ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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開戦、満を持して


第34話:春夏秋冬の戦争。激突と閃光と

 12月も初頭に入った時期。

 寒さが身にしみてその身どころか、骨にまで突き刺さるこの季節。

 冷たい手を擦り合わせて、もうそろそろ雪が降りそうな街を歩いていた。

 

「さっむ」

 

 今日は普段に比べたら人一倍寒い。天気予報では今季一番の寒さだと言っていたけれど、未来に進めば恐らく今季一番はどんどん更新されていくんだろう。

 セツ。雪山で見つけたから雪に関わる名前にしようと考えた、ちのが名付けたELダイバーの名前だ。

 セツとは短い間だったけど、何度も遊んだ。ミッションもフォース戦も、一緒に遊んで、一緒に笑ったり悔しがったり。その奇跡みたいな時間が、わたしにはとても大切なものになっている。

 それはナツキも、モミジもきっと同じだ。なんせ3人で巨悪とは言わないでも、大切なセツのために乗り込もうとしているのだから。

 準備はできた。わたしは格闘戦の心構えと技術を。ナツキは新しい翼を。モミジは新たな武装を手に入れた。恐怖心は、ないとは言わない。だって死んだらそれで終わりだ。根付いたイメージを払拭するのは難しいのだから、そう簡単に恐怖心を乗り越えられるわけがない。

 だけど、タイガさんはこうも言ってくれた。

 

『恐怖とは臆病者だということだ』

『それって戦う上でダメじゃないですか?』

『そうとは限らないぜ。適度な恐怖は生存する上で最も重要になる勘みたいなもんだ。センサーとも言っていいな。恐怖というセンサーを張り巡らせれば、被弾のリスクはぐっと減るってわけだ。分かったか?』

『んー、なんとなく』

 

 とは言ったもののちゃんと理解している。

 格闘戦に置いて、一つ一つのスキこそが致命の一打になることが多い。スキを与えることこそが恐怖なのであれば、克服するのではなく、コントロールする。タイガさんが言っていたアドバイスはそれだ。

 そのアドバイスを胸に、開店しているガンダムベースにいち早く来店した。

 

「やっほ」

「おはよ。寒いね」

「店内が天国だよー」

 

 わたしたちはGBNにログインするために受付をしていた。

 何やら昨日今日は特にGBNのプレイ人数が多いらしい。受付で満員ギリギリだったところになんとか滑り込んだ形だった。

 危ない危ない。もう少し遅かったらフォース戦に乗り遅れるところだっただろう。

 操縦桿を握って、わたしたちはGBNの中へと潜っていく。

 深く。深く。肉体と意識が分離し、仮初のテクスチャへと再生成される。

 

「間に合ったようだな」

「うん、おまたせ」

 

 わたしとナツキがログインすると、モミジにロイジー。それからちのもいて、今日の参加者は勢揃いと言ったところだった。

 周りのダイバーたちが『チハヤ』というELダイバーを捜索して慌ただしく駆けていく中、わたしたちはセツ奪還への決意を固める。

 

「改めて言わせてくれ。フォース『黄昏への探求者』5名は、お前たちのフォース戦に協力する」

「ちのも! フォース『ちの・イン・ワンダーランド』39名はナツキちゃんたちのアライアンスに参加するよ!」

「大所帯になったじゃん、ナツキチ!」

 

 わたしたちも含めて合計47人。あとひとりいればGBN48とかになってたかな。いや、ちゃんともうひとりも奪還してみせる。それで48人だ。

 

「ナツキ、バシッと決めて」

「うん! フォース『春夏秋冬』、勝つよ!」

「「「おー!」」」

 

 ◇

 

「予め言っとく。メイヴとタカミネはどっちも元マスダイバーなの。だから正直正面衝突してくるかわかんないんよね」

「ありがと。なんとか警戒しておく」

 

 ラグナロク・エリア。トワイライト・ディメンション内にある地域のことを言う。

 その名の由来は北欧神話の世界おける終焉の日。神々の黄昏とも、神々の死と滅亡の運命という意味があるらしいが、前者は誤訳として広まったらしく、本来の意味は後者らしい。Wikipediaに書いてあったので間違いないだろう。

 その内容、というのはわたしには預かり知らぬところだが、恐らく壮絶な戦いだったことだろう。

 ラグナロク・エリアの特徴はとにかく殺風景で、地表が隕石でも降り注いだかのように凸凹の波紋と大きな岩石が乱雑に散りばめられている。

 曰く、なにもないからこそ小細工は通用しない。とあるゲームのステージと真似て『終点』という異名すらあるほど、マッサラなエリア。

 

「なんにもないね」

「うん。モミジ、索敵は?」

「もち! イケてるよん」

 

 今日のハイザック・バトルスキャンはレドームと狙撃用ビームライフル、対艦ライフルの基本装備は変わらないものの、左肩にはスパイクショルダーではなく、異質なビット・ポートが装備されていた。

 そのビット・ポートには3基のビットが装備されている。でもわたしの見立てでは普通のビットやファンネルではないように思えた。

 加えて追加装備に左腰だけだったドローン・ポッドが両腰計6門に増えている。これでさらに索敵の精度を上げるということなのだろう。

 

「行っちゃって、ザック・ドローン! 続いてリフレクタービットも射出!」

 

 自立で分離すると、リフレクタービットと呼ばれた3基がふんわりと宙を舞い始める。

 リフレクタービットはフィールドの各地に散らばって、小型のミラージュコロイドによってカモフラージュが施される。

 

「モミジさんのそれって、シャンブロの?」

「そだよ。シャフリの作品を参考にって感じ!」

「それは頼もしいね! ちの、ちょっといいこと思いついちゃった」

「暴れないでくれると嬉しいがな……」

 

 フルドレスの拡散レーザー砲とリフレクタービットによる反射攻撃。うん、えげつないな。想像に難くないそのコンボは、身の毛のよだつ恐ろしさだ。当たらないようにしなくては。

 

「これ配信していい?」

「え、いいけど……」

「よかったー!」

 

 ふんふーんと鼻歌交じりにハロカメラを起動して、なんの前振りもなしに配信を開始する。

 

「よし! こんちの~!」

 

『ゲリラ?』

『いきなり?!』

『こんちの~!』

『こんちの!』

『ラグナロク・エリアか。なんでこんなところに?』

 

「みんなは『チハヤ』ちゃんを探すのに忙しいみたいだけど、こっちはこっちで春夏秋冬と一緒に、セツちゃんを取り戻すためのフォース戦するんだ! みんな、コメントだけでも応援してくれたら嬉しいな!」

 

 そうか、士気上げか。ちのはこれでも有名なG-Tuberだ。だから配信をすればコメントが付き、コメントを見て、士気が向上する。

 そしてこれでメデューサ姉妹からセツを取り戻せば、春夏秋冬の知名度も上がるだろう。今まで無力だった自分からのお詫びのつもりなんだろうか。

 となればわたしたちは今、G-Tuberとしても戦わなきゃいけないわけで。

 

「よし、やろう。ファインダー・ブレイブ!」

 

 モミジ、エメラ含め、狙撃部隊は岩場の影に。わたしとナツキ、ロイジーを含めた中近距離の部隊は前へ。そしてちのの砲撃戦部隊は後方で放射の機会を待っている。

 ハイザック・バトルスキャンのデータリンクによってセンサーには100をも超える敵と、ひときわ大きな巨体が1つ。なんだろ、この大きな赤い点は?

 

『なんだ、あれ?』

『索敵範囲ひっろ』

『大きな点って言ったら……!』

 

「っ! みんな、避けて!!」

 

 突如何かが光ったと思えば、緊張を、空気感を、大地を、空をも切り裂く一筋の光の線がわたしたちに襲いかかってくる。対象は紛れもなくわたしたち接近戦部隊。急いで避けるものの、桃色の閃光は何機かガンプラを光の藻屑に変えながら、収束していく。

 鳴り響くは鳥の悲鳴のような雄叫び。恐怖を煽るようなその起動音はわたしたちには緊迫感を。そして味方には士気向上の狼煙のようにも聞こえた。

 

『あれってMA?!』

『ハシュマルだ!』

『黒塗装か』

 

「聞いてないんだけど……」

 

 メイヴのガンプラはデスサイズの改造機だと思っていたものじゃなくて、あんな大型MAを持ってくるなんて、聞いてないんだけど。

 エイハブ・ウェーブで空気が振動する。ややデータリンクが途切れつつも、即座に復旧した。

 

『行くわよ、全員私たちの手下にするわ』

『『『うぉおおおおおおおおおお!!!!!!!』』』

 

 ハシュマルのビーム攻撃とともに各ガンプラたちがわたしたちの陣へと攻め入る。その数、約150機。

 絶望にこの身を駆り立てられながらも、それでも流されないと決めた。自分の意志で、わたしたちの意志でセツを取り戻すと決めた時から、わたしたちの覚悟は胸の奥で主張している。絶対負けない。いや、勝つ!

 

「行くよ、ハル!」

「うん、ナツキ!」

「んじゃ、ちのも行っちゃおうかなぁ! 今日もちのちゃんは~?」

 

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

『かわいいなぁ!』

 

 フルドレス・ユニットとGNバスターライフルによる拡散攻撃、加えて砲撃戦部隊によるビーム攻撃での援護が敵へと降り注いでいく。

 まさに戦争だ。2回目の地獄のような、ラグナロクが行われてしまうような、そんな戦争。

 

「私とハルでハシュマルを叩く! って邪魔!」

「これちょっと弾幕厚すぎるってば」

 

 ハシュマルには本来レーザー攻撃などは搭載されていない。故にメイヴが乗っているであろうハシュマルにはレーザー攻撃による改造が施されている。だからビーム砲とレーザー攻撃で弾幕が分厚い中をかき分けていかなきゃいけないの、ちょっとしんどすぎる。

 

「手伝う。俺の後ろに続け」

「そっか、Iフィールド!」

「幸いにもビーム攻撃が多い。行くぞ!」

「はい!」

 

 所謂ジェットストリームアタックのように盾要因となっているアインツェルガンダムを先頭に、戦場を駆け抜けていく。

 途中に点在していたダイバーたちは根こそぎ刈り取っていく。後ろから攻撃されても困るだけだしね。

 とはいえ、相手もビーム攻撃だけじゃない。実弾攻撃による射撃はどうにも受け止められない。

 アインツェルガンダムは幾度か被弾しながらも、それでも前に進む。途中の敵はビームマグナムで薙ぎ払い、ガーベラストレートで両断し、ビームバルカンで穴開きチーズにする。

 

『此処から先へは行かせないわ!』

『ホラホラホラホラ!』

「まぁ、流石に囲まれるよね」

「一点突破なんてやるべきじゃないな」

「ぼさっとしてる場合じゃないよ! みんなの援護射撃だってあるんだから!」

 

 そうだな。なんて言いながら、ビームアックス状態にしたGNバルカンで1機1機確実に仕留めていく。

 戦いの基本はヒット・アンド・アウェイだ。攻撃時に接近して、一撃で離脱する。だが、それは相手も同じこと。そんな基本を忠実にする相手に、こっちも基本でなどという甘いことをいうわたしは2週間前に捨てた。

 攻撃が終わったガンプラをわたしは即座にビームバルカンモードに変更して狙い撃つ。そう、引いているタイミングこそが最もスキとなる時間なのだ。

 

『なっ!』

「1機撃墜。残りは、えっと132?!」

「ぼさっとするな次を叩け!」

「分かってるけどぉ!」

 

 アインツェルガンダムも両腕に装備されたビームサーベルを巧みに利用して撃墜数を稼いでいる。他のカオスガンダムやアビスガンダムも手伝って、キル数を増していく。

 確かに心強い味方ばかりだけど、数が、多すぎる!

 

「接近部隊! ハシュマルの口が開いた!」

 

 モミジの入電が通信として入ってくる。センサーの大きな赤い点を見れば、そこにいたのはサンドロックの改造機1機と口を開いたハシュマル。そして地獄の門を開いていた、セツのダブルディバイダーだ。

 

「見つけた。けどっ!」

『これで、終いよ!』

 

 味方もろとも吹き飛ばすようなダブルハモニカ砲と頭部のビーム砲が接近戦部隊を襲いかかる。とっさにかばうように前に出たアインツェルガンダムがハモニカ砲の一部を受け止めるが、該当のビーム兵器はそれまで装甲を貫通することのなかったガンダムの装甲を貫通させた兵器。

 故に受け止めたあとはIフィールドが完全に機能を失ってしまう。オーバーロードしてしまったのだろう。

 

「みんな無事か?!」

「わたしは大丈夫」

「俺も、なんとか」

「モミジさんがライフルでビーム攻撃を緩和してくれたから」

「いいってことよ!」

 

 ダブルハモニカ砲を撃ち尽くしたダブルディバイダーはその場から退く。

 追わなきゃいけないんだけど、今はそれどころじゃない。目の前のハシュマルをなんとかしなくちゃ。

 数が多すぎる。ちのが殲滅してくれているとは言えども、バスターライフルには限りがある。そして拡散レーザー砲にだってリキャストがあるんだ。数を減らそうにも、エネルギーが足りない。

 チャージビットでの殲滅も考えてはいるけど、スキが大きくなる以上おいそれと使うことができない。それにこっちもエネルギーを使い切ってしまえばビットは機能を失う。打開策は、なしか。なら……!

 

「1機ずつ潰していくしかないよね」

「地味だけど、それに限るね」

「あたしも援護すっから、思う存分やっちゃって!」

 

 これは戦争で、遊びなんかじゃない。

 わたしたちの元にセツを取り戻すって決めてから歩いてきた2週間を、無駄になんかさせに。2週間の間、耐えてきたセツの心を壊させない。

 胸に決意を重ねながら、わたしはビームサーベルを起動させた。




某ソシャゲでハシュマルが出てきましたが、完全に偶然です


・ハシュマル・ゴルゴーン
自立型無人兵器として活動していたハシュマルにコックピットを搭載。
最大の特徴だったプルーマをオミットし、代わりに拡散レーザー砲を付与している。
特殊な装甲等はないが、原本通りの堅固な装甲を有しており、まともな攻撃では、傷一つ与えられないほどの強度を持っている。
その姿はまるでメイヴ本人の誰にも頼らない在り方を示している。

・武装
頭部ビーム砲
脚部クロー
運動エネルギー弾
超硬ワイヤーブレード
拡散レーザー砲
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