銀河英雄伝説異聞~アムリッツァ星域会戦再考~   作:ほうこうおんち

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第12艦隊の奮戦

 輸送艦隊を護衛していたスコット少将は三次元チェスで暇を潰していた。

 そこに警報が鳴り、彼は艦橋に呼び出される。

「なんだ? 前線で何か起きたのか?」

「前線で、ですって?

 ここが前線です」

 見るとスクリーンいっぱいに光点。

 全てが帝国軍艦艇のものである。

 コンピュータの計測値では四万隻を超えていた。

「なぜ、こんな所に帝国軍の大艦隊が??」

 次の瞬間、大量のビームとミサイル攻撃を食らい、護衛艦隊26隻は爆発四散した。

 

 

 

 

「撤退だと?

 総参謀長、どういう事かね?」

 怒鳴るロボス元帥にグリーンヒル大将は冷たく言う。

「撤退計画は完成しています。

 前線はもう限界です。

 撤退する他有りません」

「差し出がましいぞ、総参謀長。

 総司令官は儂だぞ」

「はい、その通りです閣下。

 せめて閣下の名で撤退命令を出して下さい。

 閣下の名誉の為です」

「フォーク准将はどうした?

 コーネフ中将は?」

「その2人とビロライネン少将外何人かは、揃って発病なさいました。

 今は軍医の監視下にあります。

 もう閣下に作戦を授ける者は、この私しかおりません。

 どうか、撤退の御裁可を」

「せめて、せめて一戦勝利してからではダメなのか?」

「一刻が惜しいのです、どうか」

「ま、待て、分かった。

 少し時間をくれぬか」

 ロボスは1時間後、撤退を許可した。

 グリーンヒル大将は総司令官命令で撤退命令を出し、自身の撤退計画書を全艦隊に送信する。

 

……だが、もう遅かった。

 各艦隊は作戦計画を受信するが、同時にあちこちの監視衛星や索敵部隊から「帝国軍接近」の報を受ける。

 中には、分艦隊の一部が通信途絶になったというのもあった。

 

 

 

 膨らみきった同盟軍突出部の中央に、帝国軍キルヒアイス連合艦隊は強引に入り込んだ。

 索敵部隊も衛星も一気に叩き、報告も妨害電波でかき消しながら急行する。

 そして補給艦隊を血祭りに上げると、三個艦隊に分離し、外に向かって警戒する同盟軍を、突出部の内側から攻めた。

 キルヒアイス艦隊15200隻は同盟軍第7艦隊に、ワーレン艦隊15100隻は同盟軍第3艦隊に、ルッツ艦隊15200隻は同盟軍第12艦隊を攻撃に向かった。

 

 帝国軍のローエングラム伯は、腹心の補給艦隊撃破を知ると、残った艦隊にも出撃を命じる。

 同盟軍を内側からだけでなく、注文通り外からも攻めた。

 内と外から挟み撃ちにする為に……。

 

 同盟軍の各艦隊は、占領した複数の惑星や航路上の重要拠点に艦隊を分散して配置していた。

 その上、総司令部から1500隻を供出しろという命令に従い、数を減らしている。

 

 戦闘は、先鋒部隊第10艦隊から始まった。

 急ぎ全部隊に集結命令を出したウランフ中将の下に、第3集団約2000隻と連絡が取れないという通信士官からの報告が入る。

 彼は第3集団は敵に襲撃され全滅したものと判断し、今いる部隊を戦闘隊形にする。

 間もなく偵察に出した駆逐艦から、15500隻の黒い帝国艦隊接近の方位と速度を知らせる報が入り、直後通信途絶した。

「来るぞ!」

 ウランフは全艦に砲撃準備を命令。

 同時に総司令部及び第13艦隊に「我、敵と遭遇せり」という通信を送る。

「さあ、やがてミラクルヤンが救援に駆け付ける。

 敵を挟み撃ちに出来るぞ!」

 そう言って士気を鼓舞した。

(もっとも、ヤンの方も今頃は……)

 とウランフは第13艦隊も攻撃を受けているものと確信。

 第10艦隊だけで戦う事にした。

 第10艦隊定数14400隻、そこから1500隻を分離し、更に2000隻程の第3集団を失っていた為、総数は10900隻となっていた。

 対する敵の黒い艦隊は15500隻。

 いくら単艦の戦闘力が帝国軍艦艇より高い同盟軍艦艇とはいえ、数の面で大幅に不利であった。

 

 一方、第13艦隊も帝国軍の襲撃を受ける。

 だが第13艦隊は定数13000隻から1隻も欠けていない。

 ヤンは、帝国軍襲来を読むと全部隊を集結、わざとゆっくり進めさせていた総司令部供出艦隊まで呼び戻していた。

 対する帝国艦隊は15100隻。

 単艦戦闘力比から言って、第13艦隊が有利であり、実際戦況はそのように推移した。

 

 第5艦隊も艦隊集結に成功していた。

 敵襲とほぼ同時に合流した消耗し切った部隊もあり、13500隻の艦隊は最初から逃げにかかった。

 ビュコックは戦っても良かったが、ある危惧があり、局地戦に拘らない。

 ただ、やって来た帝国艦隊は数こそ12000隻と少ないものの、戦術機動力が高く、逃げ切れない。

 後から分かった事だが、ここの帝国軍はまず奇襲効果を狙うべく、ついて来られない艦艇は後から合流せよと、打ち捨てて来たのだ。

 もしも数に拘り、全艦揃うのを待っていたら、ビュコックは艦隊再編を済ませ、帝国軍到着前に星系を離脱していただろう。

 状況判断の的確な司令に率いられた帝国軍は執拗であった。

 第5艦隊は時々追いつかれては迎撃戦を行う。

 それでもビュコックは老練さを十分に発揮し、何度かの攻撃で敵の癖のようなものを見るとそこを衝いた。

「こいつは厄介な相手だ……」

 ビュコックは副官のファイフェル少佐にぼやく。

 一時の混乱を帝国軍はすぐに立て直し、今度は別人が指揮しているかのような重厚な攻めに切り替わった。

(あの艦隊には司令官が2人居るのだろうか?)

 と訝った程である。

 

 第9艦隊は悲惨であった。

 ここの艦隊もイゼルローンから撤退計画が届くとともに部隊集結を命じた。

 供出艦艇を除き全軍11500隻。

 しかし、広範囲の守備の為に分散していた分艦隊2つが相次いで連絡を絶つ。

「速い……、気をつけて下さい、まるで……」

 という通信を残して。

 残るは司令部の4500隻と、副司令官モートン少将率いる約3000隻。

 第9艦隊司令官アル・サレム中将は、モートン少将に合流を禁じ、早くイゼルローン方面に撤退するよう命じた。

 そして第9艦隊主力は、現れた敵艦隊先頭集団に一斉射を浴びせると、即座に後退する。

 後退するアル・サレム中将は、いつの間にか自軍と帝国軍が入り交ざっているのに気が付いた。

 余りに高速の敵艦隊は、全力で逃げる第9艦隊に追いついてしまったのだ。

 やがて、敵艦隊は速度を落とし、有効射程に後退して猛烈な砲火を浴びせて来た。

 

 

 

 ビュコック、アル・サレムが心配したのは後方の第12艦隊である。

 本来五個艦隊で守っていた宙域を、たった一個艦隊で守っている。

 そして、この宙域に帝国艦隊が展開されたら、同盟軍は退路を断たれるのだ。

 

 第12艦隊司令官ボロディン中将は真っ先にそれに気づく。

「分散した部隊の集結が間に合いません。

 帝国軍が外側から来ると想定しての部隊配置です。

 内側から攻められる事は想定していません。

 そこで、司令部及び副司令官の部隊は、この星系からいずれかの分散している部隊の方に移動し、そちらで全軍集結しましょう」

 艦隊参謀の言にボロディンは首を横に振る。

「このボルソルン星系を抜けると、現在輸送艦隊が中継ターミナルとして利用している地点に辿り着く。

 そこからアムリッツァ恒星系方面を押さえられたら、同盟全軍はイゼルローンへの帰り道を失う。

 この星系を明け渡す訳にはいかん」

「では……」

「我が艦隊はここで敵を食い止める。

 分散している部隊は順次合流せよと伝えよ」

 

 開戦前の終結時規範通り、500隻ずつに分けた分艦隊は四個が集まり、まともな戦闘力を持つ2000隻程度の戦闘集団に再編している。

 それらが駆け付けて来るまで、第12艦隊司令部付艦隊のみで持ち堪える。

 司令部付艦隊は当初4000隻だったが、1500隻を総司令部の命令で割き、残る2500隻だけであった。

 その寡兵でボロディンは帝国艦隊を迎え撃った。

 帝国艦隊は15000隻、戦力比は単純な数の比で6対1。

 小惑星をトーチカ代わりにし、ボロディンは迎撃戦を行う。

 

 帝国艦隊は包囲網を広げ、上下左右から小惑星の陰の同盟艦隊を攻撃し始めた。

 じわりじわりと数を減らす第12艦隊司令部付艦隊。

 そこに有人惑星を警備していた副司令官コナリー少将の艦隊2000隻が到着する。

 合流を果たそうとするが、帝国艦隊は後陣を差し向けて阻止を図る。

 コナリー少将の突撃は三度目に成功し、司令官と副司令官は合流する。

 だが、この3時間の戦闘で既に半数を喪失していた。

 

 そこに2000隻の艦隊が出現。

 分散していた部隊の一部が駆け付けて来た。

「戦力の逐次投入は兵法の愚策だ。

 だが、時間稼ぎが必要な今は、案外ありなのかもしれない」

 

 ボロディンはイゼルローンに、各艦隊から割かれた1500隻の部隊八個、実際にはヤンとビュコックは胡麻化した為六個で9000隻の艦隊を、例の「ターミナル」に派遣して欲しいと意見具申していた。

 グリーンヒル総参謀長はロボス総司令官に強引に迫って出撃を命じる。

 その部隊や、後退する他の艦隊の到着まで時間を稼がねばならない。

 いや、時間稼ぎだなどと甘い事は言っていられない。

 擂り潰されながらでも、ここを通してはならないのだ。

 

 4000隻に増えては、また数時間かけて2000隻程度に減らされる。

 そこにまた別の分艦隊が到着する。

 この繰り返しのように思われたが、帝国軍は戦術を変えた。

 ボロディンたちを攻撃するのは半数だけとし、敵艦隊司令部と予備兵力は距離を置いて戦場を俯瞰し始める。

 やがて、また遅れて到着した2000隻の集団を、敵の約半数7000隻程の集団が後方から襲う。

「どうやらパターンを読まれて、対応されてしまった……」

 いつかは来ると思っていたが、やられるとやはり痛い。

 増援部隊は3倍の敵による背後からの攻撃で、1時間持たずに全滅した。

 敵艦隊はそのまま機動し、ボロディンの背後に回り込んだ。

「残り1個集団、どうなりましょう?」

「同じ運命だろう。

 本当なら、もう我々に構わず撤退してくれた方が良いが、妨害によってそれを命令する事も出来ん」

「第12艦隊は、このまま帝国辺境の地で消滅しますか」

「皆、すまんな……」

 コナリー少将とボロディン中将は、希望が全く見えない戦況を語りながらも、精一杯抵抗し続けていた。

 

 最後の増援部隊も動きを読まれ壊滅。

 前後左右上下、六方を帝国軍に包囲された第12艦隊は、もう限界を迎える。

「味方は何隻残っている?」

「旗艦『ペルーン』以下、砲艦8隻を残すのみです」

「そうか……」

 その会話を最後に、ボロディン中将はこめかみをブラスターで撃ち抜き自決。

 コナリー少将は降伏した。

 

 

 

 ボロディンの抵抗は無駄にはならなかった。

 妨害電波により戦況を把握出来ない彼は知らない事だが、同盟軍は何とか「ターミナル」地点に辿り着いていたのだ。

 まず第5艦隊が三割の犠牲を出しながらもポイントに到着。

 次に第9艦隊副司令官モートン少将率いる3000隻が追撃を逃れてポイントに到着。

 グリーンヒル総参謀長が送った各艦隊からの抽出部隊9000隻も到着し、約22000隻が防御隊形を整えつつあった。

 

 それでも第9艦隊を壊滅させた艦隊と、第12艦隊を倒した艦隊が挟み撃ちにすれば、帝国軍27000隻と同盟軍22000隻の戦いとなり、同盟軍は厳しい状態のままであっただろう。

 帝国軍もまた計算違いに見舞われていた。

 第10艦隊と戦っている黒い艦隊が、まだ戦闘を継続している。

 そして、第13艦隊がほとんど無傷のまま脱出に成功したのだ。

 帝国軍の通信は、

「ルッツ提督の艦隊とワーレン提督の艦隊は、直ちに合流して下さい。

 私と合わせて45000隻の艦隊で、『奇跡のヤン』を迎え撃ちます」

 というものだった。

 

 ビュコックは

(そうか、第13艦隊は無事か)

 と安堵する一方で、

(三倍の敵が待ち構えている。

 死ぬなよ、ヤン)

 と、願うしか無い状況を歯噛みしていた。

 

 ビュコックはここで、撤退して来る各地の地上部隊、偵察部隊、補給部隊を迎えねばならない。

 彼等は宇宙における戦闘力が無い。

 置き去りには出来ない。

 逃げて来たら、真っ先に後送させねばならぬ。

(グリーンヒル総参謀長の撤退計画に沿い、この宙域は奪われずに済んだ。

 逃げて来る部隊の出迎えも出来ている。

 だが、遅きに失したな……)

 

 ビュコックには悲報ばかりが入る。

 第3艦隊、第7艦隊は司令部が通信途絶。

 分散配置していた一部の部隊だけが脱出に成功していた。

 第9艦隊のアル・サレム中将は、800隻程の傷ついた艦隊に守られて戻って来た。

 切れたワイヤーロープに体を打たれて重傷である。

 第12艦隊はボロディン中将の自決で戦闘終了、艦隊は消滅していた。

 

 

 

「……この他に、ヤン中将の第13艦隊は健在ですが、ドヴェルグ星域で足止めを食らい、四時間が経ちました。

 我々は敵の罠に乗せられたのです。

 この上は一刻も早く、イゼルローンへの撤退命令を!」

 大混乱の遠征軍総司令部で、グリーンヒル総参謀長がロボス元帥に迫る。

「全艦隊、アムリッツァ恒星系に集結させよ」

「閣下!」

 大勢の参謀、士官の前である。

(いい加減にしろよ、このボケ老人)

 とは理性の上でも、性格の上でも言えない。

 ロボスは戦闘となったら目が覚めたような感じではあるが、それでも判断が正しいかどうか……。

 

 ともあれ、ロボスは命令を出す。

「このまま引き下がる訳にはいかんのだ。

 全軍、アムリッツァ恒星系に集結せよ。

 これは命令である!」




銀河英雄伝説1巻を読むと、
「第10艦隊は黒色槍騎兵艦隊より数において劣る」
「第12艦隊は旗艦の他8隻にまで打ち減らされる」
「ウランフとボロディンを失った事が大きい」
というのがありまして。
同盟軍は12000~15000隻の艦隊編制。
これが8隻にまで減らされるっていうのは、余程の事だと考えました。
無能な将ならともかく、死亡は惜しまれるボロディンが指揮をしている。
ウランフがビッテンフェルトと撃ち合って、3割は脱出させた(さらに千隻程は被害を与えた)のに、ビッテンフェルトより攻撃力は劣るルッツ相手にボロディンは全滅に等しい損害。
これを考えるに
・物資窮乏による戦意低下では片付けられない理由があった
・ボロディンはウランフより更に少ない数で戦った
と見ました。

そしてOVAでラインハルトが
「戦力分散の愚かさに気づいたというわけか」
と笑ってますが、自分は艦隊が集結状態でいたなら戦力分散とは思わなかったのです。
幾ら帝国軍が有能で、同盟軍は疲弊と士気低下状態とは言え、一方的にやられ過ぎている。
500光年以上帝国領を侵攻していながら、艦隊を8ヶ所にだけ置いていても意味が無い。
思いっきり分散配置させ、帝国軍の将帥が攻めて来た時には、ほとんどの部隊は手持ちの半分以下で戦ったのではないかな、と。

それと、キルヒアイス艦隊だけ多過ぎる問題。
この後の展開を見るにつけ、ワーレン、ルッツと合わせて4万隻だったのではないかと。
だとしたら、ドヴェルグ星域でヤン艦隊相手に4倍の兵力で戦ったのは、他の提督と再合流してからかもしれないです。
本戦で「我に余剰戦力無し」と言っているラインハルトが、キルヒアイスにだけ4万隻は持たせ過ぎ。
OVAの描写、2巻の流れから見ても、ワーレン、ルッツとトリオで行動したと思い、そのように書きました。
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