裏切りの菅笠なんて捨てるんじゃ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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鎌倉武士を舐めんじゃねぇええ!!

 

 

 

元軍の総大将、コトゥン・ハーン。

 

彼は対馬の戦況をコントロールできると思っていた。否、コントロールしていた。放った蒙古の軍勢は対馬国に破竹の勢いで野営や陣を敷き、その民や勢力を手中に収めていた。

 

今、こうやってゆっくりと話をできる場があるのも、兵たちが敷いた街道の野営があるがこそだ。

 

「私のことは知っておるだろう?竜三…否、対馬の冥人よ。私はお前のことをよく知っているぞ」

 

対馬国で奪った日本の酒を煽りながら、ハーンは口を開く。目の前で弓を持つ女と共にいる侍。彼こそが噂に名高い冥人の正体であることをハーンは見抜いていた。

 

「ここを攻め入る前に、私は入念に対馬国のことを調べた。密偵や金で野盗を雇ってな?言葉も覚えた。武士のことも、侍のことも調べた」

 

その中で噂を耳にしたのだ。冥府から蘇り、対馬国を守らんとする冥人のな。

 

そう口にするハーンの前で冥人という男は、すでに死に絶えている蒙古の死体に突き刺さる矢を引き抜いて回っていた。冥人が話を聞いているかどうかは、ハーンにはどうでも良かった。

 

「元軍の誰もが信じなかったさ。そんな与太話などと。だが…小茂田の戦いから誰もが痛感しているはすだ。対馬に冥人ありと言うことを」

 

ハーンは直に、浜の西に出した兵の死体を見た。そのどれもが傷口がひとつ。そしてどれもが致命傷であった。侍や武士の死体は少なく、蒙古の死体で埋め尽くされていたのだ。

 

非常に興味深い。

 

故に、ハーンは直接、竜三に会いにきたのだ。交渉という名の脅しをするために。ハーンの方針に変わりはない。付き従うものには褒美を。そして従わずに抵抗する者には残酷な死を。

 

「金田の城には貴様たち武士の旗本である志村が捕まっている。奴をどうするかは、私の思い一つで…」

 

自信と傲慢さ、そして支配している側として囁く言葉の最中。

 

そこでハーンは気がつく。

 

自分の後ろにいた三人の蒙古兵。自分で選んだ選りすぐりの強者たちの頭に矢が突き刺さっていることに。

 

 

 

 

そして、自分の眼前に突き放たれようとしている侍の刀の存在を。

 

 

 

 

 

傍に置いていた自分の武器を手に取り、即座に向かってきていた刃を退ける。

 

(全く気が付かなかった!?)

 

まさに一息の最中、弓を構える様子も察知させないような刹那の中で、〝冥人〟は矢を放ち、こちらの精鋭三人をたった一撃で葬ったのだ。

 

「今際の言葉はそれで充分か?蒙古の総大将さんよ」

 

深く被った菅笠の隙間から見る眼。その眼光にハーンは今まで感じたことのなかった〝何か〟を感じた。古く、忘れていたような感覚。だが、体は覚えている感覚だ。

 

竜三は刀身を乱すことなく刃を翻す。

 

「アンタは思い違いをしている。ひとつ、単純なことを教えてやるよ。アンタたちは元軍で、対馬国、ひいては鎌倉に戦を仕掛けた。そして今も尚その戦の最中だ」

 

船を率いて、軍勢を率いて、侍を下し、武士を下し、金田の城を落とし、対馬国の全土に蒙古を放った存在が、ハーンだ。

 

彼こそが、この戦の総大将。

 

つまるところ、自分たちにとっての地頭と同じ存在。

 

竜三にとってはそんなこと些細なことだということをハーンは気づけなかった。彼の立場も、支配者という冠も、竜三の前では意味をなさない。竜三にとって、ハーンという存在は〝そんな上等なもの〟ではない。

 

「アンタは、俺の主人であった安達家の当主を卑劣な手で討ち取った…いわゆる仇っていう相手だ。それに一介の武士の前…まぁ、俺はもう家来でもなんでもないが。対馬のために命を捨ててまで戦う覚悟をした者の前に、その総大将がノコノコと現れたのだ」

 

〝それを討たないっていう理由を、アンタは知ってるのか?〟

 

ゾッと背筋が泡立つ。素早く鞘へと刀を納めた瞬間に放たれる神速の3連撃。手に持った武器でなんとか塞ぎ切るハーンだが、その心に余裕なんてものは存在していない。

 

「首を置いて逝けよ、総大将さんよ」

 

これが…侍だと言うのか!?一方的なまでに放たれる攻撃をハーンは防ぐことしかできない。防戦一方だ。相手に迷いや、清く正しい戦い、誉ある戦などという戯言も感じない。

 

目の前に現れた総大将の首を取らんとする意思。それしか感じ取れない。

 

我に降るか?という問いかけ以前の問題。刀を手にしている。武器を手にしている。そして己とそちらは敵同士という状況に変わりはない以上、竜三の取る行動は一つのみ。

 

故にハーンは〝恐怖〟していた。

 

交渉という支配者からの立場で思うように扱えると思っていた自分を呪った。交渉以前に、自分と相手は敵同士。そんな事実を淡々と叩きつけるのみの竜三。

 

(私は…対馬の全土を手中に収めた…チンギスの子孫であるコトゥン・ハーンなのだぞ!)

 

思わず、蒙古の言葉でそう叫んだコトゥン・ハーンに、竜三は刀身を光らせながらニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

////

 

 

見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)!!見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)!!

 

 

敵の大将がノコノコ出てきてくれたのだ!しかも交渉とかいう体だし、ここで討ち取ればその後の時代平和になるんじゃね?

 

というか、交渉という名の高圧的な命令の数々にだんだんイライラしてきた竜三です。

 

とりあえず後衛に控えるデカァアァイ説明不要!な蒙古兵三人の頭を半弓でぶち抜いて、石の型の突きでハーンのドタマぶち刺そうとしたが、相手の素早い反応で空振りに終わってしまった。ダメ押しで憤怒の舞もしたが空振りに終わる。

 

クソが。体力バーも出せってんだ。

 

放つ攻撃が戦斧と薙刀をかけ合わせたような武器に阻まれる。蒙古の言葉でハーンが何か言ってる。ハッハッハッここは対馬なので日本語でプリーズ?お前を殺せば金田で志村様助けたあとに恩賞もらえるんじゃ、とりあえず死ね。

 

猛攻をなんとか退け続けるハーン。距離が空いた瞬間に半弓に切り替えて矢を放つ。ほぼゼロ距離射によって肩を撃ち抜いたが、致命傷には至らなかったようだ。

 

と、そんなときに足元へ蒙古の矢が突き刺さった。おのれ、増援か!!

 

「こ、殺せ!!」

 

息も絶え絶えのハーンが命令を下す。後ろから現れた弓兵の三連射攻撃を刀で弾いていると、正面にいた弓兵の頭が射られた。後方で支援してくれる巴の矢だ。

 

雨のような矢の攻撃の中に、活路が見えた。刀を納刀し憤怒の舞。だが、退いたハーンまで届かない。だからこそ、この距離を待っていた。

 

「お命、頂戴する…!!」

 

くぐり抜けた矢の雨の先で、ダメ押しの紫電一閃を放つ。その一閃はくぐり抜けてきたことに驚愕したハーンの首へと迫ったが、寸前で差し込まれた武器の防御によって首を断つことは叶わなかった。

 

だが、手応えはあった。武具を持つハーンの指から鮮血が走り、小指と薬指が刃によって切り落とされたのだ。くぐもったハーンの声が聞こえる。

 

や゛ったぁ゛ーー!!ブッパぁあぁあ゛ぁぁあー!!!!

 

ははは!ざまぁないぜ!対馬モンキーの意地を見誤ったのが誤算だったな!!一方的にやられる痛さと怖さを教えてやるよ!ウッキーー!!!

 

そう思って振り返った瞬間、左肩に衝撃が走った。そして燃えるような痛みも。

 

「竜三!!」

 

痛みのあまり武具を落とす。待てよ…ここからだぞ…。肩口から振り返ると、左肩に深々と蒙古の矢が突き刺さっているのが見えた。

 

ハッと目の前を見ると、ハーンはすでに後退していた。幾人の蒙古兵に支えられながら陣を後にするハーンを守るように、弓兵たちが立ち塞がる。

 

逃げるなよ、ハーン!そう思って立ち上がろうとしたが、肩のダメージが思いの外酷く立ち上がれない。

 

地に膝を落とす俺に迫る矢。

くそ!手が動かねぇ!!竜三の冥人奇譚、完!!

 

そんな冗談めいたことを考えてたら、俺の頭上を飛び越えて背後から巴が放った矢が蒙古の矢を穿ち、相殺した。すげぇー!!さすが石川先生が義娘に迎えようとまで考えた矢の腕の持ち主だぜ!!

 

「阿呆か、アンタは!!相手は話をしにきたんだろ!?まぁ、アンタらしいと言えばアンタらしいけど!!」

 

悪態をつきながら、蒙古が放った矢を手でキャッチしてリリースする巴も大概である。どんな動体視力してんのさ。まぁここでハーンを討ち取れなかった俺の失態なんだけどね!くそが。

 

「蒙古が来る!さっさと逃げないと!あーもう!付いてく相手間違えたかな!?」

 

俺の蛮勇ムーブに呆れながらも応戦しながら俺と一緒に退いていく巴。だが、相手の数が多い。このままで押し切られるのも時間の問題…。

 

そう思っていた矢先だった。

 

「依頼主が金を弾んでくれる!蒙古をぶち殺せ!!」

 

すぐ脇の雑木林から人影が飛び出してきた。明らかに見た目が野盗だったが、戦い方も野盗だから、野盗か。というか何で野盗が?蒙古と戦っても利なんて無いだろうに。

 

巴と二人でぽかんと野盗と蒙古の戦いを見ていると、雑木林からもう一人の人影が出てきた。

 

そいつは僧侶の服を着た。

 

「竜三殿と巴殿ですね?こちらへ、早く!」

 

名乗ることもなく、早々に俺と巴を連れた僧は、用意していた馬に俺たちを乗せて、野盗の断末魔が響く中、雑木林を一直線に進んでいく。

 

あー、あかん。血を流しすぎた。意識がぐわんぐわんする…。ハーンのやつめ。次あったら絶対にぶち殺してやる…。

 

巴の後ろに乗りながら、俺は抗えない脱力感と共に意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれた。わが愛しの武士よ」

 

目が覚めたら政子様の姉にねっとりとした視線を向けられてました。

 

助けて。

 

 

 

 

 

 

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