ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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クリスマスです。誰がなんと言おうとクリスマスです


第5章:わたしたちがレイドバトルをするまで
第44話:クリスマスは彼女に何をあげますか?


 クリスマス。人はそれを祝い事だと認識しているだろう。

 例えばケーキを食べたり、シュトーレンを食べたり、あとはピザにチキンにコーラに。

 とにかくめちゃくちゃ美味しいものが食べられる日であり、加えて愛する人と一緒に過ごす記念日でもあるだろう。

 家族に隣人。あとは恋人……。

 

「恋人だってーーーー!!!」

 

 母親にうるさいと1階の方から聞こえてくる。ちょっとは私の浮かれた気分を理解してほしいものだ。何せお母さんだってお父さんとそういう日を過ごしたのだろうから。

 GBNが再開した日。いや、もうちょっと手前からだろうか。でも実際に言葉にしたのはその日なわけだけども。

 とにかく、私はハルと正式に付き合うことになった。そう恋人だ。彼女と彼女の間柄だ。

 友達より、親友より、もっともっと親密な間柄。でなければカップルストローでオレンジジュースなんて飲まないし、クリスマスイブにふたりっきりでガンプラを作ったりしない。

 あの時偶然にもモミジさんのリアルと遭遇してしまったのは驚いたけど、それより思った以上にやさぐれた見た目をしていたことの方が驚きだった。社会に出るとあんなになると思うと、少し背筋に悪寒が走る。

 

「やめやめ。明日どうするか考えなきゃ」

 

 プレゼントを渡す予定なんだけど、そのプレゼントのアイディアが決まっていない。

 だってハルって物欲なさそうと言うか、一番最初のガンプラ決めたときも、半ば面倒だからっていう理由でケルディムを選んでいた。

 ハルが何を欲しがっているのか。おおかたの予想はついているものの、高すぎて買えないというのが現状だった。

 

「せめてデジカメでもなー」

 

 安いものでもだいたい諭吉1枚は持っていかれる。ガンプラだってそんな高いもの……あったわ。昨日組んだ。

 完全に失敗した。何が前から欲しかったんだよねー。彼女1人満足させられない辺り、私という人間はとてつもなく愚かだった。

 

「……きっと、クリスマスも1人だよね」

 

 バタバタとベッドの上でバタ足していた足を止めて、天井を見上げる。

 先日家に行った時からなんとなく分かっていた。ハルはいつもあんな暗い部屋でずっと一人ぼっちを味わっていたんだ。

 彼女の待遇は決して悪いものではなかった。でも1つ歯車が狂ってしまったから、人生全体が動かなくなった。それがハルという人の印象だ。

 私にどうにかできるとすれば、それはきっと一緒にいてあげることだけ。歯車を交換して、私をハルの一部として、彼女の人生を動かしてあげることだ。

 歯車がその場所に合っているかはわからない。だけど、私自身一緒にいたいって気持ちもあるなら、それでいいんじゃないかと思う。

 

 出会いは偶然だった。だけど今の思いは必然だ。

 誰かのためになりたい。誰かと一緒にいたい。そんな気持ちは間違いなく私の中にもあって、それはちゃんとハルの方に矢印が向いている。こりゃ重いだなんて言われるわけだ。ま、ハルの方が数倍も重たいんだけど。

 

「クリスマスプレゼントは、私です。みたいな」

 

 ……ないな。ほぼ全裸になって重要な部分だけリボンで隠すような真似、私だってしたくない。

 でもハルが求めるなら、欲しいなら差し出すことだって厭わない気がする。私ハルにゾッコンかよ。

 

「……あ、そういえば」

 

 欲しい物を考えていたら、昔ふとつぶやいていたことを思い出す。

 ハルは写真が好きだ。本人は否定するだろうが、天の邪鬼なのでそう言うに決まっているぐらいには好きなんだろう。

 最初は理解できなかったけど、今なら私と出会って、ガンプラを探す時にアウトフレームを求めたハルの気持ちが分かった。

 ガンカメラ、作れないかな……?

 

 ◇

 

「てことでなんとかならない、GBN先輩のお二方」

 

 クリスマス当日。ハルもやることがあるってことでどこかへ行ってしまった。

 逆にチャンスだと思って、私はモミジさんとセツちゃん2人に、ガンカメラ制作について考えていた。

 

「まぁ、あれはフルスク無理だよねー」

「ちのお姉ちゃんなら多分できるよ?」

「あれと比べられても……」

 

 噂ではフルドレス・ユニットをフルスクラッチし、セツのモビルドールを作成し、その皮であるダブルディバイダーの装甲を付けたあのビルド狂いと一緒にされては困る。

 モミジさんが言うには、あんたも大概あたおかでしょ。とか言われたが、何故そんな事を言われているか全く分からなかった。

 

「でもお姉ちゃん、クリスマスフェスで配信中だし、セツのイクスリベイクの最終調整があるから難しいかも」

「え。なんそれ。あたし知らんのだけど」

「あれ、言ってなかったっけ? セツのために新しいガンプラ作ってくれてるの!」

 

 初耳である。

 セツが言うには、ダブルディバイダーの最大の欠点である燃費問題を解決するべく、サテライトシステムではなく、別の特殊エンジンを積むことで解決させるとのことらしい。それに合わせてガンプラも新調という話になったらしい。

 

「でも、ちのお姉ちゃん迷惑じゃなかったかなーって。その、初めてのワガママだったし……」

「まー、大丈夫っしょ。ちのっちならちびっこの大抵のワガママ聞いてくれるし」

「そうかなぁ……」

「なんなら聞いてみる?」

 

 G-Tubeの画面を開いて、セツちゃんに画面を譲渡する。ウィンドウの中ではちのちゃんがクリスマスフェスを楽しんでいる配信が表示されていた。

 

「迷惑じゃないかな?」

「むしろ発狂すんじゃね? 関係者ってアイコンも付いてるだろうし」

「……なら」

 

 ポチポチとコメントを入力して、エンターキーを叩き込むと、コメント欄にセツの文字が流れる。

 

「でねー。クリスマスって言ったら……」

 

『ちのお姉ちゃん。あのワガママの件、迷惑じゃなかった?』

 

「ぶっふっ!!」

 

『お嬢!』

『お嬢が死んだ!』

『このひとでなしー!』

『セッちゃんだ!』

『インポスター:セツ』

『おぉ勇者ちのよ。ここで死んでしまうとは情けない』

 

「なんでセッちゃんがいるの?!」

 

 今日、お昼はモミジちゃんと一緒にいるはずなのに。なんて言いながら、半分発狂。半分ニヤケ面のふにゃり顔を画面に見せている。なんというか、器用だなこの人。

 

『ワガママってなんですか?!』

『ちのちゃん、ついにやってしまったか』

『通報しますた』

『出頭しよう。自首ならまだ刑は軽くなる』

 

「待って待って! 私! 私がセッちゃんにおねだりされたの!」

 

『私お嬢助かる』

『私ちのちゃんいいっすね』

『素が出てますよ』

 

「あーーーもう! 今度覚えておけよ……」

 

『ヒェッ』

『ヒェッ』

『ヒェッ』

『ヒェッ』

『ヒェッ』

『ヒェッ』

 

 なんか、大変そうだなー。セツちゃんの言葉1つでこんなにも発狂するなんて。可愛らしくもある反面、当事者には決してなりたくないと思ってしまったのだった。

 ちのちゃんはなんとか呼吸を整えるために、深呼吸した後、わざとらしく咳払いを1回。

 

「ちのはセッちゃんからお願いされて、新しいガンプラを作ってるの! ちのはそれに対して嬉しいと思ってるけど、迷惑なんかじゃないからね? 分かった?」

 

『子供に言い聞かせるママみを感じる』

『ちのママ……』

『セッちゃんの新しいガンプラかー!』

『モビルドール形態はビビった』

『お嬢、案外ビルド狂いだよな』

 

「欲しい物に貪欲と言ってほしいな! それと、ちのはママじゃない!」

 

 適度にコメントを返しながら、テンポよく次の目的地へと行く姿は、さすが2年の貫禄と言わざるを得ないG-Tuberとしての鑑だった。

 

「てか、あたしらも配信しないん? ずっと動画じゃん」

「あはは。それは、そろそろやった方がいいかなー」

 

 セツちゃんがちのちゃんにコメントを返している様子を流し見しながら、私は少しだけ物思いにふけっていた。

 実際のところ、ちのちゃん戦から忙しかったからできてなかったけど、配信活動をやってみたいという気持ちは少なからずあった。

 生放送で凸待ちをしてみたり、リアルに起こったことをリアルの自分のまま口に出すっていうのは難しいだろうけど、楽しそうだと感じたからだ。

 問題はハルのご機嫌次第だと思う。嫌々ではないにしろ、根本的に人ととのコミュニケーションが苦手な彼女にとって、生配信はストレスに近いかもしれないから。

 今度相談してみよう。力技ながら、コミュニケーションの改善になるかもしれないし。

 

「試しに今やってみたら? ガンカメラの作り方分かっかもよ?」

「……モミジさん、天才?」

 

 新しく買ったハロカメラを起動させて、私たちしかカメラに入らないように位置を調整して、テスト配信を開始する。タイトルは『テスト配信。みんなに聞きたいこと』だ。

 

「入ってるかな、これ」

「ハロの目が光ってるし、いけてんじゃね?」

「よし! ちのお姉ちゃんにお返事書けた!」

 

『初見』

『初見 春夏秋冬と聞いて』

 

 おぉ、すごい。ホントに配信が始まっていてコメントが流れている。ちょっとした映像革命みたいなものを感じる。

 そうだ。あのちのちゃんところの配信でやったように、ご挨拶しなくちゃ。

 

「えっと、こんにちは。ちょっとテスト配信がしたくって」

 

『素のテンション助かる』

『これが素のナツキちゃんか』

『笑い袋が笑ってない』

 

 自分が笑い袋だと言われていることは知っているけど、こうして面と向かって言われると少しムッとしてしまう自分がいる。匿名じゃないんだぞ、これ。ちゃんと見えてるからな、フゥーロさん!

 

「あたしら聞きたいことがあって、配信はじめたんよ」

 

『なるほどぉ?』

『ガンスタでいいのでは』

『俺は生の声が聞きてぇんだよ!』

 

「言われてるけど、モミジさん」

「あ、あったねー。ガンスタ」

 

 モミジさん天才で賞を今すぐにでも返品していただきたい。

 思いつかなかった私も私だけど、聞きたいことがあるならガンスタグラムで聞くのが手っ取り早かったかな。これは失敗だった。

 

「まーまー、いいじゃん! それで、ガンカメラのパーツデータが手に入る、みたいなミッションやお店ないかなーって」

「え、パーツデータ?」

「フルスクラッチできないならそれしかなくない?」

 

『お、ポンコツか?』

『ナツキちゃんポンコツ説』

『便利だけど思いつかないときは思いつかないしな』

 

 そうだった。このゲーム、パーツデータをリアルのランナーとして射出できる『ビルダー』という3Dプリンターみたいなものがあったんだった。

 それがあれば、ガンカメラなんて余裕で作ることができるだろう。なんという落とし穴。灯台下暗しとはこのことだと言わざるを得ない。

 だけど、ポンコツと言われるのはもっと許せない。怒りを飲み込んで、ミッションやお店のリストを探してはいるものの……。

 

『覚えがないな』

『ガンカメラって戦闘じゃ使えんしな』

『アウトフレーム自体、マイナーだし結構レアだろうな』

 

「そっかー……」

 

 手元のWikiを確認しても、やっぱりそれらしいパーツデータは存在しない。

 もしかしたら実装されていない、なんてこともあるかもしれない。恐怖で身を引き裂かれるような思いが脳裏に宿る。

 こうなったら、文字通り私が一肌脱いで、ハルのクリスマスを彩るしか……。

 

『ルクルーナの店だったらあるかもな』

 

「ルクルーナ?」

「セツ知ってるよ! 確か行商人のダイバーさんで、パーツデータ同士を交換してくれるって!」

 

『藁しべルクルーナか』

 

 知らない情報が突然降って湧いてきた。

 ルクルーナ。後で調べてみたら、以下の情報に出会うことができた。

 

 各ディメンションを足が向くまま気が向くまま。ガンプラではなくバギーで走る行商人ダイバーがいるらしい。

 掲示板の民曰く、どんなパーツデータでも相場が合っていれば、ルクルーナが持っているパーツデータと交換してくれる。

 故に、付いたあだ名が『藁しべルクルーナ』。たまに大物が転がっている可能性があると言われる、知る人ぞ知る行商人だ。

 

「へー、こんな人がいるんだ」

 

『問題はルクルーナが今どこにいるか分からないことなんだけどな』

『とんだ物好きがいたものだ』

『ルクルーナなら今JAPANディメンションにいるよ』

 

「へ?」

 

 意外な手引が入った。今、ルクルーナがJAPANディメンションにいるっていう情報が流れてきたけど、それ本当なのかな?

 

『行ってみれば分かるさ』

 

「まぁ、行く宛もないし。行くしかないか」

 

 なんだか誘導されている感じがしないでもないけれど、特段やることもないしいっか。

 私は終わりの挨拶をして、配信を終了させた。

 

「じゃあ私行ってくるよ」

「うい。てらー」

「行ってらっしゃい、ナツキお姉ちゃん!」

 

 笑顔で手を振って見送りをしてくれる2人に感謝しながら、私はJAPANディメンションへとオーバースカイを走らせるのだった。

 ……そういえば、モミジさんとセツちゃんは2人でどこかに行くつもりだったのだろうか。別れ際、席を立ったように見えたしもしかしたら、デート……?

 

 あー、私もハルとデートしたいなぁ。




ちのちゃんは今日も可愛いなぁ!
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