GPD。ガンプラ・デュエルと呼ばれるガンプラ生身を用いる遊びがその昔流行してたらしい。
らしい、というのも大体2,3年前にすでに終わった代物で、時代の流れとともにGBNへと移行していったのだろう。
GBNとGPDの最大の違いはやはりガンプラが実際に破損することにあると思われる。
わたしだったらせっかく作ったガンプラを壊すなんて、もったいないと思うけれど、GPDプレイヤーはそうではなかった。
自分の作ったガンプラが、一番強いと名乗りを上げるために。ただそれだけの強い信念のために戦って、修理してを繰り返していた。
どうしてそんな話を始めたのか。話は少し遡ることになる。
「これ、どうやって作ればいいの?」
「……本気で言ってる?」
「マジだけど」
それはガンダムファインダー・ブレイブの兵装を決めているときだった。
スナイパーライフルを改造したビームアックスや、腰にマウントするロングビームサーベルなど、ファインダーの武装をそのままに、より接近戦特化にするため改造案を出しては消してを繰り返していた。問題はシールドビットの機構をどうするか、だった。
「悪いけど、私にはこれは……いやできなくもないかな。うーん」
悩んでいたのはパーティ全体のサポートをするためのユニット。
シールドビットを進化させたチャージビットなるものを考案しようとしていた。
「そんなに難しいの? 攻撃のエネルギーを強化するみたいなこと」
「できなくはないし、実際そういうパワーゲートを使っているダイバーは、いるにはいるんだけど……」
「だけど?」
「超難しい」
例えるなら「リビルドガールズ」のエリィのようなフィン・ファンネルの応用として作ることは可能だろう。
ただエネルギーを別の兵器に転換するというギミックが果たして可能か。多分可能ではあるだろうけど、その方法が分からない。
GBNはある程度のフレーバーテキストは再現してくれる。
例えばビームライフルからビームが出ます。これだけのテキストでもGBNは「そういうもの」と認識して、ゲーム内でビームが出る兵器として使うことができる。
だけどあまりに複雑なものは再現が不安定なことがある。機能を追加すれば追加するほど、認識との誤差が広がり、結果思っていたものとは別の兵器になっているなど、ビルダーだったら、大体の人が経験している。
その認識の誤差に、わたしたちは引っかかったらしい。
「なんか参考があればなぁ。GBNに限らず、GPDとか……」
「GPD?」
「あ……。なんでもないから忘れて」
「あー、うん」
今、明らかに誤魔化したけれど、優しいわたしはスルーしてあげることにした。流され体質に感謝するんだな。はは。
「うーん、でも……」
「あれ、わたしスルーしたよね?」
「……ハル。何も言わずにこのワードで調べてみて」
それは名も知らぬビルダー2人の名前だった。G-Tubeに簡易ログインして検索してみた所、驚くほどそのビルダーの対戦動画や制作動画。果ては世界大会の動画まで引っかかった。どれもGBNではなく、GPDであることを除けば。
「この2人組が使うガンプラだったら、恐らく再現はできる。ディスチャージシステムっていうエネルギーを外側に解放させて、パワーゲートを生成するギミックを応用すればできる、はず」
「やけにふわっとしてるね」
「だってー! この人達のガンプラは基本的に機密っぽくてどこにも公開されてないんだもん!」
まぁ、切り札システムっぽいから、仕方ないけれど、こんなのもあるんだ。へー……。
ナツキがああでもないこうでもないと口にする中、動画をチラチラと見ながら、その2人組の戦いっぷりを観察していた。
GPDはガンプラとの愛と信頼関係が物を言う遊びだ。いくら腕をもぎ取られても、いくら足を取られても、いくら胴体が斬り裂かれても、また作ってあげる。また戦わせてあげる、という愛が試されている。
この時の試合は例え武装が破壊されても、RGシステムなるエネルギーを内面に解放させる一種のトランザムのような機構を使って拳1つで相手を地に伏せた。
それでもバックファイアは凄まじいもので、各種パーツが破損していたり、傷がついてしまったりと、散々だった。
「すごいなぁ」
それがどうした、と。また直せばいいと。彼は言った。動画の中の男の子は言った。
すごい胆力と精神力。そして信頼と愛。そこまで熱中できるなんて、ホント羨ましいな。
「すごいでしょ?」
「うん」
「ハルが聞いてないなって思って、私も動画見てたんだけど、この試合はやっぱ好きだな」
「なんでGPD知ってたの?」
「え?」
それはどこからともなく出てくる当然の疑問だったと思う。
廃れたとは言っても、数年前からGBNが本格稼働して以来、GPDは下火だったと言わざるを得ない。
当時のビルダーでなければ、きっと時代の彼方に追いやられていたことだろう。でもナツキはそれを知っていた。それは、何故だろうか。
「あー、えっと……」
「何か言えない理由でもあるの?」
「そういうわけじゃないんだけど……。もうちょっと待ってほしいかな」
過去は人を映す。ならば、今のナツキの顔はどうだろうか。
困り眉の笑顔でなんとか誤魔化そうとしているけれど、端々からは滲み出す悲しみのような黒いものが見え隠れして。
ナツキのそんな顔、初めて知ってしまった。いや、多分知っていたと思う。
どこか自分を押し殺しながら、周りと合わせてクラスのグループに混ざっている時の苦しそうな表情。
「ごめん」
「いいよいいよ。私はハルの力になれればいいから!」
逆に言ってしまえば、私のことなんかどうでもいいから。そう聞こえた気がした。
わたしはナツキの過去なんて知らないし、興味ないけれど、当の本人はどうか分からない。本人にしか分からない傷が心のどこかにあって、ふいに痛みだす。そんな呪いのような病。
わたしには癒やすことも、触れる勇気もない。ブレイブ、なんて名前付けたのにね。それでも、呪いを誤魔化すことができるなら、わたしはナツキのために喜んで協力する。だって友達だと思ってるから。
「これって、四方からパワーゲートを作ってるんだよね」
「ぽいね。通過したものをパワーアップする、みたいな」
例えばダブルオークアンタのようにソードビットを展開して、パワーゲートを作るような。あれも平面だったけど、ならビームを一点集中するっていうのはどうなんだろう。
「ねぇ。ビームにビーム照射を当てたらどうなるの?」
「んー、パワーアップして大きくなったり、鋭くなったり、とか?」
「……それじゃん」
「え?」
「それだよ! ビームの照射! GN粒子をチャージビームとして発射。ビームがぶつかったら巨大化!」
「……ハル、天才?」
先程まで出ていた結論にようやくたどり着いた。そうだ。なにもビームでパワーゲートを作る必要はない。直接パワーをビームにぶつければいいんだ。
そうと決まれば、改造のアイディアを書き出して、わたしたちはガンプラベースへと移動を始めた。
◇
「それで一徹って、マジ若者つえーわー」
あなたも広い定義では若者の類なんじゃないだろうか。
などと、いつもよりも数倍眠い頭をフル回転させて、心の中でツッコミを入れておいた。
ガンプラ作成とは得てして集中し熱中するものである。設計図を作り上げたら、実際に形にしてみたくなるのが人間の性。ちょっとやったら寝ようと思っていたら、思いの外進捗が進んで、気付いてみれば夜中の3時。翌日はちゃんと学校。そして今寝たら間違いなく学校へ行く時間に間に合わない。
そんなことを考えてしまっては最後。コンビニに走って人生で初めてのエナジードリンクというものに手を出した。
あれはダメだ。魔剤だ。人の心を壊す恐ろしいブーストアイテム。
トランザムと同様に機能限界を迎えれば自ずと性能が低下する。
そしてカフェインの効果は人によって様々だが、おおよそ9時間だとされている。夜中の3時に飲んだ限定パワーアップアイテムは正午には消えていて、ご飯も食べずにぐーすや眠っていた。そして今も、眠い。
「ふへっへへ。それより今日はフォース戦でしょー? バリバリにボッコボコにしようよ」
「私の知ってるハルはそんな事言わない」
「じゃあどんな事言うのさー」
「おっ、ナツキチのハル愛が試されるじゃーん」
「は、はぁ?! 私のハル愛って何?!」
「ナツキお姉ちゃん、ハルお姉ちゃんのこと好きなの?」
「好きとか、そういうじゃないし」
「じゃあ嫌いなんだー」
「め、面倒くさい。このハル面倒くさい!」
精神と身体が離別している感覚。いや、それじゃあ幽体離脱してるみたいでちょっと嫌だ。
文字通り頭が完全に回っていない状況で、ナツキを弄り倒そうと思っていたのだけど、どうやら考えていることと実際に口にしていることに差が存在している。
そもそもわたしはナツキのわたしへのイメージを確認したかったんだけど、このギャルとちびっこELダイバーはそんな事お構いなしに好きとか嫌いとか。わたしはそういうことを明確にしたいわけじゃないのに。
……ごめん、ちょっと気になる。
だから今日は普段隠している本能に従ってみることにした。こんな機会でもなければ「え、ハルちょっと重い……無理、絶交しよ」とか言われかねない。
友達が少ないながらも、拒絶されるという感覚は文字通り身を焦がす感覚に違いない。だからダメージを最小限に。そして今、口がノリに乗った、今しかないのだ。
普段は使わない上目遣いが眠気と一緒に混ざって、ジト目っぽく見えていることだろうが、そんな事気にしない。慣れてないからそういうこと。
とにかく、ジトッと見つめてみることにした。
「いや……。ホント今日大丈夫?! わたしが前線請け負うから後方で……」
「今そんな事聞いてない」
「うっ。め、珍しく今日は押しが強いねー」
「聞いてみたいし。その、わたしへの印象」
綺麗な顔がうろたえている姿に少しだけ劣情を持ちつつも、心の中の本音をぶつける。
気にならない、と言ったら嘘だ。だって、出会いが残り物を引いただけで、彼女がわたしに要求するのは一緒に空を飛ぶことだけ。たったそれだけしかない繋がりが、いつしかわたしの中で不安という形で膨らんでいった。
彼女は言った。お詫びにGBNで一緒に飛んでほしいと。
始めはわたしを繋ぎ止めるために。だけど、だんだんわたしの中で彼女と、ナツキと繋がっていたいと思ってしまった。
――友達だって、思ってしまった。
彼女に惹かれていったんだ。卑怯な女だ。一緒に入れば自然とGBNにものめり込んでくれるだなんて思ってる。
不安と期待。夢を持つ彼女へ抱いている劣等感と、彼女の夢を叶えるのはわたししかいないという優越感。
負と正が心臓に張り巡らされる血管みたいに複雑に絡み合って、離れようとしない。
わたしは。
わたしはナツキに期待している。友達であることを。一緒でいることを。
「私は……」
その言葉が怖い。もしも拒絶だった時、どうしたらいいか分からなくて。
その言葉が怖い。もしも肯定だった時に、どうしたらいいか分からなくて。
平気なふりをして、ずっと服の裾を握り込んで、わたしは問いかけに対する答えを待つ。
「…………好き、だよ」
「っ! ……そう」
なんて塩らしいしょっぱい反応なんだろうわたし。
彼女がこんなにも勇気を出して、耳の先端まで顔を真っ赤にした答えをそんなそっけなく返答しちゃって。ナツキに失礼だとは思わないの? それがわたしだって、いつまで肯定し続けるの?
じゃあわたしは、ナツキに対してどう思ってるか。そう口にするのが礼儀というものじゃないの?
……そんなの、決まってる。
徹夜テンションの自分に背中を押されながら、わたしは彼女への想いを告げた。
「わたしも好き」
「そ、そっか」
「友達としてね。そう、あくまで友達として」
早口に、捲し立てるように慌てて友達という都合のいい言葉を連呼する。
あ、でもナツキを友達って呼んだの、初めてかも。
「友達。……そっか。友達か」
「……何さ」
「私たちはちゃんと友達やってるんだなーって」
困り眉でにへらと氷が溶けたみたいな笑顔は、実に甘酸っぱい。
わたしもそれに向き合う形で、にへらっと笑ってみせた。
「ちびっこ。あたしら入るスキなくない?」
「ちびっこ言うなし! でも、あそこまでイチャイチャされたらねー」
初めて点と点が線で結びあったような時。他の2人は気まずい空気を漂わせていた。「あたしら、ここにいていいの?」「わかんない」。そう考えを抱いているのは他のロビーに居るダイバーもそうで、そして対戦相手のフォースも実はいて……。
「ロイジーさん、ご挨拶に行っていいんでしょうか?」
「まぁ、今の空気じゃ無理だろうな」
フォース「黄昏への探求者」のリーダー及び次席であるロイジーとエメラは、わたしたちの様子をずーーーーーっと気まずい顔で見てたとか、いないとか。
初友達宣言は心惹かれる百合
対戦相手のフォースは次話で詳細を書きます