ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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実は2章の幕開けです


第2章:わたしたちがGBNを楽しむまで
第13話:抜け落ちたような記憶


「なんだったんだろうね、モミジさんのあれ」

「そうだねぇ」

 

 どことなくぼんやりと、昨日出来事を思いながらお昼休みにコンビニで買ってきたパンにかじりついている。

 提示された問題は昨日のモミジの様子だった。

 セツが自分のことをELダイバーであることを明かした後の彼女の様子は本当に異常なものだった。それこそ怒りと憎しみと、それでも虚無感と無力感を土鍋に詰め合わせて煮込んだような表情。

 これだけ聞いたら複雑そうな味をしているけれど、きっと負に染まった味でとても食べられたものじゃないと思う。

 そうなんだ。わたしは、そしてフォース登録が終わったナツキはそんな顔をした彼女のことが気になって仕方がなかった。

 

「どう見ても何かあったよね」

「わかんない。でもモミジとセツの間にはなさそう」

 

 最初こそ……。いや、いつもやんわりバチバチやってた彼女たちのことだ。当人たちにはなにもない。だけど、モミジ側にはなにかある。それを聞き出しても恐らく解決しない程度には内容は複雑なのだろう。

 人間関係なんて面倒臭さの塊だということに同時に気付かされる。

 関わらなければ一番なのに、人は1人では生きていけない。だから群れる。そして後悔する。

 群れた先からこんなんって、正直予想してなかったけど。

 

「リーダーなんとかして」

「って言われてもなー。リーダーどうこうじゃないでしょ、これ」

「そうだよねぇ」

 

 第一、人の問題を解決しようだなんて図々しい気がするし。

 セツがELダイバーであることを隠していれば、こんなことにはならなかったはずなんだけどなぁ。

 

「言ってても仕方ないし、今日ログインしてみて考えよ」

「だね。セツもいれば文殊の知恵と言うだろうし」

「それを言うなら3人寄ればでしょ。テストで出るよ?」

「出ないよ。次のテスト範囲この辺だし」

「……なんで覚えてるの」

「わたしを勉強できないと思ってたな?」

 

 かじっていたパンごと頭をブンブン横に振る。父親が幼い頃、Wiiとかいうレトロゲーム機を使ってコントローラーを横に振って戦っていたという話を思い出す。

 お父さんはこれで結界を張ってたはずなんだけどな、と言った直後にコンボを決められてCPUに斬られたという話も聞いたので、小手先だけの戦術では何も守れないということを教えてくれたのだろう。

 だから今首を振っているナツキにも教えてあげよう。

 

 ――そろそろ小テストだということを。

 

 ◇

 

「だからごめんって。勝手にナツキをバカみたいに仕立て上げたのは」

「バカじゃないし。ちょっと記憶力がよくないだけだから」

「でもガンダムの重量とかは?」

「覚えてるに決まってるでしょ」

 

 何を当たり前のことを、みたいな顔をしている彼女の顔は、先程そろそろ小テストだよと教えた後のこの世全てに絶望して怪物落ちしたような顔とは真逆の表情だった。

 GBNにログインした後、とりあえずセツとモミジを探そうと、ロビーに来てみたがいいものの、それらしい影は見つからない。一応2人ともログインしているみたいなんだけどな。

 探しものはどこですかー、みたいなことを軽く口走りながら辺りを探していたら、セツが一人ぼっちでベンチに座っているところを見つけた。

 

「セツ!」

「あ、お姉ちゃんたち……! 来てくれたんだ」

「どうしたの? 私は元気なセツちゃんが見たいな!」

「だって、ELダイバーだって言っちゃったから……」

 

 わたしにとってそのELダイバーがどんな存在か、大まかにしか把握してない。

 だからセツの言っていることがよく分かってなかった。ELダイバーだからどうした、とか今は関係ないのではなかろうか。

 疑問に思っていたわたしにセツが察したのか、理由を話してくれた。

 

「セツ、生命体だけど人間とは違う生き物なの。GBNにしか存在できないし、リアルの身体もプラスチックだし」

「ふーん、それで?」

「ハルお姉ちゃんは気にならないの? みんなとは違う生き物がここにいるの」

「ここ自体動物園みたいなもんでしょ」

「どうぶつえん?」

 

 セツは気にしているようだったが、わたしにとっては割と些末な問題だった。

 だって中身は人間だろうけど、見た目が獣人みたいな人とか、動物そのものの人。人間だけど一部しっぽが生えてたりと、コスプレに似た人などたくさんのアバターがある。

 そんな人外魔境の時点で、セツのELダイバーがどうこうというのは気にならない。

 もっとも、わたしの場合はそんなことを突然言われても、へーそうなんだー、と気にならずに流してしまうからだとは思うけど。

 

「私もかなー。でもハルと違って、私は興味あるけど。ELダイバー」

「わたしと違ってって何さ」

「ハル興味なさそうじゃん。へー、そう。みたいなさ」

「実際浮かばなくない? リアルが触手八本のタコみたいだったら話は変わったけど。その辺どうなの、セツ」

「セ、セツしょくしゅ八本もないよ! ちゃんと2本だけ!」

「なら別にいいや。この話はおしまい。モミジを探そ」

 

 モミジも「へー?! ヤバヤバじゃ~ん! あたしELダイバー初めてなんだけど、ちょっと写メ撮っていい? あ、メッセでちゃんと送るから」みたいなオーバーリアクションをして、周囲をアットホームな空気にさせるもんだと思ってた。彼女も人外差別なんてしない人だと思うし。

 だけど、またそれとは違う雰囲気だったのも確かだった。

 なんだったんだろうあれ。今もモミジを探しているけれど、もしかしたら嫌だったりしないだろうか。探してほしくないと思われてたら、嫌だな。

 

「よっ。何してんのさ」

「モミジ?」

 

 眠かった背中をバシッと叩かれて何事かと思えば、赤髪のローポニーテールをしたお姉さん、モミジだった。

 

「モミジさん、探したんだよ!」

「めんごめんご! ちょっと野暮用というか、傭兵をちょこっと」

「まだやってたんだ、それ」

「初狩りはノーセンキューだけどね」

「……モミジお姉ちゃん…………」

 

 いつもと変わらぬ調子で話しかけてくるモミジに、申し訳なさを胸の奥で罪悪感をスパイスにしてかき混ぜた表情を向けるセツ。

 だけど、モミジは普段の様子で、頭をバシバシ叩いてこう言う。

 

「なんだよ、ちびっこ! なんて面してんのさ。草」

 

 まるで昨日のことなんて無かったかのように、実は夢の中の出来事で、ナツキとセツもおんなじ夢を見ていた、みたいにモミジの調子はわたしたちを混乱させるには十分だった。

 わたしたちは、その調子を目の当たりにしてしまったからこそ、もう後には引けないわけで。だからセツもそのノリについていく。

 

「ち、ちびっこ言うなし!」

「ちびっこはちびっこー! ちゃんと身長伸ばしてから言って!」

「むー! まだ成長途中なのー!」

 

 みんながモミジという名の波に流されていく。その先で待つものが分からないまま、ただ身を任せて。

 でも、まぁ。それでいいかもしれない。彼女が気にしないっていうのなら、それで。

 

「ところでさ。私やりたいことがあるんだよね」

「何?」

「フォース戦! バトランダム・ミッションってやつ!」

 

 バトランダム・ミッション。それは月一で開催されるフォースの対抗戦イベントのこと。

 運営側が各フォースのレベルを考量した上で対戦の組み合わせやフィールドを決定するというまさにランダムという名前にふさわしいミッションだろう。

 問題があるとすれば、どんな相手とぶつかるか分からないという点なのだが。

 

「噂によれば格上とぶつかるとかあるらしいよ」

「つーか、あたしら新進気鋭だから格上しかなくね?」

「……それもそっか」

 

 訂正。格上とも当たるランダムミッション、だそうだ。

 時期としては2週間後らしく、もう受付が始まっているとのことだった。

 話もそこそこに、バトランダム・ミッションにエントリーして、当日を待つばかり、なんだけど、それ以外にも色々やりたいことがあるわけで。

 

「あとヴァルガツアーもやりたいなぁ」

「はぁ?!」

「ナツキお姉ちゃん本気?!」

「何そのヴァルガって」

 

 先に説明したので省略するが、要するになんでもやりたい放題の初心者お断りのディメンション。

 わたしたちが最初に引っ掛けられそうになった詐欺ミッションもここでやる予定であり、ダイバーポイントとやる気を奪う想定だったのだろう。それをマギーさんの手腕で防いでもらったわけだから、あの人には本当に頭が上がらない。

 

「それは無理! つーか無理! スナイパーはみんな着地狩りに遭うってもっぱらの評判だし!」

「セツだって、あんな所もう行きたくない!」

「てことは行ったことあるんだ。どんな感じだった?」

「それは……地獄?」

「そんなところにナツキは連れて行こうとしてるんだ」

「いいじゃん! 楽しいよ、きっと」

 

 ナツキの様子がおかしくなった。こんらんかバーサクのデバフを付けられたのかもしれない。自前のデバフをできればこちらに振りまかないでいただきたけれど。

 

「まぁ、私も鬼じゃないし、もう1つ、ヴァルガ関連で良さそうな案があるんだよね」

「良さそうなって、嫌な予感しかしないんだけど」

「ハル。G-Tubeのチャンネル作らない?」

「は?」

 

 いつもよりもどこか頭のおかしいナツキが提案したのは、G-Tubeのチャンネルを作ることだった。

 

「ヴァルガを旅しようよ!」

「何言ってるの?」

 

 ◇

 

「まずVPS装甲に、エイハブ・リアクターも搭載してナノラミネートアーマーも……ふふふ……」

「……ハルちゃん、ナツキちゃんは、何をしているのかな?」

「モビルワーカーを魔改造中らしいです」

 

 こんな番組を知っているだろうか。

 ハンディカメラを1つ持ってディレクターとカメラマン。そして役者2人の4人で各地を旅するグダグダ珍道中を。水◯どうでしょうという番組を。

 

 最近G-Tubeでそれらしい番組を一気観したナツキはフォースを結成したらまず2つ目にやりたいこととして、このどうでしょう風の旅動画を作ることを決意した。

 もちろんやるからには本気で楽しまなければ損、ということで行く先はハードコアディメンションヴァルガで本来やる予定だった花を摘む、というミッション。

 まさか回避したと思われたあのミッションをもう一度やる日が来るとは、到底思ってもみなかった。

 今はその企画用に鉄血のオルフェンズで使用したモビルワーカーに手を加えている。案の定というか、ものすごく楽しそうなのが本当に厄介極まりなかった。

 

「でもおじさん、ナツキちゃんがあんなに楽しそうなのを見て嬉しいね」

「巻き込まれるわたしたちの身にもなってほしいけどね」

「ははは。ま、それだけ仲良くなったと思ってくれ」

「まぁ、そうしておきます」

 

 みんなで旅動画を撮りたいって言い始めたのは驚きだけど、それ以上に、わたしたちに対してそんな苦行を一緒にしてもいいという間柄になったと思えば嬉しい。

 まだまだ問題があるとは言えども、楽しく旅がしたいのなら、口を酸っぱくしていうことでもないだろう。

 

「もちろん4席にして。あ、クッションもほしいよね。あとは……」

「本当に大丈夫かな」

 

 次回はヴァルガ探検記になりそうだ。うわー、行きたくない




1人が変われば世界が変わる。例えばそんなタイプの誤魔化し方


鉄華団モビルワーカー(違法改造)の詳細は次回にでも
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