GBN。それは多種多彩なディメンションに別れた、ミッションを己の手によって切り開いていくようなゲーム。
ゲームとは言っても侮るなかれ。最近のアップデートでダイバーの感覚をフィードバックして、より臨場感あふれるリアルプレイを可能にしているんだとか。
謳い文句は「主人公となって、立ち向かえ」だって言う話。わたしには想像もつかない話だけど、みんながみんな主人公だって言うなら、みんなの中のひとりであるわたしも、主人公ってやつなのだろうか。
「何ぼんやりしてるの?」
「いつものこと」
「いつもの数割増しにはボーッとしてたよ? ほら、ヤスってヤスって」
主人公だとしたら、わたしは今、なんでプラモデルにヤスリをかけているんだろう。地味過ぎる絵面にわたしの心も指もすり減ってしまう。あ、ついでにヤスっているプラモデルの方も、かな。
なんでもわたしのケルディムガンダムをブラッシュアップするためにディティールとか言うのをアップするんだとか。
要するにわたしですら学校に行く前にちょちょいとしているお化粧と同じ感覚なのだろう。でもわたしの知ってるお化粧には肌を削るという工程は用意されていない。
「ねぇ、これでホントに強くなってる?」
「少なくとも愛を加えたら、加えただけガンプラは答えてくれるんだよ」
「ナツキにしては名ゼリフ」
「っていう有名なビルダーの言葉なんだけどね」
シャフリアールさんっていうんだけど。と解説してくれたが、生憎当人を全く知らないので、わたしにとってはどこぞと知らない他人である。
むしろ有名なビルダーなんて、星の数ほどいるだろうが、こうしてわたしと接してくれるビルダーは目の前のナツキしかいないわけで。物好きもいたもんだと、笑ってしまう。
でも、なんかいいな。わたしと接してくれるたった1人のビルダー。誇れるよ。なんせ初心者をGBN沼に引き込んだ張本人なんだから。
「後は塗装して完成かな」
「塗装?」
「うん。サフ塗って好きな色に塗装」
サフというのはサーフェイサーと呼ばれるもので、塗装前に全身に塗る一種の下地。これがあるとないとでは傷隠しとか塗装の塗りが違うらしい。ほー、すごい。やっぱりお化粧と同じだ。なんて思いながら、わたしはカチャカチャとスプレー缶を上下にかき回していた。
塗ってみて分かったけど、意外とわたしのケルディムガンダムには傷が多かったみたいで、それを隠すことが出来たサーフェイサーというものには感謝だ。
あとは乾くまで待って、その後好きな色に構築しようって話なんだけど……。
「何色がいい?」
「ピンクとか白とか、明るめの色かな」
「じゃあ合わせて塗ってみてー……」
「あ、やってみたいことあるんだけどいい?」
「どんなの?」
「こう、1本だけ周囲と違う線を入れるみたいな。どういえばいいんだろ」
「あー! こういう事?」
すぐさま理解した様子のナツキはマスキングテープを2枚厚紙に貼ってから、スプレーでその間をなぞるように噴射する。
テープを取ってみるとあら不思議、1本の線が伸びるように出来上がっているではありませんか。ミステリー。
「これこれ! これをケルディムのボディとシールド、だっけ。に施してみたいの」
「いいねいいね! それでこそガンプラって感じがする!」
「そう?」
「オリジナルの思考、オリジナルの解釈。自分だけのオリジナルガンプラはこういう、やってみたい、から始まるものだよ」
「……そっか」
流されるだけのわたしだったけど、まさか自分の口で願望を出しているとは思ってなかった。どうしてなんてものじゃない。それだけナツキと親しくなったと、わたしは解釈しよう。
「そうなったらもうケルディムじゃない、別のガンプラかも」
「ケルディムじゃなくなるの?」
「名前を付けてあげるんだよ。オリジナルの」
見た目が変われば、姿が変われば該当の機体としての名前は失われる。
失った名前をどうやって呼べばいいか。その答えは1つだ。また付けてあげればいい。
今度はわたしの。わたしだけのガンプラとして転生させる。
「名前かー。うーん」
「この辺はハルの裁量かな」
「カメラガンダム。違う。ガンダムデジカメ。おかしい却下。ガンダム写真。それはもう別の何か」
「あはは。もう自分の世界に入ってるや」
思い浮かぶのはカメラの名前。一眼レフ。ポラロイド。射影機。どれも違う。わたしだけのガンプラの名前。名前は……。
「ファインダー。ファインダーガンダム。いや、ガンダムファインダー!」
「おおそれっぽい!」
「決まった。これから君の名前はガンダムファインダーだ」
「バラバラの状態だけど、そこで決め台詞大丈夫?」
「大丈夫じゃない!」
「あはは!」
その後は白を基調にピンクのラインを付けたり、追加装備を付けてみたり。ケルディムガンダムの外観は取りつつも、全く新しいガンプラが誕生した。
その名もガンダムファインダー。ナツキの助力のおかげで強度も素組みの比じゃないぐらい固くなった。これなら通常の戦闘ぐらいいけてもおかしくはないだろう。
「早速GBNにログインしよ! 時間があれだから、すぐ抜けちゃうと思うけど」
「夕飯時近いしね」
軽いミッション1つできれば十分かな。という勢いとともにわたしたちはダイバーギアを手に、GBNの世界へと意識を移していった。
今更だが、ミッションはあまりの多さで辟易するほど。カウンターで受けられるミッションが全てではないが、こう多いと、どれから始めたらいいか迷ってしまうわけでして。
「うーーーーーん」
「大丈夫?」
「大丈夫に見えたら苦労はしない」
大丈夫じゃないから唸っているのだ。カウンターの目の前で唇をへの字に、眉間に3つのシワを作り上げながら、わたしたちはウィンドウとにらめっこしている。そうやって唸っていれば、自然といい人悪い奴の目には止まるわけでして。
やや気軽目に少し低めの男性の声がわたしたち2人に対して降り注いできた。
「お嬢ちゃんたち、初心者だろう? ミッションでお困りかい?」
「そうだけど……」
「おじ……お兄さんは誰?」
体躯から見たらかなり大柄の男性だった。見るからに物騒な肩パットと筋肉ムキムキの上半身。ボロっちい下半身の布切れ。そしてスキンヘッド。
どっからどう見ても怪しい奴に違いなかった。流されやすいわたしでも警戒してしまうほどの世紀末っぷり。あぁいうの漫画の登場人物でやられ役として登場しているよね、ってレベル。
「おじさんは酷いなー! お兄さんはダイって名前でな? 初心者に特別ミッションを教えてるんだよ」
「特別?」
「そーだ! これを見て皆よ」
ミッション内容と報酬が描かれたウィンドウを渡される。
えーっとなになに。クリエイトミッション:薬草を集めよう。
参加推奨ダイバーランクはF。これはわたしたちのランクと同じ。
で、座標に咲いている花の収穫と納品が目的。ふんふん。
ミッション開始地点が……。
「は~~い! ダイく~ん、ちょっとお痛がすぎるんじゃな~い?」
「げっ、マギーだ。逃げろ!」
読んでいたウィンドウを強制的に中断されて、スキンヘッドのでかい男はどっかに行ってしまった。代わりに現れたのは半裸に脱いだパイロットスーツに、赤いジャケットを身に着けた紫髪の男性。この人も結構体格は大きいのだけれど、それを上回ってしまうほどの特徴が、彼。いや彼女? にはあった。
「いやねぇ、初心者狩りだなんて。2人とも無事だったかしら?」
「え、えぇ……」
この人は、別の意味で圧が強い。いや、アクが強い。
推定180か、それよりもっと高そうな身長のムキムキの男性が、オネエ言葉でわたしたちと対面しているのだ。
でもそれに怖気づくことなく。いや、ちょっとはびっくりしてたと思うけど。ナツキが気になる単語を聞き返していた。
「あの、初心者狩りって?」
「あぁ言うタイプの子たちのこと。ちょっと特殊なディメンションに行ってダイバーポイントを稼ごうってハラなのよ!」
「あー、だから」
わたしたちでそのポイントを稼ごうとした、ということか。
あまりこのゲームの仕様を知らないのだけれど、ダイバーを戦闘で倒すことによってダイバーポイントというものを獲得することができるらしい。ポイントが増えれば、やれることも増える。だから何も知らない無垢な初心者を騙して、特殊なディメンション《ハードコアディメンション:ヴァルガ》に誘うとしていたのだ。
「アタシはマギー! 見ての通り親切なお姉さんよ!」
「親切な」「お姉さん」
ナツキと口を揃えてつぶやいてしまった。
いやだって、ツッコミどころ満載なんだもん。どうやってスルーしろって言うのさ!
「そんな運のいいあなた達に耳寄りの情報よ。聞いちゃう? 聞いちゃう?」
「え、はい。まぁ」
ナツキに激しい勢いで腕を引っ張られる。分かってる。わたしだって好きで言ったわけじゃないけど、流され体質を舐めないでもらいたい。こういうのは意志とは関係なく口が勝手に言ってしまうのだ。
「どうするのハル、怪しい人だったら」
「でもオカマに敵はいないって」
「いるでしょ、ワン◯ースとか」
「ア◯バスタ編とか知らないよわたし」
「あら女子会かしら~? アタシも混ぜてほしいわね~!」
ナツキと顔を見合わせて、なんとなく分かった。この人本気か冗談かは分からないけれど、わたしたちの緊張をほぐそうとしていることは間違いなかった。
だったら、信用に値する人間なんだと、わずかながらに思った思考を実行に移す。
「み、耳寄りな情報って?」
「これよ、こーれ!」
さっきの男と同じようにウィンドウがわたしたちの手元に表示される。
ミッションは特定の花の写真を撮ってこいというものだった。
『クリエイトミッション:ファインダーに収めよう!』
『参加推奨ダイバーランク:F』
『クリア条件:指定されている座標に咲いている花の撮影と納品』
『ミッション開始地点:グラスランド・エリア 南部草原地帯』
『このクリエイトミッションを受領しますか?』
『YES』 『NO』
「撮ってくるだけでいいんですね」
「そうよ! それをアタシに見せてくれればOK! ミッションクリアってことにしてあげるわ!」
「よさそうだけど、ハルはどう?」
「まぁ、いいんじゃない」
ファインダー、か。ちょっとあの写真のことを思い出してセンチメンタルな気持ちになるのを意地で引っ張って意識を戻す。
そうやって、わたしたち2人は初めてのミッションに挑戦するのであった。
初の原作キャラ。マギーさんはどこにでも出せる素敵なお姉さんですね。
◇マギー:
出典:ガンダムビルドダイバーズシリーズ
ここでは原作の設定は割愛。
ハルとナツキへの印象はよくある女子高生の友達二人組。
そんな無垢で可愛い子たちをダイという初心者狩りが、
食い物にしようとしている姿を見過ごせなかった。
ミッションが終わったら、2人にフレンド登録を飛ばす予定。