ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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素直になれない女がどんどん依存していく様
ラストに下ネタ注意です


第40話:それは愛のアシュラ

 実際に時計を見たら分かることがある。

 それは時間だったり、その時間の使い方だったり。

 わたしはどうやらまだ待ち合わせから30分も経過していなかったみたいだ。

 自分の時間感覚のなさに呆れてものが言えなくなる。どんだけ寂しがっているんだ、わたし。たかが1人来ないだけなのに、こんなにも落ちこんじゃって。

 ナツキ。待ち人であるけれど、それを約束したわけでもない。来るという保証はどこにもなくて、わたしが勝手に期待しているだけ。なんて傲慢で、なんてワガママで醜い女。

 最低だ、わたし。来ない理由なんて星の数ほどあるのに、来てほしいっていう考えも同時に数え切れないくらい存在する。

 いつまでもグルグルと思考を回転させても、精神衛生上よくないことは分かってる。だから適当にガンプラを買って制作ブースで作ることにした。

 

 ガンプラっていうのも星の数ほど存在するけど、わたしが気に入ったガンプラはそれほどなかったりする。

 そもそもわたしはガンダムという作品自体に触れたのはここ最近のことだ。それ故に知らないことが多すぎる。

 やっとグフとザクとザクウォーリアとグフイグナイテッドの違いが分かったようなものだ。でもドムとドムトルーパーの違いはよく分からない。つまりはその程度のガンダムにわかだ。

 だからといって勉強をおろそかにしているわけではない。流し見で見た作品はいくつかある。その1つがガンダム00だ。

 主人公の刹那が所属するソレスタルビーイングを中心に世界を、いや宇宙をも巻き込んで戦いを繰り広げていく作品。わたしは、その中の登場人物である『グラハム・エーカー』に心を奪われていた。

 

「あった。スサノオ」

 

 家にはファインダー・ブレイブの強化パーツとして買ったマスラオが部屋の片隅で鎮座している。作ってみたら案外簡単で、あっさりとできてしまったから腑に落ちないところがあったり。

 まぁそれはいいんだ。スサノオはガンダム00のセカンドシーズンに出てくるグラ……ミスター・ブシドーの駆ける漆黒の機体だ。

 その出自からだろうその黒さは、まるでオーバーフラッグを思わせる風貌。

 実体剣のシラヌイとウンリュウに鎧兜のような頭部に、GNコンデンサーの増設やGNクローなど、とにかく接近戦に対応させたマスラオの純強化機体だ。

 刹那のダブルオーライザーと互角の戦いを繰り広げ、大破したものの、その運用データは後継機であるブレイヴに引き継がれるなど、ただではやられていない点も評価できる箇所と言ってもいいだろう。

 和がモチーフのボディに、グラハムが愛するオーバーフラッグの派生機。これだけでも十分魅力的で、ファンからは人気度が高い。

 確かにわたしもスサノオが好きなのだが、それよりもグラハムの生き方にも魅力的なものを感じて、愛着が湧いていた。

 

 彼は良くも悪くもガンダムという存在に狂わされた男だ。

 最初はガンダムの性能に心惹かれたが故に、自身を歪ませていった軍人で、愛という形でガンダムを追い続けた結果、その愛が執着に変わり、その執着が部下を殺された憎しみへと変わっていく。

 一時はミスター・ブシドーと丸わかりな見た目で憎しみを憎悪に変えて、ダブルオーライザーと戦っていたり。

 最後は刹那の、未来の味方をしてこの身を犠牲にしたり。

 ガンダムが関わらなければ、ただの優秀な軍人で終わっていた彼は、ダブルオーの登場人物の中でも数奇な人生を送っていると言えよう。

 わたしの中では彼をベスト・オブ・ダブルオー賞として受賞していると言っても過言ではない男だ。

 

 自分の愛に愚直に。そして一直線に進みながらもどこか歪んでいってしまった姿が悲しくも、それが当人の幸せにつながっていったと思えば、口を出すことすらおこがましい気がして。

 そんな彼だからこそ最後は刹那の道標になることを選んだのかもしれない。それが軍人の矜持であり、彼が望んだ結末だったとしたら。

 

 ちょっとだけ、わたしとナツキの関係に似ている気がしたんだ。

 突然わたしの前に現れて、ナツキが散々連れ回して影響させて。

 愛は確かにある。でも彼のように表に出すことはない。

 だから同時に羨ましくも思った。もっとわたしに恥や羞恥心がなければ、もっとナツキと仲良くなっていたかもしれない。

 

「できた」

 

 わたしにはない真っ直ぐさが、執念が、憎しみさえも、羨ましく思ったんだ。

 

「意外とよくできた気がする」

 

 時間にしてだいたい2時間程度。そこまでは言ってないにしろ、ゲート処理なども含めたら、上々だと思われる出来だ。

 わたしもガンプラ作りに手慣れてきたし、これなら次の段階に行ってもいいのかもしれない。例えばビルダーを使ってのオリジナル兵装の作成とか、武装の新規作成とか。ケルディムサーガやサバーニャなどのパーツを転用するのいいかもしれない。

 ガンプラは自由だと誰かが言っていた。なら、わたしだけのガンダムファインダーをさらに進化させることだって可能なはずだ。

 

「でも、どうすればいいのやら」

 

 ケルディムもサバーニャも射撃機体だ。それを格闘戦仕様にするのは骨が折れるわけで。また兵装とか考えないとな。ぼんやりと独り身を拭うように考え事をしていれば、頭の上には見知った顔が1人。

 

「ごめん、待った?」

「ナツキ……」

「いやぁ、親が食料買いだめしなさいってうるさくってさ。ここにいそうだって思ったんだけど、行けなくって」

 

 わたしはくるっとナツキがいる方へ椅子を半回転させ、立っているナツキのお腹に黙って抱きついた。

 

「ハ、ハル?!」

 

 動揺が走るのはナツキだけではない。むしろ周りのモテない男女諸君がどよめいた。

 あの子たちそういう? とか、キマシタワーとか。そんなのがいっぱい。

 

「ど、どうしたの? 朝から熱烈だなー! あ、あはは……」

 

 あのナツキですら動揺しているのだから無理もない。

 そしてわたしもしばらくナツキのシャンプーの香りとよその子特有のいい匂いを堪能していたら、我に返って気恥ずかしくなってしまった。

 名残惜しいけど、そっとナツキから離れて、一言。

 

「ご、ごちそうさま」

「……ど、どういたしまして」

 

 向こうもこっちも凄まじく恥ずかしかった。

 確かに昨日からボディタッチは多かった気がするけど、それは、その。寂しさを体で埋めると言いますか。

 こういうのって誰かに抱きつかないと治らない病みたいなもので。だから今日も昨日も少し大胆な真似をしたんだ。普段はこんなんじゃない。

 心の中でそうやって言い訳するものの、ナツキがとやかく言ってこないのを見て少し安心した。

 ナツキは先程買ってきたであろう1/114のフォースインパルスガンダムを紙袋から取り出して机に並べる。

 

「一緒に作ろ? 暇でしょ」

「まぁ、うん。しょうがないなぁ」

 

 いつものように。それでも少し違う距離感の中、わたしはニッパーを手に持ってパチパチランナーを切り始めた。

 

 ◇

 

「作ったねぇ」

「作ったねー」

 

 ざっと並ぶのは3体のガンプラ。スサノオ、フォースインパルス。そしてガンダムDX。どれもブンドドさせるつもりもなく、かと言って積みプラにする気もなく、作ってしまったガンプラたち。

 どうしようと考えるわたしは、とりあえずスサノオを緩衝材入りのタッパーに入れることにした。同じくナツキはフォースインパルスとガンダムDXを自前のガンプラ入れに収納していた。

 

「なにそれ」

「昔使ってたやつ。お父さんからもらったの」

「ふーん。便利そう」

「……あのさ、ハル。私、ハルに言わなきゃいけないことあるの」

 

 ドクン、と。それはいい報告なのか悪い知らせなのか。

 すぐさまそんな大した話じゃないと、慌てる姿を見て少し安心した。

 まったく。嫌な知らせだったらどうしようかと。今、会えなくなるとか言われたら、とても嫌だったから。

 

「私ね、元GPDプレイヤーなの」

「……ん?」

「だから、元GPDプレイヤー」

「あ。あのリアルでガンプラを戦わせる?」

「…………私、結構大きめの告白だったんだけど」

 

 だってGPDとか分かんないし。わたしが知っているのは今も昔もGBNだけで、ナツキの過去とかそういうのは気にしてないのだから。

 でも言われてみれば結構辻褄が合う点が多かった。妙に熟れたプレイスタイルだったり、バトルに対する知識の多さ。そしてガンプラビルダーとしての腕前。すべて独学だと思っていたけど、そういうことだったのか。

 

「黙ってるつもりはなかったんだけど、余計かなって思って」

「別に、わたしはそんなの気にしないし」

「知ってる。セツちゃんの件だって、ELダイバーって言われたのにボケっとしてたよね」

「人をバカみたいに言わないで」

「いい意味で無関心ってこと」

「それ褒めてる?」

 

 確かにわたしは人に対して無関心な点はあったりする。

 普通の人なら驚くようなところも、ふーんで済ませたり、人の過去だってあんまり興味がない。それは必ずしもいい事ばかりではないのは分かっている。でもこればっかりはわたしの生き方だからしょうがない。

 だからって無関心だよね(笑)みたいなこと言われて怒らないわけではない。少しだけその前提を覆してあげようじゃないか。

 

「じゃあわたしからも質問。誕生日は?」

「え、言ってなかったっけ?」

「言ってない。聞いてても覚えてない」

「ひっどくない?」

「人の誕生日とかいちいち覚えてられないし」

「じゃあなんで聞くの?」

「覚えたいから」

 

 その意図に気付くのはいつ頃だろうか。例えばナツキの誕生日を祝いたいからとか、覚えていたいからとか。

 でもそんなではなくて、単純にナツキと親密になりたい。ただそれだけなんだ。

 

「7月11日。ハルは?」

「3月29日」

「おっそ」

「春生まれだからって必ずしも早いと思うなよ」

「ごめんってば! あはは!」

 

 なにが面白いんだか。

 でも7月11日か。カレンダーの予定表に入れておこうっと。

 その後は質問合戦が始まっていた。好きな食べ物とか、映画とか。身体はどこから洗うとか、そんな他愛ない質問ばかりで、本当に嬉しくなってしまう。

 心の中が、少しだけ満たされたような、そんな気持ち。

 

「あ、もう時間だ」

「門限?」

「うん、流石に通信障害中は早めに帰ってこいって」

「ふーん。そっか……」

 

 寂しい、と言わないだけでホントはめちゃくちゃそう思っている。

 口に出したら、きっとナツキは一緒にいてくれるだろうし、もしかしたら夕飯だってごちそうになれるかもしれない。だけど、ナツキの家族の邪魔はできない。

 

「一緒に帰ろ?」

「……そうだね」

 

 それは気遣ってくれたってことでいいんだよね、わたしのためだけに。

 でもナツキのことだ。きっとわたし以外にでもそう言うに決まってる。ナツキは優しいから。

 今日もわたしの腕をナツキの腕に絡めて帰宅する。障害2日目にして、ナツキへの依存度が相当上がっている気がする。

 こんなんじゃ独り立ちとかできないのに。高校卒業したら、ナツキと別れてしまうかもなのに、こんな事してていいのかな。

 女子高生は往々にしてこういった同性への過度な接触はあるらしい。そしてそれは恋愛感情ではなく、少し深く掘り進めた友情関係なのだとか。

 ナツキは、きっとわたしのことをそういう風にしか見えてない。彼女の気持ちを直接確かめたことはないけれど、わたしみたいなのと相手してあげてるだけ。それ以上の深い間柄ではないと思う。

 わたしは、どうなんだろう。ナツキのことが好きなのかな。それともただ依存しているだけで……。

 

 やめよう。考えても出てくる結論は直接聞くか、寂しいの2択だ。それなら考えない方が楽だ。

 

「ハル、明日はどうする?」

「……明日も、ガンダムベースに来て。朝から」

「……分かったよ。私もハルに会いたいし」

「そっか。それじゃあね」

「うん、また明日」

「明日」

 

 本音を言えば、もっと一緒にいたい。もっと話して、遊んで、寄り添いたい。

 特別を知ってしまったから。わたしだけの大切な宝物。ずっと大事にしたい親友。

 だけど相手にだって都合はある。わたしの都合ばっか押し付けていたら、いつか嫌われてしまう。そうでなくてもどこかで途切れてしまいそうな関係だ。

 直接ナツキに聞いたわけではない。聞けるわけがない。重たい女だって思われる。口にしたら最後、二度と同じものには戻れないかもしれないから。

 

 ガチャリ。鍵を開けてドアを開く。

 おかえり、なんて言葉は聞こえてこないほどの漆黒。明かりのない家には、一切の暖かみはない。

 電気をつけて、暖房をつけて、寂しさを紛らわすためにテレビをつけて。

 夕飯はない。作るしかないし、お母さんも帰ってくることはないだろう。きっと今日も忙しいんだろうな。

 

 軽く料理を作って、作り置きしてた白米と、インスタントのお味噌汁を並べていただきます。

 ごちそうさまで食器を片付けて、すぐにソファーに横になった。

 

 わたしのお母さんは、とにかく忙しい。わたしと自分を養うために身を粉にして働いている。

 わたしが大学に行かないというのはまさしくそれが理由で、一刻も早く自立して、母を安心させたいから。それ一点に尽きる。そうしたらきっとお母さんも家でゆっくりできる時間が増えるはずなんだ。

 

「わたしが、無力だから」

 

 またフラッシュバックする2年前の出来事。あの時。あの一瞬に戻れるとしたら、わたしは迷うことなくお父さんと妹に声をかけていた。それが最善手だと、信じて疑わないから。

 

 目線の先には青い空と白い雲。そしてわたしたち4人の笑顔の写真。わたしがもう一度見たかった景色。撮りたかった、思い出。

 

「………………」

 

 横になったまま膝を抱えてうずくまる。

 過去のことを考えたって無意味なのに。ナツキと出会うまでは治まってたのに。

 特別を失って、自分の殻に閉じこもって、ナツキがこじ開けて。そして。

 

「ナツキ…………」

 

 心にぽっかり空いた穴を埋めるためにスマホからナツキの写真を見る。

 

「ナツキ……っ」

 

 お腹の下辺りが少しだけキューッと縮こまるのを感じる。

 どんだけ依存してるんだ、わたしは。昨晩はあんなこと言っておいて……。

 伸びた指先には小さな花瓶。触れればピリリと甘い電流が背筋を走る。

 

 あぁ。最低だ、わたし。




夜の寂しさは、何事にも代えがたい恐怖である。
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