今回は少し短めです
『FINAL MODE 01』
それが意味するものをわたしは知っていた。
Cランクで解放されるGBNオリジナルのユニークスキル。
必ず殺す技と書いて、必殺技。
発現にはそれまでのバトルスタイルの累積によって決まり、名称も最初は自動で、後々任意で変更することができるらしい。
今まで取得すらしていなかったのに、この土壇場で手に入れるなんて。
表示されている情報を確認すると、『トランザム・コネクティブ』と表記されている。これが、わたしの必殺技……?
「な、なにこれ?!」
「ナツキ?」
ナツキのオーバースカイの色がさらに深い青に変わっている。
よく見れば配信画面上から見えるわたしのファインダー・ブレイブもさらに濃い桜色に発色しており、それまでのトランザムよりも強力なことを見た目で意識させてくれた。
『必殺技キターーーーー!!』
『ハルちゃんの必殺技は時限強化か』
『ナツキちゃんも必殺技解禁か?!』
『ナツキちゃんのモニターに特に何も表示されてないんだけど』
『旨そうなもん、見せてくれるじゃねぇか!』
肩の大型スラスターを展開しながら、巨大なオーガソードが振り下ろされる。
困惑の中、わたしだって生き残りたいがために操縦桿を横に倒した瞬間だった。明らかに常軌を逸した速度で、振り下ろされた凶刃を避けたのは。
『速ぇな』
それはトランザムのさらに倍。通常が3倍の出力であれば、現在は6倍の出力が出ている。
今までの感覚じゃ、この大幅な性能強化に振り回されてしまう。なんとかしなきゃ。とりあえず集中して。ヒッヒッフー……ヒッヒッフー……。
「私も、って早っ!」
ナツキのオーバースカイも大輪の花が咲いたかのように、これまでにないほどの光を翼から生やしながら、おおよそ通常の6倍もの速度でオーガに迫る。
流石のオーガでも初見では対応しきれずに、避けた先にあったスラスターの片面がガーベラストレートによって切断された。
『なるほどな。味見はこの肩だけで十分だ。さぁ、俺にとことん味合わせろ!』
「わわわ!」
『今度は私ですかッ!』
その先にいたDフォールエクシアに突貫するナツキは普段の動きとは異なり、残像を作り出すジグザグではなく、ただ真っ直ぐ。あれじゃあいくら速度が速くても、当ててくれと言っているような突撃だ。
案の定タイルさんは自分の変則マニューバで暴走列車をギリギリのところで回避すると、その先に待っていたオーガの剣と相対する。
ボロボロのマントを翻しながら、両断されないようにGNチェーンソーを振るうタイルさんは流石ランカーだ。
そしてナツキはと言えば、地面に激突していた。
「出力に振り回される……!」
『まさに流星』
『6倍のトランザムとか聞いてないぞ?!』
『時限強化だとしたらバックファイアも恐ろしいから気をつけろ!』
「見てる場合じゃないんだけど!」
おおよそトランザムとは思えない大回りな旋回をした後、オーガへと突撃するようにビームサーベルを突き立てる。ジグザグの動きなんてできない。だったら真っ直ぐ行ってズドンしかない。
その判断が誤ちだと認識するのは約数秒後だった。。
ファインダー・ブレイブのスラスターがいきなり黒い煙とともに大きな破損音を立てる。重心が傾いた機体バランスによって狙いをそらしたわたしの突撃はオーガのスラスターを傾けることによって避けられる。
さらに事もあろうか通常の6倍の速度が出ていたであろうわたしのファインダー・ブレイブをクローによって掴む。
『熟せば旨くなるだろうな。だが……』
「くっ!」
「ハルから、離れろぉおおおおおお!!!!」
タイルさんの鍔迫り合いを機体を回転させながら終わらせ、クローで握っていたわたしをナツキが接近する場所に投げ飛ばす。
このままでは終わらせないと爪先のビームサーベルを展開して、タイルさんがオーガの装甲を傷つけるがカウンター気味に蹴りを受けてしまい、その場から後退してしまう。
わたしはといえば天地がひっくり返る感覚がしながら、ナツキをクッションにして地面に叩きつけられていた。
『今のてめぇらじゃ足りねぇ!』
両肩に装備されていたリボルバーバズーカが2門こちらに向くと、幾度とも絶えない砲撃が始まる。
1発1発耐久値の1割を削っていく攻撃は、容赦なくわたしたちの耐久値を抉っていき……。
そして、爆風が晴れる頃にはその存在など元々なかったように、跡形もなく塵に変換していた。
◇
「本当にすまない。まさかジャバウォックにFOE、煉獄のオーガとヴァルガのボスラッシュに出くわすとは……」
「いや、ホント。タイルさんが謝ることじゃないから……」
『トップランカーに頭を下げさせるフォース』
『嫌な、事件だったね……』
『ダイスの女神様が大爆笑してる』
その後、タイルさんもヴァルガから撤退して、なんとか配信終了という目処が立ちそうになった。
結果としてはいい撮れ高にはなったものの、それ以上に色々大事なものを失った気がした。こう、自信とか。
「しかしハルの必殺技か。あれはすごかったね」
「えぇ、まぁ……ガンプラは出力に追いつかずに破損。修理してるけど、どう見てもあの6倍トランザムには追いつかないと思う……」
改めて確認してみたところ『トランザム・コネクティブ』の効果は以下の通りだった。
『トランザム・コネクティブ』
任意のGNドライブ所有機と共に、トランザムを行った場合のみ発動可能。
擬似的にGNドライブを同調させ、ツインドライブシステムを起動させる。
また、出力を通常の2倍にし、『量子化』を使用可能になる。
これだけ聞けば、6倍のトランザムで『量子化』も使えるのだから強力なのだが、問題は2点ある。
1つは単純にガンプラが出力に追いつかないのだ。必殺技を使わなければならない状況において、必殺技自体が足を引っ張ってしまうのは大変宜しくない。わたしのファインダー・ブレイブのさらなる見直し。そして調整が必要になりそうだ。
そしてもうひとつ。この必殺技は『2人を前提として発動する技』だということだ。
「まさか私まで使う羽目になるとは……」
「ごめん……」
「いいって。ハルから貰える大事なものだし」
『キマシタワー?』
『大事なもの(トランザム強化)』
『てぇてぇ』
「あんまり茶化さないでよー?」
コメントがサーセンの嵐に包まれていく。たまには付き合ってることをひけらかすこと自体は別にいいけど、今はこのヴァルガでなくした胸の内の自信やらをナツキで埋めたくてたまらない。
ログアウトしたらふたりっきりでイチャつきたい。
モミジもセツも置いて、ふたりっきりで……。
「ふふふ……」
「ハルお姉ちゃん気持ち悪いー」
「ちびっこ、思いの外ガッツリエグったな。草」
『子供特有の残酷さだ……』
『おいたわしや……』
『ギャルもなに草生やしてるんだよ』
『草、じゃないんだよなぁ』
おっとっと。今は配信中だった。ほっぺたをクニクニ歪ませて、気を引き締めるためにパチンと小さくほっぺたを叩く。
「この埋め合わせは後日また行います」
「つ、つまりタイルっちまた来んの?」
「そのつもりですが?」
『準レギュラーの殺戮の天使です!』
『百合の間に入る殺戮の天使』
『後ろから刺されてもしょうがないぞ』
「ははは! 大丈夫さ。私だってそんな無粋な真似はしませんよ」
『無粋な真似(超高難易度変態マニューバ』
『無粋な真似(指先ビームサーベル』
『無粋な真似(装甲無視チェーンソー』
『無粋な真似(ヴァルガの山で1人GN粒子を浴びる』
「そ、そんなことした覚えがないですね……」
そっぽを向くようにして、タイルさんは明後日の方向を見る。
あ、思い当たるフシはあったんだ。特に最後とか。
「じゃ、じゃあ今日の配信はここまで! 次は多分年明けかなー」
「だね。ニューイヤーフェスもあんし」
「セツ、その前にちのお姉ちゃんと年越し配信あるから見てね!」
『おつ』
『おつかれー』
『ニューイヤーフェスで振り袖楽しみにしてます』
『年越し配信楽しみ』
『ちのセツコラボ楽しみ』
モニターを待機画面にしてから数十秒経過させて、プツンと配信を断ち切る。
「お疲れさま。いやぁ、緊張するものですね」
この人も緊張しないタイプの人か。などとさっきまでの振り返りを頭の中で繰り返して、わたしたちはタイルさんとフレンド交換をした。
別れ際に、わたしに向かって一言。『次は6倍トランザムを乗りこなしたキミたちに会えることを、楽しみにしているよ』と半ば脅迫じみた挑戦状を叩きつけられたことは、忘れられそうにはなかった。
◇
「新ガンプラって、どーすればいいんだろ」
「ハルのガンプラって良くも悪くも変わってるから」
ナツキと手をつないで歩く帰り道。
もちろん繋ぎ方は指を1本1本絡めた恋人繋ぎなのは説明するまでもないだろう。
右腕にぬくもりを感じながらも、わたしはファインダー・ブレイブの強化案を考える。
6倍のトランザムにも耐えられるような頑丈なボディに、どうせなら装備も一新したい。戦っていけば分かることだったが、GNビームアックスは予想以上に取り回しが悪い。
どうしてガンダム作品内でビームサーベルという形が普及されていたのかが分かる気がした。
単なる取り回しの良さと、収納のしやすさ。そのクセ斬撃属性のある攻撃は当たれば装甲を傷つけたり、切断したりするほどの火力だ。そんな小型の兵器を積まない方がおかしいというレベル。
チャージビットも使い切りであるため、要所要所での力強さはあっても、それ以上に扱い方が難しい。あの装備も少し見直しが必要だろう。
考えれば考えるだけ、今のファインダー・ブレイブには改良点がいくつも見つかる。
完成させた当初は、最高傑作、だなんて思ってたのに難しいものだ。
「まぁ、冬休みの間は6倍トランザムとハルのガンプラの見直しかな」
「うん。そういえばナツキのガンプラは6倍トランザム、耐えられたの?」
「っぽいかな。オーバーフローする前にやられちゃったから」
でもまずは操縦かな。と気を取り直す。
新たに見つかった問題点は多い。だけど新たな目標が見つかったと思えば、そこに向かって自分の足で歩いているのだと実感できる。
……そっか。いつの間にか流される生き方じゃなくて、しっかり地に足をつけて歩いてたんだ。
それもこれも、全部ナツキのおかげなのかな。
顔を見ても、キョトンとしている恋人が少し愛らしく、誇らしく思う。胸の奥でキューッと、愛しさがこみ上げる。
「ね、ナツキ。……して?」
「えっちなハル」
「えっちじゃないし……」
左手の指も絡めて、少しつま先を立てて背伸び。
唇が重なるドキドキは、いつまで経っても慣れない。ずっと慣れたくない。
これからも、わたしはナツキにドキドキさせられたいから。
「もっと……」
「あまえんぼう」
握る手の力が強まる。
ナツキも、わたしでドキドキしてくれてるんだ。
柔らかい唇を感じ続けて、身も心も暖まる。
12月末の寒さは凍えてしまいそうだけど、わたしたちの周りは、少しだけ暖かいように見えた。
1人じゃない。2人で一緒に
『トランザム・コネクティブ』
任意のGNドライブ所有機と共に、トランザムを行った場合のみ発動可能。
擬似的にGNドライブを同調させ、ツインドライブシステムを起動させる。
また、出力を通常の2倍にし、『量子化』を使用可能になる。