雪景色の中で骨休めじゃあああ!!
祝⭐︎安達家襲撃の案件、解決!!と、浮かれる暇もなく上県の領内を走り回っている竜三です。
花様が没し、政子様が思い出に浸るのも束の間。当人である政子様が率いる蒙古絶対許さないパーティは上県の中を走り回ることになりました。相変わらずアグレッシブな政子様である。敵を見つけ次第問答無用でぶった斬る姿は、まさに対馬のバーバリアンだ。まぁそれに臆することなく続く俺と巴も大概だけどね!!
蒙古の軍勢は上県での勢力をさらに確立させようと必死になっているように思えた。それもそうだ。蒙古の退路は寸断されつつある。今影響下にあるのは上県の北側、港町を中心とした勢力圏のみだ。金田城から豊玉、志村城は安達と志村の元に再集結した侍や、幕府からの増援によって完全に包囲されている。蒙古軍が生き残るにしろ、侵攻するにしろ、手段としては港から本土に渡る他ない状況。
そんな中、俺の竜三一行は上岳寺の五重塔へとやってきております。なぜか?それは堅二から仁の手紙を渡されたからだ。
上県にある最大の港町である泉の港。
そこで本土侵攻の手筈を整えているだろうハーンの退路を断つため、政子様を筆頭に蒙古の拠点や落ち延びた菅笠衆、上県でも図太く生きている野盗の拠点などを潰して回って、青色蒙古をぶった斬り続けていた最中、仁から密文を持たされた堅二と合流。手渡された手紙には要約するとこう記されていた。
泉の港の偵察のため蒙古の陣に潜入する。協力して欲しい、とのこと。
仁の立ち位置と俺の竜三の立ち位置は微妙なところだ。仁は志村家の跡取りであるし、竜三は幕府から追われる身。
だが、その微妙な立ち位置でありながら、路線が違った二人の冥人を以てすれば追い詰められたハーンとの決着を付ける目的に手が届く。
それは仁も、そして俺もよくわかっている部分だ。故に仁は目にされぬように堅二へ文を託し、俺への協力関係を築いたのだろう。
俺たちが上岳寺に到着した時はまだ仁は来ておらず、堅二いわく到着は夜になるらしい。暇なので辺りにある蒙古の拠点と街道をぶらついてる青色蒙古と菅笠衆のハッピーセットをぶった斬ることになった。嬉しくねぇハッピーセットだぜ!!シャベッタアアアア!!と奇声を発しながら死んでゆくが良い!!
と、蒙古をぶった斬り続けて気がつけば政子様も巴も俺も返り血と泥と雪でぐちゃぐちゃ。仕方ないので、上岳寺近くにある温泉へと足を向けたのだった。
政子様に一番風呂を譲り、俺と巴で周辺警戒。着替えた政子様が戻ってきてから、俺は巴に入るよう促すが、なんだか嫌な予感がすると言って巴に先風呂を譲られた。こういう時の巴の勘って信用できるからなぁ。
「あ゛ぁあ゛ぁーー……最高の温泉だぁ……」
雪と寒さで冷え切った体が熱を帯びて暖まってゆく感覚を味わって、対馬の冬景色を楽しめる温泉に浸る。対馬の温泉はぶっちゃけヒーリングスポット。浸かれば大抵の傷は治るし、疲労も取れるし、気力も上がる。
蒙古のへなちょこ攻撃を気合で跳ね除けるウォリアーになりたければ対馬の温泉を巡るのだ。
と、そんなことを悠長に考えていた自分を殴ってやりたい。
チャポリ、と背後で誰かが温泉に足をつける音が聞こえた。馬鹿な……気配がなかっただと!?咄嗟に身構えて振り返ると、そこには一糸纏わぬ……巴の……姿が……!?
ちょぉ……巴さぁああぁぁああぁあん!!!?
「ぼぇっ…ぬぁあああああ!?す、すまぬ、巴!?俺は何も見てない!!見てないぞぉ!?」
びっくりして思わず変な声出た。
ぐるりと巴から視線を外して背を向けて大声で叫ぶ。とりあえず謝るしかない。いや待てよ。考えれば俺に先を譲ったのに何故に入ってきたのか……というか俺が入ってるのだから分かるんじゃないの普通は!!とかそんな文句も浮かんできたが、そんなことを口にしてみろ。
背後から矢を頭に撃たれてゲームオーバー、竜三の唄、完!!である。
思考は混乱の極みだというのに、巴は面白そうにクスクスと笑ってさらに湯の中に入ってきたのだ!!しかも、俺の前に回り込んで!!なにぃ!?こいつ正気かぁ!?俺が背を向けてる理由など知ったことかと言わんばかりに前にやってきて、巴は湯の中に腰を下ろした。
目を背けるが、肌色が視界の端でチラつく。ここまで作り込まんでもええやろ、ゲーム開発者ヨォ!!あ、けどこれは俺にとっての現実!!非情!!無情!!ここにきて死亡イベントは嫌よ!?せっかくフラグへし折ったというのに……はっ!?まさか因果律でここにフラグがあったのか!?だがこの竜三……ただでは死なぬぅ!!とりあえず素数を数えて落ち着くのだ。1、2、3……これ普通に数えてるだけぇ!!
兎にも角にも視線を遠くへ!投げる!それしか生き残る道はない!!あぁ、対馬の冬景色は綺麗だなぁ!!俺も穏やかな世界に連れて行ってくれよ!!
助ケテ!!オ願イシマス!!タスケテ!!
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そんな現実逃避をしてる竜三を湯に浸かりながら巴はのんびりと眺めていた。
百戦錬磨、対馬屈指の武人、冥人という異名を持つというのに、こう言ったことには相変わらずウブな反応を見せるものだ。いつかの日に無理矢理胸を押し付けた時は顔を真っ赤にして顔をそらす竜三が、巴には愛おしくて仕方がなかった。
うむ、体はがっしりと鍛えられていて、無駄な部分は一切ない。竜三と初めて出会った時から、彼は今と同じほどに形作られていた。
巴と竜三の出会い。
それは彼が対馬一の弓取りである石川先生の元へ修行をしに訪れた時まで遡る。
弓の腕前に目をかけられ、ゆくゆくは自分の後継者として育てられてきた巴は当時は天狗になっていた。
類稀なる鬼才。弦を絞る絶技。矢を射る集中力はすでに常人のそれを遥かに上回っていた。自分の力に酔いしれて、天狗になっていたことも仕方はない。同時に不満もあった。自分の鬼才を前にしても石川は未だ至らずと巴を認めようとしない。免許皆伝もだ。これほどの力を有しているのに何故、という……今思えば随分と子供じみた考えだと思える。
そこにきて、道場の門を叩いたのが竜三だった。弓を取る彼もまた凡人とはかけ離れた才を持っていて、石川は顔に出さずともその力に驚いていた。しかし巴の弓の才には届かない、ともはっきりと断言はしていたが。
しかし、巴は焦った。
共に石川の非情とも無情とも言える鍛錬に放り込まれた竜三は根を上げることなく鍛錬をこなし、野盗などの賊を屠っていく。
竜三の本質は弓ではなく刀であることは巴の目から見ても明らかだった。
それに加えて矢も扱えるとなると……石川が口では自分を後継者とすると言いつつ、竜三を選ぶかもしれない。竜三と共に修行をしていく日々の中、そんな不安が巴の中で増していったのだ。
もし、自分が後継者ではなくなってしまっては対馬で身寄りのない自分は食っていく術がない。高名な弓取りの後継争いから脱落した女弓兵など、どの武家が雇うのか。そうなれば待っているのは当てのない流浪と貧困。
気がつけば、巴は島の野盗を束ねて金銭をくすねる真似事に手を出していた。最初は軽く脅す程度だったのに、次には弓を構えて、矢を構えて、短刀で脅した。キツネの面を被り素性を隠して、巴は賊を引き連れては夜な夜な悪事に手を染めようとしていた。
そんなある日。
夜空に綺麗な満月が浮かぶ日だった。
いつものように哀れな商人も荷物を襲撃した巴率いる賊たちだったが、気がつけば一人、また一人と居なくなっていた。3人から4人、そして5人。いい加減に異変に気づいた大柄の男が金棒を取り出した瞬間に巴の目の前で崩れ落ちる。糸が切れた人形のような有様の賊へ目を落とすと、その頭部には矢が深々と突き刺さっている。
ハッとして巴は顔を上げて弓を構えた。
だが、もう遅い。
構えた矢は寸分違わずに射られた矢によって弾かれる。次に、隣にいた男の頭も撃ち抜かれて、巴の弓の腕にあやかって暴れまわっていた賊たちは一人残らず殺された。
そこでようやく巴は気がつく。
小高い丘、こちら一望できる場所から影が立ち上がったのが見えた。その足元には音もなく殺された賊の死体が転がっているのが見えてしまった。
同時に賊が言っていた対馬の噂を思い出した。対馬の民を襲う不届き者がいるところ、馬も何もなく、闇夜に立ち上がった死者のように現れる侍。目にも止まらぬ速さで敵を斬り、そして去ってゆく義賊。対馬の民は畏怖と尊敬を持ってその義賊をこう呼んだ。
冥人、と。
(殺される……)
巴の前には明確な死が佇んでいた。
天狗になって、一人で抱え込んだ後継者争いからの焦りを隠せなかった巴が初めて感じた死の恐怖。
弓は震え、矢は狙いが定まらず、冷や汗が背中を伝う。
影のような風貌の男は、顔も体も泥に塗れたまま立ち尽くす巴の元へとやってくる。キツネ面で顔を隠す彼女の覗き穴を見つめて、男は手に持っていた刀を納めた。
「……先生が悲しむ。このような真似は二度とするな」
踵を返す男の言葉が頭の中でぐるぐると回った。見逃したのか?まさに賊と共に商人の荷車を漁っていたというのに。
パニックから平静を取り戻した巴は、改めて賊を殺して回った男の顔を見た。泥に汚れていたこと、闇夜に紛れていたせいで分からなかったが、その男が「竜三」であることに巴は気づいたのだ。
「な……なぜ、私を殺さない……竜三。あんたは……冥人なんだろう?」
冥人は悪事を働く者に容赦はしない。それに例外はないとも聞いていた。だが、竜三は振り返ってこう言った。
「俺は巴が民を殺しているところは見ていないし、巴が悪事に手を染めたことを知る者たちはすでにいない。だから、今回は見逃すのさ」
その時の竜三の本音はというと、ゲームのメインキャラでもある巴を殺せるとは思ってなかったし、逆に返り討ちにされるのでは?という不安の方が大きかったりする。それにここで不手際で巴を殺してしまえば、次は石川先生が復讐の鬼になるのは明白だったこともあった。
驚く巴に、竜三はニヤリと笑ってこう続ける。
「バレなきゃ罪にはならんのさ、巴」
だから、今までやってきたことは墓場まで持っていけ。そう言って月光が指す対馬の草原を歩いてゆく竜三。その背を見つめて、巴は頭を打たれたような感覚を覚えた。
今まで出会ったどんな男よりも特異で、異質。現代社会の常識が通じない鎌倉時代で、竜三のような感性を持つ男は、これまで男という種を軽んじてきた巴に大きな衝撃を与えた。
そこから竜三という男の背を追うようになった。もう自分の中に彼に後継者を奪われるだとか、自分が路頭に迷うことなど存在しない。ただ惹かれるがままに竜三と共に走って。
気がつけば、巴は竜三に惚れていたのだ。
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地獄とも天国とも言える時間は唐突に終わりを迎えた。
「いつまで遊んでおる。とっくに仁は来てるぞ」
様子を見に来た政子様が俺と巴の混浴風景をどーでもよさげに腕を組んで眺めながらそう言ったので、突如として発生した竜三死亡危機イベントは首が繋がったままお流れとなった次第。ぶっちゃけ生きた心地がしなかった。顔を背けてるから巴の姿は見えないが、ザバッと湯から立ち上がる音がして、巴の楽しげは声が聞こえた。
「ふふふ、まぁ続きは次の機会にするさ」
許してください。次の機会があったら間違いなく俺は死ぬって!!そんな内心を知る由もない巴が着物と手ぬぐいを持って岩陰へと消えてゆく。湯船に入ってるはずなのに体がすっかり冷え切っていた。
はぁー、と混浴殺人事件にならずに良かったと肩を下ろしていると、腕を組んだまま政子様が俺の側、温泉の淵へと腰を下ろした。
「竜三」
「アッハイ」
やけに真剣そうな顔をしている政子様。まさか、混浴など武士の汚れとかってぶった斬られたりしないだろうか?対馬の鎌倉武士は健全で潔癖だからな!!やだぁ!まだ死亡危機イベント終わってないの?!
だが、次の言葉で俺の思考はさらに固まる。
「据え膳食わねば武士の恥と夫は言っておったぞ?」
そう言われて、俺は苦笑いしか返すことができなかった。晴信様……拙者はまだまだ殿のような男にはなれそうにありません……据え膳に置かれてるのが特大のてつはうなんだよなぁ!!!
救いはないですか?あ、ないですか……。