ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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知らないのか? 過去からは逃げられない。

『守次 奏』様の『ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ』から、
ミワちゃんが喋らないでも、お借りしています。


第27話:秋の憤怒。違法と復讐と

 目の前の戦場に、あたしの過去はこれっぽっちもない。

 

「姉さん、お願いしやす!」

 

 ただ狙いを定めて、トリガーを引いて、淡々と敵を狙い撃つ。

 これでも命中精度はいい方だ。撃てば大体確定でコックピットを狙い撃つし、被弾すれば敵は沈黙する。それがいいか悪いかと言われれば、いいのだろうけども。

 

「さすがっすよ、姉さん!」

「そりゃどーも」

 

 適当に返事をして、狙撃ポイントを移動する。

 レドームも、ドローンも正常に動いている。だからこそできる精密射撃。それがあたしの強みだし、あたしが作ったハイザック・バトルスキャンの最大の特徴だ。

 ある人は言った。何故あなたはDランクなんかで燻っているんですか? と。

 ある人は言った。あなたの狙撃テクニックはAランク相当。いやそれ以上です。と。

 すべて建前だと思っている。あたしの仕事は狙撃することではなく、探知すること。狙撃なんてものはその副産物に過ぎない。

 

 散開していたドローンが1機撃墜され、索敵範囲が狭まる。

 イケない。ボーッとしてた。どこから狙撃してきた? 見えないドローンを確実に狙い撃つ腕があるなら、恐らくあたしよりも格上の存在。息を吸って、対艦ライフルを構える。

 シャフランダムに置いて、狙撃手は必ず殺しておかなければいけない。重要なファクターになるからだ。であるならと、味方の4機は一斉にスナイパーを探り始める。

 相手はとんでもなく巧妙だ。ドローンとレドームがあっても索敵できない範囲はある。その遠い遠い地点から、細かに作ったドローンを1発で仕留めたのだ。これほどの精密射撃と強かさがあれば、恐らくAランクか、それ以上。

 血がたぎるわけではない。魂が震えるわけではない。ただ真っ直ぐにスコープを覗き込んで、弾丸が光る瞬間を待つ。

 

「いたぞ! スナイパーだ! あれはっ?! 赤砂……っ!」

 

 1機が夢中になって突撃したスキに、敵の1機が味方のソードストライクをテクスチャの塵に消滅させる。

 《赤砂》か。確かに格上かもしれない。でも今のでおおよその位置関係が見えた。2機目のドローンを餌にしてでも、確実に仕留めるしかない。

 空中に散布するドローンを移動させて様子をうかがう。赤砂ほどの腕前だ、おおよそこの不自然なドローンの動きであたしの思考を読み取れるかもしれない。だけど狙撃ポイントは誤魔化せない。撃てばその場所が、撃たなくてもドローンがレドームを介して、居場所がデータリンクに反映される。

 

 MAPを制するものが、戦場を支配する。あたしの戦いの指針はそれだ。

 マッピングが完了すれば、敵がどこにいるか。ステージの状況。罠の有無さえも手に取るように分かる。

 そしてデータリンクですべての機体にマップデータが反映されれば、敵がどう動くのかさえも分かる。だからマッピングは、基本だ。

 ドローンが移動する間も、どこかでは戦闘が行われている。援護射撃をすれば、逆に赤砂にコックピットを撃ち抜かれて、この試合が破綻する。

 良くも悪くも、あたしがゲームの鍵を握っている状態だった。そうだ。言い方を変えれば、主導権はあたしが握っている。イニシアチブをこちらが上な以上、狙撃を外さなければいい。

 逸る鼓動。滴る汗。そして、緊張感。その全てがあたしをどうしようもなく追い詰める。大丈夫。格闘戦じゃないんだから、あたしは平気なはずなんだ。

 

 そして、ついに戦場は動き出す。森の奥から何かが光ると同時に、2機目のドローンが消失する。マップデータの半分が消えたが、これで居場所は突き止めた。

 撃ち出す弾丸は、木々を抜けてまっすぐに赤砂の狙撃ポイントへ飛んでいく。

 ただ真っ直ぐ。あたしの信念とは真逆に飛んでいく弾が、着弾する。

 戦況画面を確認する。だが数は減らない。……撃墜の爆発が発生しない。しくじった。

 

 まずい。脳内のレッドアラートが音を立てて警告する。早くここから脱出しなければ。

 だが、時既に遅し。立ち上がった瞬間、待ち望んでいたようにあたしのハイザックのコックピットは撃ち抜かれる。

 一撃必殺の狙撃。確かに貫通した弾は、シャフランダムというステージから引きずり下ろすのには十分だった。

 

「やらかしたなー」

 

 どうやってやったかは分からないけれど、素早く狙撃ポイントから離脱して、あたしの狙撃から瞬時に居場所を割り出し、弾丸を叩き込んだ。

 見てから回避余裕でしたとかだったら嫌だな。それだったら元々当たらなかったということにすれば、言い訳ぐらいはつくのに。

 上には上がいるんだな。際限なく広がる上は、あたしには分かりかねる領域だ。一度は目指そうとしたことはあったけど、果てしなく高くて、ため息が出たっけ。

 同時に思い出させるのは過去の過ち。きっと逃げてはいけない、許されざる行為。

 傭兵やってた時は、そんなこと気にしたことなかったのにな。誰のせいだか。

 

「ちびっこ……」

 

 数日前に連れされた彼女を思い出す。

 彼女は何も悪くない。あたしが一方的に憎んでるだけ。それに……。

 

「考えてもいいことないや」

 

 次、次! そう考えて、シャフランダムのモニターを見るのをやめて振り返ると、彼女たちはそこにいた。

 決意と勇気に満ちていた少女と、自信はないけれど、それでも諦めたくないという意志がこもった瞳を向ける少女。ナツキとハルだった。

 

「奇遇じゃん! どしたの? シャフランダムでも見に?」

「違う。今日は……モミジと話に来た」

 

 繋がれた手をギュッと握るハルは普段とは違う、地盤がガッチリした場所に立っている。

 あたしとは、違う。フラフラとどこかに行って消えてしまいそうな、あたしとは。

 

「アハハ、あたしちょっと別の用事があってさー。めんごめん……」

「逃げないでよ! セツちゃんのこと心配なら!」

 

 やっぱり、その話か。掴まれた腕を振り払うこともできる。でもそれはある種ちびっこに抱いている感情を肯定してしまうようで、嫌だった。あたしは大人だ。だからその場を流すことに専念する。

 

「逃げるって、あたしはこれから傭兵稼業があってさー」

「なら、私がモミジさんを買う。そしてセツちゃんのところに無理やり行かせる」

「依頼っていうのは、傭兵が自分で決めるものでさ。勝手にどうこうされても……」

「モミジ、セツのこと好きじゃないの?」

 

 好きか嫌いかじゃない。ただ気に入らないだけ。あたしが勝手に、あいつに過去の幻影に重ねているだけで、なにも……。

 

「好き? そんなんなくない? ちびっことあたしはもうフォースの仲間でもなんでも」

「そう思うなら私に雇われてよ! 私たちは、セツちゃんを助けたいの!」

 

 ――助けて、モミジ……!

 

 過去の痛みが、そう囁いている。

 あたしには何もできない。何も、感じたくないのに。

 

「あたしはそうでもないけどなー」

「嘘だよ」

「どうしてそう思うん?」

「だって、モミジ辛そうな顔をしてる。自分に嘘ついてる顔をしてるから」

「っ!」

 

 ――あたしは無力だ。

 

 とっさに振りほどいた腕は、もう止まることはない。

 あたしが、嘘ついてる? そんなの。そんなこと自分が一番よく分かってる。嘘ついてる本人だから。でも辛そうにしてるって、そんなことありえない。

 だって、あいつは。ちびっこは……。

 

「あたしは関係ない! だって、ELダイバーがあたしを……っ!」

「モミジ」

 

 ハッとなって気づいた。気付けば悲鳴にも似た叫び声を、ロビー中に響かせていたんだから。

 周りの視線が痛い。身体を突き抜けて、心まで侵食していく痛みが、あたしの自信をなくす。

 

「……モミジ、ちょっとテラスに行かない?」

 

 あたしは無言で許可した。あたしの選択肢はもうそれしかなかったのだから。

 

「……どうしてか。聞かないの?」

「聞いたところで、わたしたちに解決できそうにないし」

 

 因縁は過去からやって来る。ならばこの悲痛なる声も。身を引き裂くような想いも。重くのしかかる感情も。全て全て因縁とやらの仕業なんだろう。

 あたしは、どうしようもなくなってしまった。過去を思い出して、勝手にセツのせいにして、勝手に協力を拒んでいる。

 ハルは、そっとあたしの手を握る。なんのつもりか、顔を見た。

 

「こうすれば勇気が出るんだってさ。ナツキから聞いた」

「ちょっ! なんでそれ今言うかなー?!」

「ナツキだってこうしたでしょ?」

「……まぁ、そうだけど。釈然としないなー」

 

 などとぼやきながらも、もうひとつの手にナツキの手が重なる。

 暖かい。わけも分からないあたしのヒステリックにわざわざ付き合って。それでも優しくして。

 

「私、GBNの空を飛びたいって夢があるんです。最初はハルだけでいいかなって思ったんですけど、モミジさんと出会って、セツちゃんと出会って。4人で夢を叶えたいって思ったんです」

「……素敵な夢だね」

「だから、セツちゃんを取り戻すために、モミジさんの協力が不可欠なんです!」

「そっか……」

 

 誰かに必要とされるのは少なくない。何しろ傭兵稼業やっているんだから、求められることには慣れている。

 だけど、誰かのためにあたしを必要とするような人はいなくて。

 

「あたしさ、この空が嫌いなんだ」

「え……?」

 

 彼女にとっては意外な言葉だったかもしれない。

 別に空を飛ぶのが嫌いとかではない。むしろ好きな部類だ。

 だけど、GBNの空は嫌でも過去のことを思い出させる。

 

「……マスダイバーって、知ってる?」

「チーター、のことだよね」

 

 ハルは何も考えてないような間抜けな顔をしていたけれど、ナツキは違った。

 まんまるに描いた瞳と、そんなまさか。そういう唖然とした口が、単語を口にする。

 GBNの空。マスダイバー。そう、一時期話題になった第一次有志連合戦の話だ。

 

「あたし、元マスダイバーなんだよね」

 

 ◇

 

 元々、あたしはガンプラに興味があったわけではなかった。

 だけどオタクの友達に誘われて初めてみたら、案外楽しくてすぐに夢中になったっけ。

 ガンプラを知れば、ゲーム内でガンプラを動かせる、というGBNにも興味が出るのは普通のことで。

 誘われるがまま、あたしはGBNへとログインした。

 

『すっげー! ハイザック動いてんじゃーん!』

『でしょ! あたしのZも動いてるよ! ほらほら!』

 

 あたしも友達も、GBNに感動していた。果てのない空と、自分が作ったものが自由に動く感覚。それが楽しくて、嬉しくて。友達とゲーセンが閉じるまでずーっとやってたっけ。

 あたしはGBNを知って、ミッションを知って、バトルを知っていった。

 そのどれもが楽しくて、こんな幸せを受け取ってもいいのだろうか、なんて思うほどだ。

 思えば思うほど、幸せの揺り戻しは重く、鋭く帰ってきた。

 

『きゃあ!』

『へっ、雑魚がよぉ! 大してビルドセンスもねぇ。かと言ってファイターとしての資格もこれっぽっち。そんなんで、俺様に勝てるもんか!』

 

 ブレイクデカール。当時、2年前に流行っていたチートツールの1つだった。

 ステータス強化はもちろんのこと、ガンプラの拡大縮小に分身。伸びる腕に曲がるビームと、やりたい放題できる理想のデカールだった。

 最大の特徴でもある足がつかない点も相まって、いろんなマスダイバーが己の悦に浸るため、無垢なダイバーたちを手にかけていた。

 そして、それは友達にも襲いかかっていた。

 

『やだよぉ……もう……やだぁ……』

『ヒッヒッヒッヒ! そういう声が聞きたかったんだ! もっと聞かせてくれよ!』

『ッ! 離れろォ!』

 

 ブーストを最大まで吹き上がらせ、ブレイクブーストされたガンダムMkⅡを友達の元から引き剥がす。でも、ガンプラの性能も悪ければ、始めたてのあたしにマスダイバーを倒すことなんてできなくて。

 

『邪魔くせぇ! シネカスが!!!』

 

 画面が暗転して、気付けばロビーにいた。何が起こったのかも分からない。

 だけど、撃墜されて、友達を置いてけぼりにしてしまったことだけは分かってしまった。

 急いで出撃して、該当のエリアに行ったときにはもう、事が全て終わっていた。

 四肢がもぎ取られ、コックピットだけを的確に残し、ただ自分の悦の許す限りを相手に押し付けて。

 あたしは叫んだ。こんな理不尽あってはいけない。なくさなきゃならないって。

 でも、過ぎた時間は戻らないように、過去の傷は治らない。

 友達は、その日以来、GBNにログインすることはなかった。

 

『これが、ブレイクデカール……』

『そうだ。よかったなぁ、そいつがあれば何でもできる』

『……初心者狩りを殺すことも?』

『余裕だろうなぁ。だが、アンタのそれは、ヒーロー願望でもなんでもねぇんだろう?』

『そうだよ。これはあたしの、復讐』

 

 目には目を。歯には歯を。そしてブレイクデカールにはブレイクデカールを。

 黒いフードにかぶった男に渡された、ブレイクデカールを元に、あたしは覚醒した。

 ハイザックに狙撃用ビームライフルを持たせ、ハイザック・カスタムへと心変わりする。

 あたしは許さない。どんな相手だろうが、あたしの友達の、心を殺したアイツだろうが。

 

『ヒィ!』

 

 ブレイクデカールだろうがなんだろうが、全てを撃ち貫く恐怖の銃弾。

 ナノラミネートアーマーだろうが、VPS装甲だろうが、ブレイクデカールで強化された装甲だろうが、吸血鬼に対する銀の弾丸のように、あたしの狙撃で機体をバラしていく。

 

『や、やめてくれ! ください! 俺が悪かった! 俺がッ!』

『アンタはそうやって懇願した相手をどうした?! 同じ目に合わせてやる……ッ!』

 

 ブレイクデカールは装甲値を上げる。それを利用して、コックピット周辺を絶対に貫かないように何度も、何度も何度も何度もビームの柱を叩き込む。

 四肢は当然のように分断している。スラスターだってもう機能しない。そこにあるのはただ動かぬダルマ。

 エネルギーが尽きても、今度はビームライフルでコックピットを幾度となく叩きつける。楽なんてさせるもんか。恐怖で心を壊した友達に比べたら、無力だったあたしに比べたら、こんな痛み屁でもないでしょ。

 何度だってライフルで叩きつける。何度も。

 

 何度も

 

 何度も何度も

 

 何度も何度も何度もッ!!!!

 

『やめないか』

 

 叩きつけているライフルが強靭な力で抑えられる。

 怒りの矛先を変える。それは紺色の機体だった。

 AGE系列を集結させたその見た目には、見覚えがあった。

 個人ランキング1位。不動で無敵のチャンピオン。クジョウ・キョウヤその人が駆ける機体だった。

 でもあたしの怒りの、復讐の前にはそんな些細なこと、どうでもよかった。

 

『離して! こいつは!』

『彼がどのようなことをしたかは分かりかねる。だが、君のやっていることは度を超えている!』

『うるさい! あたしの、友達の何が分かるっていうの!!』

 

 復讐は何も産まないと言うらしいが、そんな戯言どうでもいい。

 復讐をすればスッキリする。それでよかった。それっぽっちの薄っぺらで行動理由で、十分だった。

 

 チャンプはその剣を抜いた。

 あたしはたった1人の、やめていった友達の騎士だとしたら、チャンプは。クジョウ・キョウヤはダイバーみんなの騎士だったと思う。それが例え、マスダイバーだったとしても、守るべき相手だと言って。

 一瞬の出来事だった。刃は襲いかかり、あたしのハイザックをズタズタに引き裂いた後、地面に倒れたハイザックのコックピットにドッズライフルを突きつける。

 

『どんな理由があろうと、ブレイクデカールを使うことを許せない』

『そいつだってブレイクデカールを使ってる! なのになんであたしだけ?!』

『私は一方的に人を恐怖に叩きつけるやり方を、良しとはしない』

『だったら、そいつだって同罪で!』

『話は後で聞く。今は、引き下がってくれ……』

 

 ドッズライフルはあたしの、コックピットを貫通する。

 ごめん。あたしは、いつまで経っても……。

 どんな力があっても、ブレイクデカールを使っても……。

 

 ――無力なまんまだ。




実りて堕ちて、ただ朽ちるだけ


◇ミワ(赤砂)(緋いスナイパー)
出典:ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ(守次 奏様作)
本作の時系列的には、
『リビルドガールズ』がELダイバー争奪戦を始める2週間ほど前なので、
まだリリカちゃんが当然GBNを知らない時期。
故にミワお姉ちゃんが傭兵稼業で荒くれていた時期とも言う。

ミワちゃんはモミジのことをできる狙撃手だと認定している。
けれど直接顔を合わせたわけではないけれど、
彼女自身、追い詰めたモミジに対しては強い警戒心を抱いていることだろう。


◇クジョウ・キョウヤ
出典:ガンダムビルドダイバーズ
言うまでもなくチャンプ。個人ランキング1位のやべぇやつ。
今回は巡回中にモミジが初心者狩りを襲っているところを発見して止めにかかっている。

(2021/01/08 20:14改稿)
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