ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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VSちの 前編


第23話:可愛いような一斉掃射

「こんちの~! ちのだよ~!」

 

 ちのはいつもどおり生配信で毎回挨拶を欠かさない。

 それはG-Tuberとして当然だと思うし、なんだったら人間であるならば普通のことだ。

 その一言余計なアレンジを除けば。

 挨拶に応じて、下から上へと流れていくコメント欄が返事をしている。

 

『こんちのー』

『こんちのー』

『こんちの~!』

『来たよ』

『初見。春夏秋冬につられて』

 

「お、初見の人もいるねー! そりゃそっか、だって今日はコラボなんだし!」

 

 ちのは普段誰ともコラボをしない。

 理由はセツを人気者にするためであるため、他のG-Tuberとコラボすることで、相対的にセツの人気を落としてしまいかねない、と考えているかららしい。

 正直考えすぎだと思うけれど、彼女の下した結論に、わたしたちが外からいろいろ言うのは筋違いだ。

 

 話を戻す。ちのは普段コラボしないはずにも関わらず、今回わたしたち、春夏秋冬チャンネルとコラボすることになった経緯は2つだ。

 1つはセツを人気者にするため。これは変わらない。

 ただもう1つあるとすれば、それは純粋にわたしたちと戦ってみたかったから、だそうだ。

 セツがいるから、とたまたま見かけたフォース戦だったが、どういうわけか彼女の琴線に触れたらしい。

 彼女が言うなればチームワーク。新進気鋭のフォースにしてはチームワークが良すぎるらしい。

 モミジによるフィールドスキャンや、わたしとセツの連携。光るものを感じたからこそ、わたしたちが抜擢されたんだとか。

 よく分かっていないけれど、彼女が言うならそういうことにしておこうと思う。

 

「ってことで、早速コラボ相手の4人! フォース、春夏秋冬だよ!」

 

 盛り上がるコメントの中、わたしたちは予め考えていた『オリジナル』の挨拶で登場することを強いられていた。

 

「おはなつ! リーダーのナツキです!」

「おはよ、オタクくん! あたしだよ、モミジ!」

「セツはセツだよー!」

 

『888888888888』

『ナツキちゃんかわよ』

『めっちゃ美人やん』

『オタクに優しいギャルは、存在する!』

『テトラちゃんがそうやったろ』

『セッちゃんキターーー!』

『セッちゃん! セッちゃんじゃないか!』

 

 みんな、眩しいなぁ。所謂陰キャはわたししかいない。

 ナツキは説明するまでもなく、モミジは元ギャル。そしてセツは子供らしく元気いっぱい。もう一度言う。陰キャはわたししかいないのだ。

 緊張と周りの強靭なメンタルに煽られて、わたしは喉から声が出せなくなっていた。まずい。仮にもコラボとは言え、ちののチャンネルだ。これ以上迷惑はかけられない。

 喉の声帯を強引に広げて、なんとか声を発するしかない。だから出すんだ。

 

「お、おはる~。……」

 

『裏返った?』

『声裏返ったな』

『緊張してる?』

『かわいい』

『リラックスしてもろて』

 

「……わたし帰っていい?」

「ダメだよ! まだ配信始まったばっか!」

 

 オリジナルの挨拶と声が裏返った衝撃が、津波のように羞恥心としてわたしの頭をバグらせる。

 あぁ、失敗した。やだもう。帰りたい……。

 

「ほら、コメントで可愛いって言ってるよ?」

「ナツキはどっちの味方なのさ」

「今だけコメントの味方かな?」

「裏切り者ー!」

 

『コント助かる』

『草』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『これが噂のナツハルか』

『かわいい』

『推せる』

 

「もう、ホント勘弁してよ……」

 

 カメラが回っているのにも関わらず、顔を両手で覆って崩れ落ちるように膝を折る。もうダメだ。これ全GBN中に中継されているんでしょ? 無理。お嫁に行けない。

 

「どーすんの、これ」

「まぁ、うん。ほっとこっか」

「ひっでー」

 

『リーダーに見捨てられる哀れなハルちゃん』

『かわいそうに』

『かわいそうはかわいい』

『至言』

 

「っと、脱線しちゃったね。今日は事前に連絡したとおりフォース戦だよ! 抽選の中から選ばれし3人の従業員たちと一緒に戦うよ!」

 

 ちのはこの日をよほど楽しみにしていたのか、フォース戦をする、ということを伝えた上で、残りの穴である3名を抽選で決めていたらしい。

 すでにそのダイバーたちは揃っていて、カメラの外で待機している。

 だけど、なんか見た目が同じのように見える。分身しているのかな? そんな事ないか。

 3人とも男女問わずピンクの帽子と半袖のシャツを身に付けて、グラサンをかけている。どっからどう見ても変態集団にしか見えないけれど、実力は折り紙付きと、配信が始まる前にちのから言われていた。

 ファンが何人もいるのにそんな事がわかるんだろうかと、疑問に思っていたが、今は関係ないか。

 

「じゃー、ちゃちゃっと準備ってことで! チャンネルはそのままで!」

 

『りょ』

『了解』

『ラージャ』

『楽しみ』

 

 画面を待機モードにしてから、従業員たちを呼び出して、所定の位置に付く。

 わたしたちも事前に作戦を練っていたとおりに行動することにした。

 

 今回もモミジのレドームドローン頼りだ。

 4対4であるなら、誰か1人でも欠ければ対等とまではいかなくても有利に事が進むと考えたからだ。

 Iフィールドの観点からビームライフルと対艦ライフルの2本をバックパックに装備したモミジが、セツのハモニカ砲の混乱に乗じて狙撃。モミジの狙撃テクを加味して1機撃墜は約束されているようなものだった。

 最高は後方火力要因である「G-にゃんドレスワルツ」に乗るちのを突破。

 だが、恐らく難しいだろう。3桁のランカーになると、ビームの予測ができなければ戦えないと言われるほどだ。あたしが狙撃しても8割の確率で避けられる。そうモミジが言うのであればそうなのだろう。

 正直4対4どころか、40対4ぐらいの勢いだから分が悪すぎる。だけど勝ちたい。それがわたしたちフォースの総意だった。

 

「ゆーても、あまり期待しないでよー。ヅダの対艦ライフルなんて、久々に持ち出したんだからさー」

「じゃあ、そこそこ期待してるね、モミジさん!」

「んまー、リーダーが言うならしょーがないか」

 

 所定の位置についたわたしたちは対戦相手の準備を待つ。

 その間、誰かと喋って緊張をほぐそうと思って、適当に通信を開いたところ、セツの様子が少しおかしいことに気付いた。

 

「……セツ、どうしたの?」

「え? あ、うん……なんでもないよ」

 

 困ったようにぎこちなく笑う彼女は、普段の様子からは違っていて。

 不安。その言葉がふさわしいぐらいの不自然さだった。

 

「何かあった?」

「ううん。……ただ、セツはこれで終わりかも」

「どういうこと?」

「ちのお姉ちゃんは強いってこと! 頑張ろうね!」

「う、うん」

 

 もしも彼女の心が、考えが見通せるなら。もしも未来が分かっていたなら、この時わたしは確実にちのを倒しに行く作戦を立てていただろう。

 だけど、無情にも目の前にバトルスタートの合図が鳴り響いた。

 

『うぉおおおおお! 始まった!』

『ガイア、アビス、カオスって揃い踏みかよ!』

『つってもまずはちのちゃんの範囲射撃っしょ!』

 

『じゃー、いっくよー! 今日もちのちゃんは?』

 

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

 

 ちのの操る「G-にゃんドレスワルツ」はG-アルケインのフルドレスとウィングガンダムをベースに、ダブルオーシアクアンタの頭部とソードビットを搭載したかわいい象徴であると火力を重視したガンプラだ。セツの火力好きもこの辺りが理由なんじゃないかと思ってしまうレベル。

 GNフルドレス・ユニットの拡散レーザー砲はまさしく天雷。そしてGNバスターライフルはGN粒子を経由しているため、通常のバスターライフルよりも装弾数は多めに設定されている。

 かわいいなぁ! という弾幕とともに、拡散レーザー砲とGNバスターライフルによる一斉照射が森のフィールドを焼き尽くす。

 

「な、何あれ?!」

「っば!」

 

 ちのの拡散砲はフォース戦常用手段の一つだった。

 奇しくもセツの役割が消えたと言っても過言ではないが、3人ほど混乱しているわけではないモミジが、冷静に順序を組み立てていく。

 確かに、作戦は封じられたかもしれない。だけど、かき乱してくれるなら、こちらもそれらしい動き方をして、このフィールドを支配しようと。

 

「ハルはミラージュコロイド! ナツキチは飛び立って!」

「了解!」

「セツは?」

「ちびっこは囮! なんだったらダブルハモニカ解禁しちゃう!」

「やったー!」

 

 掃討射撃は終わり、GNバスターライフルの装弾数が1つ減る。ガチャコン、とライフルからカートリッジが吐き出され、地面に落ちていく。

 

『散開! スナイパーには気をつけて!』

『『『了解!』』』

 

 焦土と化した森に隠れるところは数少ない。障害になりそうな木や草を焼き払いながら、ガイアガンダムとカオスガンダムはその場を突き進んでいく。

 セツはモミジのドローンとレドームによるデータリンクによって2機のガンダムが現在どこにいるかを完全に把握していた。

 セツの火力は恐らくちのには届かない。だけれど似たようなことはできる。拡散レーザー砲はえてして、相手を撹乱させるにはうってつけな兵器であった。

 

「ダブルハモニカ砲、いっくよー!」

 

 腕を平行に並べると、ディバイダーの地獄の門への入国手続きが完了する。

 木々を焼き払いながら進んでいた2機のガンダムは、光る筋のような見えた瞬間、レッドコールが鳴り響く。

 片門19門、計38門の破壊力抜群なハモニカ砲がついに発射される。

 あーゾクゾクしちゃう、などと通信から悦に浸ったセツの声が聞こえたが、無視することにした。

 

『くっ! これセッちゃんだよね!』

『相手がセッちゃんでも、お嬢のために負けられない!』

 

 ハモニカ砲は直進に進む。故に避けるポイントさえ見極めてしまえば、簡単に安全地帯へとたどり着くことができる。

 一段落したカオスガンダムは、その安全地帯がモミジによる落とし穴であることを気付けぬまま。

 山岳部から光る何かが目に入った瞬間、カオスガンダムの胸部、コックピットを狙い撃つ一撃が着弾する。

 綺麗に丸く貫かれたその穴からは煙とエネルギーが漏れ出し、ちの陣営の数を1つ減らしながら爆発していった。

 

『かおす先生!』

 

 そしてガイアに乗っているダイヤの近くにもう1機の影が迫っていることを。

 彼もダイバーだ。そして抽選とは言え、推しのG-Tuberに選ばれた1人でもある。カオスガンダムに乗っていたかおす先生を頭の片隅に追いやって、跳ね返った土煙でバレバレなガンダムファインダー・ブレイブに向かってビームを射出する。

 

「チャージビット!」

 

 とっさの判断により、シールドビット、もといチャージビットを展開したわたしだった。それにしてもバレてるなんて。定期的に拡散される拡散レーザー砲の隙間を縫いながら、わたしは腰にマウントしていたGNロングビームサーベルを引き抜いた。

 ガイアもそれに対応して、それまで四足歩行形態だったものを、人形に変えてから、ビームサーベルで衝突させる。

 

『俺たちはお嬢の従業員だ! 一筋縄じゃいかないよ!』

「わたしたちだって、負けたくないから!」

 

 少なくともセツのエネルギー充填時間と、モミジのポイント移動までは時間を稼がないと。

 ビームサーベルの鍔迫り合いを重ねながら、空中のアビスとにゃんドレスワルツはナツキに任せることにしようと思う。

 

 ◇

 

 空を駆ける私が捉えていたのは、まるまるとした両肩のシールドと実体刃とビーム刃の両方を複合させた槍型の武装が特徴的なアビスガンダム。

 水中戦や宇宙戦に限らず、ガンプラ特有の改造技術によって空中を駆けることもできるアビスは今、私の後ろ側でビーム砲を放っている。

 

『ちょこまかちょこまか!』

「そっちこそ! 私の後ろ追っかけてこないでよ!」

 

 空中反転回転ジグザグ飛行。どれを使っても、しつこく迫ってくる姿はある意味ストーカーに近いだろう。

 確かにこいつは厄介だ。ビルダー技術もさることながら、操縦技術。ファイターとしての実力も高い。

 そうこうしている内に、にゃんドレスワルツがバスターライフルをこちらに向けて、トリガーを引く。大丈夫、射線が見えているのなら当たることはない。軽々避けてみせるアビスもどうやら対応しているのだろう。

 

『アビィちゃん、ちののソードビット借りる?』

『喜んで、と言いたいところだけど、こいつは私だけで十分です!』

『そっか、頑張って!』

『うおおおおおおお! ちのちゃんに頑張ってって言われたーーーー!!!』

 

『ずるいぞ』

『俺も参加したかったなー』

『奴をガンプラバトルで拘束しろ!』

『そんな奴やっちまえ、ナツキちゃん!』

『俺たちの悲しみを、ナツキちゃんの刀に乗せる!』

 

 随分と変な期待を持たれているけれど、私の期待はハルのだけで十分だ。

 それにしても全然引きはがせる気がしない。恐らく速度を下げても、アビスは逃げられる。本能的に装甲をぶった切れるガーベラストレートを警戒しているんだ。

 それにビームコーティングもされているから、生半可な攻撃は通用しない。なら、どうする私。なんとかMAモードの装甲をぶち抜いて、一撃ないし致命傷を与えるような切り札は……。

 

「あるじゃん。ちょっとエネルギー使うけど、多分行ける」

 

 このブルースカイはレッドフレームが元だ。勘違いされているけれど、私がわざわざ青く染め上げたのがこの機体。だからこそ、この技だって使うことができる。

 手のひらから荷電粒子を光の球のように形成して、空中に散布する。

 

『ちょっ?! 光雷球ぁ?!』

『あれ、ブルーフレームだよな?!』

『まさか、レッドフレームを青く塗ったのか?』

『こいつは赤く塗らねぇのかい?』

『ありえる。わざわざするか普通』

 

『くそっ! メインカメラが……っ!』

 

 それは恐らくハルのファインダーのカメラフラッシュと同じ機構と言って差し支えない。置いていった光雷球はMAモードでは処理できないと、たまらず急激な旋回を始める。それこそが、私の望んでいた隙間!

 

『サブカメラなら……って、どこ行った?!』

『アビィちゃん、上!』

 

 バスターライフルを旋回しながら避け、位置取りしたのは太陽の真下。

 メインカメラがやられているなら、センサーもやられている。そして私の斬撃は、復旧前に必ず突き立てられる。

 MAモードの中心部。コックピットに位置する場所を的確にガーベラ・ストレートで貫通させると、アビスはテクスチャの塵に変わっていった。

 

「次っ!」

『アビィちゃんお疲れ様。あとは、ちのが殺るよ』

 

 殺意、恨み、怒り。すべてをフラットにドスの利いた声として変換させた個人ランク316位の人と戦えるなんて。

 上には上がいると知ったあの日。だけど、私だってあの日から成長しているんだ。

 下剋上、やってやろうじゃん!




お察しかもしれませんが、ちのの元ネタは某花京院の何えりです


◇G-にゃんドレスワルツ
ダブルオーシアクアンタの頭にG-アルケイン フルドレスの装備。
ベース機体はウィングガンダム(EW)のため、翼が生えてたりする
GNバスターライフルによる高出力ビーム砲や
シアクアンタからニコイチしたGNフィールドによる防御。
GNソードビットによる遠隔ファング攻撃。GNビームサーベルによる近接戦闘。
とにかく高火力に物を言わせている。
さらにGNフルドレス・ユニットによる制圧射撃と、スキがあまりなく、
予想外の動きさえされなければ、淡々と敵を倒せるほど。

・武装
GNバスターライフル
GNソードビット
GNビームサーベル
GNビームチェーン
GNフルドレス・ユニット
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