ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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4章もこれで終わりなので初投稿です。


第43話:それは朝のフタリ

「マジで言ってる?」

「言ってる」

 

 早速だが、用意しようと思っていた布団が台無しになった。

 わたしの話を聞いてか聞かずか。多分聞いて可愛そうだと思ったから、わたしと一緒に寝ようって話になったんだと思う。

 かわいそうと思われるのは勝手だ。だけど、問題はその後者。一緒に寝るって、その。わたしと? 話す気はないけど、親友の写真を汚してしまったような奴と? 正直、抑えられる気がしない。

 ひとつ屋根の下。ベッドは1つ。何も起きないはずもなく。なんて言ってる場合じゃない。

 せめて汚れとか臭みとかを消すために、今日は入念に体を洗っておこう。期待してないわけではないとだけ、読者様にはお伝えするとして。

 とは言ってもまだ21時を過ぎたぐらいの時間。2人でどうしようか、と考えた結果、片隅で積み上がっている積みガンプラを処理することに決めた。

 どうせ明日も学校はないんだ。多少は夜ふかししたって文句は言われないだろう。

 

「ハル、なんか00系列多くない?」

「なんかね。見てたら欲しくなっちゃって」

「分かる! 私もSEED DESTINY見てたらデスティニー欲しくなるもん!」

 

 わたしは往々にして流されやすい性格だと認識している。

 流されやすいということは、つまり影響されやすい人間とも言える。

 影響されやすい人間は見た作品のガンプラ欲しさにガンダムベースや模型屋などを転々として、欲しいガンプラを購入してしまう。

 それは人類の摂理と言っても過言ではない。と、わたしは考えているがどうだろうか。少なくともナツキは反応しているので2対0でわたしたちの勝利と言っていい。

 

 さて、話はおいておくとして、手元にあるのはガンダムデュナメスとエクシア。それからオーバーフラッグにブレイヴと、グラハムが乗っていた機体が半分を占めていた。

 

「落ちたな」

「なにが?」

「ガンダムの沼に」

「そ、そうかな」

 

 妙にキメ顔で言うもんだから少しだけ笑ってしまった。

 そっか。わたしも立派にガンダムの沼に足を入れつつあるんだ。

 

「じゃあ私エクシア作るね!」

「わたしはブレイヴで」

 

 1人は折りたたみ机の上で。もうひとりは勉強机を使って。持ってきていたニッパーでパーツを切り出しながら、黙々と作業している。

 最近知ったけど、こういう2人で何かをするって時間が、どうもわたしは好きらしい。1人で作っているのに、ちゃんと誰かがいる感覚。

 ふたりっきりの空間。時計の音と、テレビの笑い声を聞きながら、ランナーを切る音だけが部屋の中を支配していく。

 たまに伸びをしてパキパキと骨の音が聞こえたり、パチリと言うまでパーツ同士を組み合わせたり。そんな当たり前が、ずっと続いて欲しい。

 

 同時に分かっていた。ずっとという言葉は必ずしも存在しないということを。

 寿命や病死。行方不明に、突然死。フッとした拍子にこの世の中で誰かが死んでいる。誰かが、誰かと会えなくなっている。出会っていない人間なら別にいいが、知り合っている人間が消えてしまったら、わたしは身を引き裂かれるぐらいの思いになるだろう。現にお父さんが、サクラがそうだったように。

 

「出来た! 見て見て! 大型のGNソード!」

 

 展開したエクシア特有の大きな実体剣でシュバーンシュバーンなんて言いながら声に出すナツキは、綺麗な顔なのに子供らしくて可愛かった。

 しばらくして、わたしもブレイヴを完成させて、部屋の中で年頃の乙女とは思えないほどヒューンガシャーンとか言いながら、ガンプラを持って遊んでいた。

 やってみたら分かるけど、意外と楽しい。ガンダムベースでたまにそういう人を見かけるけど、あれは楽しいからか。と1人で納得してしまった。

 

 さて、お風呂も湧いたので先にお風呂に入って、髪を梳かす。

 ちゃんと梳かさないと、わたしの場合朝、大変なことになってしまうから。

 ちなみにナツキが事もあろうに、一緒に入ろうか? と聞いてきたが流石に断った。

 昨日の今日でナツキの裸を見てしまったら、こう。抑えが効かなくなってしまうかもしれないから。

 対策はしておくに越したことはない。だから、心頭滅却しながらドライヤーで髪を乾かしていた。

 

「私もやってくれない?」

「うん」

 

 自分の家のシャンプーが、人から香ってくるのはおおよそ2年ぶりだ。

 そして、そのシャンプーの匂いは色濃くわたしの鼻腔に入ってくる。

 お泊りしているって感じする。人の、それも妹とは別のナツキの匂いが混じったそれは、もはや媚薬のそれではないだろうか。

 頭を振って忘れる。ダメダメ。わたしとナツキはそういうのじゃないから。

 ナツキのサラサラの髪の毛を指先で感じ取りながら、ドライヤーで乾かしていく。

 少しだけ水分を含んでいて、いつもよりもしなやかな髪の質感にお風呂上がりなんだなって理解させてくれた。ホント、こいつ髪キレイだなぁ。

 

「あっつっ!」

「あ、ごめん」

「もう、ちゃんとやってよー?」

 

 ボーッとしていたらドライヤーを同じところに当て続けていたらしい。

 頭をなでて熱を解いていってから、続けて髪を乾かしていく。

 そんな時間を堪能していれば、もう1時を過ぎていた。玄関の方からガチャリと、母が帰宅する音が聞こえた。

 

「ただいまー。電気ついてる……」

「おかえり、お母さん」

「お邪魔してます」

「あら……」

 

 下まぶたがクマで仕上がったわたしのお母さんが、珍しい客人に目を合わせる。

 

「シライシ・ナツキって言います。今日はハルのご厚意で……」

「いらっしゃい。歓迎するわ」

 

 疲れていても、笑顔だけは絶やさないお母さんが顔を緩ませながら、ナツキの頭をなでている。

 そういえば、わたしも昔頭を撫でられてたっけ。あんなふやけた表情で、今とは違って疲れなんか知らない笑顔で。

 

「ハルが、友達を連れてきたのね」

「そういう顔しないでよ。お客さんの前だよ?」

 

 そうだよ。そんな過去から脱出できたみたいな、今にも満足気に死んでしまいそうな顔しないでよ。

 わたしは、お母さんにはちゃんと生きていてほしいんだから。

 

「ハルを、よろしくね」

「お母さん!」

「はい。絶対幸せにします!」

「ナツキまで!」

 

 幸せにって。今だって十分幸せなのに。まったく、困った2人だ。

 お母さんは着替えてから軽くシャワーを浴びると、そのままベッドへ沈して動かなくなった。やっぱり、相当疲れてるんだろうな。

 

「じゃあ、私たちも寝よっか」

「ん」

 

 こんな不思議な会話を聞いた後に寝なくてはいけないの、少し拷問がすぎるのではないだろうか。悪い気はしないけど、気恥ずかしい。

 電気を消して、シングルのベッドに強引に2人で横になる。

 すると必然的にお互いに向かうような形になってしまった。ナツキの匂いまでこっちを刺激してくるし、今日本当に寝れるかな……?

 

「ねぇ、ハル」

「なに?」

「私、まずお礼が言いたくって」

「なんの」

「ハルの過去のこと。話してくれてありがとう」

「……そんなの、言わなきゃいけないと思ったから」

 

 本当のことだ。昨晩のことはさておき、ナツキになら話してもいいかなと思った。

 それは好きな人だから。信用できる相手だから。自分のことを知ってほしいって、心から願ったから。

 そして懺悔でもある。そんな相手に今まで隠し事をしてきたっていう、後ろめたさと罪深さを許してもらうかのような。

 

「それでも、勇気を出してくれた。私は、それがとっても嬉しいんだ」

 

 それでも、ナツキはこうやってわたしを肯定してくれる。

 

 ――ナツキはわたしの事……。

 

 なんでだろう。それは、分からない。少しだけ頭によぎったことがあったけど、違うと思う。そうだったら嬉しいと何度も願うけれど。

 

「ごめん。あんな話、急にしちゃって」

「ううん。私も、ちゃんと覚悟を決めたから」

 

 どんな? 聞こうにも聞けない。やっぱり勇気がないから。一歩を踏み出すような、力強い足踏みができないから。

 そっか。と、そうやって言葉を曖昧に誤魔化して目を閉じる。

 

「GBN、またやろうね」

「うん。当たり前でしょ」

 

 そこが、わたしたちの遊び場で、居場所だから。

 わたしとナツキだけじゃない。モミジやセツ。ちのも含めて、わたしと関わってくれた全員と遊べる場所が、そこなんだから。

 最近寂しさを拗らせてどうかしていたわたしは、多分通信障害が復旧すれば元に戻ると思う。

 それまで一人ぼっちのわたしは、ずっとナツキを求める。

 自分でもわかってる。わたしは一人ぼっちがとても嫌いな女で、好きな相手はずっと側に置きたくなるとっても重たい女だってことぐらい。ナツキが重たいだなんて、こんなんじゃ言えないな。

 心の奥底で自分を卑下していたら、腕を背中に回してナツキが抱きしめるように身体を寄せてきた。

 

「これで寂しくないよ」

 

 それは、わたしの事を知ったから言ってることなの?

 心の中を見透かされたような一言に、思わず捻くれたことを口にしてしまう。

 

「……別に寂しくなんかないし」

「あまのじゃく」

「うるさい……」

 

 ドクン。ドクン。胸のビートは重く、激しく脈打っている。

 モールス信号みたいにわたしの考えていることがナツキに伝わっているのだろうか。少しだけ嫌でもあるけれど、同時にとても嬉しくもあった。

 わたし、ひとりじゃないんだよね、って。ナツキがそばに居てくれるんだよね、って。

 鼓動の音はなおも自分の内側から外側に伝わっていく。

 でも胸のドキドキはわたしだけじゃない。外側から伝わってくる彼女の鼓動がわずかにシンパシーする。

 ちらりと、ナツキの顔を見たら目が合った。

 

「えへへ。私もドキドキしてる」

「……同じだね」

「うん。同じ、一緒だ」

 

 心臓の音がまるで同調するようにナツキの鼓動に合わせて音を鳴らす。

 一緒。一緒か……。なら。この気持ちも一緒に伝わればいいのに。

 吐息がかかる距離。わたしもナツキの背中に腕を回して密着する。

 暖かい。ナツキの体が。ナツキの心が。ナツキの想いが。

 言葉はないけれど、心から伝わる想いがあるとすれば、それは相手を思いやる、たった1つの『好き』なんだと、薄れゆく意識の中で、そう感じた。

 

 ◇

 

 それから数日。通信障害が直ったその日。

 わたしたちはガンダムベースに滑り込むようにしてGBNログイン権を取得した。

 ガンプラをダイバーギアにスキャンさせて、ログインを実行する。

 久々に味わう肉体から意識がデータに消えていき、テクスチャへと変換されていく感覚を一身に受け止めれば、おおよそ2週間ぶりにGBNの大地を踏みしめた。

 

「あー、年末」

「ホントだよ。あと数日したらクリスマスだってさ」

「クリスマス、いいもの用意するから待っててね!」

「ん。期待してる」

 

 次々とログインしてくるダイバーがいる中、わたしたちはいつもどおりのカフェテリアでモミジとセツを待っていた。あの2人のことだきっとやってくるに違いない。

 わたしたちは2人で飲み物を注文すると、今度は何しようか。クリスマスフェスにニューイヤーフェス。どこに行こうか迷うね。なんて他愛ない話を繰り広げていた。

 しばらくすると、ややお疲れムードのモミジと隣の人の元気を吸い取ったように元気なセツがやってきた。

 モミジは、出会って早々何故かドン引きしていた。

 

「おっ久々だね、モミジ、セツ」

「うん! セツは元気だったよ!」

「モミジさんは、仕事疲れですか?」

「それもあるけど……。いや、なんか……」

「「ん?」」

 

 何かおかしいところがあるだろうか?

 注文したカップル御用達の、2人で1つの飲み物を共有するためのストローが刺さったオレンジジュースを、わたしとナツキの2人でチューチュー吸っているところに、どこもおかしいところはないと思われる。

 

「あんたら、そんなに仲良かったっけ?」

「私とハルは仲いいよ、何言ってるの」

「いや、こう。そういうのじゃなくってさ……」

 

 じゃあどういうのが言いたいのか。

 答えに渋っていたモミジの代わりに、セツが早押しボタンを押した。

 

「お姉ちゃんたち、付き合ってるの?」

「バッ! お前、そういうこと堂々というやつがいる?!」

「えー、だって好き好きなのかなって」

「そ、そうだよ。わたしたちは親友なんだし!」

 

 どれだけ距離が近かろうが、どれだけ相手のことを好きかろうが、別にまだ告白したわけじゃないし?

 それに向こうがどう思ってるかわからないのに、気軽に付き合ってるの? なんて言ってはいけない。そうだよね、ナツキ!

 

「付き合ってるよ」

「ナツキ?!」

「ナツキチ?!!」

「わー!」

「私たち付き合ってるよね、ハル?」

 

 屈託もない、人を疑うことを知らない真っ直ぐな笑顔がわたしを打ち貫く。

 その実、恐らくこれが告白なんだろう。それにしたって周りに人がいる状況で、その上わたしが断ることができない空気を醸し出すのはどうかと思う。

 わたしの性格を完全に熟知した上での、完璧な告白。

 彼女は流されるわたしがこう答えると知っているはずだ。

 

「まぁ、そうだね……」

 

 あるギャルはマジか、とドン引きした様子で。

 あるELダイバーはヒューヒューと歓喜の声を上げている。

 そしてあるメロスは何故かHPが0になって、ドットの破片となって消滅した。

 

 ここに示そう。わたし、ハルとその親友のナツキが友達の、親友の壁を超えて、恋人となったことを。




抱きしめるのは、哀れみなんかじゃなくて愛ゆえに


幕間は1つ投稿してから私が自由にやる5章の開幕です。
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