ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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開幕の4章。
それは月の雷と……。

2021/01/20追記:
序盤数行が丸々消えていたので復旧しました。
モミセツのいいところが消えるところだった……


第4章:月の雷とそれからの2人の関係
第38話:それは月のイカズチ


 セツを取り戻した翌日。わたしたちはいつものようにカフェテリアで喋っている、わけでもなかった。

 セツ自身が提案したモミジとのお買い物、と言う名のデートにお邪魔するわけにも行かないため、久々に自由にディメンションを空中散歩していた。

 本人たちはお買い物だと否定していたけれど、セツはなんだか上機嫌だったし、モミジはそんなセツの姿を目を細めながら喜んでいるようにも見えた。これも青春なんのだとしたら、モミジには遅れてやってきた青春を謳歌してほしい。

 友達、というにはデコボコンビだし、たまに喧嘩しているところを見てたので、どちらかと言うと悪友と言った方が近いかもしれない。

 いや、どっちかというと2人は姉妹と言った方が正しいかも、22歳差だし。ちょっと喧嘩もしつつ仲のいい姉妹。それが彼女たちへの印象だった。

 

「あ、私たち専用スレ立ってる!」

「えっ」

 

 ガンダムファインダー・ブレイブの本来のヘッドカメラの用途である撮影をしていたら、ナツキの方から興味深く、恐ろしい事実を耳にすることとなった。

 え、専用スレ? なんで? 分からないけど、分かりたくない。そして見たくなかった。

 わたしが大泉だと書かれているところを見てしまった時から、ずっと。

 なんだよ大泉って。わたしあんなに天パーじゃないし。確かに、ちょっとくせっ毛なのは認めるけど、それはあんなモジャモジャなんかじゃなくて、ふんわりふわふわだよ? おっかしぃなぁ。スレ民に皆様はわたしの髪の毛が眼中にないと見える。じゃあどこ見てるのって言われたら、わたしも困るんだけど。顔とかならまだ分かるけど、この無駄に脂肪がついてしまった胸の方を見られたら、流石に怒る。すけべ! って。

 

「ふんふん」

「そんなん見ても大して面白くもなくない?」

「そんなことないよ。ふふふ」

 

 何故だかごきげんなナツキに習って、ガンプラを自動操縦モードにして掲示板を確認する。

 ふんふん。初っ端からぼやき担当だとか大泉だとか言われていることは置いておこう。モミジの超精密射撃も頭がおかしいのは認めよう。本人は絶対ドローンとかレドームのおかげって謙遜するだろうけど。

 セツを落としたのは、まぁ今の状況から分かってしまうしこれも置いておく。

 どんどんスクロールしていって、問題は90レス目に始まる。

 

「な、なにこれ?!」

「ナツハルだってさー。面白いね」

「どこがよ!」

 

 え、なに? ナツハルって何?

 100レス目で言ってるようなことないから。わたしたち付き合ってないし!

 ナツキは置いておいて、わたしは、その。満更でもないかと言われたらそうでもないような気がしなくもないけど。いやいやいや。わたし、まだ初恋とかまだだし。どういうのが恋とかわからないし、……ナツキが好き、とか。そんな! そんなのないし!

 

「私たち恋人だってさー」

「勘弁してほしいんだけど」

「茶化されるの嫌?」

「嫌っていうか。ナツキはそれでいいの?」

「え?」

 

 ノリノリなのは分かったけど、それはそれとしてナツキの気持ちというのもある。

 掲示板の民は基本的に相手の事情なんてお構いなしだ。だからわたしはともかく、ナツキは迷惑だったりしないだろうか。考えれば考えるたびに、わたしのせいで、と思ってしまうわけで。

 

「だから。彼女彼女扱いされるの……」

「……まぁ。その…………」

 

 風をかき分ける音と、GN粒子が放出される音だけが聞こえる。

 それ以外は何も聞こえなくて。でも胸の音だけが、内側で響いて終わらない。

 

 ――もし、嫌じゃないなら。

 

 いやいやいや。わたしは好きとか。そういうのじゃないけど。でも一緒にいたいなぁとかは思うし、ナツキがわたしのこと特別に思ってくれてるなら、それでとても嬉しいし……。

 

『いってきます、お姉ちゃん!』

 

 ……嫌なことを、思い出した。どうも、わたしは特別という言葉に弱い。良くも、悪くも。

 

「あ! あそこ! ジオン水泳部がいるよ! 写真撮らない?!」

「あ。あはは、そうだね。交渉してみよっか」

 

 今はごまかされるだけでいい。いや、わたしたちは親友という間柄でいいんだ。このまま、ずっと。いつ終わるかも分からない学生同士、同級生として一緒に笑いあえれば、それで。

 

 ◇

 

「ちゃんと撮ってくれよ!」

「分かってます。連写モードにするので、合図したら出てきてください」

「あいよー!」

 

 川から水しぶきを上げ、勢いよく現れたのは水色のボディに胴体よりも長い手が特徴のハイゴック。

 わたしは川の水を一身に受けながらも、ベストショットを模索してシャッターを切る。

 水も滴るいい男、ならぬいいハイゴック。泥だらけの足元とは対称的に空から降り注ぐ太陽が丸っこい頭部を光らせる。水滴も太陽光に反射して、つややかなボディを発光していた。上手いこと逆光にならないように、それでいて写真全体が暗くならないように、調節してパシャリ。

 

「どーだ?!」

「うん、いい感じです。一度見てみます?」

「おうよ! ちょっと待ってろ!」

 

 ガタイのいい男が数人わたしの周りにやってきて、ウィンドウに表示させた写真を確認してもらう。それぞれ反応がいいのか「ほー」とか「すげえ」とかいろいろ言ってくれる。ちょっとした承認欲求が満たされるみたいで、浮かれてしまう。

 

「やっぱこれか?」

「あぁ。水も滴るハイゴック。いいじゃねぇか!」

「じゃあこれだね。はい」

「ガンスタに上げてもいいか?」

「もちろん。あ、わたしの名前は忘れないでね」

 

 あたぼーよ! と豪快に笑ってみせる彼は、なかなかの大物かもしれない。

 わたしは名前自体どうでもよかったし、ガンスタにはわたしも上げるつもりだったから、どっちでもよかったんだけど、ナツキがそうしろって言うからしょうがない。

 わたしの髪の毛をくしゃくしゃとタオルで拭いて、満足そうに見下ろすナツキを見る。ナツキ、楽しそう。

 

「これ俺らの宣伝写真にしようぜ! 君もダゴン水泳部へようこそ! ってな!」

「ここのフォース名、ダゴン水泳部だったんだ」

 

 ダゴンって確かクトゥルフ神話に出てくる神様の名前だった気がする。それなら元ネタ通りいっそダゴン教団とかにすればよかったのにな。みんなインスマス顔になりかねないけど。

 

「ありがとな! またお願いするかもしれねぇ!」

「うん。その時はフォース春夏秋冬をよろしく」

 

 ガンプラに乗って、その場を飛び立つ。見えなくなるまでハイゴックの長い手がわたしたちを見送っていたのは少し嬉しかった。

 

「写真活動も再開かー」

「2週間ぐらいそれどころじゃなかったし」

「でもタイガさんのところではいっぱい撮ってたんでしょ? いーなー」

 

 そんないいものではなかった。修行は大変だったし、これ本当に必要? って思った特訓はいくらでもあった。

 でも恐怖を乗りこなすことができたのはひとえにタイガさんと修行僧のみんなに他ならない。今度溜め込んだ写真をフォース宛に贈ろう。きっと喜んでくれる。

 

「でもホント、ハル強くなったよね」

「そう? わたしは実感ないけど」

「うん、とっても」

 

 だって私に並び立つぐらいだもん。なんて言われても、わたしはどうしたらいいわからない。

 結局わたしはナツキについていってるだけ。自分で何がしたいかとか、自分が何をしたいかとか、そんなのまだ決めれてない。

 写真だって、両親がいたから、妹がいたから……。

 

『じゃあ行ってくるよ、ハル。すぐ帰ってくるからな』

 

 また、嫌なこと1つ。今日は本当に多い。ホント、どうしたんだろう。

 

「ハル? ハルってば!」

「ん? なに」

「なに? じゃないよ! 今なら私とも戦えるんじゃない?」

「冗談。まだナツキの方が強いよ」

 

 わたしは本気のナツキを見たことがない。そりゃ2ヶ月も一緒にいれば、ナツキのクセぐらい見つける。ナツキはそれまで使ってこなかったオーバースカイを自在に操ってみせた。そのおかげでメデューサ姉妹に勝利できたんだけど、未だに彼女の本気というものを垣間見れていない気がする。

 まるで、本気を出すことを拒んでいるような、そんな変な感じ。もどかしいけど、わたしにも分からない。だから深く追求するのはやめておこうと思う。

 

「それより! ハルってなんで写真始めたの?」

「……さぁ?」

 

 理由はちゃんとある。だけどそれを言うとなると、もっと面倒なことになるから誤魔化す。

 わたしにだって1つや2つ、秘密なことがあるんだよ。そうつぶやいて。

 

「あ、そうだ。ガンスタグラムに写真投稿しなきゃ」

 

 もはや2ヶ月も使っているSNSだ。手慣れた手付きで青空とオーバースカイが飛んでいる写真に、さっき撮ったハイゴックの写真。あとは虎武龍で撮った写真をいくつか……。

 投稿した瞬間、何か目の前にノイズが走ったような感覚がした。

 

「あれ、バグかな」

「どうしたの?」

「なんか、ガンスタに投稿しようと思ったら……」

 

 突然、ガンプラと一緒にセントラルロビーへと飛ばされたわたしたちは、わけもわからないまま、状況を確認する。

 ロビーのモニター全域には通信障害によって、一時的にログインを制限する旨が書かれたウィンドウが赤文字で表示されている。

 この現代社会、それもGBNで通信障害? 一体何で?

 

「ハル!」

「モミジ、セツ!」

「どうなってるの、これ……」

 

 分からない。分からないけれど、ダイバーによる運営への説明要求が絶え間なく広がっていく。

 そして、その答えは黄色いウィンドウと文字によって答えが出た。

 

『GBNのサービスに支障が発生したため、シーサイドベースでのログイン制限を実施いたします。』

 

 目の前でダイバーが消えていく。セツが、モミジが、その他のダイバーが続々と。

 そして、ナツキも何も言わずに消えて……。

 

「ナツ、キ」

 

 電子から強制ログアウトさせられたわたしの脳裏には、2年前の出来事がフラッシュバックする。

 

『じゃあ行ってくるよ、ハル。すぐ帰ってくるからな』

『いってきます、お姉ちゃん!』

 

 行かないで……。その言葉をこの時のわたしは理解してなくて。

 わたしは、あの時どうすればよかったんだろう。ほんの数秒。数十秒だけ声をかけていたら、今の未来はなかったのかな?

 

「っ!」

 

 蘇る意識。無理やり引き剥がされた意識は元々あるべき肉体へと戻っていく。

 息を吹き返したように、少し唖然としながらも周りを見回してナツキがいることに安心した。よかった、ナツキがちゃんといる……。

 

 わたしたちは何が起きたのかを確認するために、店内にいるマシナさんのところへ訪ねに行った。マシンにはログイン障害と書いてあったものの、詳しい話はよく分かっていないのだ。

 

「マシナさん、さっきログインしてたら……」

「そうその話なんだよ! どうやら同時多発的に通信障害になってるらしくってさぁ」

 

 同時多発的に? 分からないことに分からないを積み重ねた今の現状を伝えるように、スマホには『圏外』という文字だけ表示されていた。

 

 あらゆるネットワークやシステムに影響を及ぼす謎の通信障害。

 事件が解決した後に名付けられた事象名である『アルスインパクト』が引き起こしたのは、ネットから隔絶された世界と、わたしとナツキの関係の変化だったことを、未来のわたしは書き記すことにしよう。




衝撃は、いつも突然に……


4章はハルの過去に触れていく感じです。
普段よりも短い章になりますが、その分濃厚なのでお楽しみに
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