「別に飛ぶだけなら乗せてもらうのじゃダメなの?」
「ダメです」
アバター作成もそこそこに、ログアウトしたわたしとナツキは、ショップに並んでいるガンプラの山という山を1つ1つ探していた。
――彼女のお好みは、2人でガンプラに乗って飛ぶことらしい。
何故わたしに白羽の矢が立ったのか。
何故ナツキのガンプラに乗せてくれないのか。
何故ガンプラを探さなくちゃいけないのか。
疑問は尽きないけれど、今日はガンプラを選んで買わなければ、帰すことは出来ないとのことだった。
風に流されるまま、波に流されるまま。わたしは今、やや興奮気味のナツキにあれやこれやとガンプラを見せられては、あれじゃないこれじゃないと勝手に流されている。流浪の人生ここにあり、みたいな状況だ。
「00はーーーなんか違う。ウィングも違うし、Xも……うーん」
「あー、わたしの事はいいから、自分の買い物したら?」
「いや結構。私は自前のガンプラあるし」
断られてしまった。やんわりと「付き合わないよ?」と突き返してはいるんだけど、どうやらその意図は相手に伝わっていないようだ。がっかり。
とは言え、ずーーーーーっとショップを行ったり来たり、縦横無尽に駆け巡る姿は慣れと言うか、ここの常連客というステータスをバリバリ限界にまで生かしているように見える。
これを外側から見ている分には楽しいのにな。
「お気に召さないかい?」
「……いえ、元々興味なかったので」
お気に召す召さないの問題じゃない。元々興味がなかったのだから、どれを選べばいいか、そもそも選ぶ必要がない。とすら考えてしまう。
だからこの時間はわたしが適当に返事を返して、夕飯時である19時ぐらいになったら、そろそろお腹空いたし帰ろうよ。と言ってナツキとは別れ、今後一切の縁を分かつつもりだった。
正直、やっと見つけたであろう彼女のGBN仲間を見捨てるのは少し心が痛むけど。
「興味がない、か。はは、それは店員として痛いところを付いてくるな」
「あ、ごめんなさい」
「いいよいいよ。俺はみんなの母親役だからな!」
だからなんで母親なんだ。
「いわばハルちゃんはよその子だからね。興味のない人間においそれとオススメ出来ないんだよね」
「まぁ、マシナさんの娘になった覚えはないですからね」
「面白いことを言うねぇ、キミは」
別に意図して言ったわけではないのだけど。
それはそれとして、面白いと言われたならちょっと嬉しくなってしまうわたしはどこかおかしいのだろうか。
どうでもいい考え事を繰り返して、時間を潰していたら、今度のナツキ宅急便は箱を5個ぐらい持ってきてやってきた。
「表のフォースインパルスとか、ガンダムグシオンリベイクもいいよね! あとはスナイパー仕様のデュナメスとか、このライジングガンダムもいいし、あとあと!」
「反応はよくなさそうだよ」
「うー! また取ってくるー!」
「ちゃんと戻してよー」
わたしの表情を読まずに、マシナさんが意見を代弁してくれて、ナツキを追い出したようだ。頼もしいボディガードだとは思うけど、その分どこか企んでいそうで、少し怖い。
マシナさんの顔を見ていたら、それに気付いたらしく、ニタリとやや気持ち悪さ残るおじさんのニヤケ面でわたしを見てきた。今度はドン引き。怖いと思ったことは間違いないようだ。
「そういうつもりじゃないよ」
「じゃあどんなつもりなんですか」
マシナさんはレジの机に肘をついて、思い出にタイムスリップするように目を細める。
母親とは言わない。どちらかと言うと父親が我が子を思うような、そんなイメージを持つ。
「ナツキちゃんはね、昔からガンプラが好きでよくうちに遊びに来てたんだよ」
「今もそうじゃないんですか?」
「今もなんだけどね。ちょっとあって、友達や仲間と別れて一人ぼっちになっちゃったんだよ」
それは……。申し訳ないけど、わたしには分からない感覚だ。
友達や仲間なんていたことがない。いるのは顔見知りと、少し話ができるような相手で、常時一人ぼっち発症中の人間だ。夢を打ち明けるような人もなく、かと言って打ち明けたいかと言われたら、そうでもない。だから一人ぼっち。
「ハルちゃんがいてくれて、おじさんは嬉しいよ」
「何もしてませんよ、わたしは」
「でもナツキちゃんが笑顔になってる。楽しいってことだよ、昔と違ってね」
ナツキが、わたしといて楽しい、ねぇ。
あの人懐っこそうに見える彼女のことだから笑顔でいるのは普通の事だと思うんだけどな。
星と太陽と月。どれもが光を放つ存在で、太陽は特に周りを照らしてくれる。対象は否応なくフィールド全体のMAP兵器だ。
ナツキは太陽だと思うし、わたしがあまり知らないだけで結構人気があると評判だ。それこそクラスを飛び越えて学年全体にはその名前が知られている人気者。
そんな子が本気で笑顔でいる事があるとすれば、いったいどんなことだろう。いや、分かるか。目の前で同じようなこと繰り返されていたら。
誰でも、目の前の子でも好きなものの前では笑顔になる。彼女にとってのガンプラがそれであり、勧める姿はオタクのそれだ。
彼女を足蹴にするわたしは、ちょっとどころじゃなく、嫌な人間なのだろう。
流されるなら、今まで流れてきた河川と、枝分かれした彼女の笑顔、どっちがいいんだろう。
「マシナさん、わたしをどうしたいんですか?」
「それは自分で考えてくれると嬉しいな」
「意地悪ですね、みんなの母親」
「はは! 思考は財産だよ、娘」
別に、娘になったつもりはないんですが。反論の異を唱えようとした瞬間、ナツキが割り込んできた。
「なになに、不倫?」
「ちょっとした世間話だよ。それより決まったかい?」
「まだ! さぁさ、どれがいいかな? 今回はスナイパーセット! デュナメスケルディムサバーニャ。狙撃と言えばザクスナイパーやジムスナイパーもいいね! なんだったらハイザック・カスタムも」
「カメラ付きってある?」
気付けば一言つぶやいていた。アニメや漫画は見る方だと思ってるからスナイパーと聞いてピンとくるものが多い。
でもわたしが欲しかったのはライフルでもスコープでも、はたまた狙い撃つ弾丸でもなく、カメラだ。
「カメラって、カメラアイ?」
「違う。カシャってするタイプの」
「デジカメとかそういうの?」
「そうそう」
とりあえず、とガンプラの山々をレジの机にドサッと置いて、彼女は腕を組み考える。そんなに難しい問題なのか。戦場カメラマンとかいるイメージだったからびっくりだ。
「いない系?」
「いないわけじゃないけど、プラモ化してなかった気がするしなぁ……」
「アウトフレームのことだろう? あれはしてないねぇ」
頭を抱えて悩んでいる様子を見るに、どうやらとんでもなく難しい代物らしい。
プラモ化しているのであれば、単純に素組でも何でも組めばGBNに機体として登録される以上、ないものはプラ板やパテを使って一から組み立てるしかない。
そしてそれは恐らく想像通りか、それ以上の困難さを有していることだろう。
作れれば誇っていい。作れなくても仕方ないと言ってしまえばいい。そんなとんでもない代物のような気がする。
「……無理しなくてもいいんだよ、わたしみたいなのが言ってるようなヘンテコな代物だし」
「いや作る! 頑張る!」
「えー」
どうしてそこに帰結してしまうのだろうか。
今日出会ったばかりの人間なのに、どうしてそこまで期待しているんだ。わたしには、それが理解できない。
疑問を口にするのは簡単だろう。どうして、と。一言つぶやいてしまえば、きっと理由はハッキリする。わたしのモヤモヤは少しだけ解消される。
でもそれは彼女の心の内側にある、何かに触れる行為かもしれない。本当に触れてもいいのだろうか。対人関係がないことがこれほどまでに苦を描くとは思うまい。
「あとカメラと言ったら、デュナメスとかモノアイもいいよね。ザク系とかもー……」
「もう、これでいいや」
これはわたしの根負けだった。
彼女の熱に浮かされたと言ってもいいかもしれない。それか一刻も早くこの気持ちと状況から抜け出したいという焦燥感も込めて。
とりあえず、で選択したガンプラは全身真緑で、ところどころに小さい盾のような物体が付いている――多分アンテナが2本付いてるからガンダムだと思う、ものだった。
「ケルディムガンダム! これも確かに頭のところにカメラ付いてるしいいかもね」
「どこ?」
「この赤いとこね」
パッケージの場所を額の赤いパーツを指差すが、ごめん分からない。赤い鉄の塊がくっついてるようにしか見えない。
「まぁそうだよねー。じゃあこれ!」
「あいよ!」
え、奢ってくれるの。わたしが払うんだと財布の開いたのに、この開いた小銭入れはどうすればいいのだろう。引っ込もうにも引っ込められない。
そう考えている内に、ガンプラを購入。わたしの手元に渡される。
「これね。作り方分かる?」
「あー、うん?」
「なんで疑問形。ってそっか、ガンプラ知らなかったもんね」
「まぁ」
「じゃあマシナさん、預かってもらっても?」
「はいよー。2人で組むんだね」
「え、あー。はい?」
流れ流れて行き着いた先は知らない土地。ここはどこで、わたしはハル。それでも分かるのは名前ぐらいで、このまま流された先で何をされてしまうのか。
分からないし、明日もこの場所に来てしまうらしいし、流されっぱなしなら、どこかでブレーキを止めたいんだけど、どうすればいいんだか。
せめてわたしの手でと、ニッパーを買ってこの日は解散になったんだけど、なんというか、怒涛の半日だったように思える。
あんな熱に浮かされた人をわたしは初めて見た。初めてだから戸惑うことが多かったのかな。
初めての交流。初めてのガンプラ。初めてのGBN。初めてまみれの本日はなんいう記念日にしたらいいんだろう。いや、そんな必要はないか。あの様子だったら明日もきっと誘ってくるし、当然流されるままにまた店内にいることだろう。
家について、対人コミュニケーションでどっぷりと疲れた身体をベッドの上に寝かす。今日は疲れた。本当に疲れた。
机の上に置かれた写真立てを見て、少しほころぶ。
それは1枚の空を写した写真。誰もいない真っ青な空に白色のペンキを塗ったような白い雲と、家族。
「……楽しそうだったな」
夢を語るのがそんなに楽しいのだろうか。
空を飛びたかったと謳う少女の姿はとても美しく感じた。尊さを感じた。わたしにない、輝きを感じた。
人に誇れる夢。物心ついた時から、わたしはこの疑問に迷いを抱いていた。
夢はある。写真立てに飾ったような写真が撮ってみたい、と。
けれどわたしなんかにそんな事ができるはずないと、内なるわたしが囁いてくる。
誰かに言えるほど、立派で形作られた理想なんかじゃない。
わたしは、好きを好きと言える彼女が羨ましくも、少しだけ感じてしまう。
妬ましい。わたしにだって夢はあるのに。
そんな感情はすぐさま捨ててしまおう。眠りに落ちれば、きっといつもどおりだと、そう信じてわたしは目を閉じた。
◇シライシ・ナツキ / ナツキ
性別:女
身長:158cm
年齢:17歳
青めの黒髪で肩まで伸びた髪はサラサラ
目の色は青。可愛いより美人系の顔立ち。
クラスの中では上の下ぐらいの立ち位置の顔。
何とは言わないが大きい。英語で表すとF
性格は人懐っこい性格で、人との距離をすぐに詰められる程度にはコミュ強
でも中身はかなりのガンプラオタク。特にSEED系が好き
◇マシナ・ギアロウ
フォースインパルスが飾られているガンプラショップの店長
自称ガンプラファンみんなの母親。本人はれっきとしたおっさん。
こう見えても一児のパッパでもある。
最近の悩みはコレステロール値が高くなっていることと髭を剃るのが億劫なこと。
ナツキの機体は次回にでも