裏切りの菅笠なんて捨てるんじゃ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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泉の港の篝火台で蒙古狩りじゃああああ!!!

 

 

 

 

刃を扱う時、己自身を律せなければならない。

 

これは志村様が言ってきた言葉だ。怒りに身を委ねて刃を振るってはならないという武人としての心構え。戦という戦いの場に身を置く者にとってなくてはならない素質。怒りを原動力に刃を振るえば、それは対馬の民を苦しめる賊と変わりはないのだ。

 

怒りという感情。

 

それは人の持つ感覚の中で特にエネルギーを要するパワーでもあると思える。

 

怒りの本質とは何か?敵意か、防衛本能か、あるいは悲しみからか。

 

まぁどれにしろ、怒りというエネルギーからもたらされるパワーは絶大。これ以上は無理だと思うハードルを、怒りというパワーは簡単に乗り越えさせてしまう。いわゆる火事場の馬鹿力といったものだ。

 

怒りとは、人の原始的な本能を呼び起こす魔物の呼び声。

 

その魔物の声に人は理を失い、本能のまま行動をすることがままある。一見それは愚かしい行為にも見えるが、人と言う生物の尺度で見れば理に叶っている。

 

この世に命を受けた生物はすべからく凶悪さと凶暴性を兼ね備えているのだから、故に怒りというエネルギーは人を制御する上で不可欠な思考に多大なる影響を及ぼす。

 

普段は立ち止まるような窮地にも足を踏み入れる狂気を与え、これまで大事にしてきた、大切な〝何か〟を容易く捻じ曲げてしまうほどに。

 

俺が刃を振るう時。

 

賊に罪なき民が襲われている時。

 

蒙古が野蛮にも民に死をもたらす時。

 

そして、仕えた安達家の当主を討ち取ったハーンの首を切り落とす時だけだ。

 

怒りで刃を振るってはならない。

 

だが、その怒りを十全に制御すれば、その一閃は本来届かないはずの敵を斬ることも可能になるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜三……これは……いったい……」

 

 

それを見つけた時、竜三は信じられないとった風に驚愕の表情を浮かべていた。上岳寺で合流した後、泉の港にある篝火台から物見をしようとしていた俺と竜三だったが、斬り伏せた蒙古が準備してきた樽の中身を見た途端、竜三は言葉を失ったのだ。

 

てっきりてつはう用の火薬とばかり思っていたその樽の中には、青い色彩をした花が溢れんばかりに詰め込まれている。この花は対馬に自生している花だと一目でわかった。

 

続いてやってきた政子殿や巴も樽の中にある花を見つめる。

 

 

「俺が忠告した地獄の行く末だよ、仁」

 

 

樽の中に手を入れた竜三は、花を手に掴んで俺や他のみんなにも見えるように差し出した。この花は鳥兜(トリカブト)といって、適切な方法で処置を施せばほんの僅かな量で人を死に追いやる毒薬へと姿を変えるのだと竜三が言ったのだ。

 

 

「まさか……蒙古が毒を!?」

 

 

改めて用意された樽の数を見る。たった1樽で数百人以上の人を殺せる毒が用意できるのだ。竜三が俺に毒を使うなと言ったのは、こういう結末が待っている不安を予見したからだろう。だが、待って欲しい。

 

 

「竜三、一体誰が鳥兜の毒を……」

 

 

その言葉の最中、竜三は即座に刀を抜いて俺を押しのけた。鉄が弾けるような音が2回響き、俺と竜三の足元に矢が突き刺さる。その鏃には何か液状のものが塗り込まれているように見えた。それが何なのか、もはや語るまでもない。

 

矢が風を切る僅かな音に気づいた竜三が、即座に迎撃の構えを取ってくれたおかげで、俺は矢に塗られた毒に犯されることはなかった。

 

 

(気づかれたぞ!掛かれ!)

 

 

蒙古の言葉と共に、篝火台近くにある建物の裏手や屋根の上に蒙古の弓兵や、剣を持った兵たちが一気に押し寄せてきた。

 

 

「政子様!巴!決して離れぬよう!!仁!ゆな!ここから矢や刃の全てに触れるな!毒がある!」

 

 

飛来する矢のことごとくを弾きながら叫ぶ竜三であるが、状況は最悪であった。

 

 

「そんなこと言ったって、こうも囲まれちまったら……!」

 

 

篝火台の奥は絶壁。退路であった道には蒙古が押し寄せてきている。完全に袋小路に追い込まれた形であった。ジリジリと追い詰めてくる蒙古であったが、その頭部に突如として横合いから矢が突き刺さった。

 

 

「そういう時こそ、儂の出番であろう?」

 

 

篝火台の広場を見下ろせる位置を陣取って弓を構えていたのは、巴の師である石川先生だった。思いもよらない援護射撃に乱れた蒙古の隙をつき反撃に転ずる。竜三と政子殿を筆頭に蒙古に襲いかかり、その全てを斬り伏せる。高所から狙ってきていた敵の弓兵は巴と石川先生の阿吽の呼吸によって間もなく鎮圧された。

 

敵の流れが止まったのを見計らって石川先生が降りてくる。

 

 

「息災のようだな、巴。ま、志村様や幕府は知らぬがな。すっかり札付きになりよって、馬鹿者が」

 

「それはお互い様ですよ、石川先生」

 

 

挨拶をする二人を尻目に、竜三は段平を下ろしたまま蒙古の死に体たちの方へと歩いてゆく。その先には這いつくばってでも助かろうと動く虫の息な蒙古兵がいた。

 

矢を受けた箇所から血を垂れ流しながら逃れようとする蒙古兵だったが、近くに立った竜三の気配に気づいて視線を向ける。

 

 

「タ、タスケ……」

 

「見逃すと思ったか、阿呆が」

 

 

命乞いの言葉も聞かずに、竜三はトドメと蒙古の首に段平を突き立て、捻る。骨が完全に絶たれた音と共に生き残った蒙古の命は途絶えた。返り血に濡れた竜三は段平を引き抜いて鞘へと収める。

 

その目は恐ろしくなるほど冷酷で、殺意の炎が揺らめいているように思えた。

 

ふと、叔父上の言葉が蘇る。刃を握る時、己を律せよという教え。竜三の目には確かな怒りと殺意が宿っていたが、その思考は極限まで冷やされており、激情と冷徹さを兼ね備えた……名状し難い境地にたどり着いているのかもしれない。

 

ひとまず、蒙古の追撃が来る前にの物見をして作戦を練ろうとゆなから言われ、俺と竜三は篝火台へと上がる。すると、台の中間位置に一人の男がいた。

 

 

「ひぃい!!た、助けてくだされ!!」

 

 

恐れ慄いて膝をつく男。見た目と、そして周りにある毒の花。男がいたであろう場所には薬を調合していたような痕跡が残っていた。つまりこの男は薬師で、鳥兜の調合を蒙古に教えていたのかもしれない。

 

 

「薬師の男……こいつが蒙古に?」

 

「お、脅されて……家族も人質に取られたのです!!ですから……ですから……仕方なく……」

 

 

ジリジリと移動する薬師の男に、俺は違和感を覚えた。顔は恐怖に震えている。だが本物ではない。何か引っかかるような感覚があった。

 

 

「仕方なくぅうう!!」

 

 

それに気づいた頃には手遅れだった。男は腰の後ろに隠していた短刀を引き抜き、目の前にいる竜三へと斬りかかろうとしたのだ。

 

その刃には鳥兜の毒が塗られている。僅かにでも切り付けられれば毒が全身を回って死に至る危険もあった。

 

 

「りゅ……っ!!」

 

 

だが、そこでようやく反応できた俺とは違って竜三はすでに動いていた。俺の言葉を待つまでもなく、抜刀し振りかざされた短刀を待つ薬師へ一閃。

 

同時に、ボタリと短刀を握りしめていた薬師の腕が床に落ちた。

 

薬師は何が起こったのか理解できなかったのだろう。落ちた自分の腕を呆然と見つめてから、サァッと顔色を青ざめさせた。

 

 

「あ?あぁ……ぁあああ!?腕が……私の腕がぁああ!?」

 

 

薬師が事態を把握したと同時。竜三は脇差を引き抜き、下から持ち上げるかのように絶叫する薬師へと突き刺す。決定的な急所を外した刺突は軽々と薬師を持ち上げて、そのまま篝火台の内壁へと磔にした。くぐもった薬師の声が響く。だが、竜三の声は遥かに静かで、だがはっきりと聞こえた。

 

 

「腕一本でぎゃあぎゃあと騒ぐな」

 

 

むせかえるような殺気。痛みの絶叫すらねじ伏せる殺意の塊を浴びた薬師は声を上げられず、睨みつける竜三を怯えた目で見つめていた。

 

 

「答えろ。蒙古に何を教えた」

 

「は……ははは……はははは!!対馬も幕府も、もうおしまいなんだよ!!蒙古はもう本土に渡る!!私の腕を愚弄した幕府……頭目どもは、私が作り上げた毒によって……」

 

 

恐怖のあまりか、あるいは死を悟ったのか、薬師は狂ったような笑い声を上げながら蒙古にもたらした最悪の罪を暴露する。その言葉が終わる前には、竜三が振るった一閃によって薬師の頭部は体を離れ、血を吐き出しながら地に落ちる。

 

磔にしていた脇差も抜いて崩れ落ちる罪人の骸を見下げながら、竜三は小さく言い放った。

 

 

「戯言の続きは地獄でするんだな」

 

 

その時の竜三は、まさに冥人。

 

死より立ち上がった侍の鬼のように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

久々に激おこぷんぷん丸な竜三が上岳寺からお送りいたします!!くそがぁっ!!やられたぜぇ……まさか対馬の薬師が毒の生成法を蒙古に教えるとは……!!

 

まぁ冷静に考えたら対馬の至る所で自生してる鳥兜から毒を抽出する方法など、仁の乳母である百合だけが知ってるなどおかしな話だ。対馬の名高い薬師が知ってるのも無理はない。

 

今回の蒙古に文字通り命と魂を売り払った薬師は対馬でもたびたび問題視されてきたヤブ医者的な奴で、志村様から上県へ追放処分を受けた札付きだったわけだ。おかげで蒙古は上県に自生してる鳥兜を採取して、毒兵器を本土へ持ち込む算段をつけているらしいし、上県に住む対馬の民にも毒の被害が出始めている。

 

上ノ岳砦を先に落としていたのが幸運だった。あの砦を起点に蒙古の主体を上県に封じ込めることができているので、豊玉や金田方面に毒が回ることは防げるだろう。

 

しかし、由々しき問題であることには変わりない。

 

泉の港近くの篝火台にあった鳥兜は俺が大暴れしたのちに着火して灰としたが、おそらく既に港へ持ち込まれているに違いない。

 

 

「蒙古はすでに毒を手にしてる。この量だ……ここだけで済んでるとは考えづらい」

 

 

仁の言うことが全てだ。やつらが本土への上陸を目論んでいるのなら鳥兜の貯蔵場所は港。あとは上県の各地から集めた鳥兜を中継の拠点に保存しているくらいだろうな。

 

 

「どうするんだい?冥人様よ」

 

「蒙古を止める。毒を持って本土に渡る前に根絶やしにする。それしか道はない」

 

 

まぁ毒が日本本土に渡れば鎌倉までの道のりが地獄の三丁目と化すのは間違いないだろな!クソが、ハーンめ。俺が細心の注意を払って防いできた最大の懸念事項を無駄にしやがって。その首を洗って待っておけよ必ず報いは受けさせるからな!!

 

 

「竜三、顔にすべて書いておるぞ」

 

 

政子様に指摘されて顔つきが人殺しのそれになっていたことに慌てて気付く。仁も察してくれているのか、肩に手を置いて励ましてくれた。まぁ仁が毒に手を出さず、志村家の跡取りとしてちゃんと進んでるんだ。それだけでも良しとしないとな!!それから巴さんは何で顔を赤らめておられるのですか?何か体調でも……イッテェ!!薄皮を矢で突くんじゃありません!!

 

 

「まぁ、仁と竜三の言い分は分かる。簡単な話ではないがな」

 

「だろうな。蒙古はすでに上県最大の湾を手中にしている。しかも港は要塞……並の策では通じはせん」

 

 

石川先生と政子様の言う通り、事は簡単ではない。いくらモンキーパークで横格全振りしても泉の拠点は堅牢すぎる。本土に渡るため蒙古の主力がそこにいる以上、正面から戦いを挑んでも消耗させられてハーンにたどり着いた頃には全員が疲弊しているだろう。そこで笑うのはハーンだ。

 

だが、天は我々を見捨ててはいない!!

 

 

「波が凪いでおる……ゆな、どうみる」

 

「嵐の前の静けさといったところだね」

 

 

ユナの言葉とおり、海がやけに静か。つまり嵐の前兆とも言える。タカが言うには上県の嵐は対馬でもかなり強力で、台風のたびに上県で大きな水害や家屋の崩壊も起こるほどの規模になる。

 

つまり風が吹けば……まさに神風になるというわけだ。

 

 

「嵐が来れば、ハーンも船を停めざるえないはずだ。その時こそが勝機」

 

 

作戦としては悪くはない。だが、人数が心許ない。俺と政子様に巴。石川先生やゆなの知り合いの狩人、そして菊池家の侍達。それだけかき集めても、陽動にはもっとテコ入れが必要になる。

 

 

「仁、お前は早馬で一直線に志村様に伝えろ。安達と志村の兵を集めて街道沿いに泉の港を目指せ」

 

「竜三は?」

 

「勘づかれたら厄介だ。お前たちがこちらに向かう前に通り道沿いの蒙古と菅笠衆の拠点を全て潰す」

 

 

ついで各拠点で備蓄されてる鳥兜や、本土向けの武器も片っ端からぶっ壊していくんでよろしくな!!俺の背後で巴と政子様の目が怪しく光っているのをみて、仁もニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「そして嵐に乗じ、小勢で港にいるハーンへ揺さぶりをかける。蒙古が混乱してるうちに陣内へ忍び込み……」

 

 

ハーンを殺す。

 

俺は奴に言った。政治や国がどうだとか関係ない。必ず、その首を切り落としてやると。その時がすぐそこに迫っていた。

 

作戦の方針も決まったので早速志村城に向かおうとする仁を俺は呼び止めた。

 

 

「仁、俺のことは死んだことにしておけ」

 

「正気か、竜三?」

 

 

訝しむ仁へ俺は蒙古の偽造書物を手渡す。

 

これは上岳寺で仁と落ち合う前に潰して回ってた蒙古の拠点で、日本語がわかる蒙古隊長を半殺しにして脅した上で俺の死亡と言った偽書を書かせたものだ。血判付きなので幕府に出されても目を欺くことはできる……多分ね!

 

え?その隊長?今ごろ復興した村の畑で肥料にでもなってるんじゃない?

 

 

「今は死んでいる方が都合がいい。俺にとっても、志村であるお前にとってもな」

 

 

あと、なるべく対馬の民にも吹聴してね!蒙古にとっては民の与太話も信じるに値するものになるかもしれないから!仁はかなり不服そうな顔をしたけど、とりあえず納得したのか蒙古の文を懐にしまった。

 

 

「……わかった。だが竜三、代わりに約束してくれ。今度は一人で逝くな」

 

 

もう一人で死地に飛び込む真似は許さんぞ、と真剣な眼差しで言う仁。その目は志村のものではなく、境井……いや、冥人のそれだった。

 

 

「お前が間に合えば、考えてやる」

 

「間に合わせてみせるさ」

 

 

それだけ交わして、仁は志村城へと経った。天気予報なんていうとんでも技術はないので、嵐が来るタイミングは神様のみぞ知るといったところだ。

 

 

「さて、どうする。竜三?」

 

 

隣にいた巴がそう言ってきたが、答えは決まっている。

 

蒙古を殺す。誰もこの島からは逃さない……そしてハーンを……殿の仇を討つ……!!

 

 

 

 

 

 

 

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