そして3章も終わり!!
「しょうみ言っていい?」
「なに、でかお姉ちゃん?」
「この超ロングショット、あたしにできそうにないんだけど」
主戦場からはかなり離れているから、誰かに邪魔される気配はない。
だからといって、推定13km。今生やったことすらないほどの超ロングショットをちびっこに支えられながら狙撃するってのは、正直無理がありすぎる。
目標だってハシュマル・ゴルゴーンの頭部。モビルアーマーだからこそ、大きな巨体ではあるものの、針の穴に糸を通すような細かい作業。それを1発で、風の影響も受けながら狙撃しなくてはならない。
赤砂のミワならいざ知らず、ドローンとレドームの補正を付けてやっとのあたしにミッションを遂行する自信はなかった。
「でもハルお姉ちゃんとナツキお姉ちゃんに頼まれたんでしょ?」
「んまーね。でもちびっこに支えられながらって、相当ブレるのよ」
あたしのハイザック・バトルスキャンは狙撃用にビルドされている。
関節部分が緩まないようにしっかりと動かないように、それでもちゃんと素早く逃げ切れるように調整に調整を施した、あたしだけのハイザック。あたしが愛したガンプラ。
一時はブレイクデカールを使って復讐の道具にもしたし、2年ぐらい見たくもないって言って放置もした。だからガンプラの声が聞こえるなら、きっと彼は恨んでいるのだろう。そう考えていた。
「セツのせい?」
「うんや。運が悪かっただけ。当たってなければ普通に説得して、ちびっこの手も借りずに済んだし」
「……ハモニカ砲はごめんだけど、セツはお姉ちゃんの力になれて嬉しいよ」
「セツ……?」
「だって、みんなで戦ってるって感じるもん! ハルお姉ちゃんとナツキお姉ちゃんが前で戦って、セツとモミジお姉ちゃんで援護する。いつもの春夏秋冬だなって」
「……くせぇ事言ってるな、セツは」
そっか。いつの間にかあたしたちはいつもどおりになってたんだ。あたしが説得して、セツがこっちに来てから。
じゃあ守らないと。あたしらの安住の地を。セツにとっての幸せを。
「ガンプラだって言ってるよ。長い間使ってくれてありがとうって」
「……ハイザックが?」
「うん。いろんな事があったし、辛い思いも寂しい思いもした。けど、見捨てずにもう一度手にしてくれて嬉しいって」
「そっか。あたしも、お礼言わないとね」
操縦桿から手を離して、手の甲でこつんと叩く。ホント。ホント嬉しいな。
あたしはてっきりもう嫌われているものだと思ってた。
あたしに従わされて嫌々しているんだって。
でも違ったんだ。あんたは、ハイザックはずっとあたしのことを思ってくれてたんだね。
「……っば」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「あんま泣かすこと言わすなよ。ロングショットに支障をきたすべや」
こぼれてくるのは涙。視界がぼやけて写って、もはや狙撃どころじゃなかった。
だけど、泣くのは今じゃない。それに泣くとしたら最後に嬉しいって感情で〆るのが定石じゃん。だから……。
鼻をすすって、涙を手の甲で拭いて、スコープを覗き込む。
チャンスは一瞬。ハシュマル・ゴルゴーンの口が空いた時。その一瞬があたしの。あたしたちのラストショットになる。
ハルがビームチャージショットを撃って相手と戦っている。
ナツキチがメイヴガードナーと戦闘している。
そして、セツがあたしを、銃身を支えてくれている。
あたしには何ができるか。ドローンによる精密な場所の特定。そしてレドームとの連携でさらに広がる視野。メイヴガードナーが盾となり消滅した。
そしてもう一度米粒ほどのハシュマルの口が開き、熱源を感じる。
明鏡止水。すべてを無にして、ただ一点。目標だけを撃ち貫く。
心は穏やかだった。澄み渡っていて。これが俗に言う無我の境地というやつなのだろう。
だからそこにたった1つのワガママを弾丸に添える。みんなと一緒にいる。たったそれだけのワガママを鉛玉に込めて、トリガーを引いた。
「行っけーーーー!!!」
セツの願いとともに発射された弾丸は目標へ積むかってひた走る。
自信はない。だけど、あたしの友達が、かけがえのないセツが文字通り支えてくれた一撃だ。失敗してほしくない。
神がいるなら、今このときに叶えてほしい。
GBNにバグを撒き散らしたかもしれない。友達を見殺し同然にしたかもしれない。初心者狩りを自分の復讐の憂さ晴らしにしたかもしれない。
だけど、それ以上にあたしはセツを、みんなを愛している。だから届いてほしい。
鈍色の流星はラグナロク・エリアの端からハシュマル・ゴルゴーンへの最短距離を導き出す。
真っ直ぐに一直線に。この想いを消させないために。遠く。遠くの目標へ向かってひた走る。
3度目の地獄の門は開かれて桃色の閃光がチャージを完了した頃に、それは訪れた。
◇
ビーム発射のために装甲がむき出しになった黒いハシュマルの頭部に対艦ライフルの鉛玉が撃ち込まれる。
ビームは行き場を失って内部で飛散。もろにダメージを受けたハシュマルの頭部は爆散する。
『どこからっ?!!』
「モミジさん、やった!」
「ナツキ!」「うん!」
残り少ない粒子残量をフルに活用してブーストを始める。
目標はハシュマルの胸部。ナツキの構えた壊れかけのガーベラストレートとわたしの構えたロングビームサーベルが並行に並び立つ。
「「これでぇええええええ!!!!!」」
2本の刀がハシュマルのコックピットを貫通させる。致命の一撃。そしてこれが、勝利への方程式。
『うそ……嘘嘘嘘嘘!! 格下風情に、雑魚風情になんで私がやられなきゃいけないのよ! ふざけないで! 私は……私はぁ!!!!』
爆風が辺り一帯を包み込む。それが勝利の狼煙だった。
◇
フォース戦は春夏秋冬の勝利ということで幕を下ろした。
だけど、そんなんじゃ納得がいかないのか、メイヴ率いるオリンポス全員がわたしたちの元へと乗り込んできた。
「無効よ無効! こんな勝負は無効!!」
「なに言ってるのさ。ガンプラバトルでの決め事は……」
「たかが遊びじゃない! そんな遊びで私のセツを渡してたまるものですか!!」
ナイフはないものの、セツを人質にとったメイヴはニヤリと笑う。
こいつがどうなってもいいの? 未だにセツは私たちのフォースに所属していることになっている。なら私たちがどう扱っても構わないでしょう? そう言いたげな顔だった。
「でもいいのかなー」
「G-Tuberだかランカーだか知らないけど、たかが後見人風情が……」
「今配信中なんだよねー」
「……は?」
『通報しました』
『セッちゃんを返せ!』
『通報しました』
『通報しました』
『セッちゃんは春夏秋冬のもんだ!』
『通報しました』
G-Tuberの配信は当然生放送だ。だから今目の前で行われていることもやろうと思えば即通報ができる。
まさかじゃないけど、ちのはこれがやりたくて配信はじめたんじゃないよね……。だとしたら彼女も相当怒っている。まるでいじめっ子を断罪するPTAのようなやり方。
「嘘よ。嘘! 私は逃げ切るわ! だって、ELダイバーなんて人じゃないもの! 人間じゃないもの! 化け物風情が我が顔で歩くなんて時代がおかしいのよ!!」
少し黙って。それをいの一番。静かに怒りを顕にしたのは他でもないモミジだった。
「人かどうかとか関係ない。あんたが思う化け物だろうと、心が通じ合うんならあたしは友達だって言い張れる。みっともないあんたとは違ってね!」
「しゃしゃり出てくるんじゃないわよ、マスダイバー風情が!!」
セツを手放し、怒りに身を任せてモミジに襲いかかる。
だけど、その怒りの鉄拳が届くことはなかった。いや、届く前にある男に掴まれたのだ。
整った顔と、金色の髪の毛。黒い制服に身を包んだ、恐らくGBN内で最も有名なダイバーその人。チャンプという二つ名を欲しいままにしているその名は……。
「クジョウ・キョウヤ……ッ!」
「通報があってね。今運営が手を離せないところだから、代わりに来たんだよ」
「邪魔する気ッ?!」
「君にはいくつもの違反行為のペナルティが重ねられている。これ以上するとGBNにいられなくなるよ?」
チャンプがやってきたことによって、全てが解決してしまった。
チャンプを含め、マギーさんなんかも自警団という形で運営に協力しているダイバーがいるらしい。もちろんこれは非公式で本人たちもあまり口には出さないようにしているが、運営の手が離せない際は、こうして現れるのだとか。
メイヴ、タカミネを含めたセツ以外のフォース『オリンポス』は、その場で連行されていった。あれだけのことをしたのに、なんともあっけない幕引きだった。
わたしもチャンプが出てきてから口が半開きになって動かなかった。
「モミジお姉ちゃん!」
「うわっ!」
そして、最初に動いたのは他でもないセツだった。
嬉しそうに、解放されたようにモミジの身体に抱きつく。まるで幸せを噛みしめるように、味わうようにゆっくりと、ゆっくりとモミジの身体に埋もれていく。
「ちょ、配信中なんだけど!」
「いいじゃん。ちょっとぐらいサービスしてあげようよ、カメラ担当」
「そうそう! 感動の再会なんだしね、モミジお姉ちゃん!」
「2人とも!」
笑いあうわたしとナツキ。困った顔ながら、それでもほころんだ口元は隠せないモミジ。そして深々と幸せを味わっているセツ。
あぁ、いつもの。うんや。いつも以上の幸せな春夏秋冬だ。ちのが配信していることを除けば。
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『ロリをゲットしたギャル』
『ロリにも優しい系元ギャル』
「セツ、生きててよかった!」
「まーうん。良かったんじゃね?」
照れ隠ししながらも、それでも幸せそうなモミジを見ていたら、彼女の復讐がようやく終わったんじゃないかと思わせるのには十分なほどだった。
『ありがとう撮れ高の神様』
『今度奉納します』
『何を?』
『面白い動画』
『1/144サク』
「ていうか、ちのも混ぜてー! ちのだってここ数週間セッちゃん成分補給してないんだもん!」
あぁあぁ。本当に大変なことになったな。でもまぁいっか。
隣りにいるナツキの顔を見る。同じタイミングで目が合ったらしく、少しだけ頬を赤らめながら、どちらともなく手をつないだ。
ナツキからつないでもらった勇気のバトン。それが巡り巡ってわたしたちの大切な人を守ることができたんだ。
「ナツキのおかげだね」
「なにが?」
「んーん。なんも」
言うのは恥ずかしい。口にしても意味が伝わるかはわからない。
けど今のは伝わらなくていいや。ナツキのおかげで、なんて言ってもきっと彼女はモミジさんとハルのおかげだよ、なんて彼女は言うだろう。だから今はこうして手をつないで、優しさという名のぬくもりを伝えるだけで十分だ。
◇
「すまないね、こんなところに呼び出して」
「いえ。でもチャンプがあたしのこと覚えててくれたんすね」
「当時の僕はあまりにも酷いことをしてしまったから、気になっていたんだよ」
テラスエリア。空と建物と、ガンプラと。その他いろいろなものが見える中、あたしはチャンプに呼ばれて話をしていた。
正直めちゃくちゃ緊張するんだけど。あの時のあたし、気が動転してたと思うし、復讐にかられてたから怒りに任せて有る事無い事全部言ってた気がする。
2年前の出来事だから詳細なことは覚えてないけど、はっずいわ。自分の黒歴史と向き合ってるみたいで。
「こっちこそ。正直あの時あたしは全然冷静じゃなかった。復讐にかられて、友達と同じような目に合わせるだけでいいと思ってから」
「憎しみとはそういうものだ。ぶつける相手がいなければ自分を焼き殺してしまうほどの熱さを持っている」
「っすね。……その、ブレイクデカールを使ってたこと、報告しなくていいんすか?」
原因があったにせよ、あの時ブレイクデカールを使っていたのは間違いない。
2年前とは言えども、時効とは言い張れないから、あたしはチャンプに呼び出された時点でGBNを去ることを覚悟していた。
だけど、チャンプの答えは違った。
「君はブレイクデカールの被害者だ」
「……へ?」
「君のような心優しき人間に付け入った首謀者の原因だったと。そう僕は解釈している」
「……それ、本気っすか?」
あまりにも身の潔白を証明するには不十分な言い訳。屁理屈だと言ってもいい。この人は、なんでそんなにあたしに肩入れするんだろう。
気になったから質問してみた。どうして? と。答えは、もうすでに提示されていた。
「僕はGBN内のダイバーが皆楽しく遊んで過ごせる場所にしたいんだ。それには過去は必要ない。どんな人間がいても、どんな電子生命体がいても、ここは遊びの場だ。因縁なんてものはいらない」
「チャンプって、誰にでもそんなんなんすか?」
チャンプは少し口元をほころばせて、笑ってみせる。
「君は今と未来を手に入れた。そこに無粋な真似を強いることなど、僕にはできないさ」
「やっぱお人好しっすね」
「そうともいいのかもしれないな」
2人して笑いあう姿はまるで旧友と再会した同窓会みたいなノリだった。
でもきっと、チャンプと混じり合うことはもうないだろう。あたしたちが上を目指すならまだしも、そこに笑顔があるかと言われたら、怪しいと思うし。
それに、今のバカルテットって呼ばれてる春夏秋冬が好きだからそれでいいんだ。
「ありがとう。有意義な時間を過ごせた」
「こっちこそ。心の支えが取れたみたいです」
「なら、向こうにいる3人と一緒に写真を撮ってくれないか? ナツキという子に頼まれてね」
見れば壁の端から3つの頭が飛び出ているのが見える。
ふふっ。ホント、なーにやってんだか。
「ちびっこー! 見せもんじゃないんだからなー!」
「み、見てないもん!」
プンスカ怒ってみせるあいつはホント、純粋で悪意に弱くて。それで可愛らしい。
「さぁ、行こうか」
「そうっすね!」
後ほど、ガンスタグラムで上がった写真には、あたしたち4人と、何故かチャンプが笑っている姿がいて。
リプ欄では「チャンプはさぁ……」とか言われていたとかいないとか。
◇
ガンスタグラム TL
ハル @Harucamera
今と未来のわたしたち withチャンプ
【画像】
今と未来のわたしたち
これにて3章は終わりなのですが、
最後に幕間を挟んでから4章に進みたいと思っています。
あとモミジの13kmスナイプショットはセツがいたから成立した愛のショットであり、もう一度やれと言われたら9割外すと思います