ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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俺色に染め上げろ


第16話:わたし色のようなガンプラ

 わたしはチームの中で取り分け足を引っ張っているように感じる。

 そう思うのは単にフォースメンバーたちの立ち位置が固定されているからだろう。

 

 1つ。それはナツキのガンダムアストレイ ブルースカイのような、鳥のように8枚の翼を広げて、ガーベラストレートともに空を断ち切る姿は、まさしく特攻隊長と言っても差し支えない。

 

 2つ。それはセツのガンダムダブルディバイダーのような、ハモニカ砲を2枚備えたバカみたいな着想と同じようなアホみたいな火力は、戦場を混乱させるのに申し分ない威力だ。故に成長すれば戦術兵器と同じ扱いにもできる、まさしく固定砲台。

 

 3つ。それはモミジのハイザック・バトルスキャンのような、広域のフィールド探知能力と的確な射撃。戦うこととは知ることのような戦術予報士めいた戦い方は、参謀兼スナイパーとして申し分ない。

 

 だからこの3人がいる中で、自分がどの色に染まっているか全くわからない。

 仮にスナイパーだとしても、パーティにスナイパーは2人もいらない。

 仮に遊撃隊だとしても、格闘戦には知識と武器が足りない。

 仮に制圧手だとしても、火力が今ひとつ。

 

 わたしにできること。わたし色のガンプラは、わたし色の戦い方はいったいどんなのか、全くわからない。

 ベッドに横になった目線の先にはいつもの家族写真と、白と桜色のガンプラ。

 

「……わたし、どうしちゃったんだろうね」

 

 それは家族に問いかけるように。あるいは自分のガンプラに問いかけるようにそう口にする。声に出しても、すぐに空虚に消えて、そのままそれっきり。誰の耳にも届くことなく、誰の心にも響くことはなく。

 ただ、わたしは変わらないと思っていた。流されるだけの人生だと思ってた。

 相手には都合のいい人と思われ、いい人というレッテルを貼られて、ただ風に流され、水に流され、わたしの行路以前に、地に足がついてない生き方。

 これで本当にいいか、なんて自分で問いかけても、そんなわけないの一言で片付けられてしまう。だけどやめられない。ナカノ・ハルには、足を止める勇気がない。

 悪い癖だって分かってる。分かってるけれど、やめれなくてもどかしい。

 思い返してみれば、GBNを初めてからずっとこんなだ。流されたり、地に足をつけようとしたり、それの繰り返し。わたしは、何がしたいんだろう……。

 

「わたしは、どうしたいんだろう」

 

 ねぇ、ガンダムファインダー。どうすればいいのかな。

 ガンプラは答えてくれない。プラスチックに声なんてあるわけない。そう一瞥して、布団の中に丸まった。

 

 ◇

 

「どう、進捗?」

「ダメです」

「だよねー」

 

 お昼休み。4時間前後の睡眠を貪ったあとのコンビニパンは、実にもそもそしている。それもそのはず、口の中から水分が抜けてパッサパサだからだ。

 ナツキは最近お昼休みはわたしといることが多い。そんなんでいいのかクラスの人気者、と口に出してみたら、彼女の返事はこうだった。

 

「私中心のグループじゃなかったから、1人抜けたってダイジョーブ!」

 

 それは少しクラスカーストの闇が垣間見えた瞬間だった。

 まぁ、わたしはその中でも最低クラスのカーストだから、そういう上のいざこざとかは興味ないけれど、ナツキはそれでいいのかな。わたしといたら印象悪そうだけど。

 

「ホントに? わたしと一緒にいたら、なんかこう、気まずくなったり……」

「ハルがそういう事気にするなんて、明日は雪かな?」

「わたし、これでも本気で心配してるんだけど」

「あはは! とにかく大丈夫! 私はこれでもフリーに立ち回れるようにしてるし」

 

 まぁ、ナツキがいいならいいんだけど。まるでわたしをなだめるみたいに口にしている言い訳にも聞こえなくはないが。

 彼女は「そんなことより」と話の腰を折ると、ガンダムファインダーの設計案について思案を始めた。

 

「私的にはやっぱ接近戦重視で、たまに遠距離できるー、みたいな戦い方がいいんだけど」

「……まぁ、そうだよねぇ」

 

 興味がないわけではないけれど、今はちょっとガンプラの改造案を考える気分にはなれなかった。

 流される生き方と、自分で見つけた趣味。相反する2つの概念は、わたしを内側からじわじわと削っていく。

 今のわたしは矛盾している。流された方が楽だって思う心と、自分で見つけたわたしの好きを歩いていきたいという思い。

 きっとナツキに相談したら、当然趣味に生きよう! とわたしに勧めて、それを良しとして流されることだろう。今は、そうじゃなくて自分の意志で決めたかった。

 

「反応薄いね」

「ちょっとね」

 

 沈黙は気まずい。それも自分が原因だと思えば尚更気まずい。

 悩み事を切り出せれば、未来は変わるだろう。でもそうしたら流されるわたしが、相手の意見のとおりにしようって言ってくるに違いない。

 結局、わたしは変わらない。ずっとこのまんまで、どこにも行けずに、流されるまま、気の向くまま。

 

「……ハルは、どうしたい?」

「え?」

 

 わたしの心を読まれたような感覚がして、背筋にゾクリと悪寒という稲妻が駆け巡る。

 でも彼女の質問の意味は今の悩みを射抜いたような、そんなものではなかった。

 

「改造案! やっぱライフルをオミットして、ビームアックスにするとか。あーでも、せっかく練習した射撃がなぁ。んー」

「……あ、そういう」

 

 「どういうこと?」と聞かれたからなんでもないと、その場を水に流した。

 心を見抜かれたのじゃなくて安心した。少し安堵しながらも、妙にその言葉が頭の中をぐるぐると煮詰めた鍋みたいにグツグツ煮えたぎっていた。

 

 ◇

 

「はぁ……」

 

 格納庫スペースでガンダムファインダーを眺めながら、ただひたすらため息を空虚に消していく。

 ねぇ。結局わたしはどうすればいいんだろうね。いくらガンプラを見つめたって、答えは出てこない。うかつに他の人に相談しようものなら、その結論に流される。わたしは、とことん悩み事に向いていない。流される人生と自分の足で踏み慣らす人生。きっと後者の方が価値ある人生を送れるだろう。

 でも、わたしにそんな勇気がありますか? と聞かれたら。

 

「ないなー」

 

 ぐるぐる思考が行ったり来たりの平行線。

 混沌を混ぜても、生まれるものは黒色だけで、色を何も抽出することはできない。

 今、錬金術で鍋を混ぜたら鍋の中が沸騰しすぎて爆破してしまう。

 そんな悩みの通行止めで突っかかってるわたしに声をかけてくれたのは、他でもない彼女だった。

 

「元気ないね」

「……セツか」

「そんなんじゃガンプラも悲しんじゃうよ?」

「……ガンプラが?」

 

 セツがそんな世迷い言みたいなことを口にするとは思わなかった。

 いや見た目子供だし、ELダイバーとやらだとしても、現在年齢は0歳。要するに子供だから何を言っても子供特有の変なこととして片付けられてしまう。

 だけどなんとなく気になったから、わたしは不思議と聞き返していた。

 

「ELダイバーって、大小はあるけど、みんなガンプラの声を聞くことができるんだ」

「…………」

「あー! 嘘だって顔してるー!」

 

 わたしは流されやすい人生を送っているとは言えども、そこまで怪しい話には流されないようにしている。精霊か何かかとツッコミを入れざるを得なかった。

 

「でもそうっぽいかも!」

「精霊ってこと?」

「そーそー。ビルダーが生んだガンプラへの愛から生まれたなら、ガンプラさんの精霊かもね」

「宇宙で破滅の光を浴びてヤンデレになったりする?」

「なにそれー!」

 

 物の例えでカードゲームアニメの設定を持ち出してみたけれど、彼女は特にその知識を持ち合わせていないようだった。

 話がそれたので戻そう。その、ガンプラさんの精霊がいったいどんな声を聞かさせてくれるのだろうか。

 ハッチに格納されているガンダムファインダーを見上げて、わたしは彼の声を聞きたいけれど、聞きたくないような。そんな相反する感情論の中で揺れている。

 

「聞きたい?」

「……正直怖いかも。わたしの事嫌ってそうだし」

「なんでそー思うの?」

「それは……」

 

 なんとなく。わたしは好かれるような人間じゃない。相手が人であれ、ガンプラであれ。

 ナツキに言わせれば、そんな事ないと叫ぶだろうけど、わたしの自分への評価はその程度だった。

 こんな優柔不断で、何事も流されやすい人間が好かれるわけがない。

 だけど、彼の返事はそれとは違っていた。

 

「自信を持って、だってさ」

「……え?」

「ガンダムファインダーがそう言ってるの。ハルお姉ちゃんが思っていることは何も間違ってない。だから自信を持って。って」

「わたしの、思ってること……」

 

 それでいいのか。そんな、単純でいいのか。不安と希望が折り重なっている。わたしの考えが、少しだけ変わろうとしている。

 流されているだけなのかもしれない。言われたからそのとおりにしようとしているのかもしれない。

 

 ――だけど。

 

「お姉ちゃん。ガンプラはずっと見て、感じてるの。嬉しんだり、悲しんだり。ガンプラはビルダーの生き写し。魂の鏡」

「……わたしが、迷ってるように見えるの?」

「じゃないの? 今も格闘戦か射撃戦で迷ってるっぽいし」

 

 白い衣装と栗色の髪の毛を揺らして、わたしに振り返る姿は、確かに妖精や精霊の類なのかもしれない。可愛らしくて、ふわりと舞う髪の毛から効果音が流されそうな勢いだった。

 わたしの思う形でいいの? 本当に、それで戦ってくれてもいいの?

 ガンダムファインダーはわたしには答えてくれない。でも言ってくれた。自信を持って、と。

 いいんだよね、ガンダムファインダー?

 

「わたし、やることできたから」

「うん、頑張って!」

 

 夏場の太陽みたいにギラギラと嫌っていた笑顔は、今日ばかりはセツという名前のように、雪の合間に見える優しい光を放った太陽だった。

 わたしはお礼をしてから、その場からログアウトして、リアルワールドへと帰還する。

 目的はもう決まっていた。

 

 ◇

 

 脳内の改造案はちゃんと形作っていた。

 それが、ガンダムファインダーの声であり、勇気づけるための励ましのエールだったから。

 わたしにはガンプラの知識がない。でも最初の工程は誰にだってできる。それは設計図作りだ。

 家に帰ったわたしは、小学生の頃以来使ってなかった自由帳と定規、シャーペンを取り出す。

 昔はよく落書きしていたけれど、いつの間にか使わなくなった自由帳はいろんなキャラが描かれていて、それは華やかだった。だけど今は、兵器の開発に尽力していただこう。

 

 久々に授業中起きて、次のガンプラ強化案を書き重ねていく。

 周りからは珍しがられたけど、そんなことを気にしている暇はない。

 こうして久々にやる気を出したわたしは、お昼休みにやってきたナツキに設計図を見せた。

 

「どうかな?」

「うん……。うん、いいじゃん! というか、私の話ちゃんと聞いてたんだ」

「わたしを何だと思ってるの。聞いてる時は聞いてるよ」

「聞いてるときだけー?」

「聞いてるときだけ」

 

 ふにゃりと笑ってみせたわたしの顔には悩みという物は今はない。

 それが嬉しいことなのか、脳天気なことかはさておき、わたしにとって間違いなく革命が起きたことは、言うまでもないだろう。

 2人で再考しながらも、主に武装の改良案を重ねていくのだった。

 

「そういえば、名前どうするの?」

「あー、ここまで変えちゃったら流石に名前変えた方がいいよね」

「何にする? ガンダムキャメラとか?」

「ふふ。それは決めてるんだ」

 

 その名はきっと自分を勇気づけるために付けるのだと思う。

 流されるだけのわたしが、ちゃんと足場を固めて前を見据えるための最初の一歩。

 

「ガンダムファインダー・ブレイブ。わたしの、新たな機体」

 

 ブレイブ。勇気という名前を胸に刻み込んで、わたしは先に進む。

 それが、わたしに変革をもたらすと信じて。




勇気を胸に秘め、今飛び立て、ガンプラ!
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