「竜三、今日も精が出るな」
壱の島は対馬国でも穏やかな気候が続く島だ。黄金寺で舞う色鮮やかな木の葉の中、境内からほど離れた平地で木刀を振るう俺に、まだ幼さを残す仁が話しかけてきた。
「そりゃそうだろ?近々、お前との刀比べがあるんだからな」
竜三に転生して幾星霜。来たる蒙古襲来とその背後でタップダンスをしている死神の足音を拭うべく、俺は今まで竜三が刀にかけてきた時間以上の鍛錬を積み上げてきた。
ある時は雷が落ちる丘へと登り、ある時は寒さで凍えそうな山を登り、ある時は鑓川の本拠地へと赴き死にそうになりながら鑓川の怨霊と対峙したりしてきた。
無銘の浪人って身軽でいいよね!!!!
まぁ、そこら辺は仁にはまだ(ストーリー的に)早いので伏せてはいるが、その道中でバッタバッタと切り倒した野盗との戦いもあって、俺の実践経験は満たされ、気がつけば4つの型と奥義を身につけるまで成長していた。
まったく、竜三め。ここまでポテンシャルあるんだから蒙古なんかに組まずに仁と一緒に楽しく愉快な冥人パーティーをすればよかったものを。正規ルートで散っていたダンディな竜三を思い返しながら木刀を振るう。
その様子を見つめながら、仁は楽しげに笑っていた。
「ああ、互いに加減無用。全力を尽くそうではないか」
仁の言葉には渾身の素振りで答えた。すると、仁も隣に立って一緒に素振りを始める。よしよし、石の型の素振りは蒙古をぶち殺す最初の一歩だぞ。
そんなこんなで幼少期を剣の鍛錬と奥義の伝授、ついでに野盗を蹴散らすことに費やしていたら、気がつけば対馬に「冥人」の話が生まれ始めていた。
え、なにそれ怖…知らん。
なんでも、野盗や賊に襲われる民家があれば、どこからともなく現れては野盗たちをなで斬りにして、報酬も要求することなく去っていくと言う。服もボロボロで姿も汚いが、それも相まって冥府から甦りし武士と呼ばれているのだとか。
oh、それ俺やん。
いや、ちゃうねん。奥義伝授とかってめちゃ険しいところとか、ドロドロのところとか、雪山の上やん?そこを馬にも頼らずに踏破して、行きがけの駄賃で野盗をぶった斬ってるせいで姿がめちゃくちゃ汚くなってるのね。
一回、その格好で仁と遭遇してしまい「きったねぇ賊」と勘違いされて斬りかかられたこともある。受け流しの極意が発動しなければ死んでいた。コマンドミスだけど。
意図せずに「冥人」の話が一人歩きし始めているが、まぁ問題ないだろ。ゆなの与太話からスタートしてるわけだし、それが対馬に伝わる噂スタートに変わるだけだから大丈夫大丈夫。
今はともかく、仁との刀比べだ。
こう言ってはなんだが、今の竜三こと俺はツシマ的に言うと中盤以降、下手すると終盤に差し掛かるほどのステータスを持ってることになる。死にたくない一心で武技を身につけたが、よもや紫電一閃と憤怒の舞まで会得してしまうとは。狐ちゃんについて行く癖と、鳥居を見ると潜りたくなる病を直さねば…護符が増えるばかりである。
今なら仁を軽くキャンと言わせれるが、そうなると境井家の当主である仁の肩身が狭くなると言うわけで、今回の刀比べは残念ながら竜三の負けイベントとなるのだ。
問題は如何にしてバレないよう、接戦かつ敗北で終わるかである。うっかりボタン二つ押しして紫電一閃とかやったらヤバい。周りで見ている誰かに雷落ちるとか洒落にならん。
とりあえず、石の型以外封印指定で、奥義は禁止。ガバ防御と受け流し(笑)で攻撃を捌きつつ、仁が優勢かつ俺の接戦負けという構図で落ち着けなければ。
大丈夫だ、問題ない。
とりあえず当分は野盗のなで斬りはやめて、寸止めと受け流しの練習でもするか。練習台がいるな…やはり野盗狩りをするしかないじゃない!!
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「で?何故、其方は刀比べで手を抜いたのだ?」
大問題です。大丈夫じゃありませんでした(白目)
刀比べは自分でも会心の出来だと思える演目で仁の勝利に終わった。見にきていた志村様や、他の家長の者たちも仁の勝利に満足そうであり、健闘した俺には形ばかりの褒め言葉が送られました。めでたしめでたし。
と、安堵の中で「あー、明日の寝床どうすっかなぁ。とりあえず手頃な野盗ぶった斬って金銭得て、宿でも探すか」と蛮族フィーバーな思考で境井家を後にしようとしたら、速攻で安達家の当主に捕まりました。
別に縄とかされてないけど、めちゃくちゃ怖いんで帰ってもいいですか?そんなことを言えるはずもなく、対馬のバーバリアンこと政子様や、あまり歳が離れていない二人の息子と嫁、そして上座に座る当主である安達晴信を前に、冷や汗をダラダラかくという状況に陥っていた。
「恐れながら、私めは全力で境井仁に挑み、敗れ去りました。その事実だけが全てです」
「嘘を申すな。動きを見ればわかる。其方はあえて、自分の使える型や武技を制限しておったな?」
やべぇ、見抜かれてやがる。さすがは政子様の旦那さんやでぇ…。けどこれ回答ミスったら打ち首獄門かね?えー、ここで現れるの死亡フラグやだぁ。
ふざけてないと平静を保てないほど内心焦っている竜三ですけど、とにかくここは誤魔化して言葉を選んで。
「して、どれほどの型を扱える?」
「4つの型は全て扱えます」
うーんこの。誤魔化せばいいものを正直に言っちゃうんだよなぁ!これが!!当主殿の言うがまま、庭に出て型の舞を披露した上で、奥義まで会得してると言うことを見抜かれて、紫電一閃や憤怒の舞まで披露させられ、最終的に息子二人と勝負までさせられました。
あかんこれ、勝ってしもうたけどこのままワシ殺されるんちゃうん?
「気に入ったぞ、竜三。其方はこれより安達家に仕えよ。その働きに期待しておるぞ?」
そして気がついたら安達家の家来になってました。何を言ってるかわからねぇーと思うが、俺も何をされたのか全く分からなかった。
当主の鶴の一声で安達家の離れに俺の部屋があてがわれ、そこからの日々は安達家で過ごすこととなった。
と言っても、元現代っ子だから炊事洗濯とかもやる家政婦的なポジションでもあったんだけどね!!
るろうにほにゃららのオフ時の剣心かな?この時代の洗濯と釜焚きって大変なのね。けど、穏やかな頃の政子様と話すの楽しかったし、安達家の当主や息子夫婦たちと共に食べる飯は美味かったな。
家事をしながら安達家所有の畑の面倒を見て、その合間に息子たちの稽古に付き合いつつ、当主の仕事の補佐として息子たちと村々を訪れ、たまに抜け出して野盗と切ったはったのズンバラ劇場に駆り出すと言う充足した日々を過ごした。
まぁ侍女の舞が安達家所有の代物を盗もうとしていたところに遭遇して、声にならない悲鳴を上げた後、政子様が悲しむことも、下手すると打ち首死罪よ?と脅して犯行を食い止めた。あの時は生きた心地がしなかった。
ほとぼりが覚めた後、政子様からめちゃくちゃ感謝された。いいんですよ、百合は素晴らしい。政子様と舞の楽しげに話をしている姿が日頃の癒しなのです。晴信様は何か察してるのか、なんとも言えない顔をしているけれど。
「舞殿に竜三殿が肩入れしたからですよ」
稽古の途中、長男の繁里からそう言われて頭にハテナを浮かべたが、どうやら当主様は俺のことを偉く気に入ってるらしく、手癖の悪い舞を諌めた故に、舞と政子様の関係を強く指摘できないのだとか。
流石の当主様でも百合の間に入るのは死罪にあたるのでそっと見守りましょうね。
そんな日々が過ぎて行く中、島に噂が流れ始めた。
異国からの脅威がくるという噂を。