ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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便利な男たち その2


第32話:夏の愛情。白狐と恐怖と

 ハルが「虎武龍」で熱く拳と拳をぶつけ合っているところを想像すると、少しだけおかしく思えてしまう。

 ハルに熱なんて言葉は似合わない。だって学校じゃあんなにぐっすりすやすや授業中に寝ているんだから。私もそうしたいところだけど、学業を疎かにするとただでさえ少ないお小遣いがさらに少なくなってしまう。

 

 さて、そんなモノローグはいいとして、今私とモミジさんはガンプラビルダーたちの聖地とされている中立エリアである「ペリシア・エリア」へとバギーを走らせている。

 理由はちのさんに指示されたビルダーとしての技術を高めるためだ。

 

「やっば、砂口ん中入った」

「口閉じてた方がいいですね、やっぱり」

 

 そうでなくともフィードバックにより砂利や砂の質感が尋常じゃなく不愉快という形で身体にこびりつく。非常に気持ちが悪い。

 帰ったらシャワーでも浴びたいけれど、このゲームにはそんな「服を脱ぐ」という機能はないし、なんだったらログアウトさえしてしまえば、元通りになるわけで。

 気持ち悪さに耐え忍びながら、私はアクセルを踏む。

 

「そいえば、ナツキチってビルドセンスいいよね」

「なに突然?」

「や、あたしもちょっとハイザックの改良したくってさ。スナイプだけじゃこの先生き残れんのよ」

「十分一線級だと思うけどなー」

 

 確かにこのゲームはスナイプだけじゃトップは取れない。チャンプやそれを追随する『ビルドダイバーズのリク』くんを見ていたら何となく分かる。

 このゲームは突き詰めれば接近戦が主流になってくる。何故か。ガンダム特有の対ビームコーティングやナノラミネートアーマー、GNフィールドなど、とにかく防御手段が豊富だ。ライフルの場合はビームや実弾と、あれやこれや弾を込め直すないし銃を変える必要がある。そのスキが、命取りなのだ。

 狙撃戦は狙撃戦で明らかに有利に働く時はある。でもそれはバレなかった場合の話。

 あくまで戦闘の花は接近戦でのビームサーベルの鍔迫り合いだとか、実体剣での一刀両断だ。狙撃や砲撃はそれをサポートするにほかならない。

 だけど、それを度外視すれば、モミジの狙撃の腕は他を圧倒するほどの腕前だと思う。

 トリガーを引けば必中。撃てばコックピットを爆破し、スコープを覗く姿はまさしく狩人。普段の印象とはまるで違う様子に、私たちよりも大人なんだなと言う印象を受けるわけで。

 

「あたしはそんなんじゃないよ。それより赤砂のミワとか傭兵メイドのルヴィーラとか、やべーやついっぱいいるし」

「化け物クラスと比べられても」

「そんぐらいしないとやってらんないってことよ!」

 

 まぁ、狙撃専門のモミジさんがそう言うならそうなんだろう。私にはどれも一緒な気がしてならないけれど。

 そして話題がなくなったのだろう。また沈黙が続く。私は運転に集中できるからいいけど、モミジさん結構おしゃべりな所あるし、やっぱ寂しいかなー。

 よし、こうなったらちょっと話題を振るとしよう。

 

「そういえばさ。この前ハルと一緒にガンダムベース行ったんだけどさ」

「ふーん。なんか買ったの?」

「聞いてよ! ハルったら未だにグフとグフイグナイテッドの見分けつかないんだよ?!」

「まじぽん?! 結構分かりやすいと思うんだけど」

「そう、それでね……」

 

 意外にもハルの話題は結構ウケたらしくて、モミジさんはその話に乗ってくれた。ありがとう、優しいなぁモミジさんは。

 

「でー……」

「思ったんだけどさ」

「うん」

「ナツキチってハルのこと好きなん?」

「ウェ?!」

 

 いきなり変な話を言ってくるもんだから、急にハンドルを左回転して横転しかけてしまった。なんとか持ち直したけど、危ない。

 冷や汗をかきながら、助手席に座るニヤニヤ顔を歪ませているモミジさんを一睨みする。

 

「図星かー」

「そんなことないですよ! いや、ハルは友達として好きですけど!」

「その割にはさっきからハルの話題がめちゃくちゃ出てくっけどなー」

「まぁ、話題に絶えないから……」

「ふーーーーーーーん。ならいーけどー」

 

 何だこの人。ハルがフォースからこの女をキックしようとか言ってきたのは、こういう好きとか嫌いとかそういうことを言うからだったからかな。確かに、今ならハルの心情が分かってしまう。

 含みのある言い方で、少し。というかかなり気になってしまうけれど。

 というか、図星とかじゃなくて。私はハルが心配だし、一緒に空を飛ぶって約束した友達だし、友達としてはちょっと変わってるけど好きだから構ってるだけで……。

 モミジさんの視点に気付いてまた睨む。

 

「なんですか?」

「んや。なーんも」

「そう……」

 

 走行するバギーの音にかき消されながら「脈アリかー」とさらっとモミジさんがつぶやいた気がしたけれど、私の耳には聞こえなかったし、何か言ってたとしてもツッコむのも面倒だし、やめた。

 そんなこんな話てたらいつの間にかペリシアについてたから、もうどうでも良くなったのもある。

 

 ペリシアは先程も言ったけど、ガンプラビルダーの聖地だ。

 そこら中に1/1スケールに変わったガンプラたちが立ち並んでいる。

 例えば水彩画のようにペイントされた旧プラのガンダム。

 例えば盛り盛りに火力武器を備え付けたにも関わらず、全体のバランスが精巧に計算されており、ある種の芸術品とも思えるターンXなど、あらゆる知恵と技術の結晶がこのエリアには至るところに飾られている。

 例えばそう、このユニコーンガンダムとシャンブロのジオラマも、その一つと言ってもいいだろう。

 

「これ、すっご」

「ですね。リフレクタービットとか、どうしてるんだろう?」

 

 浮いているリフレクタービットは透明な柱などもなく、なにもないのに浮いているように見えるのだ。

 でもよく見たら背景とくっついているみたいで、まるでそれは1つの騙し絵のようにも見えた。

 ガンプラの出来栄えも他とは桁外れにすごいし、傷つくユニコーンガンダムも悲しい戦争の被害者のように見えて。

 

「美しい……」

「私もそう思うよ」

「へ?」

 

 不意に男性の優しい声色が私の耳に入ってくる。振り向けばアルビノのように白髪に赤いメッシュが右に1本入った、色白のスーツの男性がそこにいた。うわ、普通にイケメンだ。

 

「おっと、すまない。シャフリヤールさんの作品に何か御用かなと」

「え、これがシャフリさんの? てことは、あなたが?」

「残念ながら違うよ。私はタイル。フォース『タイルドロー』のリーダーをしている。よろしく頼む」

「あ、はい」

 

 何気なく握手を求められ、それになんとなく対応してしまった。

 けど、タイルって名前、どこかで聞いたことがあるような……。

 

 ナツキもモミジも、恐らくハルやセツでも彼の存在は知らない。

 だけど、本編中で一度私たちは無意識の内に彼の存在を知っていた。

 個人ランキング76位のツワモノ『殺戮の天使』と呼ばれるヴァルガ旅行中に最後の最後でGNクラッカーを使用して私たちを亡き者にした、あの『タイル』であることを。

 でも恐らく私たちがその事実を知るのは、まだまだ先の話になるだろう。

 

「キミがマギーが言っていたナツキかい?」

 

 またもや声がした方向に首を傾ければ、白い狐っぽい顔とケモミミに目の下の青紫色のペイントが施された中東系の服装の男性だった。

 もしかしなくても……。

 

「今度こそシャフリヤールさん?」

「あぁ、そのとおりさ。私がそのシャフリヤール、その人だ」

「うおー! すっげー! マジモンのシャフリじゃーん!」

 

 パシャパシャとスクショを撮る姿は、間違いなく失礼に値するだろうと、全力ですみませんの謝罪をする。

 テンション上がってるからだけど、モミジさんみっともないからその辺にしてください……。

 

「あはは、容赦ないですね」

「有名税ってことにしておくよ。マギーからの紹介だ、丁重にもてなさないと失礼に値する。そこのカフェでお茶でもしないかい?」

 

 キミにしては珍しく友好的だな、なんてタイルが物申しているものの、それをスルーするシャフリさんは大物なのかもしれない。

 私たちはカフェテリアへと足を運ぶと、腰を下ろした。

 

「早速だ。データを見せてもらえると嬉しいな」

「はい。これがブルースカイのデータです」

 

 メニュー画面からブルースカイのデータをウィンドウに表示して、シャフリさんに画面を譲渡する。

 私にも欲しいと言って、タイルさんにも渡してみたけど、なにか気になることでもあったのだろうか。

 自慢ではないが、私のブルースカイは今まで作った中でも2番目に完成度が高いガンプラだ。基本的な処理はもちろんのことながら、潜水飛行や極地戦でも支障をきたさないような処理をしている。言うなればどこへでも使える汎用機体として仕上げたのが、このブルースカイだ。

 でも、シャフリさんはそれをバッサリと切り捨てた。

 

「これは駄作だ」

「え?」

 

 モミジさんが食ってかかりそうになるものの、もう一度冷静になって唖然とする私の代わりに反論してみせる。

 

「どうして、ナツキチのガンプラが駄作だって思ったん? あたし目線からでも、ブルースカイの出来栄えはすごいよ」

「あぁそうだね。ガンプラの出来栄えは素晴らしい。ここまでのビルドができるのなら、きっと並大抵の相手なら造作も無いだろう」

「なら!」

「だが、並大抵の相手なら、だ」

 

 ピシャリと、空気を切って捨てるような発言は、モミジさんでさえも口を挟むことができなかった。

 並大抵の相手なら。確かに黄昏への探求者というフォースは強敵ではあったものの、並大抵の相手と言われれば、そのとおりだった。アビスガンダムもそう。

 だけど、ちのさんはそことは一線を画するものがあった。

 

「キミはこのガンプラを確かに一線級で戦えるようにしている。それは間違いない。だが、このガンプラからはある程度の妥協を感じるんだ」

「……妥協、ですか?」

 

 コーヒーを一口飲むと、シャフリさんは言葉を続ける。

 

「愛だよ。まさしく愛が足りない」

「……愛?」

「ガンプラへの愛。このガンプラを世界一強くしたい。かっこよくしたい。かわいくしたい。理由や込める思いは様々だが、そこには等しく愛が存在する」

 

 シャフリさんはガンプラを評価する時に必ずと言っていいほど「愛」という単語を使う。それは話には聞いていたし、よくガンプラジャパンの雑誌で見かけていたから理解はしていた。

 けれど、私の作ったガンプラを「愛」という言葉で否定した彼の話は衝撃的なものだった。

 

「キミはGPDプレイヤーだっただろう?」

「っ……。なんで、それを……」

「ナツキチ、マジで?!」

「私も、そんな感じはしていたよ」

 

 シャフリさんに言い当てられた事実。それは紛れもなく本当だ。

 私は元々GBNの前身となったGPDのユーザーだった。中学生の頃、ガンプラにハマった私は当時下火だったものの、GBN発表前だったためか、多くの大会が行われていた。

 

「たまにいるんだ。GPD上がりのガンプラビルダーのガンプラに愛が足りない人が」

「それは……」

「キミは、本当は理解しているんじゃないか? まだこのブルースカイに納得がいっていない。または、GPD時代の機体に思いを馳せている」

 

 すべて、図星だった。

 壊れれば何度だって直せばいい。GPDプレイヤーの誰かが言ったことだが、それには並々ならぬ覚悟と自分なら完全に治せるという自信があったはずだ。

 だから何度でも壊れても、作り直せばいいと言えた。それは天才の領域。

 私は天才じゃなかった。何度も破壊されていく内に、心のどこかもひび割れていくような思いだった。

 作っても壊される。ならば手を抜いてもいいんじゃないかと。そう思うようになった。

 ある種の恐怖心。作っても作っても、壊されてしまう恐怖に私はいつしか震えてしまったんだ。

 

 そして、最も出来が良かった。私が一番愛を注いだガンプラは確かにある。

 いや、正確には『あった』が、正しい。

 

「だが、逆を取れば恐怖心を乗り越えられれば、キミは1つ成長することができる」

「恐怖心……」

「恐怖は人の可能性を閉ざす。こじ開けたいのなら、乗り越えることだよ」

 

 シャフリさんは最後に、乗り越えた先で待っていると、一言伝えて、その場を立ち去っていった。

 自分になにが足りないか。それが分かっているけれど、私にはそれを乗り越えられるとは到底思えなくって。

 

「シャフリヤールさんはああ言っているが、キミのことを高く評価しているみたいだね」

「……私を?」

「あぁ。私も散々なことを言われたが、あれは彼なりの優しさだ。普段は相談にすら乗らないことが多いからね」

 

 出会って間もないタイルさんにここまで言わせてしまうのも、少しだけ申し訳なかった。

 でも優しさ、か。言い換えればそれは愛。愛、か……。

 

「あたしさ、ハイザックの強化案思いついたんだ」

「モミジさんが?」

「うん。ちょっち出費かさむけど、きっと2週間後には仕上げるから」

 

 だから、一緒にセツを取り返すぞ。彼女は私のことを勇気づけているように聞こえた。

 いや、勇気という名の背中を押す行為よりも、お尻を叩いて焚き付けている方がモミジさんらしいかもしれない。そんな励ましに、聞こえたんだ。

 

「私、怖かったんだ、ガンプラと向き合うことが」

 

 だけど、もう違う。モミジさんが、セツちゃんが。そしてハルがいてくれたから、私はこの恐怖心に向き合おうと思う。

 そうだ。今度打ち明けなきゃな。ハルにGPDやってたんだってこと。

 

「てか、なんで言ってくんなかったのさ!」

「だって、ちょっと気まずいし。元GPDプレイヤーってレッテル貼られたくなかったから」

「レッテルとかそんなんなくない? そう思うっしょ、タイルっちも」

「タイルっち……?」

「ちょ、モミジさん?!」

 

 タイルさんは色素の薄い唇は歪ませると、ハハハとやや低めでよく通る笑い声を飛ばす。

 そ、そんなに面白かった?

 

「いや、すまない。そんなあだ名で呼ばれたのはいつぶりだろうな」

「い、いいんですか?!」

「悪くないさ。普段呼ばれている物騒な二つ名よりはな」

 

 物騒な二つ名? そんな怖い人のようには見えないけれど。

 まだ『殺戮の天使』という名前を知らない私たちにはよく分からないセリフではあったものの、怒っている様子ではなくて安心した。

 

「よし、私頑張る!」

「おう! 愛のあるガンプラ、期待してるよーん」

「度肝抜かせてあげます!」

 

 私は頭の中でイメージ図を描きながら、GPD時代のガンプラに思いを馳せる。

 また、戦ってくれるかな。力を貸してくれるかな。そう思いながら。




ナツキの過去にダイレクトアタックしてくる原作キャラ


◇スナイパーのやべーやつら
超長距離狙撃もピンホールショットもお手の物。
ミワ(出典:ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ[守次 奏様作])
ルヴィーラ(出典:GBN総合掲示板[青いカンテラ様作])
ミシェル(出典:ガンダム:ビルドライジング[ガリアムス様作])
(ビルライの時系列は多分ずれていますが、気にしない方向で)


◇シャフリヤール
出典:ガンダムビルドダイバーズシリーズ
ここでは原作の設定は割愛。
ナツキへの印象はビルダーとしての腕は悪くない。
だがそこに「愛」が欠けているためそれほど良い印象は持っていない。
ただし、忘れていた「愛」を取り戻せたのなら、覚醒する原石であるとも睨んでいる。


◇タイル
フォース「タイルドロー」のリーダーであり、
「殺戮の天使」という異名を持つ個人ランキング76位のトップランカー。
普段は優男で、フォースのメンバーからも慕われているが、
フォース一敵に回してはいけないほどには、怒るとめちゃくちゃ怖い。
また、根っからの戦闘狂でもあり、普段の口調から闘争心をむき出した言葉遣いになる。
イメージとしては優男口調のサーシェス。
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