皆さん、お久しぶりです。
上県の漁村からお送りする竜三です。
えーこの度、誠に遺憾ながら竜三は菅笠を被ることなりました。
え?数ヶ月行方くらましてた上に、ついに菅笠衆に鞍替えしたんだって?菅笠衆なら今頃鯨の餌になってるんじゃない?
ハーン討伐の援軍を仰ぐため、一度志村城へと戻った仁。やってくるだろう援軍の道中の安全を確保するために西へ東へと動き回ってたんですよ。
上県の街道沿いと漁村周りの蒙古とか菅笠衆とか民を襲ってる野盗とかを、巴と政子さまと一緒にぶった斬り続けてると、漁村の村長からこんなことを言われた。
「冥人様は罪を背負われてでも我々民を救ってくださるのですね」
それを言われて、ピンと来たわけですよ。上県で冥人伝説を邁進してるわけだが、顔出しでやってるから指名手配のお札の人だってバレてるわけでして。
このままじゃせっかく志村様に俺は死んだって報告した仁の苦労も立場も水の泡になる。
というわけで、俺は正体を隠すために菅笠と面をつけることになったのだ。ついでに人の目がある時は巴と政子様には冥人と呼ぶようにお願いしている。
これで名実ともに竜三は死んだことになるな!わははは!勝ったな!!
まぁこの完璧な計略を政子様に話したら、剣技見られたら一瞬でバレるだろと痛恨の指摘をされました。姉のゆなに付いてきたタカがいる村に行った時なんて出立ち見られただけで竜三殿ってバレたからね。うーむ解せん。
ちなみにこの菅笠、拠点にしてた廃村にあった材料で巴が夜なべして作ってくれました。傷つけたり汚したら殺すって言われてます。怖いので被るのやめてもいいですか?あ、ダメ。そうですか……。
まぁ、正体隠すために盗賊みたいなマスクとか考えてたんだけど、菅笠出された時は思わず顔が引き攣ってしまった。
ただこれは裏切りの菅笠じゃないし!これは世から身を隠すために被っておるのじゃ!
実質的に志村家を裏切って完全なる影〝冥人〟としての活動を開始したに近いんだがな!
「なんだかとても懐かしく……故郷に戻ってきたような哀愁を感じる」
巴に菅笠をもらった時、被ったと同時にそんなことを呟いてしまった。なんというか、実家に戻ってきた時の安心感というか、このキャラにはそうそうこれこれみたいな安定感というか。
綺麗に整えられた藁の菅笠を見つめながら感慨深くそんなことを感じていると、巴が呆れたような目を向けていた。
「何を言ってんだい、竜三」
「……独り言だ。俺にとっての菅笠は割と因縁があってな」
「なんのことかは知らないけど……アタシは似合ってると思うよ。ソレ」
会心の出来なのか、自信満々にそういう巴に俺も大切にすると約束した。傷つけたらただじゃおかないとその後に釘を刺されたので、刀傷とかつけたらかっこいいかなって思っていた邪心はどこかに飛んでいきましたよ、えぇ。
まぁ巴からの太鼓判をもらったので良しとしよう!
「ちちくり合ってないでさっさと行くぞ」
ちちくり合ってなんかないです!!政子様の言葉に俺がそう答えると、巴は何故か満更でもない様子で……。
気を取り直して、泉の港制圧の下準備として上県の蒙古拠点と菅笠衆の拠点を潰してイクゾー!
デッデッデデデデ!!カーン!!デデデデッ!!
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上県の北側に位置する杉寺は、今まさに危機に瀕していた。
来たる蒙古への総攻撃に備え、志村家からの打診もあったことから杉寺には各寺から選りすぐりの僧兵たちが集結していた。その動きを察知した蒙古軍の智将、ハーチェはあえて戦力が集結している杉寺を包囲したのだ。
いくら僧兵といえど、多勢に無勢。抵抗する者がいるならトリカブトの毒で黙らせればいい。その戦略が効いたのか、籠城する杉寺を取り囲むのは容易であった。
抵抗する僧兵たちも食糧が尽きては何もできまい。弱ったタイミングを見計らい、ハーチェは正面から杉寺の門をこじ開けた。
現れた蒙古の軍勢に生き残った僧兵たちが薙刀を構えるが、彼らの命運は風前の灯火。はと、ハーチェは彼らがいつぞやの伊藤砦で捕まえていた僧侶たちであることに気がついた。
あの時は周辺の地理把握に出ていたので、まんまと冥人に砦を奪われ、捕らえていた僧侶も解放されてしまったが、これは運がいいとハーチェはニヤニヤと笑みを浮かべる。
あの砦の件で叱責を受けたこともある。存分に僧侶たちを拷問し、志村率いる侍たちの見せしめにしてやろう。
そう思ったと同時だった。
隣にいたハーチェの側近が糸が切れた人形のように崩れ落ちた。何事かと崩れたそれを見ると、今度は反対側の兵士が。その頭には深々と矢が突き刺さっているのがわかった。
おのれ、僧兵め。小癪な真似を!そう苛立った様子でハーチェが前を向く。
そこには今まで居なかったはずの、菅笠を被った
冥人がいた。
その日、上県の拠点でハーチェは神に縋った。
だが、神は彼を見捨てた。
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杉寺に典雄や円浄がいるから決戦の地への護衛をしてくれ、とタカと堅二経由で仁からの打診があったので、三人で杉寺に向かうと蒙古が杉寺を包囲していたでござる。
とりあえず近くに降りて様子を伺おうかと提案しようとしたら政子様が先陣をきって蒙古の包囲網に突撃をされました。
「対馬の神聖なる寺を焼こうとする蛮族ども!!生きてここから帰れると思うなああああ!!」
上県の蒙古拠点を潰す度に政子様のバーバリアン気質にも磨きが掛かってきましたなぁ!!とりあえず安達家実質トップに位置するんだからもう少し落ち居てもらえませんかねぇ!?息子たちに怒られるの俺なんですけどぉ!?
そんな政子様には続いて俺も後に続く。巴はいつものように高台に布陣して、後先考えずに突っ込んではサーチアンドデデデストローイする俺と政子様の援護に回ってくれてる。
とりあえず切り込んだ先の蒙古を片っ端から斬首してると、遠くの物見やぐらから矢が!!すかさずキャッチして長弓に装填。全集中!!全てがスローになる呼吸で遠く離れた蒙古の元へとリリース。
肩に刺さったというのに血泡吹いてぶっ倒れたところをみると、矢にはトリカブトが塗られてる可能性が高い。
政子様と巴に敵の刃や矢に当たらない、触れないことを再三注意しておいて助かった。二人とも攻撃が来ると受けるよりも回避することに専念してくれてる。そんな政子様に襲い掛かろうとする巨漢の蒙古の頭にチェストヴォォォオイ!!どっせい!!相手は死ぬ!!
ぐるりと杉寺周辺の外壁沿いにいる蒙古をぶち殺しまくってから、手頃な台から杉寺内部に侵入。俺が入ったと同時に僧兵たちと向かい合ってた蒙古兵の何人かの頭に矢が叩き込まれました。さす巴。俺に打ち込まれないことを祈るばかりですわ!!
とりあえず、僧兵たちの前に割り込む形で入る。目の前にいるのはいかにも高そうな蒙古の軍装に身を包んだ隊長格。
「貴様が噂に名高い冥人か」
日本語が喋れる蒙古は珍しくない。上県にくると全体的にステータス高い蒙古が多いからね!!そういうと偉そうにニタニタと笑みを浮かべる蒙古はこう続けた。
「ノコノコと包囲されてる寺の中にやってくるとは……我が大将の言っていた脅威とは思えない間抜けぶりで」
その言葉は途中で途切れた。なんでかって?俺がすぐさま飛び込んで悠々と遊ばせている男の片腕をぶった斬ったからです。
「……は?」
片手から血がボトボトと落ち始めてから、その隊長は自分の身に何が起きたのかを知ったようだ。無くした腕のあった部分を抱えて呻き声を上げている。
周りにいた蒙古兵たちは次々と矢に撃たれるか、俺の斬首の剣によって絶命してゆく。
あらかた静かになってから、俺は這いずりながらも逃れようとする隊長の片足に刃を突き立てて動きを止めた。
悲鳴が収まった後、隊長はすがるような日本語でこう言った。
「た、たのむ……命だけは……私は……蒙古軍のハーチェで……」
「お前、隊長だな?隊長だろ?隊長だよなぁ」
指を指してそういうと、ハーチェは「その通りだ!私は隊長だ、だから生かしておけば……」と頷く。それだけで充分だ。
「なら、見せしめにはちょうどいいな」
はえ?そんな間抜けな言葉がハーチェの最後の言葉であった。
後日、港に集結する蒙古軍は恐れ慄く。
制圧した港への街道。その道筋に各野営地を任されている隊長格の者たちの晒し首が並んでいたのだから。