ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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冬の終わり。そして夏の再起
シリアス警報発令


第3章:わたしたちが友達を取り戻すまで
第25話:冬の略奪。失意と昔話と


 私たちはちのに謝罪をしてから、その場を去った。

 彼女は、またコラボしようねと、元気に言ってくれたから、きっと次の機会もゲン担ぎと言う名の鏖殺をするのだろう。恐ろしいほど強かったけど、彼女も手を抜いたら失礼だと思ってくれたのだろうか。

 改めて上には上がいると、そう実感せざるを得ない1日だったと思う。

 私、ナツキは昔から思っていたことを口にはしないでも、心の中にとどめておいた。

 今更過去の出来事を蒸し返そうだなんて思わないけれど、もしもあの時、少しだけ回路が違っていたら。そう考えることは多い。過ぎたことなのに、私はまだ過去の栄光にすがっていた。

 

 そして、気になることがもう1つある。ハルの態度だ。

 このゲームは死が付きまとう。それはデータ的な死だったとしても、すぐにリスポーンする安い命であるとしても、死は付きまとう。

 GBNのオールドタイプと呼ばれているGPDでも、ガンプラとしての死はあったものの、修理不可能な痛みでなければ修復できるものだった。

 ガンプラが破壊されても、人の心が壊れない限り、何度だって挑戦できる。ここはそういうところ。

 だけど、ハルの態度はそれとは一線を画するものだった。

 

 まるで、私が本当に死んでしまったかのような。撃墜後に実は生きていたことに心から安心したような、そんな違和感。

 友達を心配しているならいい。それなら私だって抱きしめられた身体を慰めることはできよう。

 でも、話はそう単純なことではないのかもしれない。

 

「ナツキ……」

 

 先程まで無事を確認するように抱きしめていたハルは私のことを離してくれないようだった。腕とまではいかないけど、両手で手を握って安否を確認するように私より少し体温の低い手がひんやりと包む。

 

「バトル終わりからずっとナツキチにべったりじゃん。どったの?」

「なんでもないから。でも今日はこうしてる」

「そ。ちびっこのやつもなんか妙に辛気臭い顔しちゃってるし、そんなに負けたのが悔しかったん?」

「そーじゃないけど……」

 

 私たちはカフェテリアで反省会と称して、今後の活動方針を練っていた。

 でもハルはこんな調子だし、セツちゃんも妙に周りを気にしているというか、何かに怯えているような様子に見える。

 モミジさんは相変わらずだけど、セツちゃんの様子には思うところがあるみたいだった。

 

 ……なんか、居心地が悪い。本当に私はここにいていいのだろうか。きっとモミジさんも思っているようなことを脳裏に浮かべる。

 まるで。まるで私がGPDをやめたときみたいな、そんな気持ち悪さ。

 人間関係とは得てして面倒くさいものだ。ハルがずっと寝ていた理由だって、何割かは誰とも関わりたくないからだと思う。

 私だってできることなら好きな人とだけで過ごしたいし、現に今はそうしてる。

 嫌だな、空中分解とか。

 

「あら、こんなところにいたのね、セツ」

「っ!」

「お姉様がこんなに探したんですのよ? 何か言ったらどうですか?」

 

 突如、女性にしては低くて、それでいながら威圧的な態度と声色がセツを怯えさせている。

 声のする方を見てみれば、そこにはピンク色の髪にアマゾネスのようなフェイスペイント。妖艶さを思わせる衣服は、まさしく女帝のような風貌。

 知らない相手だ。けど、背中を走るビリビリとした嫌な予感が今、セツとこの人達を会話させてはいけないと言っている。

 

「うちのセツに、何か御用ですか?」

「セツはうちの物よ」

「あ、あんたら……っ!」

「久しぶり、モミジちゃん。まさかあなたも復帰してるなんて思わなかったわ」

「何しに来たの?」

 

 モミジさんは、知っている。この人達が誰であるか。

 過去から襲いかかってきた偶然と悪夢が重なって、苦虫を噛み潰した、それでいてもう二度と触れたくない傷に塩を塗りつぶされたような痛みを加えた表情がモミジさんの顔に出る。

 復帰だとか、久しぶりだとか。私には分からないけど、それより今は……。

 

「セツとの約束を果たしに来たのよ」

「でもっ!」

「お姉様に口答えするつもり?!」

「……いえ」

「はぁ、これだからELダイバーは」

 

 モミジさんの様子。そしてセツの有無を言わさない態度。その全ては一つの結論に到達する。こいつらは、敵。私たちの平穏を脅かす、死神。

 

「あなた達はさっきから何なんですか?! セツはうちのフォースの……」

「黙りなさい」

 

 低く、そして深淵から這いずるようなドスの利いた声色が、私をひるませる。

 

「彼女がこのお遊びフォースに入るために2つの約束をしたの。分かってるわね、セツ?」

「……はい。もしもフォース戦で1度でも負けたら、フォースを脱退すること」

「……は?」

 

 そうか。セツの様子がおかしいことに合点がいった。

 しかもフォース戦というのは恐らくちのと戦った時のバトルだ。

 理屈はわかった。しかし、何を言っているのかわからない。1度でも? そんなのGBNをやっていれば嫌というほど味わう味だ。そんなの。そんなのは絶対に不平等な約束だ。

 

「お言葉ですが、セツちゃんが私たちのフォースに入りたいと思ったのは」

「私たちはセツと話してるの! あんたの意見なんて聞いてないわ!」

「私たちは約束をしたの。ねぇ、セツ?」

 

 そんなの。そんなのあってはならない。私が望んだのは、仲間たちと遊ぶことであって、こんな、目の前でまた絆が引き裂かれるようなことじゃない!

 

「行くわよ、セツ」

「待って!」

 

 セツちゃんの小さい手首を掴んで、何か言おうとした。何か。何かだ。

 でも、何かが出てこない。何も出てこない。

 行かないで。そんなありきたりな言葉すら、今は無力で。

 

 掴んだセツちゃんが手の中から消えていく。腕を振るって拘束を解いたのだろう。

 その顔は、暗雲に満ちている雨模様に似ていて。

 決していつものようなギラギラとした夏の太陽のような、元気でハツラツとした表情は、そこにはなかった。

 

 ◇

 

「モミジさん、誰なの。あいつらは」

「…………」

 

 セツちゃんは、フォースからいなくなった。

 正式に脱退して、メンバーは4人から3人になってしまったのだ。

 何が、どうして。なんでこうなった。意味がわからない。突然やってきて、いきなり私たちの仲間を連れ去って、雨が止んだように消え去った。

 残ったのはぐちょぐちょの土と、曇模様の私たちだけ。そこに、太陽たるセツちゃんはいなかった。

 

「……メデューサ姉妹。掲示板で調べれば一発出てくるわ」

「なんで、そんな奴らとモミジさんが知り合いだったの?」

 

 きっと、今のは聞いていはいけないブラックワード。

 今は調べる気にもなれないし、その文字も見たくない。だけど仲間であるモミジさんのことは気になった。

 どうしてあんな自分勝手な奴らと知り合いだったのか。普通に遊んでいれば会わないタイプの人間だ。だから気になってしまった。どうして。Whyが私の中で大きく膨れ上がってしまった。

 

「それは……。言えない」

「言えないて。なにそれ、私たち仲間じゃないの?!」

「言えないの。どうしても」

 

 声を荒げてしまった私へ悔やむように彼女は下唇を噛む。

 「ごめん」。一言そう謝って、頭に上っていた血をなんとか落ち着かせる。

 でも、だったら。止めれたはずだ。私には、それが分からなかった。

 

「……なんで、セツちゃんを止めてくれなかったの?」

「ナツキ……」

「知り合いだったら、かばうくらい出来たよね? 仲間を守ることぐらいっ!」

「もう、仲間じゃないじゃん」

「っ!」

 

 行き場のない怒りが、手のひらを上に振り上げる。でも、モミジさんが言っていることは事実だし、こんな怒りを彼女に向けたって、絶対何も解決しない。

 だから、振り上げた手のひらを拳に変えて、テーブルに八つ当たりした。

 

「私、どうしたらいいかわかんないよ。嵐のようにセツちゃんを連れ去ってさぁ。何が約束だよ。あんな奴らの約束なんて、聞く価値ないじゃん」

「……それが、あいつらの。メデューサ姉妹のやり方なのよ」

 

 沈黙が続く。カフェテリアはいつものようにザワザワと脳天気なダイバーたちが紅茶やコーヒーを飲んでリラックスしている。

 でもこの一角だけは、少し違う。ビリビリと肌を焼くような怒りと、訳の分からないまま奪われた悲しさと、何も出来なかった無力感。

 沈黙を破ったのは、モミジさんだった。メニュー画面を開くと、ログアウトボタンを押そうとしていた。

 

「モミジさん、どこ行くの?」

「今日はもう解散しよ。あたしだって、疲れたんだよ」

「どこにも、行かないよね?」

「…………」

 

 それはもう、すがるような一言だった。

 二度とあんな思いはしたくない。1つだった身体から自分以外の要素が引き裂かれていって、最終的に残ったものが孤独である。そんな、そんな思いはもう、御免なんだ。

 モミジさんは、何も言わずにドットの破片となって、目の前から消えていった。

 残ったのは、私と失意に呑まれたハルだけだった。

 

「ハルは、行かないよね?」

「……うん」

 

 でも、彼女は止めてくれなかった。そんなことを問い詰めても、結局無駄足だって分かっているのに。

 ……私は、私たちは、どうすればいいんだろう。

 

 ◇

 

ガンスタグラム TL

 

ピンク @*****

なんか、カフェテリアが騒がしいんだけど

 

ナナホシ @*****

フォース同士の揉め事っぽい。内容は知らん

 

よすし @*****

噂によればメデューサ姉妹がELダイバー引き抜いたって話だぞ

 

エグチキ @*****

セッちゃんって元々メデューサ姉妹のとこだったろ。今更じゃん

 

メロス @*****

メロスは激怒した。

さっきまで仲良く配信してたじゃないか

 

セリヌンティウス @*****

返信先:@******

でも後半の方ちょっと様子おかしくなかったか?

ハルちゃんとセッちゃん辺りが

 

メロス @*****

返信先:@*****

それは、そうだけど。

かの邪智暴虐のメデューサ姉妹が言ったに違いない

 

セリヌンティウス @*****

返信先:@*****

あいつらのことはあんまり言わん方がいいぞ。

この前も、アマゾネス共から男狩りされたって言う話も聞くし

 

メロス @*****

返信先:@*****

くそぅ。俺にもっと力があったら……。

 

 ◇

 

「私にも、力があったらな」

 

 繋ぎ止めるための力。手をつないで、離さない力。

 マギーさんが所属しているフォース「アダムの林檎」のバーで私はただぼんやり考えていた。

 ハルの様子も気になる。だけど、目下の問題はモミジさんだった。

 彼女は翌日以降、私たちと顔を合わせることがなかったのだ。

 ログインしている形跡はある。だけど傭兵活動をしているのか、何をしているか分からないけれど、私たちと顔を合わせたくないのは確からしい。

 

「はぁ……」

「ナツキちゃん、何か悩み事?」

「……ちょっとあって」

 

 店主であり、「アダムの林檎」のフォースリーダーでもあるマギーさんは私にミルクを提供すると、隣のカウンター席に座った。

 

「力になれることがあれば、何でも言って頂戴」

「そんな。マギーさんのお手をわずらわせるようなことは」

「アタシもあなた達の1ファンなのよ。このくらい言わせて、ね?」

 

 ありがとう。礼を言って、私だけじゃ解決できないようなことを、シスターに懺悔するよう口にする。

 

「セツちゃんが、メデューサ姉妹ってフォースに連れ去られたんです」

「セツちゃんが?」

「はい。約束だ、とかなんとか言って無理やり」

 

 始めは怒りもあった。悲しみもあった。

 だけど、数日経てばそれはだんだん摩耗していって。最終的に残るのは無力感だけ。

 失意に呑まれたのはこれで2度目だ。そして、もう二度と味わいたくないものだった。

 

「私、もうどうしたらいいかわかんなくて……」

「……セツちゃんは、好きかしら?」

「そんなの、当たり前です。仲間だと思ってから」

「参考になるかは分からないけれど、ちょっとした昔話をしてあげる」

 

 マギーさんが話してくれた昔話。それは好きを諦めなかった人たちの話だった。

 第二次有志連合戦。ELダイバーを世界を巣食う『バグ』として認識した運営はファーストELダイバーであるサラを削除しようとしたらしい。

 個人ランク1位のチャンプ、クジョウ・キョウヤを始めとして色んな人を巻き込んだ大規模戦闘は、1人の少年の好きを諦めない気持ちによって終演を迎えた。

 

「それが『ビルドダイバーズのリク』くん。ビルドダイバーズは、サラちゃんを諦めないために、第二次有志連合戦で死力を尽くして、勝ち取った」

「……おとぎ話みたいですね」

「えぇ、本当に。今はその好きが勝ち取った世界なのよ」

 

 もしもファーストELダイバーが、サラがバグとして消えていたなら、恐らくセツちゃんだってこの世に生まれてこなかったのかもしれない。だとすれば、彼女はすべてのELダイバーの母とも言える存在なのかもしれない。

 

「でも、リクくんってワガママですね。どれだけ彼女のこと好きだったんだろう」

「そうね。今もたまに会うけれど、いつも一緒にいて、少し妬けちゃうわね」

「マギーさん、狙ってたんですか?」

「まさか! アタシは手助けした初心者が成長していくのが、たまらなく好きなのよ! でもちょっと嫉妬しちゃうわ、あの子を最初に見つけたのはアタシなのにね」

 

 冗談よ。なんて言いながらウインクしてみせるマギーさんの姿は、まさしく女性のそれで。敵わないな、なんて思う。

 好きは、人を変えるっていうらしい。

 私はまだ誰かを好きになったことはない。言い寄ってくる男の人はいたし、興味は、まぁあるけど、今はGBNがあるから。

 だけど、そんな「好き」を知れば、また違った世界が見えてくるのかな。

 

「アタシはあなた達にも、もっとワガママになってほしいの」

「私たちに?」

「そうよ。似てるでしょ、ビルドダイバーズと」

 

 思わず声をこぼした。バグとしてではなくとも、相手陣営に奪われたセツちゃんと、どうすればいいか分からないけれど、それでも打開策があるとすれば、相手にガンプラバトルを挑むことで。

 メデューサ姉妹は約束という言葉に固執していた。なら、もしかしたら……。

 でも、そのためには、2人の協力が不可欠だった。

 

「決意は、固まったみたいね」

「やらなきゃいけないこと、多いですけどね」

 

 マギーさんは困ったら頼ってほしいとも言っていたけれど、これは私たちの問題。私たちの戦争だ。だから……。

 

「私、ハルと会ってきます」

「吉報を待ってるわ!」

 

 行かなきゃ。きっと一人ぼっちでいる彼女を。

 私の友達で、たった1人の親友のハルに会いに!




雨は上がり、やがて雲の切れ間からは日が差し込む。


◇メイヴ
フォース「オリンポス」のリーダーであり「ヒュドラ」と悪名高いダイバー。
Sランクであり、元マスダイバーの個人ランク3285位の実力者。
タカミネの実の姉であり、男性というものを極端に嫌っている。
また人種差別意識が強く、ELダイバーも嫌っている。

◇タカミネ
フォース「オリンポス」のサブリーダーであり「ヒュドラの盾」と悪名高いダイバー
Bランクであり、元マスダイバー。
メイブを実の姉に持ち、姉こそがこの世で最も偉いと思い込んでいるため、
姉の言うことは絶対。故に男性嫌いにELダイバー嫌い。

◇メデューサ姉妹
ダイバーの中で悪名名高いフォース「オリンポス」の俗称。
リーダー:メイヴとその妹:タカミネをトップに、女性限定で編成されている。
曰く、気に入らないものがあれば排除するより利用してからボロ雑巾のようにしてろ
曰く、従わないものはフォースを抜けても構わないが、ただで過ごせると思うな
曰く、ELダイバーは差別してもよい。
と、掟がいくつもあるヤバヤバにワルワルなフォース

ELダイバーであるセツはそのことを知っていても、
抜けてもひどい目にあうので、抜けれない、ということ

◇セリヌンティウス
メロスのズッ友。かなり真面目な性格。
メロスの暴走を止めるのが彼の役目
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