ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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その出会いは、振り子のように


第30話:冬の悲鳴。幸福と振子と

 そこにいたのは茶色よりの黒いポニーテールを頭に結んで、赤い瞳がこちらを見ているような少女。

 腕を組んだ彼女の胸元は寄せられていて、見るものが見たら2度見するぐらいの豊満さだ。

 そんなわたしたちの知り合い「ちの」がたまたまカフェテリアに姿を現したのだ。

 

「ちの、なんでここにいるの……?」

「そーだ。あたし、あんたに聞きたいことがあるんだけど!」

 

 食って掛かるような勢いを見せるモミジだったが、奥の席にいたわたしが彼女を羽交い締めにしてなんとか抑えることに成功した。

 

「あはは、大変恨まれてるみたいだねー」

「……その感じ、やっぱりちのちゃんも知ってたの?」

「長い話になりそうだから、ちのも相席していい?」

 

 ナツキの許可を得たちのは席に座ってから、店員のNPDにミルクを注文する。

 その間もモミジの視線が痛かったようで、乾いた笑いだけがわたしたちの席で響く。

 

「さて、何から話そっか」

「まず最初に。あんたはちびっこの状況を知ってたの?」

 

 いつの間にか手元にあったミルクをストローから吸い取って一言、ちのは言う。

 

「うん、知ってたよ。途中からだけどね」

 

 知ってたなら。公の場であること、対面席であることを除けば、きっとモミジは胸ぐらをつかんで怒りをぶつけていたのだろう。

 だけど、彼女はいい意味でも、悪い意味でも大人だ。この場合は静観せざるを得ないと、拳を強く握って奥歯を噛む。

 

「セツに、何があったの? あんなフォースに入らされたんだもん、何かあるよね」

「まず、ごめんなさい。ちのが無力だから……」

 

 頭を深々と下げて、彼女は謝罪の言葉を口にする。

 モミジもそれを見て、1つため息をつくと、頭を上げてと頭を叩く。てしてしと叩かれたのがちょっとだけ不満だったのか、頭を抑える。

 

「人が謝ってるのに、その態度はなくない?」

「そんなんじゃないし」

「じゃあどんなの?」

「別にちのっちは無力じゃないってこと。じゅーぶんつえーじゃん」

「ちのっち……うん、ありがと」

 

 愛称で呼ばれたのかそんなに嬉しかったのか、口元をほころばせながら大きな目を細める。やっぱ嬉しかったんだ。こんな様子従業員の人たちに見られたら、きっとちのは顔を真っ赤に赤らめて爆発してしまうことだろう。

 ブンブンと頭を振って、緩ませていた表情を固く閉ざす。

 

「まずはちのとセッちゃんの話からさせて」

「そのつもり。どうせ長くなるんでしょ?」

「分かってるね。セッちゃんはさ、ちのの目の前に突然現れたんだ」

 

 数ヶ月前のことだったらしい。言うほど昔でもないが、それでも過去を懐かしむように目を細めて、彼女はセツとの出会いを教えてくれた。

 

 ◇

 

 セツは、今日もお姉様たちのために働いています。

 セツたちは働きアリのようなもの。各地に散開して、BCとパーツデータをミッションやなにやらでかき集めて、お姉様に献上する。それがセツを守ってくれる、条件だから。

 

 セツはその名前のように雪山で生まれたELダイバー。

 その時戦闘中だったちのお姉ちゃんがソロミッションで雪山に訪れていたときのこと。

 

『このフリーダム、やっぱ強いって!』

 

 機動戦士ガンダムSEED DESTINYで最も有名だと思われる、インパルスガンダムとフリーダムガンダムの一騎打ちを再現したミッションにその時のちのは挑んでいた。

 ネームドNPDであるキラ・ヤマトを模したフリーダムはその蒼き翼を翻して、ちのお姉ちゃんのG-にゃんドレスワルツの攻撃を躱し続けていた。

 

『切るしかないか』

 

 ハイマットモードのスピードには、こちらもスピードを。

 フルドレス・ユニットのブーストを吹かせて、ちのお姉ちゃんが空を駆ける。

 それを察知したフリーダムは、すぐさまハイマットフルバーストモードへと移行して、これを迎撃しようとするが、それが間違いであるとNPDの判断力では認識することもままならなかった。

 GNバスターライフルをフルチャージさせ、ハイマットフルバーストの威力を殺す。その際に吹き出した爆風が辺り一面を雪と煙で覆わせる。

 

『大盤振る舞い! 受け取ってよね、ソードビット!』

 

 GNフィールドでその身を守りながら、爆炎を斬り裂くように現れたのは数機のソードビット。

 移動手段は封じる。フリーダムの羽根を、足を斬り裂かれた自由の翼は地へと落ちていく。そして、リロードが完了したGNバスターライフルを構えて、トリガーを引く。

 

『これでグッバイ!』

 

 放たれた桃色の閃光は地に落ちたフリーダムを溶かし切る。そこに残っていたのはバスターライフルによって地面とフリーダムの残骸だけだった。

 

『BATTLE ENDED!』

『ふぃー』

 

 ミッション報酬を確認しながら、どうせなら雪山を散策しよう、なんて考えたのがセツとの出会いのきっかけだったのかもしれない。

 地上に膝足立ちになったG-にゃんドレスワルツは右腕を経由して地面に降り立つ。

 踏み鳴らせば、ムギュ、という雪が圧縮される音がちのの耳に入ってくる。

 

『あ、そうだ。ガンスタに投稿しよっと』

 

 スクリーンショット機能でフリーダムを落としたよ! みたいな投稿をするためにファインダーを覗いたとき、1人の少女が隣で表示された画面を覗き込んでいた。

 

『お姉ちゃん、何してるの?』

『んー? 写真撮ろうかなーって……』

『ん? どうしたの、お姉ちゃん?』

 

 セツは所謂迷子だったの。『火力が好き』という思いから生まれたセツが現れたのは戦場。なんとか逃げ惑っていたら、いつの間にか他のディメンションにつながっていたらしくて、雪原をたった1人で歩いていた。

 そしたら誰とも知らない声を聴いて、その場所に歩いてきたらちのお姉ちゃんに出会った。

 お姉ちゃんは、ビクリと固まって、しばらくフリーズしていた。凍っちゃったのかな? なんて思ったけれど、理由は別だったの。

 

『か、かわいい!!!!!』

『ひゃうっ!』

『真っ白な服に、茶髪のサラサラヘアー! ちゃんとちっちゃいし……』

『お姉ちゃん……?』

『はっ!』

 

 ガンプラさんも『お嬢、何やってるのよ』と呆れ気味の声が聞こえてくる。

 この声は、確か歩いている途中に聞こえてきた声だったはず。この子が、自分をここに連れてきてくれたらしい。

 

『どうしたの? 迷子?』

『わかんない。気付いたら変なとこにいて、逃げてきたらこのガンプラさんの声が聞こえて』

『もしかして、ELダイバー?』

『なに、それ?』

 

 それが、ちのお姉ちゃんとの出会いだった。

 それからセツという名前をもらったり、ELバースセンターでGBN登録の手続きを済ませながら、ちのお姉ちゃんがリアルで活動するための身体を作ってくれたり、それはもう忙しかった。でもなんだか1人じゃなくなって嬉しかったんだ。

 でもそんな幸福にだって、振り子と同じように揺り戻しはやってくる。

 

 やっと完成したガンダムダブルディバイダーの試運転のために、野良のメンバーでミッションに挑戦したときだった。

 火力が好きという感情から生まれたのなら、好きなものはなんと言っても火力。それ用に作ってもらったこのガンダムダブルディバイダーは両腕にハモニカ砲という全38門のビーム砲を備えた超強いガンプラ。撃ちたくてウズウズしてて、ついにこの日が来たんだ!

 両腕を構えて撃ち放ったハモニカ砲は、最高に気持ちよかった。生きてるって感じ。敵は殲滅できたし、ミッションもクリアしたんだけど、その後が悪かった。

 

『あぶねぇだろ! フレンドリーファイアする気かよ!』

『ごめんなさい、お兄ちゃん。セツ、そんなつもりはなくて』

『ったく。俺帰っから』

 

 お兄ちゃんは言った。フレンドリーファイアをするつもりかと。

 だから今度はハモニカ砲を撃たずに、ビームサーベルとビームバズーカだけで戦おうと思った。

 でも、今度はミッションを失敗して……。

 

『その腕のディバイダーは飾り?! 撃てる時に撃たなくて、何がダブルディバイダーよ!』

『ごめんなさい……』

 

 じゃあ、どうすればよかったの?

 ハモニカ砲を撃てばフレンドリーファイアを気にされ、使わなければ飾りだと言われてしまう。

 セツは。セツはお荷物なの?

 

『おかえり、セッちゃん! 今日のGBNはどうだった?』

『……うん、楽しかったよ!』

 

 それでも、ちのお姉ちゃんに相談しちゃいけない。

 だって、そうしたらちのお姉ちゃんがやってることの邪魔をしてしまう。

 ちのお姉ちゃんを困らせてしまう。ちのお姉ちゃんを、怒らせてしまう。

 セツは。セツは……。

 

『あんたがELダイバーね?』

『え?』

 

 それは突然の出来事だった。GBNにログインして、ソロミッションを終わらせた後ロビーで待っていたのは数人の女性と、見覚えのある女の人だった。

 

『この子でいいの?』

『えぇ。もう情報は仕入れ済みよ』

『お、お姉ちゃんたちは……』

『こっちに来なさい!』

 

 お姉ちゃんたちに腕を引っ張られると、誰もいない路地へとやってくる。

 そしたら、お姉ちゃんが地面にセツを押し倒した。

 嫌な予感は、していた。

 

『お、お姉ちゃん……?』

『ELダイバーって、気持ち悪いのよ』

『え?』

『ガンプラの声が聞こえるって調子に乗っちゃってさ』

『あたし、そのELダイバーとかいうチーターにやられたのよ?!』

『あたしは攻撃しようとしたら、避けられて撃墜! 理由はガンプラの声が聞こえたから、ですって! ふざけるのも大概にしなさいよね!』

 

 同調する声がお姉ちゃんたちを昂ぶらせる。

 

『セ、セツは何も……』

『ELダイバーってだけで化け物なのよ!』

『化け物はおとなしく、消えなさい!』

 

 ヒールの角が痛い。踏まれる痛みが身体を鋭く刺す。集団で暴力を振るわれている。

 痛い。痛いよお姉ちゃん。誰か助けて。誰か。

 なんでセツがこんな目に合わなきゃいけないの? セツ、何もしてないよ?

 

『化け物がッ!』

『あんたさえいなければ!』

『マスダイバーが、ふざけんな!』

 

 化け物? チーター? マスダイバー? セツはそんなんじゃない。セツはちゃんと人間で……。

 

『プラスチックの身体してるくせに!』

 

 それの。それの何がイケないの? ちのお姉ちゃんが作ってくれた身体の、何がダメなの?

 それもこれも、全部セツが人間じゃなくて、化け物で、チーターで、マスダイバーってものだから? わかんない。わかんないよぉ!

 

『あんたたち、何やってるの?』

『お、お姉様……っ! これは……』

『お姉様に意見するつもり?! 恥を知りなさい!』

 

 助け舟が、やってきたように見えた。

 現れたのは蛇柄のしっぽを身に着けていて、鋭い目つきがセツを睨みつける二人組。

 

『お姉様! こいつはELダイバーなんです!』

『……ふぅん。あなた、名前は?』

 

 首をふるふる振って断ってみせたけれど、それがご機嫌を損ねたらしい。ヒールで顔面を踏みつけられる。

 

『もう一度言うわ。あなた、名前は?』

『セ、セツ。セツ……っ!』

 

 今度は蹴り飛ばされて、身体に地面が少しこすれる。

 この蛇のようなお姉ちゃん。いや、お姉様と呼ばれた存在。セツは、彼女に恐怖という感情を抱いていた。

 

『私たちのフォースに入りなさい』

 

 こ、断ってはいけない。本能的に、直感的に、第六感が告げる。ここで断ってしまったら、もっとイケないことになってしまう。どんなことをされるか分からないけれど、背中のビリビリとした感覚が、早くYESを口にしろと言っている。

 嫌だって言いたい。言いたいけれど、言わざるを得ない。言わなきゃ、確実な『死』が待っている。そんな気がしてしまったんだ。

 

『入る。……っ! 入ります! ですから、セツに乱暴しないでください!』

『……楽しくなるわね、セツ?』

 

 それが、ちのお姉ちゃんと出会ってから、フォース「オリンポス」に入るまでのセツのちっぽけですぐに終わってしまう歴史だった。

 

「セツ、2週間後にフォース戦をするわ。あなたも出なさい」

「はい、お姉様……」

 

 セツは、どうすればよかったの?

 火力が好きってだけだった。ちのお姉ちゃんが好きってだけだったのに。

 どうしてこんなにも胸の奥がモヤモヤとしているの? 沈むみたいに重たいの?

 ハルお姉ちゃん、ナツキお姉ちゃん。でかお姉ちゃんに、ちのお姉ちゃん。

 心配させたくない。今度会ったら精一杯の笑顔を見せよう。だってそれが、セツにできるこの人生で初めてついた嘘なんだから。

 

 ◇

 

「酷い……」

「あいつら、そんなことまで」

「ちのも、オリンポスに入ってから知ったから、止められなくて」

 

 それがセツの全てであり、今なんだ。どんなに苦しくて、辛い思いをしてきたか。

 ちのも3桁のランカーとは言っても、フォースのリーダーだったとしても、みんなの身の危険がある以上、迂闊に動くことすらままならない。ちのの、上に立つ人の気持ちは十二分に分かった。だけど……。

 

「あたしは納得できない。それでホントにいいと思ってんの?!」

「よくないよ。だけど、ちのが突撃したらみんなまでに迷惑を掛ける。フォースのみんなだって、ちのの家族みたいなものなんだから」

「……ちの。わたしたちとアライアンスを組まない?」

「どういう、こと?」

 

 ちのだってセツ奪還の機会は伺っている。だからこうしてわたしたちを探しに来たんだ。

 

「そっか! アライアンスを組めば、セツ奪還戦の成功率が高まる!」

「待って待って。話が分からないんだけど……」

「あたしら、メデューサ姉妹んところに喧嘩売っちゃったんだよね」

「……はぁ?!」

 

 それはちのから聞いた中では最も耳をつんざく声だったと思う。

 驚きで目をまんまるとしながら、驚きついでにわたしから追撃を行う。

 

「でも戦力差は加えて向こうのアライアンスを含めて1対50。もっとになるかも。だからちののフォースの力を借りたい。どうかな?」

「どうかなって……。バカルテットって、ホントみたいだね」

「うぅ……。でもどう? ちのちゃんたちなら戦況をひっくり返すまでは行かないけれど、対等には渡り合えると思う」

 

 その豊満な胸の下で腕を組んで、考える素振りをしている。そんなことをしなくたって、ちのの返事は変わらないように思えるけどな。でもダメ押しだ。もうひとつ気になることがあるなら追撃してあげよう。

 

「アライアンスってことにすれば、最悪わたしたちが無理やり参加を要求したって言い張れる」

「……いいの、それ」

「大手を振って参加できないなら、そのぐらいのことはするよ」

 

 今度は眉間にシワを寄せてウンウン唸ってみせたけれど、最後に彼女はニヤリと口元を歪ませる。交渉は、成立したみたいだ。

 

「ちのたちも、その戦争に加えて。ちのも、セッちゃんを守りたいって気持ちは本当だよ!」

「うん。その言葉を待ってた」

 

 わたしたち4人はセツ奪還戦のためにアライアンスを結んだ。

 1人が2人に。2人が3人に。そして3人はたくさんに広がっていく。

 1+1が10にも100にもなるように、わたしたちの戦争、わたしたちの『ELダイバー争奪戦』は幕を上げた。




わたしたちのウォーゲーム。
わたしたちの『ELダイバー争奪戦』


情報アップデート
◇セツ
セツは元いじめられっ子である。
『火力が好き』という想いから生まれたセツは、
ちのに拾われ、正式にちのが後見人として引き受けられていた。

だがダブルディバイダーというピーキーすぎるガンプラに、
多かれ少なかれ、何かしら悪い感情を抱いてセツはパーティから追い出されていた。
不運は重なるもので、オリンポスに目をつけられたセツは強制加入。
ちのもその事実を後から知ることとなった。

モミジ曰く、あのちびっこはエンカウント運が極端すぎる、と言われていたり。
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