クリスマス。それは師走の25日に行われるキリストの降誕祭である。
決してキリストの誕生日ではないらしいが、その辺はやや曖昧なもので、生誕祭だと思い込んでいる人は少なからずいるのではないだろうか。
キルスト教国でなくとも、年中行事として楽しまれており、クリスマスツリーやリースを飾ったり、ジングルベルを歌ったりする人が多い。
日本人もこれに便乗して、街中や自宅でパーティをする人もたくさんいる。
子供は両親……じゃなかった。サンタさんにプレゼントを繕ってもらったり。
逆に大人は会社の飲み会に追われたり。もちろん家族でケーキやチキンを食べたりする人もいる。
財団Bも、クリスマスはかきいれ時だ。子供に買い与えるなりきりグッズやソフビはなくては始まらない。だからこそ12月に入ってから、クリスマスにかけてというもの、それはもう多くのおもちゃが販売される。
それはガンプラも例外ではない。広義的にはガンプラだってプラモデル。そう、おもちゃなのだから。
12月24日。わたしはいつものようにナツキと一緒にガンダムベースをへと足を運んだ。
この時期GBNもフェスイベントで盛り上がっている。
何しろクリスマスだ。陽キャ陰キャ問わず、騒ぎたい時に騒がなくてどうする。
わたしも実際、ナツキと一緒にクリスマスフェスなるものに挑戦するつもりだった。
だがどうだろう、目の前に置かれている巨大な箱が何を意味しているのか。
何故わたしとナツキはガンプラ製作スペースで2人並んでガンプラの箱を置いているんだろうか。
その答えは、隣の彼女の手に握られていたニッパーだった。
「作ろう!」
「はぁ?」
多分今生で初めてだと思う。クリスマスにパーフェクトグレードのガンダムを制作するのは。
理由なんて大したことはなかった。
ナツキがこの間買ったという「PG UNLEASHED 1/60 RX-78-2 ガンダム」とか言うガンダムフレームが作り込まれていたり、装甲が開閉したりするギミックを持つ明らかに1人では組めなさそうなガンプラを一緒に組んで欲しいということだった。
だから箱を見て絶望したし。開けてさらに絶望した。
今なら闇落ちして怪物を生み出せるぐらいには、わたしの心は死んでいたと言っても過言ではない。
「なんでこんなの買ったのさ」
「……クリスマス近かったから?」
「こんなの使わないでしょ。どこに置くのさ」
「んー、リビングとか?」
「ナツキの家はごーてーなんですねー。はいはーい」
「もう、意地悪しないでよー」
ニッパーを手にパチパチパーツを切り出していく。
流石に今回は素組みでいいかと訪ねたら、冷や汗を流しながらナツキは答えてくれた。
こんなのやってられるか。わたしにはそういう風に見えたのだ。
それでもきっちりゲート処理はしていく辺り、さすがはビルダーだと思う。わたしはあぁはなりたくないな。
「なんか失礼なこと思ってない?」
「いや、別に」
「ふーん。そう。あ、そっちのランナーちょうだい」
「ん」
今日のガンプラベースは混んでいると言ってもいいだろう。
それでも静かにエアブラシで塗装していたり、ヤスリをかけていたり、普通に素組みしていたり。十人十色でこのクリスマスを楽しんでいるみたいだ。わたしもその一員だからいいとも悪いとも言えない。
そもそもナツキと出会ってなかったら今年もクリスマスは一人ぼっちだっただろう。
一人は慣れてることだから、大して感情的には思わないけれど、今年は一人じゃない。隣で肩をぶつけ合いながら、彼女のぬくもりを味わうのは存外悪い感覚ではなかった。
でも同時に疑問がふっと泡のように吹き出す。
不意のもので、きっとすぐに破裂して消えてしまうような些細なことかもしれない。
だけど、今のわたしは熱に浮かされてどうかしているのだろう。
流されるなら、流されるままに。わたしは気になったその疑問を口にした。
「クリスマス、わたしとで良かったの?」
「え?」
「いやだって、クリスマスまでわたしといたら、なんかなんない? カーストとか」
ただでさえ、最近わたしにかかりっきりで、クラスの仲間内から付き合い悪いとか言われているだろうに。
ちょっとした独占感と優越感は感じるものの、それは別として彼女の取り巻く環境が少し気になった。
「……ハルは私とじゃ嫌?」
「そういうわけじゃないけど。ほら、一応友達っぽいし」
「話し相手なだけ。わたしはハルがいてくれればいいし」
「そんなもの?」
「そんなもの。今は、それでいいんだ」
昔を懐かしむ彼女の姿が少しだけ哀愁が漂う寂しいものに見えたけど、きっと見間違いだろう。
わたしはナツキの過去を知らない。だけどわたしが接しているナツキは、今のナツキだ。過去を知らなくたって、今に興味を持てればいい。
だからその言葉は心の中で口を溶かしてニヤついてしまうぐらいには嬉しかった。
わたしがいてくれればいい、か。誰かに必要とされたのなんていつぶりだろう。家族はそんなにわたしのことを気にしてないみたいだし、学校だってわたしがだいたい寝てるだけだったから、仲間はいない。
ならどこにいればいい。その答えが、ナツキの隣なんだろう。
パーツを組み立てている彼女を邪魔しないようにぐぐぐっと肩をくっつけて寄りかかってみた。
やや身長が向こうの方が上なので、若干肩に頭を乗せているような体勢になっているけれど、今は心が嬉しがっているので構わない。
お返しと言わんばかりに彼女も肩に力を入れて押し返してきた。
ぬくもりがより一層強まるのを感じる。わたしよりも少し体温の高いナツキの温度が、わたしに伝わる。
暖かい。体温じゃなくて、心の温度が。ぬくもりが。優しさが、嬉しかった。
「なーに、ハル?」
「なんでもない。それより手が止まってるよ」
「止めたのはハルでしょ」
「わたしがナツキの時間を止めた」
「ふふっ。変なこと言っちゃって」
果たしてこれは友達同士の会話と言えるのだろうか。
いつの間にか目の前に座っていたくたびれたOLのお姉さんがため息を付きながらZガンダムを組み立てている。
呆れられたのかな。それともイチャイチャしてるカップルに見えた? そんなわけないか。だってわたしたち、友達ってだけでそれ以上の関係じゃないんだから。
「この前出たPG?」
「はい。お姉さんはHGのZですか?」
「そうなの。昔っから好きでね、Z系」
そんな考え事をしていたら、OLのお姉さんがわたしたちが作っているものに質問をしてきた。
華麗に返してみせる辺り、やっぱりナツキはコミュ強なんだと理解する。
わたしなら絶対どもってると思うし。まるでコミュ障みたいじゃないか。いやそうだっけ。
自分が情けなっていくのを感じているが、手は止められない。
ランナーからパーツを切り出して、ゲート処理をして、パーツ同士をくっつけて。
そんな繰り返しと一緒に、いつの間にか完成していたOLお姉さんのZガンダムが側でポージングしている。
「あたしも手伝っていい?」
「流石に私たちじゃ難しくって。お願いできますか?」
「いいよ。足でいい?」
「お願いします!」
ビルダーとは惹かれ合うものなのだろうか。やっぱり目の前でPGを作っていたら思うこともあるだろう。
OLのお姉さんはわたしたちと一緒にガンプラを作り始めて、交流を深めていた。
「そう、ハルはまだガンプラ初めて2ヶ月で……」
「へー。ハルちゃん筋いいね、2ヶ月でこれって」
「そうなの?」
「うん。ナツキちゃんの教えがいいからかな?」
「そうでしょ? 崇めてもいいんだよ、ハル!」
「あー、はいはい。感謝カンゲキ雨嵐」
「テキトー!」
他愛ないことをまるで前から友達だったかのように遊ぶわたしたち。
考えて思ったけど、このOLのお姉さん、どこかで見覚えがある。それがどこかまでは思い出せないのがもどかしいが。
そして完成したのがPGの1/60スケールのガンダムだった。
「おー、すっげー! ハッチ開く!」
「見てよハル! ビームサーベル光る!」
「2人ともはしゃぎすぎ。でも写真ぐらい撮っておこうかな」
所謂ブンドドという遊びだろう。手元にあった1/144スケールのZガンダムと比較してみたり、肩車させてみたり。
まるで親子だ。実際作品系列的にも親子に当たるだろうから、本当のことだろう。
やー、すごいな。わたしたち、これ完成させたんだ。
「これ、GBNに出せたらいいのにね」
「流石に無理だって」
「GBNやってるの、2人とも?」
「はい! もしかしてお姉さんも?」
「そ! この後フォースメンバーに会いにログインする予定だったんだけど、2人も一緒に来る?」
「行く行く。わたしもフォースに挨拶しなきゃだし」
それぞれダイバーギアを持って台座にはめると、操縦桿を手に持つ。
ちらりとOLお姉さんのガンプラを確認してみたら……見覚えがあるガンプラだった。
「って、え、そのガンプラ……」
「お姉さん、そのガンプラって……」
『GPEX SYSTEM START UP──』
システムが割り込むようにして、わたしたちの意識はゲームの深層へと落ちていく。
0と1の壁を超えて、先に待つもの。それはわたしとナツキ。そして一緒にログインしてきたモミジだった。
「お姉さん、モミジだったの?!」
「通りで名前一緒だと思ったら、ハルとナツキチだったとか……」
肩をガックシと落として露骨にがっかりしてみせた。あぁ、あれが素なんだ。
「あ、お姉ちゃんたち、おっはよー! 遅かったね!」
「うんまぁ。リアルで会ってたから」
「えぇ?! でかお姉ちゃんも?」
「なに、ちびっこ。あんた喧嘩売ってるわけ?」
「セツ、何もしてないよぉ!」
クリスマス仕様のGBNで、いつものように集まるわたしたちはきっと暇人なんだろう。
だけどこんな世界が、わたしたちに当たり前を届けてくれるなら。
ナツキが誘ってくれた、このGBNの世界で一人ぼっちではないなら、イベントごとだろうが日常だろうが、そこには嬉しいが詰まっているんだろうなと、ぼんやりと思っていた。
「フェス行こうよフェス! みんな遊んでるよ?!」
「遊園地に行きたがる子供か! でも一緒に行ってあげるよ」
「上からー!」
「ちびっこがちびっこだかんな!」
「うー! 絶対成長するもん!」
「ね、ナツキ」
「ん? 何、ハル」
「ありがとね」
「……どうしたの、急に?」
「ちょっと、嬉しくなっちゃったみたい」
そんな些細で、伝えたくてたまらなかった言葉を1つ。
クリスマスの雑踏に溶けていった声は、ナツキの顔をサンタさんの服みたいに真っ赤にさせるには、そう時間がかからなかった。
いずれくっつくかもしれない2人のイチャイチャ
◇アサカ・アキナ / モミジ
モミジの本名であり、リアルは22歳のOL
新入社員1年目にしてすでにくたびれている風格を出している。
元々はギャルだったが、ある日を境にオタクにジョブチェンジした。
例に漏れずにBFの世界観なので手先はいい方。