがババっと道を上げて膝を折って跪いてるじゃありませんか。え、なにこれ、なんなのこの状況。ゲームでもない展開に動揺が隠せない俺。さっきまで殺気ブンブンだった政子様と巴も、予想外の対応に戸惑っている様子だった。
そのまま案内してくれる侍に従い、俺たちは菊池家の本家へと向かってゆく。てゆーか、相変わらず菊池家広ぇ……。壱の島にいる安達家の屋敷とは比べ物にならないくらいに大きい。しかし、パワーバランス的には菊池家<安達家なのだ。うーむ、よくわからん!ゲームの後半に行くほど拠点が複雑になると言う大人の事情ですかね!?
そんな現実逃避をしつつ、俺たちはついに菊池花が待つ屋敷の本邸へと足を踏み入れた。
まるで一流の旅館の仲居のごとく丁寧に襖を開ける侍。一面畳で大きく開け放たれた広間があった。その広間の先、上座には菊池花と、彼女を警護する巨漢の侍が立っていた。
「姉上!!」
「ついにここまで辿り着いたか、竜三」
抜刀したまま怒声をあげる政子様に目もくれず、花は俺の顔をじっと見ながらそう言った。俺は今にも斬りかかりそうな政子様の前に立って、腰に下げてきた段平を抜く。
「ええ、ついにここまで来ました。……お覚悟はよろしいでしょうか」
花を前にして、情けはない。彼女に通じていた下手人は残らずこの手で斬り殺してきた。安達家という存在を貶めようとした存在は誰一人として許さない。二度とあの屋敷に手を出そうなどと考えさせる猶予とくれてやらない。容赦なく、ただ斬るのみ。俺の目を見て、花は愛おしそうに微笑みを浮かべた。
「やはり、私の生き地獄を終わらせるに相応しいのは……竜三、其方しかおらんようだ」
だが、と花がパンッと手を叩く。彼女の隣にいた護衛役の巨漢の侍が身の丈ほどある大振りの薙刀を手にとって俺の前へと立った。
「お前、知っているぞ。花様が安達の家に来る際に護衛をしていたな?」
菊池家のほかの護衛役からは「ただの大きいデク」呼ばわりされていたが、俺にはわかる。この男……かなりの腕だ。武者鎧に隠れているがあの腕はまるで丸太のように屈強だ。薙刀を横に構えた相手は、普段寡黙な口を開く。
「左様、名を真柄太郎左衛門直高(まがらたろうざえもんなおたか)と申す。花様の命により、其方の腕試しを仰せつかった」
ふと、花を見る。彼女はまるで舞を見るような雰囲気で俺と真柄の一騎討ちを観戦するつもりだ。巴が後ろで弓を構える。すると、さっきまで案内してくれていた菊池家の侍が刀を抜いて援護に入ろうとした巴と政子様に向けた。なるほど、一騎討ちに応じなければ二人の命はないという事か。
巴も政子様も意図を察したのか、抜き身の刀を鞘に収め、弓矢を下ろした。
んー。全く予想してなかったイベントボスだが、花にけじめをつけさせる前の良い余興になるさ。安達家を愚弄したツケはきっちりと払わせる。
俺も段平を横へ振り、堅実な型である石の構えを取った。
「御前試合である。双方、構え……始め!!」
菊池の侍の号令と共に俺は紫電一閃の構えから最速の初撃を繰り出す!!不意の正面突破じゃおらぁ!!だが、いつも感じる肉を削ぐような感触は手に伝わって来なかった。
「なるほど、たしかにそれは速いな」
横一閃の紫電が薙刀によって完璧に受け止められていた。まじかよ、こいつの反応速度ハーン並みじゃあねぇ……そこで俺の思考は固まる。目に見えたのは赤い光と薙刀を振り払ってこちらに叩きつけようとする敵の姿だった。
おま…ちょっ…まっ…おまえ…お前ぇ!!
青色なくて赤色攻撃ってなんじゃあ!?反撃する隙ないやん!?ウッソだろお前!?ちょ…待て待て待て!!
嵐のような薙刀の乱舞!!乱舞!!乱舞!!ガード弾き飛ばされそうになりながら必死に食らいつくけど……んぎゃあ!?ガード不可攻撃はあかんて!!強制ローリング避けしなきゃ間に合わんって!!
ええい!!距離を置いて様子を見……ゲェッ!?タックルとか聞いてねぇぞ!!
さてはテメェ、ハーンのモーションの使い回しだな!?いやハーンより強いかもしれん!?通常攻撃受けてもめちゃくちゃ痺れんぞ!!硬直長くてカウンター取れん!!
はい!!攻撃パターン調査!!右!!左!!右!!赤攻撃!!よっしゃあ覚えた!!次同じモーションしたら赤攻撃前に一撃って……はぁああ!?右左のあと一回転して斬りつけるとか聞いてな……んがあああ!!
「竜三の刀が……!!」
甲高い音を立てて、渾身の回転切りを受けていた俺の刀が真っ二つ。
クルクルと回転して折れた切先が床板に突き刺さりました。嘘だろ、ツシマのゲームって武器破壊とかあったか?あ、そういや蒙古の柔い剣ごと相手をぶった斬ったことはあったわ。
「身体が大きければ、利点となることもある」
ダァン!と薙刀の石突を畳に叩きつけながらそう言い放つ真柄太郎左衛門直高って名前長いんだよ!!クソがっ!!刀を折ったからって良い気になるなよ!!
「おう、そうだな。まぁぶった斬った野盗から借りパクしてた刀じゃこうもなるかね」
そう答えて俺は手に持っていた半身の刀をポイっと捨てる。
ちなみに俺は常に腰に本差を2本帯刀している。
ひとつは通常時の斬り合い用で、今折れた刀がそれだ。だいたいぶった斬った相手から程度のいい刀を拝借して使い回してたから強度は割とお察し。鈍刀だからまぁ仕方ない。だから俺は満を侍して〝2本目〟の刀を抜刀する。
「竜三、その刀は……」
政子様が目を見開いてる。
ふふん、そうであろう。これは俺が元服した時、殿の晴信様から受け取った名刀なのだ。使うのが恐れ多くて、小茂田浜の戦いも鈍刀くんで蒙古をぶち殺してたし、今までもこの2本目を抜刀したことはなかった。
菊池家秘蔵の強者。なかなかに歯応えがある敵じゃあないか。ならば、こちらも本腰入れてぶった斬らないとなぁ!!
「浪人、竜三……推して参る!!」
「菊池家護衛衆、真柄 太郎左衛門 直高。受けて立つ……来い!!」
ツシマのゲームシステムなんか知らん!!と言わんばかりに島を駆けずり回った自慢の脚力で一気に大柄の真柄の間合いへと体を捻じ込む。薙刀相手に中距離と遠距離は不利でしかないからな!!近距離に近づいて接近戦!!殴って斬ってれば良いのだ!!
「…シッ!!」
「ぬぅううん!!」
バチコーン!!という良い音を立てて俺の一張羅の刀と真柄の薙刀がぶつかり合った。そのまま反動を使って円を描き、追撃!!再び良い音が響く。どうやら真柄も接近戦には自信があるようだ。後ろに下がる素振りすら見せない。見せた瞬間に踏み込んでぶった斬るつもりだったんだけど、なかなかに肝が据わってるようだ。
手首の回転と半身になる動きで間合いを最小限に。しかし回転する威力は落とさない薙刀の接近戦斬撃が飛んでくるが、俺はひらりと宙返りしてその一撃を躱す。待ってたぜぇ!この距離をなぁ!!
……憤怒の舞!!
刀を腰溜めに構えて放つ斬撃三連続!!だが手応えは甘い。真柄の武者鎧もかなりの強度を持っていた。
「倒れぬわぁっ!!」
接近戦関係なく、真柄は咆哮を上げながら薙刀を一閃!!刃ではなく柄の部分が俺の腹部に叩き込まれた。ゲェゲェ!!朝に食べた握り飯が喉まで上がってくるが気合いで飲み込む。腹に食らった柄を抱え込む形で真柄の動きを封じる。おらぁ!!縦斬りを叩き込む格闘を喰らえ!!一直線に肩口から股先までぶった斬るつもりだった。
だが、真柄は徹甲付きの腕甲を差し込んで斬撃を防ぐ。完全に殺しきれなかったようで、腕から鮮血が噴き上がった。
「ア゛ア゛ア゛ァ゛ッイ!!」
「ぬぁアア゛ア゛ア゛ァ゛!!」
そこからは超接近戦の斬り合いだ。俺は薙刀の刃を華麗に避け、チクチクチクチクと小ダメージを真柄に叩き込んでいった。だが、相手も負けてはない。避けれなければ大ダメージ必須の薙刀のぶん回し暴れで対抗。あたりに敷き詰められていた畳が俺と真柄の鮮血で染め上がってゆく。
十、二十と剣戟を交わし合うこと。真柄が足を切り払おうと横薙ぎの一閃を繰り出した瞬間、俺は跳んだ。刃が足元を通過すると同時に、刃の根元を踏んづけて武器の動きを止める。真柄が驚愕の顔をしたが、その隙だけで俺は充分だった。
「チェエェエストォオオォオ!!」
真上から袈裟斬りで振りかぶる俺に、真柄は動きを止められた薙刀を捨て、腰に下げていた刀を抜いて防御する。
ギインと、甲高い音が部屋に響いた。クルクルと刀身が宙を舞い、俺の後ろの畳に突き刺さる。
俺の刀が折れたんじゃなかった。振り下ろした一閃は真柄の刃を叩き斬って、その肩口に到達していたのだ。もっとも、威力の大半が殺されたので武者鎧を切り裂くことはできなかったが。
「……今度は俺の……刀が斬られたか……」
半ばで斬鉄された刀身を見ながら、真柄は諦めたようにつぶやく。彼は薙刀も手放し、近距離戦闘用の刀も叩き折られたのだ。武器を持つ俺と戦う術を失っていた。
「俺の負けだ……安達家の武人よ。……斬れ」
潔く、武士らしくそう言った真柄の肩口から、俺は刃を離して……そのまま切先を下へと下ろした。
「斬らん!!お前は惜しい!!」
ぶっちゃけ、ゲームのハーンより強いというか、この戦いだけ別ゲーかよって思うくらいアグレッシブな相手だった。俺の予測が正しいならば、このまま斬らずにおくのが最善だと思ったから俺は真柄を斬らなかった。
何かを察したような顔をする真柄の横を通り過ぎて、上座で俺たちの戦いをうっとりとした顔で見ていた花の前へと立った。
「よく、真柄を倒したな?竜三」
「花様……」
そう言うと、彼女は傍に置いてあった薙刀を持ち上げる。その手元は危なかっかしくて、とてもじゃないが武人のものとは思えない姿だった。それでも花は、迷うことなく俺に刃を向けた。
「ふむ、薙刀を持つのは久しいが……斬り合いくらいならできよう」
「正気か?姉上」
思わず口を出した政子様に、花は当然だと言って頷く。
「正気だとも、政子。私の全てを奪わせるのだ……なら、こうやって刃を交えて散るのも華であろう?」
姉妹の会話はそれで終わった。花は薙刀を構えたまま俺に視線を向ける。
「さぁ、来るがいい竜三。最高の死合いとしようぞ」
おぼつかない足取りで俺の間合いへと近づいてくる花。政子様は何も言わずに、勝負に負けた真柄は黙って行く末を見つめていた。
彼女の持つ薙刀が届く位置に入る。
打った水のように薙刀を振り上げる花。
その無防備な体に、俺は横一閃に振り抜いた刀を通した。俺がさっきまでいた場所に振り下ろされた薙刀。畳に食い込んだ刃がもう一度振り上げられることはなかった。
壮麗な花の着物、その腹部に横一線に刻まれた傷から血が滲み出す。
「……見事」
ゴフ。
口から血をこぼれ落とした花はその場で倒れた。