ちゃんと続きますが、不定期投稿になると思います。
第1話:「GBN。んーっと、なにそれ」
周囲に流されがちのわたしには夢がある。
夢と言うにはまだまだ曖昧で、ぼやぼやしていて、輪郭がぼけている。
その夢は険しくて、細くて、危うい場所をずっと歩くような危険な道。
それでも。1枚の写真を見たわたしはどうしてもなりたいものがあった。
あの、美しくて透き通るまで青く澄んだ空。
高くてふわふわ宙を待っていいる雲。
そして、親子たちの太陽みたいに眩しい笑顔。
この本当に楽しそうな写真を見て、わたしは写真というのが好きになった。
いつか澄みきった青空を美しく撮ることが、夢になっていた。
「……夢、か」
ぽぁーと、大きく開いた口を手で隠しながらあくびをする。
どうやら寝てしまっていたみたいで、あの日のことを夢に見てしまうくらいの爆睡を授業中にしていたみたいだ。よくバレなかったな。
春とは遠いほどの寒さを肌に感じる秋口。いつものように眠気が一向に取れず、すぐ机の上で寝てしまう。悪い癖だ。
「ナカノさん、また寝てたの?」
「いいじゃないですか……ふあぁ……」
眠気を全身で味わいながら、私はため息1つ。
最近、何かといい写真が取れていない。頑張ってスマホのカメラ機能で頑張ってはいるのだけど、スマホでも限界はある。芸術は奥が深いのだそうだ。安物のカメラには写してくれない、ということらしい。
「じゃー、ナカノさんに質問。GBNってやってる?」
「んーっと、なにそれ」
話しかけているのはシライシ・ナツキっていう、クラスメイト。
一応クラスでは美人の方で、その顔立ちはだいたいクラスで4位(男子評)らしい。
人の顔に順位を入れるのは、少し失礼だと思うけどな。
まぁ、今はそれはいいんだ。重要なことじゃない。
GBN。聞いたことがあるようなないような。でも頭の中の引き出しにGBNって単語が入ってなかったので、多分知らないのだろう。
「えっとね、ガンダムバトル・ネクサス・オンラインの略称なんだけど」
「あった、気がするねー。この反応を見てどう思う?」
「やってなさそうって分かるよ、残念なことにね」
話が分かるやつで助かる。
そもそも、この人とはあんまり喋ったことはない。
だからこうやって打ち解けているのにもやや違和感があり、思考がもちゃっと出入り口がマシュマロみたいなので詰まっているような感覚。
「早速なんだけどさ。一緒にGBN、やってみない?」
「……えー」
「なんでさー」
「だってさー、ガンプラ? だっけ。作らなきゃいけないんでしょ?」
「後々ね。最初はちゃんとアバター作ってログインするだけ、ってこともできるんだよ」
意外と入りやすいぞGBN。そういう初心者歓迎感は悪くない。
あとはゲーム特有のチュートリアルなんかが少なければ特によい。
まぁ最初は作らなくてもいいとは言っても、どうせ付き合いでやるゲームだし、適当に作っても文句はないか。
「分かったよ。じゃあ放課後、でいいの?」
「いいよ。私シライシ・ナツキね」
「知ってる。こっちはナカノ・ハル。ま、よろしく」
「うん知ってる。よろしくね!」
10月の空に、何故か交友関係が1つ出来上がってしまった。珍しいこともあるだろけど、多分すぐに水に溶けていくような関係になるんだろう。
どうせこのゲームも大したことはない。きっと、そうに違いない。
5時間目の授業を寝ることで手早く済まして、帰り支度を始める。誘った本人であるナツキはもうすでにわたしの隣で、スタンバっている。どれだけ楽しみだったの。瞬間移動してきたみたいで、少し怖かったよ、わたしは。
「早く行こう! ガンダムベースに!」
「……家とかじゃないの?」
「ダイブする場所、そこにしかないんだよぉおぉおぉ!」
「テンション高いね」
「ずっとこの日を楽しみにしてたから。みんな面倒くさいとか、お金ないからって言って断っちゃうから」
まぁそんなものだよね。未知のものに手を出すことがいかに面倒で億劫なことか。ならやらないほうがいい。現状維持がいいというのはよく分かる。わたしもその1人だし。
ただ、わたしの場合はちょっと人より自分の意志がないと言うか、流されやすいようで。こういう熱と勢いに当てられてしまうと、反射的にうんとうなずいてしまうのだ。
悪い癖だとは思ってもやめられないのが人間の性。心の中で思っていても人はそう簡単には変われないのだ。
「ちなみに何人ぐらいに話しかけたの?」
「クラス中?」
「てことはわたしが最後ね」
「あ……。いやいやいや違うよ。ただ眠たそうにしてるし、いつも1人だったから絡みづらいっていうか」
「ぼっちで悪ぅございましたね」
友達らしい友達は1人もいない。知り合いは大勢いるけど、その中で友達と呼べる人がいないと言った解釈が近いだろう。
ほら、わたし眠たがりみたいなところあって、常時睡眠のデバフが入っている程度にはいつも眠たい人間だから、すぐに机に伏せてしまう。
それが悪いかいいかと言われれば、まぁ悪いことなんだろうけど。わたしは今までそうして生きてきたし、これからもそうだと思ってたんだけどな。
彼女。確かナツキ、だっけ。ごめんごめんと両手を合わせて謝罪してくる。
あー、こういうちょっと人懐っこそうな態度も男子評高い原因のひとつなのかもしれない。
勝手なイメージだが、男の子はこういういかにも好意を周りに振りまく女の子が話しかけてくると、実は俺のこと好きなのかな? なんて勘違いしやすい生物だと思う。
人に興味がある仕草というのはとても魅力的で、自分のことを知ろうとしていると思ったらそれだけで興奮するだろう。分からない気持ちではないけど、巷の惚れっぽい女の子よりも惚れっぽいところだろう。
なんにせよ、いつまでも教室の片隅で机に突っ伏しているのも悪いところだ。とりあえず立ち上がって、ナツキの先導でガンダムベースというところに行くことにした。
歩いて数十分。大通りを抜けて、磯の匂いが風にのって鼻の中に伝わってくる海岸線にそれはあった。
「でっか」
「だよね。私もいつもそう思う」
わたしはガンダムというものをよく知らない。
白くて黄色くVの字のアンテナが付いたものを大抵ガンダムと呼ぶのであれば、あれも紛れもなくガンダムだろう。でも、驚くべきはそのサイズだ。
わたしが頭を上に上げなければ顔なんて分からないその姿は、まるで原寸大とも思えるような大きさ。
赤いバックパックには羽根が付いて、ガンダムの装甲は上半身が青くて、今まで抱いていたガンダムのイメージとは一線を画するデザインだ。
「フォースインパルスガンダム。ガンダムSEED DESTINYに出てきた主人公機でね、かっこいいの」
「へー」
「興味なさげだね」
「知らないし、こういうこと」
知らないことには興味は抱けない。当然であるが退廃的な考えはどこまでも人を堕落させていく。
新しいことを始めるというのに、この体たらくなら恐らくは3日坊主どころか、1日天下と言っていいかもしれない。きっと使い方間違ってるけど、いっかめんどい。
ダイブする場所があるというお店はガンダムベースのプラモ売り場の奥らしい。
色とりどりの箱が所狭しと並んでいる姿は、異国に来たいみたいと言ってもいいかもしれない。それだけわたしの私生活に置いて異質な存在感だった。
「おや、ナツキちゃんじゃないか。ちょっとぶり」
「マシナさん、ちょっとぶりです」
レジの方では店員であろう無精髭のおじさんと黒髪ロングの美人系JKが会話をしている。これが道端だったら恐らく通報ものだろう絵面は、わたしに視線が向いた瞬間に破壊される。
「彼女と一緒にGBNかい?」
「そうそう。ナカノさん」
「ナカノ・ハル、です」
「そうかそうか、ハルちゃんね。俺はマシナ・ギアロウだ。ガンプラを買う時は、ここに来てくれればいろいろあるから」
軽く会釈して、考えておきますと、愛想笑いで返しておいた。
別に、続けるつもりはないのだけれど。気が向いたらってことにしておこう。
「ナツキちゃんをよろしく頼んだよ」
「マシナさんは私のお母さんですか!」
「俺はガンプラファンみんなの母親さ! ハッハッハ!」
そこ、父親じゃなくて母親なんだ。
まぁ、それはさておき。ナツキはわたしと目を合わせると、ダイバーギアの手続きを始める。
その間スマホでもいじっていようかなと思ったんだけど、すぐ終わったらしく、いじるスキもなかった。
2枚の板のようなものを手に持ち、招かれるまま店内の奥へと進んでいくと、そこは大きな機械が6つ並んでいた。
巨大な椅子と画面と、あれはコントローラー? よく分からないによく分からないをかけ合わせたような複雑そうな機械にナツキは何の躊躇もなく座る。
「あ、そうだった。ナカノさんはよく分かってないよね。これがダイバーギア。座って、ゴーグルを付けて、ハンドル握ってダイブスタート。OK?」
よく分からないプレートを台座にはめ込むと、起動を始めたように機械がうねりを始める。
これが最新機器かー。すごいなー。
「ほら座って! 一緒に行こう!」
「う、うん」
彼女に気圧されながらも、わたしは目の前にあったゴーグルを頭につけて、データの羅列を確認していく。情報量多いのとよく分かんないのばっかりなので全部スルーで。
『GPEX SYSTEM START UP──』
「まぶし……」
目の前に入ってくる青い光に思わず目をつぶり、光を遮る。
すると、意識が徐々に本来あるべき身体とは離別し、何かに吸い寄せられていく感覚を味わう。
全身は白く服を着ていない全裸のような。いや、データの塊が電子の海を彷徨っているような。そんな地に足がついていない、おぼつかない感覚。
意識は丸っこいものに収束していき、着地する。
ダイバーとして、GBNのプレイヤーとして意識と姿が固定化された。
……のだが、何か、視点が低いような。
「よっと。あーこんな感じなんだ」
なんか、さっきよりもナツキの身長が高い気がする。身体全体をゴロンと転がさなければ見えないような、そんな違和感。
彼女の格好は青かった。青い髪に旅人のようなラフな格好。ロングの髪の毛は健在で、サラサラとしたヘアーはおおよそナツキなのだろうと判断できた。
「ナツキ、身長おっきくない?」
「そりゃあ、ナカノさんが縮んでるからね」
「はえ?」
そういえば、妙に身体にフィットはしているが、ゆらゆらと動くと身体全体が転がっていきかねないぐらい危ういバランスを保っている。
鏡や水面があれば、わたしはどんな格好か見れるのに。GBNはそれすら許してくれなさそうだ。
ナツキがわたしを抱き上げると、胸の下辺りに抱き寄せた。なんだ、この屈辱的な絵面は。
「ナカノさんは簡易的に作ったアカウントだから、まだアバターとか出来てないんだ」
「はー」
「だから劇中で出てくる丸っこいハロっていう機械になってるの。マスコットだね。かわいいね」
「……わたし帰っていい?」
「ダメだよ。せっかく来たんだから、ちょっとは楽しもう?」
まぁ帰ってもやることないし、この屈辱的な抱っこは甘んじて受けるとしよう。頭の上辺りが少し柔らかいし。クッションとしてはこの上ないし。
とは言ってもやることなんて。と考えていたところ、ナツキはエントランスを抜けてテラスへと走り出した。
なになにどうしたの。突然走っちゃって。
「私ね、GBNにログインしたら真っ先に見たいものがあるんだ」
「どんなの?」
「空!」
左手で抱っこされながら彼女が指を差す先をわたしも追うように見上げる。
それは突き抜けるほどの青。どこまでも続くぐらいの果てしなさ。
天気予報ではこんな清々しい気持ちになる青を晴天というのだろう。
雲一つない空は、見上げれば宇宙さえ見てしまいそうなクリアさで、わたしの瞳も、脳内も魅了される。
どこまで行っても綺麗な空は、かつて写真の中で見た空と似ていて。
「ね、すごいでしょ!」
出会って1時間も経っていないような少女と、こんな景色を見ているなんて思ってもみなくて。
「まぁ、悪くないね」
「でしょー!」
つい素直じゃない返事をしてしまう。
でも彼女はくすりと笑って、憧れを抱くように目を細める。
「あの空を飛びたかったんだ、私」
小さい。ほんの小さい夢。でも人類はそれを昔から目指していた。
鳥を羨むように。飛行機も、ヘリコプターも、戦闘機も、きっとガンダムも。
そこを目指して、彼らは汗水たらして、何度も何度も挑戦して、技術も発想も重力でさえもジャンプして、飛ぶことを選んだ。
人類最大の夢。地を蹴って、空へ飛び立つこと。
GBNならそれができる。彼女はそう静かにつぶやいた、気がした。
「夢なんだ」
「うん。もうすぐ叶うけど、その前にやりたいことがあるから」
「目の前なのに?」
「一緒に飛ぶ人を探してるの。それで見つけた」
胸の谷間から彼女がニヤリと笑っているのが見えた。
あぁ、なるほど。わたしは彼女の夢を叶えるための当て馬にされたのか。
出会いはほんの些細なことから始まる。
偶然めいて必然。たまたまに見せかけて運命。
わたしにはその意味を理解するには、まだまだ子供だから未来の自分に投げつけることにした。
2人の。いや、わたしたちのお話はそんな夢を語るところから始まった。
名前:ナカノ・ハル / ハル
性別:女
身長:152cm
年齢:17歳
黒髪のふわふわショートボブ。桜の花びらのヘアピンを付けている。目の色は赤。結構美少女。クラスの中で4人に1人は可愛いねって言われるぐらい
制服で目立たないが、結構胸が大きくEぐらいはある。
周りに流されて、GBNを始めたガンプラ初心者。主人公
性格は午前中は眠そうにしている。故にボーッとしたり、机に突っ伏していたり。
ただ、午後になると活動的。ダウナーな態度は変わらない。
機体は、また後日。