ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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私が目指すのは、GPDの空を超えること
(評価バーが2本になってました。
 増える基準がわからないですが、嬉しいのでありがとうございます)


第33話:夏の克服。青空と再誕と

 ブルースカイ。青空と名付けられたそのガンプラを私は見ている。

 丹精込めて作り上げた、オリジナルのガンプラ。私だけの翼。

 そしてもうひとつ。棚の奥から持ち出してきたタッパーの中身。

 

 それはブルースカイの前身となり、GPD時代に使用していた私の翼。ガンダムアストレイ デスティニーフレーム。胸元や脚部、両腕などがへし折られて凄惨たる戦いを繰り広げた後のようにも見える。実際そのとおりだった。

 

「まさか、私がこれを開ける時が来るなんてね」

 

 壊れたデスティニーフレームのタッパーの縁を指でなぞって、過去を懐かしむ。

 あの頃は楽しかった。それこそ、私の心のヒビが入っていなかった頃。翼をもがれる前は、仲間内と一緒に日が暮れるまで。いや、日が暮れても遊んでたっけ。

 私のガンプラが最強だとか、俺のほうが強いだとか。そんなんばっか繰り広げていた遠く遠く、もう数十年も前の話のように思えるそんな昔話。

 

 同時に思い出すのは、仲間内と最後に別れたあの日の出来事。

 空を飛べなくなって、空を飛ぶことが怖くなったあの日。

 

 ――でも。

 

「今は、ハルがいるんだよね」

 

 一人っきりじゃ、きっとGBNを始めていなかったと思う。地区大会決勝で当たったガンダムアシュタロンの改造機に文字通り翼をもがれたあの日。

 私は飛ぶことが、GPDの空があまりにも狭いことに気付いた。それが私の限界。上には上がいるのに、まるで私がそれまでだと言っているような気がして。

 

 だからGBNの空が宇宙まで繋がっていると聞いて、私は魂を震わせた。

 私の限界はこんなところじゃない。もっと上に行けるって。

 でも1人ではあの日の思い出が脳裏に宿って、飛べないって思ってしまった。私だけじゃ、ダメだって、感じてしまった。

 

 高校生に上がっていた私は周りの知り合いに声をかけてみた。

 一緒にGBNやらない? って。だけど皆興味がないし、興味はあってもお金が無いだとか、時間がないとか、果ては私に近づきたいがためにニヤけた顔で聞いてくる人たちとか。みんな、GBNに興味がなかったんだ。ここでも一人ぼっち。そう思っていた。

 だからハルに話しかけたのは、本当にただクラス全員に声をかけて、最後に残ったのが彼女だったからだ。本当に偶然で、偶々で。きっと運命。

 彼女は流されがちな性格で非常に御しやすい相手だった。私の目的のために犠牲になってくれる相手だと思って。

 

「でも違ったよね」

 

 1日目やガンプラ選択の時は本当に嫌そうな顔をしていたのをよく覚えている。

 多分この子は私と一緒に飛んだら別れると思ってたんだろう。

 でも2日目にすべてが変わった。それまで低かった彼女のテンションが明らかに高くなったのを感じた。楽しそうだ。嬉しそうだ。彼女に抱いた印象はそういうものだった。

 ハルでもそういう感情になるんだ。意外な一面と、献身的な謝罪で私の琴線が触れていた。

 

 ――この人と友達になりたい。

 

 GBNを続けるだなんて約束とお詫びと言う名の鎖で彼女を雁字搦めにして。

 でもハルはそんな私を「重い」って評した後に、「わたしも楽しい」って言ってくれた。

 重いの一言は余計だと思うけど、それでも楽しいって言ってくれて、私の心も浮ついた。ハルのせいだ。こんな思いをするのは。こんな昔みたいな感情に落ちるのは。忘れていた感覚に身を委ねるのは。

 

「よし、がんばりますか!」

 

 デスティニーフレームの翼を手にとって、埃を落とす。セツちゃんを取り戻すために私は、2番目じゃない、1番強い私の翼を作る。それが、私の覚悟だから。

 

 ◇

 

「んで、なに話って」

「ちょっとね。格納庫に来てくれる?」

「うん」

 

 それから何日経過したか。多分10日ぐらいだったと思う。それまでずっと私のガンプラを作り続けて、ようやく完成したんだ。そして、一番最初に見てほしいのは、紛れもなくハルだった。

 

「どこで買ったの、こんなアイマスク」

「売店かな。ハルの眠そうな顔にぴったりだよ!」

「うるさい」

 

 実際はその辺のダイソーで買ってきたのだけど、言っても話が少し脱線するだけだからやめておいた。

 ハルの手を引っ張って、私のガンプラの前までやってくる。

 足が止まったのが分かったのだろう。私が止まった後に足を止めたハルはクエッションマークのエフェクトを出しながら、こちらを見つめる。

 ちょっとかわいいな。なんて思いながら、私はハルのアイマスクに手をかける。

 

「なにが始まるの?」

「ちょっとしたこと! ほらフェイスオープン!」

 

 アイマスクを外したハルは少し照明の眩しい光に目を焼きながら、徐々に、ゆっくりと目の前のガンプラに目を引かれていく。

 まんまるに開かれた瞳は驚きと尊敬の念があったのだろうか。だとしたら嬉しい。私が全力と愛を込めて作った、最高傑作だから。

 

「ガンダムアストレイ オーバースカイ。私の新しいガンプラだよ」

 

 青と白の青空を思わせる塗装。やや傷つきながらでもそれでも立派なデスティニーガンダムの翼。新たに太陽炉を積んだボディ。各地に散りばめられたブルースカイの欠片がまさしく後継機なのだと理解するにはさほど時間がかからないだろう。

 

「すごい……」

 

 ハルの白い肌から透き通る一滴が落ちていく。涙を、こぼしていたのだ。

 

「え、どうしたの?!」

「いや。なんか、言葉にならないんだけど。ナツキの想いが伝わってくるっていうか」

「そ、そんなに? セツちゃんじゃないのに?」

「ELダイバーじゃなくても、このガンプラはすごいよ! わたし、感動しちゃった」

 

 にへらと涙で頬を濡らしながら、笑いかけてくれる姿は春の木漏れ日みたいな。桜の木の下で日向ぼっこするような嬉しさで。

 

「よかった」

「え?」

「最初に、ハルに見せてよかったなって」

「……そっか、最初か」

「何ニヤけてるの?」

「嬉しいだけ」

 

 そっぽを向くようにしてオーバースカイの方に目を移すハルの頬は少しだけ血色がよくなっていた気がした。

 なんか、恥ずかしい。見せてよかったと思うけど、嬉しいだけって言われたら、それはそれで彼女の可愛らしさが溢れ出てきて、私まで口を緩めてしまう。

 両手で頬をクニクニとマッサージして、ハルの隣に立つ。

 最初はただ利用しただけだったし、本当に余り物で偶然だった。

 だけど今は、残り物には福があるという言葉を信じたい。

 

「手、繋いでもいい?」

「……まぁ、いいんじゃない」

 

 するりと左に立つ彼女の手を取る。少し汗ばんでいるのは私が緊張しているのか、ただ単にハルの涙がまだ手を濡らしているのかは分からない。

 この胸の高鳴りも、戸惑いも、全部ハルがもたらしてくれた奇跡。魔法だ。とても邪悪で、とても幸福にまみれた、そんな魔法。

 目を閉じれば、ドクン、ドクンと早鐘を打つ感覚がする。意識すればするほど、左手の手汗が吹き出してくるのを感じる。

 

 ――もしかしたら。

 

 私にはこれをなんと評するか知っている。この胸のドキドキも、顔の熱さも、手汗でさえも。1つ言葉に収束することが出来てしまう。

 でも相手はハルだ。女の子だし、見るからにそういったことに鈍感そうに見える。

 だけど、なってしまったものはしょうがない。いつからは分からない。もしかしたら最初から、かもしれない。

 あの約束を、楽しかったと聞けたあの時の笑顔に、私は……。

 

「今、世界で一番ニュータイプになりたいかも」

「どうしたの突然」

「ううん。なんでもない」

 

 ニュータイプになったら、この想いを言葉にせず伝えられるのに。

 私の中で何かが変革したんだから、ちょっとはサービスしてもいいんじゃない?

 

 ◇

 

「うっし! 出来た!」

「おつかれ、モミジ」

「ういー! マージしんどかった」

 

 決戦前日。私たちは最後のミーティングということでアライアンスである黄昏への探求者のロイジー、ちの・イン・ワンダーランドのちのと一緒にお茶を飲んでいた。

 

「みんな、慌ただしいよねぇ」

「ね。なんでも『チハヤ』ってELダイバーに多額の賞金首がかかってるんだって。今、GBNで最もホットなニュースだよ?」

「らしいな。俺たちには関係のないことだが」

 

 紅茶を飲みながら、興味なさそうにロビーフロアを見るロイジーさんは明らかに落ち着いていた。私たちもそんな場合じゃないんだけど。

 

「わたしはわたしたちで、ELダイバーを奪還しなきゃいけないんだけどね」

「そだねー。情報は手に入れたん?」

「バッチリだ」

 

 ロイジーさんが口元を鋭くしてから、ウィンドウを他の4人に展開する。

 オリンポスのアライアンスは3フォース。4フォース合同で揃うのであれば、恐らく数は100を超えるだろう。

 そしてリーダー機であるメイヴ、次席のタカミネのガンプラも確認できた。

 メイヴのガンプラはガンダム・ディスキル・サイズ。ガンダムデスサイズの改造機で、接近しては叩き切り、寄らなくてもビームサイズから斬撃波が放つことができる代物だ。

 対してタカミネのガンプラはガンダムメイヴガードナー。まぁ文字通り、メイヴを守るための盾としてサンドロック改の発展機だ。劇中では搭載していなかったゼロシステムをベースに必殺技である「ヘイトコントロール」を使って、ターゲットをタカミネに絞り、メイヴを守るというコンセプトだった。

 

「セッちゃんも出てくるよね、きっと」

「あの女のことだから、間違いないね」

 

 恐らくセツちゃんのダブルディバイダーも出てくる。

 あのガンプラは攻撃力も然ることながら、防御力も2枚のディバイダーによってかなり高めに仕上げられている。

 

「あのちびっこのことは、あたしに任せてくんない?」

「モミジに?」

「……うん、伝えたいことがあるんだ。あたしが、あいつに言いたい大切なことが」

「モミジさん……」

 

 机の上で両手を握って、過去の懺悔をシスターに告げるみたいにお願いをする。

 悲痛さと無力さ。その両方をちゃぶ台でひっくり返すように、ちのちゃんは握りこぶしに手を添えた。

 

「セッちゃんが嫌うなんてことしないよ! だってモミジちゃんは大切な仲間なんだから!」

「ちのっち……」

「不安なのは分かるよ。でも、ちのじゃセッちゃんには届かない。モミジちゃんに、全部託すよ」

 

 ギュッと両手で添えた拳が解けていくのが見える。勇気を持って打ち明けたんだと思う。大きくて小さな勇気。ちのちゃんは、それを受け止めて、自分じゃ不足だと思ってモミジさんに託したんだ。文字通り、みんなの希望をこの手に込めて。

 

「あはは、重いなー」

「人1人を助けるということは、そういうことなんだろうな」

「……うん、助けよう! これがあたしらの『ELダイバー奪還戦』だ!」

 

「「おう!」」

 

 重なる絆と、強い想いはどんな奇跡を生むだろう。

 いや、奇跡なんていう曖昧なものに頼らない。

 

 私たちは掴み取る。セツの手を。笑顔を。この手で!




これがあたしらの『ELダイバー奪還戦』だ!


◇ガンダムアストレイ オーバースカイ
レッドフレームの改造機。
名前の由来は、アストレイ+超える空
主に空中戦で戦い、中近距離で戦う。

GPD時代に使用していた、
デスティニーフレームの翼とガーベラストレート、
さらにブルースカイのパーツを一部使用したナツキの新ガンプラ。

各所にブルースカイの意匠は散りばめられているが、
最大の特徴は青いデスティニーの翼と、ハルと一緒に飛ぶことを想定したGNドライブ
これによってトランザム中に光の翼まで使用できる
もちろん機体は青空をイメージした青と白色で統一されている

・特殊能力
GNフェイズシフト装甲
従来のヴァリアブルフェイズシフト装甲とは違い、
GN粒子を機体内で循環させて、粒子の濃度を任意で変動させ防御力を高めている。

光の翼
背部のウイングユニットの内部スラスターからミラージュコロイドを放出
推進力と自身の残像を映す幻惑機能を装備している。

トランザム・オーバースカイ
起動時に機体内のGN粒子を循環させて、
一時的に機体のスペックを通常の3倍に引き上げるトランザムシステム。
発生時には常時ミラージュコロイドを放出し続け、高い機動性と幻惑機能で翻弄する

・武装
ガーベラストレート「夏空」
ブルースカイに装備していたガーベラストレートをさらに改良。
対ビームコーティングと鋭さを兼ねており、
バスターライフルのビームをも斬り裂く刃に進化している

GNビームチェーン
ちの戦で味わったビームチェーンを独自に改良。
両手甲部に1基ずつ装備されており、チェーンのように物を絡め取る。

GNビームフィールド発生装置
両手甲部分に1基ずつ装備されている防御兵器。
GNフィールドと同様の性能が施されており、
ブルースカイ時点では難があった防御面を解決させている

75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」
GNビームライフル
GNビームブーメラン
GNビームサーベル
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