感情の冬場になっても、きっと春は来る
弱さは罪。誰かが言った言葉だけれど、きっと間違いではない。
多かれ少なかれ。いや、必ず強いものが正義であり、弱いものは敗者になる。
そんな世の中は間違っている。正しくない。そうやって弱い犬が吠えたとしても、事実は強者に塗りつぶされて消える。
その日、あたしがクジョウ・キョウヤに会うことはなかった。
いや、その日限りの会話だったからこそ、あたしは初心者狩り殺しを続けたし、彼も恐らくマスダイバー狩りをしていることだろう。
だから彼にもう一度復讐する機会があった時は、酷く安心した。
有志連合が結成され、マスダイバーを根絶することを決意した日。あたしもまた、ブレイクデカールを配布していた男からのメッセージに返信していた。
後に、第一次有志連合戦と呼ばれる、有志連合VSマスダイバーの戦いだった。
有志連合を迎え撃つために、あたしは慣れない宇宙で隕石に身を隠して、狙撃用ビームライフルを構える。
ブレイクデカールがGBNに与える影響が大きいことは知っていたし、すでに無視できないレベルの傷跡となって、ゲーム内を侵食していた。
あたしもその原因の1つだし、あたしが行っているブレイクブーストである、何でも貫通のスキルは試したことはないけれど、時空に穴を空けることだって可能だろう。それをガンプラが願えば、あたしが思えば、どうとでもなる。
正直、もうGBNがめちゃくちゃになっても、どうでもよかった。
だって、友達は塞ぎ込んで家から出てこなくなってしまったし、ガンプラだって違法行為に手を染めてしまった。もう取り返しがつかないんだ。行き過ぎた復讐は戻ってこれなくなる。戻ってくる気もなかった。
あたしはただ、あいつに復讐できれば、それでよかったのに。
憎しみは連鎖する。初心者狩りに対して。そしてそれを止めたチャンプに対して。
そして、奴らはやってきた。
『ハハハ! 壊れても復活する! ブレイクデカール最高だぜェ!!』
『クソッ! こいつらぁ!』
戦闘は始まった。圧倒的な質でブレイクデカール機を殲滅していく有志連合だったが、傷ついてもすぐに元通りになるマスダイバーたちの前に、苦戦を強いられていた。
カチリ。トリガーを引き抜いて、あたしは1機1機貫通弾で仕留めていく。
『スナイパーだ!』
『俺が前に出る!』
『……無駄だよ』
いくらシールドを構えても、Iフィールドを展開しても、その狙撃は一撃必中の弾丸。
前に出たって、どこに居たって、あたしの狙撃は必ずコックピットを撃ち貫く。
『し、シールドを構えていたのに?!』
『Iフィールドがぁああああああ!!!!!!』
便宜上モブを倒していたって関係ない。あたしはチャンプを倒したいんだ。チャンプを倒して、あたしが正義であることを証明しなくちゃいけない。
あたしのためにも、そして友達のためにも。
あの行為は間違ってなかった。どんな理由があっても、あたしの友人をバカにしていいはずがない。あんなにも、惨たらしく傷つけられていいはずがない。
『チャンプがいたぞ!』
『囲んで叩け! チャンプと言っても、俺たちの相手じゃねぇ!』
どこだ。センサーを確認してチャンプがいる場所を探す。
どうやら先頭集団にいるらしく、第二波による攻撃が行われているみたいだった。あたしも援護射撃という形で、トリガーを引くが……。
『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』
『龍虎狼道!!』
2つの閃光によって、前衛は消滅。そのスキに資源衛星の中へと入っていってしまった。これでは、狙撃なんてできるわけがない。
あたしは、迫りくる有志連合の機体を1機ずつ狙撃していきながら、物思いにふけっていた。
もしも、友達がGBNを続けていれば、どんなに楽しい出来事が続いていたことだろうか。
先にDランクになってしまったあたしだけど、友達がDランクになっていたら、一緒にフォースを組んでフェスに参加しても良かったかもしれない。
最近ではベアッガイさんフェスなんてものもあったらしく、遊園地みたいな期間限定ディメンションにはたくさんの人と楽しみが広がっていて。
笑顔は伝播していく。楽しいことがあれば人は喜ぶし、心が浮つくだろう。
きっとあの子もオタクだからベアッガイさんを見たら大喜びするのだろう。あたしでもよく分かる可愛さだし、一緒になってはしゃぐんかもしれない。
そこに一切の淀みはなくて、初心者狩りなんていなくて、ハッピーな出来事がたくさん、いつまでも続く、そんな夢物語があったんだ。あるはずだったんだ。
『それなのに……ッ!』
幸せは脆いものだ。悪しき者のせいで、1つヒビが入れば、ガラスみたいに、ウィルスみたいに拡散していって崩壊が止まらない。
たったひとつの出来事だったのに。たったひとつの……ッ!
『狙撃手だ! 9時の方向!』
『マスダイバー許すまじ。慈悲はな……っ!』
『うるさい。少し黙ってて』
慈悲なんかあっちゃいけない。求めてはいけない。だってそうでしょう。あの初心者狩りにだって、慈悲はなかったんだから。
『装填スピードが、早すぎる!』
『こいつ、化け物クラスのエイム力か?!』
『全力で動け! 狙撃されるぞ!』
だからあたしにもあっちゃいけない。慈悲なく、淡々と。業務的に……。
『捉えたッ! うぉおおおおおおお!!!!』
ライフルを持っていた右腕が切断されても。
『バカ野郎! そいつらは!』
『遅い』
蘇る。突きつけたライフルの先のコックピットを貫く。
『複数で攻めろ! こいつは俺らで食い止める!』
何度斬り裂かれても、復活してライフルを、サーベルを振るう。
『こいつ、強い!』
『強くなんかない……』
『は?』
強くなんかない。だってあたしは無力なんだから。
無力なあたしはどうやっても友達を救えない。伸ばそうとした手は、途中で途切れて目の前が真っ暗になる。
弱さは罪。ならば、弱者はどうやってたった1人を守ればいいのさ!
『あれは、ビグザムか?!』
『あんなでかいの、勝てるわけがッ!』
『拡散ビームだと?!』
枝分かれしたビームがフィールド全体に拡散する。
宇宙なのにも関わらず、紫色の雷が落ちる。そして、宇宙が斬り裂かれる。
あぁ、これはラグナロク。終焉だ。
『さようなら、嘘っぱちの世界。偽りのエデン……』
黒いビグザムの、恐らくブレイクデカールを配布していた男がGBNをそう例える。
そうだ。そうなんだよ。こんな世界嘘っぱちで、何もかも偽りで。
でないと……。
『……っ。ガンプラが、勝手に?!』
気付けば操縦が効かず、勝手にガンプラが動き出していた。
なにが、どうして。どうなってるの?!
黒いビクザムが出てきてから、ガンプラの制御が効かなくなった。ならあれが諸悪の根源?
『クソッ! こいつッ!』
コックピットを貫かれても、修復される。
『何度だって!』
何度でも
『足止めさえできれば、チャンプが!』
何度も、何度も。
『こいつは俺たちが引き受けます! だから!』
何度も何度も何度も
まるで、同じことの繰り返し。
初心者狩りが友達にやったように。
あたしが初心者狩りにやったように。
そして、有志連合があたしにやるように。
『嫌だ……』
嫌。
『だったら止めてくれ!』
出来たらそうしてる。
『これが、ブレイクデカール影響か!』
違う。これは罰だ。
罪には罰を。弱さには裁きを。あたしには、無力さを。
何度も何度も打ちのめされていく内に、戦闘は終わっていた。
守るべきものもなく。倒すべき相手もいなく。ただただ自分の中の無力さに塗りつぶされていって。
『捉えた! これでッ!』
『嫌ぁああああああああ!!!!!!!』
いつしか、接近戦。格闘戦闘ができなくなっていた。
近づけばあたしの心が打ち砕かれる。ビームで焼かれて、剣で斬り裂かれて、その拳でへし折られる。
あたしは、第二次有志連合戦が始まる数週間前にGBNをやめていた。
◇
「あとから聞いたんだ。ELダイバーが第一次有志連合戦に参加していて、バグを収束させたのも彼女だって」
あたしはELダイバーに友達を壊された『ことにした』。
でないと、自分の心が粉々に割れてしまうかもしれないから。
「でも、元はと言えば初心者狩りが悪くて」
「多分そう。でもあたしも悪い」
あれからチャンプには会えていない。どうせ忘れてると思うし。
だったら、そのまま交わらない方が、きっと幸せだ。
ちびっこを助けたいって思いは尊重したい。だけど、奪われた友達は戻らない。無力なあたしに裁きを与えたELダイバーに合わせる顔がない。
「だからあたしのことはほっといて。ちびっこなら、2人で」
「……なんだよ」
ハルが珍しく怒りを伴う声を発する。
それは、あたしが無力だから。力がないあたしに失望して……。
「たった。たったそんなことで、セツを見捨てるの?!」
「……たった? あたしには、そのこれっぽっちが大きくて!」
「たったそれっぽっちだよ! 無力だなんだって言って、自分が傷つきたくないだけじゃん!」
そんなの……。
「そんなの当たり前じゃん! 誰だって傷つきたくない。だからELダイバーの、セツのせいにすることにした! そうした方が楽だから!」
「じゃあ、なんでセツとあんなに仲良くしてたのさ」
それは……。
考えても見れば、あのときに。セツがELダイバーであることを告げたその日に、フォースをやめてもいいはずだった。
なのに、あたしはどうして偽物の笑顔でも、セツの、みんなと一緒にいたんだろう。
「ホントは、ELダイバーとか関係なかったんでしょ?」
「それは……」
出会ったのはほんのこれっぽっちの偶然だった。
ハルと、ナツキと出会ってなかったら、きっと会うことのなかった存在。
「楽しかったじゃん。みんなといるのが」
「あたしは……」
『あたしのZも動いてるよ! ほらほら!』
あたしは夢を見ていたかった。
悲しみも苦しみもない、ただ幸せで笑顔に溢れた友達と一緒に過ごすGBNを。
大切な友達と、バカみたいにはしゃぎながら、それでも楽しい日々を。
「楽しかった」
ポツリ。言葉が口から漏れていく。
無力なあたしでも守れる、ハッピーな生活を、あたしは夢見ていた。
「もう一度言うよ。わたしたちは、セツを取り戻すためにモミジが必要なんだ」
あたしは、1人なんかじゃなかった。
夢を見る人が1人じゃなくて、2人も、3人もいるなら、それは現実。
あたしの夢は、もうすでに叶ってたんだ……。
集団幻覚とか言われても知らんぷりしてやる。
でも、たった3人じゃ足りない。もっと。もっと欲しいんだ。
「あたし、弱いよ?」
「どの口が言ってるの?」
「流石にそれは無理があるよ、モミジさん」
「は?」
「ん?」
「え?」
間抜けな顔を3人で晒して、誰が吹き出したか。もしかしたら全員だったかもしれない。派手に笑い合って、同時に涙も出てきて。お腹を抱えていっぱい、いっぱい笑い合って、あたしは思った。
「セツを、助けよう」
「待ってたよ、その言葉」
繋がれた手は暖かくて。きっとわだかまりがなくなるわけじゃないけれど、あたしが一方的に思っている勘違いなら、払拭できるはず。この3人。いや、4人となら。
ねぇ、ユカリ。あたし、友達ができたんだ。
今度遊びに行くからさ、一緒に遊ぼうよ。GBNで。
やがて落ちた種が芽吹くように
情報アップデート
◇アサカ・アキナ / モミジ
モミジは元マスダイバーである。
オタク友達であったユカリに誘われ、GBNを始めるも初心者狩りに遭い、
全ての初心者狩りに憎しみを持つようになり、ブレイクデカールに手を染めた。
使っていたブレイクブーストとしては、
センサーへの認識阻害、全てを貫通させる銃弾程度で、
エイム力に関しては『自前』である。
元々フルダイブ型のFPSをやっていたり、天性の才能があったり。
世が世ならプロゲーマーとして戦っていけるレベルにはエイム力が優れている。
また、苦節あってGBNに復帰した理由は、引きこもりになったユカリに、
「GBNは楽しい?」と言われたことがきっかけ。
それからバトルスキャンを完成させ、GBNへとログインすることとなる。
初心者狩り「ダイ」に加担していた理由は、単純にBCの報酬が多かったのと、
ナツハル戦後に後ろからダイたちを撃墜させるつもりだったから。