「己ら!!何をやっているのか分かっているのか!?」
蒙古襲来。
小茂田での戦いが繰り広げられた日、男手が留守となった安達家に突如として賊が襲撃を仕掛けてきた。大事をとって姉と息子の嫁、そして孫を家に置いていた安達政子にとって、蒙古ではない賊の襲撃は、まさに寝耳に水であった。
家を取り囲んだ賊相手に部屋に立て篭もる籠城を展開したが数で勝る相手に籠城は悪手であった。
政子が入り口で賊を引きつけてる間に裏手から姉たちを逃してはみたが、すぐに発見され、不運にも賊の目の前にいた姉は一刀のもと惨殺された。
駆けつけた政子が決死の守りを繰り出すが、相手の手数と弓の猛襲に嫁や孫を守る手立てはなかった。
「やめろ!!まだ赤子なのだぞ!!」
声を張り上げて叫ぶが、相手は聞く耳を持たない。武家の嫁である嫁も薙刀で応戦するが、それでも相手を打ち返すほどの結果にはならない。
矢が政子の肩に突き刺さる。痛みで顔を歪めるが、それよりも嫁や孫を守らなければ!その意思だけで痛みを噛み殺す。
だが、その意思を賊たちは踏み砕く。
赤子の泣き声。振り向くと嫁の薙刀を払い落とし、刀を袈裟斬りをしようと構えた賊の姿が政子の目に写った。
「やめ……」
手を間に合わない。声も間に合わない。闇の世の中で振り下ろされた刀は嫁と孫を惨殺する———ことなく、力なく地へと振り下ろされた。
政子は目を見張った。賊の頭部に矢が突き刺さり、そのまま糸が切れた人形の如く嫁たちの前で倒れ伏せた。
次の瞬間には、風切り音と共に飛来した矢が政子を取り囲んでいた賊の頭部に、茂みからこちらを狙っていた弓取の頭部にと間髪入れずに叩き込まれた。
「く、冥人だ…!!冥人が出たぞ!!」
風切り音をたどって、矢が飛んできた方へと政子が目を向ける。森の木々を遥か、ここから2町(約200メートル)ほど離れた場所。
そこには長弓を構え佇む、安達家きっての家来、竜三が風にはためかされながら居た。
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我が一族の仇!(になるはずだった相手)ウワア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!
小茂田浜の戦いは、西側にいた蒙古を皆殺しにしてたら、地頭陣営が陥落。
蒙古勢が勝鬨を上げた為、西側に展開していた安達家主体の侍陣営は撤退を余儀なくされた。
というか、撤退したのは俺と安達家の息子たち、そして有志で参加してくれた武装した民だけだったんだけどね。大部分が地頭と同じルートを辿ったため、あっち側はほぼ全滅。指揮系統すら維持できなくなったので撤退を息子たちに具申しました。
「蒙古たちなど恐るるに足らず!」といって、地頭がいるエリアへと突っ込んでいった侍たちもいたけど、流石に自ら死地に赴く者たちの面倒まで見れません。血走った目で自分達も蒙古に追撃かまそうとしていた息子たちを諌め、態勢を立て直すために強制撤退しました。
まさに、勝負に勝って戦いに負けたとはこの事である。
小茂田から抜けるまで不服そうな二人だったが、街道に出てから俺の言った言葉の意味を知ることになる。
小茂田浜の大規模な戦いは、言うなれば〝陽動〟だったのだ。すでに対馬国の至る所に蒙古の野営が設置されており、近隣の村や資材を荒らしまくってたのだ。
まぁ浜の戦いをしながら金田の城も落とす勢力なんだから多少はね!!
少し歩けば蒙古の斥候隊と遭遇するほど、ここはモンゴルかな?と思えるくらいに蒙古が蔓延る島となってしまったので、息子たちとひとまず安達家へと向かうことで合意。
武装してまでついてきてくれた民の村を襲う蒙古の部隊を撫で斬りにして、村を即座に解放。近隣の街道に敷かれた野営も叩き潰し、俺たち三人は真っ直ぐに安達家のある場所へと馬を走らせた。
街道を進もうと提案されるが却下。蒙古の野営をいちいち潰す時間も惜しいし、まずは侍たちの拠点を押さえるのが先だ。まぁぶっちゃければこの戦いの裏で起こる安達家襲撃に何とか間に合わせたかっただけなのだが。
そんなわけで分け目も振らずに道なき山道、川、谷間を抜けて、遭遇した蒙古と島が乱れてる隙を狙って民を襲っていた賊たちを馬に乗りながらヘッドショットして倒し、直線距離で安達家へと到着したわけだが、まさに襲撃イベントの真っ只中だったとは。
家に着けば斬り殺された賊が数名。そして政子様の〝姉〟の遺体がある。
息子たちも異様な光景に息を呑み、馬を走らせる俺についてくる。遠くのほうで見えたのは政子様や奥方たちが襲われている光景だった。
ちぃ!ここからでは間に合わん!
というわけで馬からダイナミック落馬して、すぐに長弓を構える。全集中!!!
全てがスローに見える中で、奥方様へと襲い掛かろうとしていた賊の頭部にまず一発、そして政子様を取り囲んでいる賊をヘッドショット。
「ビューティフォー」
小さくそう呟いてから、立ち上がり刀を抜く。賊から冥人と呼ばれたが気にしない。たぶん、一直線に帰ってきたから俺も息子二人もすげぇきったねぇ姿になってるだろうけど。
街道沿いにたどり着いた瞬間に、賊の頭部に刀を叩き込む。ヨシ!相手は死ぬ!!
息子二人も戦線に参加。俺が手ずから鍛えたので仁と共に金田の城へ攻め入った時の政子様並には強くなってるはずなので、こちらは気にせずに賊をぶった斬ってゆく。おらぁ!弓なんて効かんのじゃ首をだせぃ!!
あらかた近場の敵を斬り伏せると、遠くにいたはずの弓兵たちが居なくなってることに気がつく。ふと、茂みを見ると見知った顔の〝女の弓取り〟がこちらに向かって出てきた。
「上にいた弓兵たちは仕留めたよ、竜三」
そう伝えてきたのは「巴」だった。彼女の言葉を聞いて、こちらも構えていた刀の血を振り払い、鞘へと納める。
蒙古襲来の噂が鎌倉から伝わり対馬国の侍たちが浮き足立つ中、晴信様の伝で紹介された石川先生の道場に通っていた際に知り合ったのだ。
「巴は弟子だが、其方は門下生だぞ」
顔を合わせた瞬間に石川先生から言われた言葉がそれだった。まったく、さすがは対馬一のひねくれ…もとい弓取り。晴信様が「癖は強いがいい弓取りだ」と言っていた理由も頷ける。
最初の頃は部外者である俺に警戒心バリバリだった巴であったが、石川先生の「訓練」という名の放置プレイで、野盗の根城に放り込まれたり、襲いかかる賊を相手取ったりと、互いに警戒し合うどころか、助け合わなければ死あるのみという状況を何度か経験してるうちに、すっかり打ち解ける仲となっていた。
しかし何故に巴がここにいるのか?
「先生にいよいよもって愛想がつきてね。大喧嘩(殺し合い)をして、道場から出てきたのさ」
と言っても巴は身寄りがない身。ひとまず落ち着ける場所を考えた末、安達の家来である俺を頼ってこの地まで来たらしい。安達家襲撃のイベント最中だったけどな!!
「政子様、ご健在でなによりです」
「竜三…助かったぞ。息子たちも一緒のようだが…夫はどうなった?」
「……最期まで、武士らしい生き様でした。母上」
政子様の問いに言い淀んでいると、賊を倒した繁里が苦しげな顔つきで政子様に晴信様の最後を伝えた。
政子様は険しい顔つきで「そうか」と答える。ひとまず身を落ち着ける必要がある。落胆する政子様を連れ、俺たちは安達家の屋敷へと足を向けるのだった。