ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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2羽の鳥が、戦場を舞う


第36話:春の戦場。桜色と空色と

 戦況は、明らかに防戦一方としか思えなかった。

 各個人の戦闘能力はそれほどでもないものの、秀でて強いのがあの黒いハシュマルだ。援護攻撃による大型のビーム砲はナノラミネートアーマーを身に着けていないモビルスーツを一撃で溶かしてしまうほどの絶大な火力を所有している。

 伊達に厄祭戦勃発の原因となった機体ではないし、ナノラミネートアーマーを装備しないと生きていけないほどの理由があれだったのだろう。

 プルーマの生産機能はないものの、代わりに高出力レーザー砲が備わっている。これで一網打尽するっていう寸法だろう。

 

『脆い。脆いわ!』

『えぇ、そうねお姉様! わたくしたちの足元にも及びませんわ!』

 

 調子に乗ってくれる……。

 おまけにあのメイヴガードナー、ゼロシステムと必殺技の「ヘイトコントロール」によって遠距離からの攻撃はすべてあのガンプラに吸い込まれる。

 前情報だと「ヘイトコントロール」は遠距離攻撃、ビームやミサイルなどを自分の元に誘導する効果を持つ。そしてそれほどまでのスキルにも関わらず、リキャストの時間が少ない。これと頑丈なメイヴガードナーのせいでまともに遠距離攻撃は機能しない。

 そしてゼロシステムは相手の攻撃の導線を赤い線として表示することができる。

 ミサイルだろうとビームだろうと、予測できる攻撃は確実に無力化できる。

 タカミネの、タカミネによる、メイヴのためのガンプラ。それが彼女の一種の強みなのだろう。本体が攻撃してこないのが唯一の救いだが。

 

「どうするの。これじゃあ遅かれ早かれ、ハシュマルに抜かれるよ」

「そうだな。エメラさえいてくれれば」

「……ジーさーん!」

 

 声の主。真っ先にロイジーが振り返れば、そこにいたのは赤いバンシィ。バンシィ・アップルを駆けるエメラと他数機。加えてちのまでもが戦線に合流する。

 

「ここはちのたちに任せて先に行って! これ一回言ってみたかったんだよなー」

 

『分かる』

『わかり』

『わかり哲也』

『男なら一度は言ってみたい』

『ダイバーなら言ってみたいセリフ1位』

 

「ここは私とロイジーさんとちのさんで防ぎます! だから!」

「ん、分かった」

 

 大盤振る舞いと言わんばかりに拡散レーザー砲でかき乱すちのは空を飛ぶ。

 アーマード・アーマーVNを巧みに駆使して戦うエメラ。

 そしてビーム・トンファーによって何度も何度も敵を斬りつけるロイジー。

 みんな、セツのために頑張ってくれてるんだもんな。それじゃあ、わたしも頑張んなきゃ。

 

「ハル、行こう!」

「うん!」

 

 最短で、真っ直ぐで一直線に。あのハシュマルをぶっ倒す!

 

『トランザム・紅桜!』

『トランザム・オーバースカイ!』

 

 わたしのGNドライブから5方向に桜の花びらのように粒子が放出され、ガンプラ全体が桃色に染め上がる。

 そしてナツキのガンプラはそれとは対称的に、左右2方向に粒子が放出され、青色に彩られたガンプラは、空の名を関するほどに清く澄んだ色だった。青い鳥みたいで美しい。

 見とれている場合じゃないか。出力を約3倍にした限界時間はおおよそ4分と見積もっていい。なら、この4分の間に怪物狩りと洒落込むとしよう。

 

『お姉様、来ますわ!』

『ピンクは私が殺るわ。タカミネは青色を足止めしなさい』

『仰せのままに!』

 

 通信は傍受できないとは言え、ナツキの真ん前に出たメイヴガードナーの意味するところは何となく分かる。さすがのハシュマルでも2機のトランザム機には敵わないと判断したのだろう。

 

「盾持ちは任せて。速攻で膾斬りにする」

「ありがたいね。それじゃ、後で!」

 

 ナツキはガーベラストレート「夏空」を手に持つと、メイヴガードナーと激突する。

 あっちは任せた。恐らくナツキが勝つだろうけど、それでも時間はかかるはずだ。だから、わたしはわたしで、ハシュマルを再起不能にまで叩き潰す!

 GNビームアックスを手に持つと、足元でジグザグに低空飛行する。

 まず最初はビーム砲をやる? いや被弾したら即死だし、相手がどんな防御力をしているかもわからない。

 殴ってみるのも手だけど、さっきからこのワイヤーブレードが邪魔すぎて仕方がない。最初に叩き切るのは、これだ!

 

『ちょこまかちょこまか、いい加減鬱陶しいのよ!』

「それを言うなら、いつまでもセツの周りをうろついて……ストーカー?」

『減らず口を!』

 

 機体背面に装備された尻尾みたいな装備、ワイヤーブレードが速度高めにわたしのガンプラを貫かんと動き回っている。

 確か、バルバトスルプスレクス前身になった武器だったはず。鉄血は最終回だけチラ見したけれど、その鋭い切れ味はナノラミネートアーマーでさえも貫通するって噂。

 ただでさえ元は狙撃機であったファインダー・ブレイブが攻撃を受ければ、恐らく即ゲームオーバーのクソゲーとも言えるだろう。あれには当たってはいけない。

 

 何度も先端でコックピットを貫かんとワイヤーブレードが変幻自在に動く。

 そのたびに攻撃の機会を伺っているのだが、取り回しの鈍いGNビームアックスだと話は変わる。

 だったら装備変更。文字通り、こいつを投げ売ってでもロングビームサーベルに変える!

 装甲の間を縫うようにして、狙いを定めたわたしはハンマー投げの要領でハシュマルの首元にビームアックスを投げつけた。

 もちろんそれをまともに受けてしまうほど愚かなダイバーではない。機体を少し移動させて装甲の厚い部分にぶち当たり、鈍い音を響かせる。

 

 腰にマウントされているロングビームサーベルを引き抜けばワイヤーブレードを断ち切る準備は完了した。ビュンビュンと自由自在な尻尾とともに、ビーム砲まで発射してきた彼女は本気でわたしを殺しに来ている。

 だけどわたしには見える。恐怖の位置が。タイガさんとの修行で手に入れた、そして狙撃訓練の時に手に入れていた『恐怖に対する安置』が、不思議な糸のように線で結ばれる。

 決してスキは大きくない。懐に入る余裕すらないほどの高密度な攻撃だけど、必ずそこには安置が存在する。ビームとワイヤーブレードの間。自機狙いの弾なら……っ!

 

「そこっ!」

 

 出力を3倍にすれば、威力だってそれに比例する。通常時では恐らく斬れなかったであろうワイヤーブレードのワイヤー部分を捉えると、1本と1本に両断する。

 

『斬ったぐらいで、いい気になるな!』

 

 横薙ぎのビーム砲には懐へと飛び込む。今度は脚部のクローがお出迎えしてくる。ここならば純粋な格闘戦だ。上に上がればコックピット部分であるだろう腹部もある。そしてビームはこちらには飛んでこない。キルレンジはこちらが有している。

 

『小バエ風情が、鬱陶しいのよ!』

「うるさい! 害虫のくせに!」

 

 トランザムを巧みに利用して、硬い装甲だろうとなんだろうと傷を付けていく。脚部の大型クローだったとしても、その動きが大振りなら効かない!

 途中途中飛んでくる運動エネルギー弾だって、やはり直進の動きだ。トランザム中なら避けられる。

 やがてダメージがかさんできたのか、膝をついたハシュマル。

 チャンスだ。ワイヤーブレードは叩き切った。ハシュマルは膝を付いている。そして、ボディはがら空き。ここでコックピット部分であろう胸部にビームサーベルを突き立てれば……!

 

『……暴れなさい、ゴルゴーン』

 

 瞬間。ハシュマルの咆哮とともにエイハブ・ウェーブによる磁気嵐が周囲に巻き起こる。完全に攻撃のスキだと考えていたわたしの頭からはすっぽりと付けおちていた。

 ガンダム・フレームと同じエイハブリアクターを使っているのであれば、リミッターを外すことだってできることに……。

 

 ◇

 

 エイハブ・ウェーブによる磁気嵐がこっちにまで襲ってくる。

 ハル、大丈夫かな。さっさと目の前のやつを叩き切って、ハルのところに行かなきゃ。

 

「てか、無駄に硬すぎるんだけど!」

『あなたの刀が錆びてるんじゃなくって?』

 

 カッチーン。エイハブ・ウェーブの影響を受けたのだろう。私の中のエイハブリアクターが暴走したがっている。

 このガーベラストレートはGPD時代からの相棒。いま身に着けているデスティニーの翼よりももっともっと長い間ともにしている至高の刀だ。丹念に精錬して、折れぬ刀として大切に知識の限りを尽くしてきた。

 それを錆てる? あなたの頭こそ錆だらけなんじゃないの?

 

 お姉様至上主義なんて、とっくの昔に消え去ってるか、局地的なところでしか行われていない文化だよ。秘密の花園はここにはないんだから!

 

『言ってくれるわね! でもそんなんじゃ通らないわよ!』

「それは、どうかな?」

 

 私にはゼロシステムを超えるこの光の翼がある。そんな攻撃、ちっとも怖くはない。

 背面のウイングユニットの内部スラスターを展開。ミラージュコロイドを散布し始めると、推進力とともにゼロシステムですら惑わせる幻惑機能を付与する。

 デスティニーの十八番。青色に輝く光の翼は、紛れもなくメイヴガードナーを翻弄している。徐々にだが耐久値も減らしている。

 

『わたくしたちの邪魔をォ!』

「そっちこそ! 私たちの幸せの邪魔をするな!!」

 

 斬りつけるのは少しでいい。このガーベラストレート「夏空」はただでさえ切れ味が鋭い。故に少しの傷でさえも命取りになるほどだ。そんな鋭さを装甲の隙間。ガンダム・フレームに重点的に攻撃すればどうなるか。

 答えはこうだ。

 

『なっ、右腕が!』

 

 無理に動かした腕はフレームの強度に追いつかず、破損する。

 前腕が破壊され、むき出しになった肘の先にはもう盾は付いていない。

 

『なんで! ゼロシステムが機能しないのよ!』

 

 様々な可能性を算出するのに、ミラージュコロイドの影響で演算が追いついてない。

 早い話が、タスクを開きすぎたPCのように、ゼロシステム自体がオーバーヒートしているのだ。

 ミラージュコロイドなどの幻惑機能はガンダムWの世界観には存在しない。

 いくらゼロシステムとは言えども、「そこにいる」と認識してしまっているならば、その幻影の演算も行わなければいけない。

 増えるミラージュコロイドの幻影。そして演算してもすぐに消えるため無意味になる未来予知。まとめられる結論は、システム自体が困惑しているのだ。

 ゼロシステムにデスティニーのミラージュコロイドの相性はいい。それが私がGPD時代に導き出した1つの結論だった。

 ブンブン振りかざしても、それはもう幻影であり、私ではない。故に、このゲームの支配者は私だ。

 ついにダルマ状態になってしまったメイヴガードナーにもう生きる術はない。

 もうとどめを刺そう。そう思ったときだった。視界の端で見た桃色の閃光がハルに向けられていたのは。

 

 ◇

 

 最悪の状況だった。

 リミッターを外したハシュマルの猛攻は止まらない。クローにより蹴り攻撃は数倍威力と速度が上がり、ビーム砲はさらに火力を増している。加えて両翼から発射されるレーザーがわたしを近づけまいと半ば結界のごとく張り巡らされる。

 極めつけは、トランザムによる粒子残量の低下がもうそこまで来ているのだ。

 トランザムは強力な特殊能力であるものの、唯一にして最大の欠点がこの粒子残量の低下によって引き起こされる、強制的デバフ効果。

 これを受けたら確実にリミッター解除ハシュマルに勝てない。いや最悪敗北の道まで見える。

 なんとか近づけないかと目論むものの、レーザーの壁とビームの照射によってビームハンドガンは阻まれる。バルカン、もといビームアックスはその辺に落ちてるし、ここがチャージビットの切り時か。

 

「8基展開! GNビームハンドガン、ショットモード!」

 

 わたしの掛け声とともにチャージビットがファインダー・ブレイブ正面に4基を1セットとして展開される。

 ビーム発射口を4方向からクロスさせ、収束地点にハンドガンの銃口を構える。

 

「GNチャージハンドガン、フルファイア!」

 

 レーザーを避けながら、ビームを避けながらトランザムとチャージビットで上昇したエネルギーが、ビームマグナムの1/2の威力を連打するビームガトリングガンと化す。

 普通の敵ならばこれでKOものだっただろうが、相手は悪い奴で歴戦の女王だ。

 装甲の端々を焼きながらも、周辺をリミッター解除したハシュマルで高速移動しながら、その弾をすべて避けきってみせた。

 

「嘘でしょ?!」

『射撃はクソッカスね。それでトランザムも終了でしょう』

 

 合図したかのように機体全体が鉛のように重たくなる。トランザム切れしたときの強制的デバフ効果だ。動こうにも充填にはおおよそ30秒から1分はかかる。無理に動かせばさらにそれ以上の時間がかかるから、要するにまずい。

 

『あなたを倒して、その他大勢を倒して、セツを、あなたたちを私たちのものにするわ』

 

 くちばしが開けば、そこから漏れ出すのは桃色の閃光。

 相手を確実に一撃で仕留めるために、ビーム砲の前に軽いビーム溜まりが発生している。

 リミッター解除後ならわたしが移動するよりも早くガンプラを撃ち抜く。これで終わり? 何か。何か……。

 

『死になさい!!』

 

 しばしの閃光。そして発射されるのはモビルスーツが一撃で融解してしまうほどのビーム。それをわたしは……。

 

「させるかーーー!!!」

『お姉様!』

 

 ビームチェーンでくくりつけられたダルマ状態のメイヴガードナーがビームの射線上に割り込んでくる。

 ビームの先にはわたしの盾になるようにしてメイヴガードナーがいて。花が開くように引き裂かれたビームの中心ではメイヴガードナーがどんどん融解していく。

 確か対ビームコーティングをしていたと言っていたが、それでもこのチャージしたビーム砲を受けきることも出来ず。

 

『お姉様……わたくしは…………っ!』

『タカミネ!』

 

 ナツキの機転。一本背負いによって割り込まれたメイヴガードナーはビームを受けきった後、そのままテクスチャの破片となってデータの海に消えていった。

 

『羽虫共が……ッ!』

「ナツキ……」

「ごめんハル。私もトランザム切れしちゃった。……でも」

 

 カチャリ。ガーベラストレート「夏空」を構える姿ですべてを察してしまった。

 今度はナツキがビームの盾になるつもりなんだ。

 

『たかがDランカーが、私に敵うものですか! そうよ、追い詰められているのがおかしいんだわ。早くこの子たちを倒して、私が、私が頂点であることを示さなきゃ』

 

 鳥の悲鳴にも似た咆哮とともに、2度目のビーム砲を射出する。

 今度はわたしたちの前には盾がない。あるのは、ナツキのガーベラストレートだけ。

 ナツキは刃の先をビームに突きつけて、リミッター解除によって増した出力が桜の花びらのように桃色の先行を花開かせる。

 それでも、全てを溶かし切るほどの威力。ナツキのガーベラストレートの先が溶け始め、勢い絶大な閃光にオーバースカイのGN粒子をPS装甲に変換させて強度を上げているにも関わらず融解を始める。

 

「まだ。まだだ! 私たちには最後の希望がある!」

『希望なんてあるわけないじゃない! あんたたちはここで死ぬ! 死ねばいいのよッ!!!』

「……ッ! 死んで、たまるか!」

 

 そうだ。死んでたまるか。死んだら何もかもおしまいだ。だから死なせたくない。死にたくない。

 ナツキのオーバースカイに並び立つ形で、ガーベラストレートを持つ手に自分の手を重ねる。

 限りあるブーストを吹かせて、地面を足で力いっぱい踏み抜いて、一緒に生き残るためにビームに対して刃を突き立て終わりの時が来るのを待つ。

 トランザムで量子切れだろうと、二人がかりなら、耐えられるはずなんだ!

 だから、お願いだから耐えて……っ!

 

 イエローコーションを超えてレッドコーションが鳴り響くコックピット内。

 装甲はもはや意味を成さないほどドロドロに溶けて、フレームが一部むき出しになってしまっている。スラスターだって限界が近い。エネルギーも枯渇していれば、メインカメラだって熱で殆ど見えていない。

 だけど、ここを耐えなければ。耐えれば、希望はあるんだ。

 

 無限とも思えるビーム照射。ただただ真っ直ぐな熱線を受け止めているガーベラストレートはもはや元の形を成していない。

 だけど照射の終わりを告げた。お互いにボロボロであと一回の突撃ぐらいしか、エネルギー残量が残っていないほどだったが、それでも生き残ったんだ。

 恐らく、次の一撃で決まる。それは幸か不幸か。いや、幸に変わるって信じてる。モミジがセツを説得して、最後の一撃で全てを終わらせると。

 

 くちばしを開いた桃色の閃光。もう一度チャージするために開かれた地獄の門がわたしたちを睨みつけている。

 動くこともままならないわたしたちはもはや目を閉じることしかできない。

 それでも。それでも目の前の黒いハシュマルに対して諦めないと、強い意志で睨みつけようとしたときだった。

 

 鈍色の流星が地獄の門に吸い込まれていくのを見たのは……。




鈍色の流星は、勝利をもたらすか……?
次回と幕間で3章完結です。
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