ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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便利な男たち その1


第31話:春の修行。虎狼と恐怖と

「でも、ちの思うんだ。今の春夏秋冬じゃ勝てないって」

 

 先輩3桁ランカー様からの辛辣なお言葉を頂いたわたしたちは胸の奥の方をキューッと締め付けられながら、呻く。分かってた。確かにわたしたちじゃ力不足だって。

 Aランク以上の実力を持つモミジの狙撃テクニック。

 ただではやられないと言わんばかりに諦めの悪さとビルダーとしての腕が高いナツキ。

 チャージビットというオリジナルの兵装を有したわたし。だけど、それだけじゃ足りないとのことだ。

 

「チームワークは確かに良かったよ。でも個々の能力が……」

「……ちのちゃん、ハッキリ言って」

「いいの?」

「うん。セツちゃんを守るためだから」

「……低いかな」

「「「うっ!」」」

 

 新進気鋭だったとしても、果たしてそれは強いということを意味するか。

 新しければ強いという理由はどこにもない。むしろ新しく始めたからわたしたちはまだまだひよっこなのだ。初めてのフォース戦やミッションで浮かれていたけど、敗北が多いのが普通なんだよね。

 

「ちのとしては、ここまでよく戦ってきた方だと思うけどー」

「けど?」

「配信でも言ったけど、3人はまだまだ伸びしろがある。それってすごく嬉しいことなんだよ」

「伸びしろ、あたしらの?」

「そう。モミジちゃんはもっと狙撃テクニックを磨けるし、ナツキちゃんもハルちゃんも、もっと強くなれる」

「強く……」

 

 ナツキが拳を強く握って、心を力ませる。

 妙に暗い顔で放ったその言葉に、不穏さと過去への想いが入り混じっているような。

 また、あの顔だ。過去のわたしとそっくりな、無力さを絵で描いたような顔。

 笑顔で口元を歪ませたら、元の表情に戻って、自分自身に勇気づけるように声を発する。

 

「どうやって強くなればいいかな?! やっぱミッション連打とか?」

「ううん。それよりももっと効率のいい方法があるんだ」

「どんな?」

「タイガーウルフさんと、シャフリヤールさんって知ってる?」

 

 話には聞いたことがあった。時たま会うマギーさんにもその話はされたことがあったので。

 

 タイガーウルフ。ランキング5位の近接格闘フォース「虎武龍」のリーダーであり、自前で道場を営んでいるダイバーだ。

 なんでも強さに迷ったダイバーが道場を訪れて、鍛錬に励むことで人として、ダイバーとして成長できるという触れ込みらしい。

 そして相対する存在として、シャフリヤールというビルダーの存在も説明しなくてはならない。

 

 シャフリヤール。以前ナツキが言っていたけれど、ランキング3位のフォース「SIMURGH」のリーダーであり、GBN内で1、2を争う製作技術をもつ人孤姿のダイバーだ。

 「愛」をモットーに制作するガンプラは至高の逸品とされており、ガンプラビルダーの聖地「ペリシア」でも非常に高い評価を受けている。

 

 この2人は対称的であり、会うたびにいがみ合っているようにも見えるが、見る人から見れば「こいつらケンカップルじゃね?」だとか「喧嘩するほど仲がいい」とか言われてしまうほど、外部の評価は本人たちの印象とは違って逆転している。

 

「ちのっち、知り合いなの?!」

「マギーさん経由でね。ハルちゃんはタイガさんところで、ナツキちゃんはシャフリさんところかなーって」

「つまり、わたしが操縦を、ナツキは制作をってこと?」

「そうそう! ちのの見立てなら、ね」

 

 ちろりと舌を出して彼女は自分としては、という意見を口にしてくれた。

 

「あ、じゃー、あたしもナツキチについていくから」

「……2人で、なんだ」

 

 モミジがついていく。それ自体は別にいいんだけど、また別途で妙なモヤモヤがわたしの胸の奥を突く。モミジだって用事があるからそっちに行くだけで、そんな他意はないと思うんだけど。思うんだけどさぁ!

 当の本人はわたしの方を見てニヤニヤしてるし。あー、これはもう遊んでるわ、わたしで。なんかギャルムーブが強くなってる気がする。不満そうに彼女を睨んだら、こっそり一言。

 

(ハルのナツキチは取ったりしないってば)

 

 わたしの中で、モミジへの警戒度が一段回上がった瞬間だった。

 

 ◇

 

「はぁ、結局1人かぁ」

 

 一人ぼっちには慣れているつもりだったけど、こうして1人で行動するのなんていつぶりだろう。

 ……つい最近ぶりだ。思い出してみたらつい一昨日ぐらいに草原で黄昏れていた。

 キーンと中華風のエリアであるエスタニア・エリアの空をファインダー・ブレイブで飛行しながら、目的地であるフォース「虎武龍」の拠点を探す。

 事前にマギーさんから話を通しており、「アタシが口添えしちゃうわ!」とウインクして見せてくれたので、多分大丈夫だろう。

 街を見下ろした限り、本当に中華風というか、至るところに看板や美味しそうな食べ物屋、屋台などが点在している。

 改めて、GBNって広いなと実感させられるわけで。サーバーが1つ変わるだけで、こんなにも景色が変わる。まるで旅行している気分だ。いつかのトワイライト巡りを思い出させる。

 

「ナツキと一緒に来たかったなぁ」

 

 わたしの友達で、親友で、もっとそれ以上の、近しい間柄になりたい人を浮かべる。

 今頃バギーで砂漠を突っ切っているのだろうけど、モミジと一緒なんだもんなぁ。

 

「やっぱ不安だ」

 

 モミジ→ナツキ、みたいな構図はあまり思いつかない。

 だけど問題は、モミジがもしうっかり口が滑って、万が一にもわたしがナツキへ特別な感情を抱いているってことがバレたらどうしよう。そんなんじゃ翌日以降ナツキに顔向けできないし、恥ずかしいし。

 

「あームリムリ」

 

 そしたらわたしたちはそのままクラス替えなんてことになりかねない。

 ナツキに気持ち悪がられたら嫌だ。なんたって彼女とわたしは女の子同士なわけで。女子校ではそれが普通という話を聞くが、わたしたちの学校は共学だ。ナツキだってそういう事を気にすると思うわけで。

 でも、ナツキがそっち系もいける口で、わたしがナツキのことを好いているって気付いた時に、満更でもなかったり、赤面してくれたりしたら……。

 

「……ダメだ。これ以上考えたらダメ」

 

 わたしは予想以上にナツキのことを特別に思っているらしい。

 きっとファインダー・ブレイブに今の心境を聞いたら「お熱いことですね」とか「そういう妄想はできるんだね」とか散々言われていることだろう。だからわたしはそういうんじゃないんだってば。

 ハハッ、と軽く自笑してから、「虎武龍」の拠点の前でガンプラを下ろす。

 話は事前に通してあったものの、門番のネモとジムに誤解されながら、フォースネストの階段を登っていく。

 2人も話してみればいい人たちで、こんなわたしでもタイガーウルフさんに教えを請うと言ったら、修行は厳しいが、必ず身になると励ましてくれた。第一印象がそんなによくなかったものの、それもここを守るためだと思えば当然のことか。

 

 長い長い。クソ長い階段を永遠登らされながら、たどり着いたのは「虎武龍」のフォースネスト。

 黄色い道着と黒帯、頭を丸めて真剣に武術を極めている姿は道場に来たんだなーと、漠然と思ってしまう。

 先に進んでいくと、1人だけ見た目がおかしい獣人が1人。鍛錬に励むフォースメンバーを束ねるリーダー。

 全身に浅葱色の毛をまとい、黄色い特殊な道着を身に着けた、狼みたいな見た目の男性。その名もタイガーウルフ。通称タイガと呼ばれる「虎武龍」のフォースリーダーにわたしは頭を下げる。

 

「はじめまして。春夏秋冬のハルです」

「お前がハルか。マギーさんから聞いている」

 

 地の底から響くような声色はイケボ、というやつなのだろう。

 少しだけ声に、オーラに圧倒されながら、わたしは要件を伝える。

 

「格闘戦を、教えてほしいんです。タイガさんならそれができるって聞いたので」

「勝手にすればいい」

 

 は?

 いきなり突き放したような態度を取る彼に呆けたように口をあんぐりする。え、わたし今拒否られた?

 

「……と、言いたいところなんだが。マギーさんからその辺の事情も聞いている」

「それって、セツのこと?」

「あぁ。お前さんには、奥に秘めたたった1つの『覚悟』を感じる。だから1つ手合わせしてやる」

「あ、ありがとうございます」

 

 釈然としない拒否のされ方だったが、それはそれとして水に流すとしよう。

 今はタイガさんと1戦交える、という大きな壁を乗り越えるため、ガンプラを動かすためのフィールドへと場所を移す。

 形式はプラスティクスモード。要するに練習モードだ。ガンプラが破壊されることもないし、終われば元通り、というものだ。

 だから気がれなくかかってこい。胸を貸してやる、との話だった。

 

『あれってG-Tuberのハルだろ? 大泉って言われてる』

『なんで大泉?』

『さぁ?』

 

 ここでも浸透してるんだ。まぁいいや。今は目の前のことに集中しよう。

 相手はガンダムジーエンアルトロン。アルトロンガンダムの派生機であり、原点機である近接格闘能力をさらに発展させた、虎と狼を模した左右の肩アーマーが特徴的なガンプラだ。

 武器はたったの拳1つ。胸を借りるにしても、勝つ気で行かなきゃ。

 行こう、ファインダー・ブレイブ。

 

 まずは様子見のために肩のGNバルカンとハンドガン2丁を手に持ち、ビーム攻撃による連射攻撃を放つ。どれだけ実力があっても、すべての弾を避けることはしないだろう。そう思っていたのだけど、答えはそうではなかった。

 両腕を前に突き出してから、円の動きをするようにビーム一つ一つを無力化していく。もちろん彼のガンプラ自体にはビームを無力化するIフィールドなどは装備されていない。ただただ自分が極めた技で、攻撃を消しているのだ。

 

「前座なんていらないぜ! 俺が欲しいのはお前さんの強さだ!」

 

 全弾打ち消した後に、ジーエンアルトロンは前に足を強く踏み込むと、飛んでいたわたしのファインダー・ブレイブの真ん前にやってくる。

 とっさにハンドガンで守りの姿勢を取るものの、それは読まれていた。

 アッパーカットのようにファインダー・ブレイブの防御を下から上へ打ち上げ、右腕のストレートがわたしのコックピットめがけて飛んでくる。

 このまま下がって避けられるような速度じゃない。打ち上げられた両腕が戻ってくる前にコックピット判定によってわたしは負ける。早いけど、切り時はここだ。

 

「トランザム・紅桜!」

 

 瞬間。出力を通常の3倍にさせて、桜色のトランザムが起動する。

 最初はストレートを避けるためにやや後ろに仰け反りながら、ジーエンアルトロンの拳を足で蹴り上げる。縦回転したわたしのファインダー・ブレイブは牽制射撃によるハンドガンの連射。続けてハンドアックスモードへ移行させて、ジーエンアルトロンを襲う。

 

「トランザムの機動がスムーズだな」

 

 当然だ。ナツキと散々練習したトランザム。もはやわたしの手足のように動かすことができる。

 ビーム攻撃を打ち消した後、襲いかかるわたしにジーエンアルトロンは拳を振るう。イメージするのは少し前に動画で見たハンドアックスの動かし方。手首のスナップを効かせながら、流れるように水流のように連撃を叩き込む。

 だが、その全てがジーエンアルトロンには遠く及ばない。最小限のダメージに留めたタイガさんはまるで『そうさせるよう、わたしを操った』みたいにいつの間にか大きなスキを作り上げられていた。

 

「ほらよっ!」

 

 空中戦を制したのは、紛れもなくタイガさんのジーエンアルトロンだった。

 回し蹴りによって左肩のシールドもろとも、装甲を、フレームをへし曲げながら、わたしを地面に叩きつけた。

 フィードバックによる痛みを感じながらも、続けて落下してくる、流星蹴りに対しての答えは避けること。

 出力を吹かせて、ゴロンと1回転してから、着地したところにハンドアックスを投げつける。

 力の動かしでインパクト部分をずらしたジーエンアルトロンはさらに踏みつける攻撃を放つ。腰から抜いたロングビームサーベルを展開して、踏みつけようとする足の裏側を斬り裂く。

 

「っと。少し遊びすぎたか」

「はぁ……はぁ……」

 

 この人、本当に強い。恐らく胸を借りる、というのであれば間違いない存在ではあるが、勝つという気持ちを込めれば込めるほど、勝利が遠ざかっていくような感覚さえある。

 これが、トッププレイヤーの、実力……。

 

「そのトランザム。紅桜っつーのか? まぁ名前はいい。見たところ出力を絞って時間を延長させているな?」

「……正解です」

「だからこそ通常のトランザムよりもいくらか操作もしやすいし、扱いやすい」

 

 この人、ファインダー・ブレイブのトランザムの適性をすぐに見極めるなんて。

 文字通りこの「トランザム・紅桜」は通常の3倍と銘打っているが、いくらか出力を絞っており、その余剰分のエネルギーを制限時間延長へつなげている。

 

「お前さんの弱点はよーく分かったつもりだが、どうする。まだやるかい?」

「……負けるのは、好きじゃないかもしれない」

「そーかい。なら付き合ってやるぜ!」

 

 自分の中で芽生えた負けず嫌いを肯定しながらも、わたしは左右に機体を動かしながら、ジグザグに走行する。その先で待つのは足の先を失ったジーエンアルトロン。この速度で、相手も負傷している。ならわたしにだって勝機はあるはずだ。

 生き残っているチャージビットを4門解放し、ロングビームサーベルの鍔になるよう、ビームサーベルにエネルギーを注入する。

 

「これでっ!」

 

 地面を文字通り切り裂いて、溝を作り出しながら、接近する。

 それにタイガさんも気付いたのだろう。少し笑い声をこぼす。

 

「刀の鍔みたいに浮いてんのが、エネルギーを送ってビームサーベルの切れ味を増してるのか!」

 

 一歩下がって、タイガさんが型を変えると同時に、下から上への斬撃を繰り出す。そう、一歩下がったのはまるで攻撃の線が読まれたように最小限の動きで避けられたのだ。

 ジーエンアルトロンの肩アーマーが右腕に接続される。これは、まずいっ!

 

「これで、おしめぇだ!」

 

 コックピットを的確に貫いた攻撃によって、わたしの耐久値は0となった。

 

 ◇

 

「お前さんは、死を恐れすぎている」

 

 一戦交えたタイガさんから伝えられたわたしの弱点はその一言にまとめられていた。

 

「死を恐れてるって、そりゃ死ぬのは怖いじゃないですか」

「いや、そうじゃねぇ。みんな誰しも怖いのは同じだ」

 

 だがな。タイガさんはその一拍を置くと、わたしの心をえぐるような一言を下す。

 

「お前さんは、死を身近で体験している」

「っ!」

 

 ビクリ。嫌な悪寒と、過去の記憶がゾクリと背中を走らせる。

 リフレイン。繰り返されるのは、あの日の記憶。最高で最悪だったあの1日の、思い出と言うにはあまりにも凄惨すぎたあの日。

 

「死は、一人ぼっちにします。だから……」

 

 なんとか押し殺そうとしても、それでも漏れ出す言葉に、愚かだなと感じざるを得なかった。

 タイガさんに八つ当たりしても、意味がないのに。

 

「だがな。GBNの死は現実の死じゃない。ここではいくら命を落としても、何度でもリスタートできる」

「それは……」

 

 たかがゲームだ。でも目の前に広がるのは間違いなく現実なものに見えていた。

 ガンプラも、青空も、ナツキでさえも。だからちの戦でナツキが落とされた時に酷く心配したし、混乱した。ここはゲームなのに。そう口では思っていても、頭では理解してても、心は全く違う。

 

「コックピットだ」

「え?」

「ガンプラの死があるのなら、それはコックピットだ。無意識的にお前はそこへの被弾を恐れている。恐れすぎている」

「コックピット……」

「だから、残りの2週間でオレが仕上げてやる」

 

 それは、意外な協力だった。ちらりと横を見ると、頭を丸めた訓練生がわたしを歓迎してくれているのか笑いかけてくれた。

 

「い、いいんですか?」

「守ってやりたいんだろ、自分たちの仲間を」

「……っ! はい!」

 

 勇気は行動で示せ。誰かが言っていた気がするけど、もう忘れた。

 でもこれは至言でもあるだろう。わたしたちの運命はわたしたちが決める。

 4人で過ごす幸せな未来はわたしたちが必ず掴み取ってみせる。

 胸に刻んだ『覚悟』を『決意』に変えて、『恐怖』を乗りこなすために、わたしは一時的に修行僧となった。全ては、2週間後にセツを取り戻すために。




ハルの過去にニアミスしていく原作キャラ


◇タイガーウルフ
出典:ガンダムビルドダイバーズシリーズ
ここでは原作の設定は割愛。
ハルへの印象は良くも悪くもただの女子高生。
だが胸の中に多くて黒い物を1つ抱えているとも解釈している。
この闇に触れるにはもっとふさわしいやつがいるとも感じていたり。

あとは独自設定としてリライズ時では多少女性に慣れている、という設定もあります
あのタイガさんがいつまでも女性に慣れていないとは思えないので
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