ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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VSちの 後編
動き出す運命。そして2章完結!


第24話:支配人のような英傑

 G-アルケインにフルドレス・ユニットは付属されない。

 この事実にいくつものガンプラビルダーたちが絶望したことだろう。

 あるのはホビー雑誌の作例だけで、実際にプラモデルとして売られることはなかった。

 だけど、とある少女にはこれが必要だった。

 

 何故か。それはかわいいからだ。かわいいは正義。かわいいはジャスティス。

 可愛いという理由でダブルオーシアクアンタに惚れ込み、火力がほしいからと、EW版のウイングガンダムをミキシングした。

 でもまだ足りない。可愛さはある。でも正義として突き立てる剣。いや、弾丸に強さが、火力が込められていない。説得力を持たせるには、範囲攻撃による制圧である。

 ダイバーちのは、ヤマグチ・チエはそう考えた。おおよそ2年前の出来事だ。

 

 ◇

 

「近づけないッ!」

 

 圧倒的弾幕。フルドレス・ユニットでの広範囲の射撃。GNソードビットによる追跡する刃。バスターライフルによる高密度ビーム攻撃。

 どれも火力を重点に考えられたユニットの数々は、まさしく彼女の二つ名に相応しい戦い方をしている。

 

 戦場の支配人。フォース「ちの・イン・ワンダーランド」のフォースネストが遊園地であること。そしてフルドレス・ユニットやソードビットによる『自分の勝ち筋をごり押す』戦い方に敬意と畏怖を評して、こんな二つ名が付いたらしい。

 当の本人は嫌がっているため、普段はお嬢と呼ばれているが、その実態がこれだ。

 

 機体全体をひねらせながら、ソードビットによる追撃を振り切ろうとする。

 途中途中で穴を縫うように飛んでくる拡散レーザーは明らかに逃げ道を封じている。

 そして、狙いを定めるようにバスターライフルが銃口で私を睨んでいる。

 機動力も上がってるから、ハイマットモードでも振り切れない。確実に私を狩ろうとしている肉食動物と草食動物の気分だった。

 

「なら、もっかい!」

 

 光雷球を拡散させるも、カメラを焼き切る前に拡散レーザーが貫通し、エネルギーが飛散する。

 

『同じ手は食わないよ!』

「食べてよッ!」

 

 流石に3桁の英傑は違う。冷や汗を背中に流しながら、逃げ回る。

 ハイランカー、トップランカーの戦い方は2つ存在する。

 本来相手に何もさせない、何かをさせる前に、自分が逆転たる行動を殺して、真綿で首を絞めるように、じわじわ、そして確実に仕留めるもの。

 そして、ちののように自分のワガママをワガママが通るまで暴力的に圧殺、ワンショットを決めるやり方だ。

 前者とは戦ったことはあっても、後者は珍しい。何故なら先行を得た封殺者によって、大概の行動を先読みされ、殺される。火力を得たとしても、それは変わらない。

 ちのは、恐らくその壁を乗り越えた先にいるもの。真の強者であり、封殺を、暴力を、さらなる力で叩き潰す猿山のボス。故に戦場の支配人。上に立つもの、という意味なんだろう。

 

「けどっ!」

 

 それは遠距離に頼っているからだ。近接。格闘戦になれば、私にだってジャイアント・キリングの権利ぐらい得られるはずだ。

 私は右手にガーベラ・ストレートを握ると、左手にはビームサーベルを握る。要するに二刀流の構えだ。

 天高く、それこそ宇宙を目指すように直上に飛び上がった私はある高度へと到達すると、ブーストを消し、重力による自然落下を始める。

 

『なるほどねぇ、太陽を背にすれば、カメラは見れないってこと』

「そーいうこと! モミジ!」

「はいな!」

 

 バスターライフルは当たり前だが銃を前に突き出さなければならない。

 だから目標はコックピットよりも移動しづらいし、スキを狙われれば、狙撃も楽である。

 突き出したバスターライフルは、カートリッジ箇所を寸分狂わず着弾したヅダの対艦ライフルによって爆散する。

 同時に、持っていた右腕も爆風に耐えられず、誘爆する。

 

『クソッ!』

 

『清楚』

『クソッ(清楚)』

『これはヤクザ』

『やっぱりいつものお嬢』

 

「これで、私たちの勝ち!」

 

 煙の中、データリンクによるスキャンが完了しているセンサーを頼りに、Xの文字を形どるように斬り裂く。

 勝った! ジャイアント・キリングを成功させたと、そう考えていた頭は次の瞬間に後悔という文字に変換される。

 煙の中を斬り裂くように、緑色の蛇が私の右腕を絡め取ると、切断させた。

 

『これでアイコってことで』

 

 右手のガーベラ・ストレートは地面に、左のビームサーベルは力を失い、腕の発生機により生成されたGNフィールドによって防がれたのだ。

 まずい。考えても出てくる結論は腰のレール砲を展開して、至近距離でのフルバーストモードだった。

 すぐさま行動に移し、レール砲を展開するが、ビーム・ワイヤーによって左腕は絡め取られ、ソードビットはレール砲の砲身を斬り裂く。

 

「なんでっ?!」

 

 抜かったわけではなかった。確かに事前に試合のデータは見てたし、ちのが近接戦闘があまり得意ではなく、予想外の事態に弱いということは知っていた。

 だけど、実際に戦ってみたら、それは2つの過ちであることに気付かされた。

 ちのが成長していること。そして、トップランカー達に及ばずとも、ちのの格闘能力が十分一線級であるということだ。

 

『ちのも恥ずかしいとこ見せれないから。ごめんね!』

 

 GNソードビットはほぼ丸腰になったブルースカイのコックピットを串刺しショーのように貫いた。

 

 ◇

 

『一歩及ばず、って感じかな?』

「ナツキィ!」

 

 初めてだった。ナツキが初めて撃墜されるところを見た。

 あんなあっけなく。そして、あんなにも張り巡らした思考だったはずなのに。

 

 以前鍔迫り合いが続く中、ナツキがにゃんドレスワルツの右腕を犠牲に空中で命を散らせた。

 悲しい思いが、気持ちが。どんどん過去から蘇ってくる。今じゃない。今思い出すべきじゃない。

 悲しみは怒りに、怒りは力に変わって、6秒間の必殺へと変わる。

 ヘッドカメラを光らせて、フラッシュを点火させ、相手のインパクトタイミングを逃す。

 

『マズルフラッ……』

「そこっ!」

 

 胴体を貫いたロングビームサーベルを上方向に上昇させ、最後の従業員であるダイヤを爆散させる。だけどそれがこのフォース戦の終末じゃない!

 

「トランザム・紅桜!」

「ちびっこ、援護するよ!」

「ちびっこ、言うなっ!」

 

 桃色の桜のようにGN粒子を花開かせたトランザムはまっすぐににゃんドレスワルツへと直進する。

 背後からはセツとモミジによる援護射撃。必中でなくても、撹乱させるには十分なはずだ。

 

『怒りに任せて突撃。ちょっと悪手かなー』

 

 モミジの正確無比の狙撃は軽々避けられ、セツのビームバズーカはカスリともしない。

 わたしだって、バカみたいに突撃しているわけじゃない。チャージビット、今がその時だよ。

 

「8基展開! GNビームハンドガン、ショットモード!」

 

 チャージビット起動の合図を唱え、GNビームハンドガンの前に4セット1門として、チャージビットの放射の先。バチバチとチャージビットが円を描くように回転しながら、エネルギーが収束する点が発生する。

 

「GNチャージハンドガン、ファイア!」

 

 にゃんドレスワルツめがけてハンドガンの連射が収束点を通過すると、エネルギーが収束。

 ビームを強化する性能を得たチャージビットの収束点は、通過すれば大きなエネルギーとしてさらに変換される。

 それは一種のパワーゲート。圧縮されたハンドガンの火力はもはやビームガトリングガンと呼ぶべき弾丸へと進化する。

 連打する一撃がビームライフル相当の威力がにゃんドレスワルツを追う。

 

『火力には火力ってことね!』

「そういうこと!」

 

 後を追うようにビームの雨が空を汚していく。

 アーチを描くように動くにゃんドレスワルツはそれでも当たらない。

 そしてその行く先には、モミジだ。

 

「っば! こっちくんな!」

「モミジっ!」

 

 キャンセルせざるを得ない。だけど、ここでキャンセルしたら恐らくチャージビットの再チャージに時間がかかってしまうだろう。でも今はトランザム中。それがなくても、トランザムで出力が上がってるビームサーベルがあれば!

 

「ハルは……くそっ! ちびっこ、こっちにハモニカ……」

『遅いよ!』

 

 接近されて手も足も出なくなったモミジはビームサーベルで両断。レドームドローンとともにテクスチャの塵になったわたしたちに残ったのはトランザムとダブルハモニカ砲のみ。

 

「お姉ちゃん……ッ! うわー!」

「セツ?!」

 

 激情に任せてダブルハモニカ砲を照射するセツは、自分の居場所がそこであると知らせているようなもの。そしてにゃんドレスワルツにはそんな感情に任せたでたらめな攻撃が効かない。

 冷静に避けた38門のビーム照射は力及ばず。エネルギーが枯渇状態に陥ったダブルディバイダーは、セツはその場でへたり込む。

 

『残り1人。チームワークは見事だったけど、ちっと力不足だったかな?』

「だけど、諦めない!」

 

 衝突するビームサーベル。頭を使え。頭を回転させろ。絶対に勝つ手段を。必ず、あのランカーを確実に叩き落とす手段を!

 でもそれはちのも考えている。リキャストが溜まった拡散レーザー砲が牙をむく。当たらなくても、今の焦っている状況では、一旦場を離れる、という判断を下してしまう。それは間違いであると、数秒後に気付かされる。

 

『みんなはまだまだ強くなれる。今日はそのゲン担ぎってことで!』

 

 トランザム状態のわたしの足をビーム・ワイヤーで引っ掛けるという離れ業で強引にわたしの足を止めさせる。

 にゃんドレスワルツは腕を振り上げると、力任せに地面へとワイヤーを叩きつけた。

 もちろんその先にあるわたしのファインダーも勢いよく叩きつけられ、そして……。

 

『またコラボしようね!』

 

 ナツキにやったのと同じく、黒ひげ危機一発のようにコックピットへソードビットが着弾。

 それで、ゲームが終了した。

 

【BATTLE END!】

【WINNER:ちの・イン・ワンダーランド!】

 

 ◇

 

「ナツキ……」

「あはは、負けちゃったねー」

 

 わたしが撃墜された後、セツに降伏勧告をして、彼女は苦汁をなめながらその降伏を受け入れた。

 

「ナツキ……よかった……」

「ちょ、ハル?! 今配信中!」

 

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『親友を慰めてあげて』

『いいバトルだった』

『相変わらずお嬢エゲツねぇな』

『1人で3人撃墜してんじゃん』

 

「ちのも、ちょーっと本気出しちゃったかなー」

 

 いつもそうしているように明るく振る舞って見せているけれど、多分まだ微塵も本気を出していなかったと思う。わたしたちが出せたのはたったの20%。それだけあればいい方だ。

 でも今は、ナツキがちゃんといてくれたことが嬉しくて。泣き出してしまいそうな目元をナツキの胸元で隠す。ナツキも何かを察してくれたのか、背中をなでてくれている。なんか、この感じ久しぶりだ。もう何年も味わってない感覚だった。

 

「ちのお姉ちゃん意地悪だよ! 最後にセツを残すなんて!」

「あれはちびっこが悪いわ。あそこで両門出すとか思わんじゃん」

「だって! ……だってでかお姉ちゃんが」

「あー、はいはい。次頑張ろーな」

「次……」

 

 今、わたしたちは無力だ。こうやって4人がかりでも3桁の英傑には勝てないんだから。

 でも、いつか。いつか必ず。絶対にちのにリベンジしたい。

 わたしの中に強くなりたい。そうイメージしたのはきっと初めてだ。

 みんな失いたくないし、目の前で撃墜されるのはもう、見たくない。それが例え架空だったとしても。

 

「次は……勝とうね、ナツキ」

「……うん、そうだね」

 

 優しく背中を撫でる彼女は、母親のようでも、姉のようにも見えて。

 でもわたしたちの関係は友達だ。それは変わりない事実だ。

 

「じゃあ、泣いてる子もいるみたいだし、ちのがちゃんと慰めてあげるってことで!」

「わたし泣いてない!」

「あはは、それじゃあ、チャンネル登録とガンスタのフォロー。高評価! よろしくね! それじゃー!」

 

『お疲れ様!』

『お疲れさまでした!』

『ありがとう。本当にありがとう』

『またコラボしてね!』

『ナツハルてぇてぇ』

『今度は参加してぇなぁ』

 

【この配信は終了しています。】

 

 ◇

 

「ふーん、そう。負けちゃったのね」

「そうみたいですわ、お姉様」

 

 グラスワインを片手に、女達はとある配信の終了画面を見ていた。

 理由はたった1つ。あの子を監視するためだ。

 

「タカミネ、行くわよ。セツを迎えに」

「えぇ、お姉様」

 

 机の上にコトッと堪能したワインを起き、女帝は帆を上げる。

 それは奴隷を仕入れに行く、コロンブスのように。

 アマゾネスは不敵な笑みを浮かべて、目的地へと歩き始めた。




不穏 is 不穏
3章からはかなりシリアスムーブするので、ダメな方は注意です
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