最近、セッちゃんの様子が少し変わった。
おかしいことはない。そう、おかしいことはないのだ。
今までなかったワガママを少しずつ言うことができるようになったり、フォースのためにとGBN内でいっぱい練習を積み重ねていたり。
この前だって、私が配信している間にセッちゃんがあの上位ランカーであるクオンちゃんと1戦交えたという事実も相まって、セッちゃんのモチベーションは高めだ。
もしかしたらランカーになるかもしれないけれど、あのピーキーすぎるイクスリベイクのことだ。そう簡単には乗りこなさせてはくれないだろう。
それよりもだ。私の話はこれで終わりじゃない。
フォースのみんなとは仲良くやっているみたいだけど、特にあの元ギャルにセッちゃんはべったりだ。
これは非常に、ヒッジョーーーーーーに由々しき問題だ。
オタクにも優しいというランカーの方のギャルこと、テトラちゃんを見ても感じるけど、セッちゃんみたいな純粋無垢な子はあんな感じの子たちに影響されやすいんじゃないかと、ヒヤヒヤしながら見守っている。
いや、仲がいいことはちゃんと褒めてあげたいんだけど、それとは別にセッちゃんがモミジちゃんみたいな言葉遣いで「草」とか言ってきたときには卒倒して病院に搬送されてもおかしくないだろう。
かっこいいと思うのは間違いではないだろう。私も子供の頃はそう感じたから。
でーーーーーも! それとセッちゃんがギャルになることは違う!
セッちゃんは今のままでいい。今のままがいい! 成長しても可愛らしいセッちゃんのままで、あわよくば「ちのお姉ちゃん!」といつまでも私の後ろをてってこ付いてきてほしいんだ。
「って言ったらドン引きだろうなー」
「ちのお姉ちゃん、どうしたの?」
「ううん。現実に打ちひしがれてるだけ」
『きっとろくなこと考えてないぞ』
『お嬢、ロリコンだからな』
『俺たちもロリになれるかな?』
『俺もロリになりてぇ』
「従業員さんたちはロリにはなれないよ」
リスナーさんこと従業員さんたちの叶わぬ夢をバッサリ切った後、こたつの上においてあったみかんを一房放り込む。
柑橘系のぴしゃりとした酸味と、その中に潜む熟された甘みが口の中で広がっていく。
みかん美味しいなぁ。
「はぁ、やっぱりこたつはいいねー。膝の上のセッちゃんも美味しい」
「セツ食べられるの?」
「今食べてるんだよ」
『???』
『お嬢は こんらん している』
『羨ましい』
『お嬢キモいな』
『俺もセッちゃん食べたい』
「ちのは混乱してないし、キモくもない! あと食べたいって言った子、名前覚えたかんな」
『ヒェ』
『ヒェ』
『ヒェ』
『ヒェ』
『ヒェ』
『ヒェ』
ちのは今、年越し配信ということでフォースネストの管理人ルームであるちの自身のプライベートルームにセッちゃんを招待しながら雑談を繰り広げていた。
内容はといえば、最近のフォース戦や昇格戦の状況とか。あとは落ちたら即終了ヴァルガ配信とかの反省会もしてたっけ。
『セッちゃんのイクスリベイクってちのちゃん製なの?』
「そうだよ! お姉ちゃんが作ってくれたのー」
「セッちゃんのお願いだったしねー。大変だったけど」
『お嬢の目が死んでる』
『まぁ、モビルドール形態とアウターパーツだからな……』
『キマってるビルドコンセプトだったな』
セッちゃんがまとめてくれた戦闘データを元に、燃費とともに色々と調整をしたけれど、ツインエイハブリアクターを搭載して飛躍的にエネルギー効率が良くなったから、追加でディバイダーを2枚追加しよう、と考えた時は確かに狂っていたかもしれない。
それでも動いてくれてるみたいだから、設計ミスではないと安心したけれど。
パーツデータがあったからビルダーで出力したものの、なかったらガンダムXディバイダーを追加で2個購入と、考えただけでも恐ろしかった。貧乏な大学生にはビルダーはありがたい。
「そうそう。セッちゃん見たよ、クオンちゃん戦のリミッター解除。あれもちゃんと動いてくれたんだね」
「うん! でもガンプラさんには無理させちゃったけど」
『サイコプレートがなかったら即死だった』
『クオンちゃんも結構手を抜いてあれだったろうな』
『なんだかんだ、ヴォーパルソード抜いてないしな』
『ビームトンファーもビームソードも』
「ヒェッ」
セッちゃんが息を呑んだ。可愛いな。側頭部をほっぺたでスリスリしながら、またみかんを一房いただく。甘酸っぱくてうまうま。
「クオンちゃんもやっばいよねー。あれが2桁上位ランカーなんだーって」
『お嬢も大概(定期』
『ちのちゃんは決まれば確一の技持ってるでしょ』
『決まれば確定一発(当たるとは言っていない』
『ラスト・ワルツで踊らされてるのはお嬢なんだよな』
「そうそう。必殺技を設定した人に問いただしたいよ」
「セツもCランクになったけど、必殺技覚えないの、なんで?」
「あれはいつ解禁とか分からないんだよ。検証班がいっつも困ってるんだ」
『ハルちゃんの必殺技で検証班がまた胃を痛めてる』
『2人で6倍トランザムだっけ』
『あんな時限強化知らないからな』
『おかげでハルちゃんの機体爆発したけどな』
あの時の配信を見直していて感じたが、ハルちゃんのガンプラは素組みよりも数段格上のスペックを誇っている。それは初めたての初心者のそれではなく、きっとナツキちゃんのおかげなのだろうと推察できた。
それでもまだ足りない。全体的にまだまだ改良の余地があるのだ。
だからこれをきっかけにまた新しいガンプラが見れると思うと、ワクワクとした気持ちが湧いてくる。
「楽しみだなー、ハルちゃんの新ガンプラ」
「なにか作るの?」
『え、ハルちゃんガンプラ新しくするの?』
『知らん話だ……』
『もしかして情報リークでは?』
「違う違う! 多分新しくするだろうなーって直感みたいなもの!」
慌てて訂正したけど、ちゃんと通じてくれるかな。
でも十中八九ハルちゃんのガンプラは生まれ変わると思う。それも大きく、これまでよりも完成度を高くして。
『本当だったら楽しみだな』
「ねー! ちょっとお茶飲むー」
こたつの上においてあったペットボトルのお茶に刺さっているストローに口をつけてお茶を飲む。風情もへったくれもないけれど、湯呑だと目の前で座っているセッちゃんにかかっちゃうかもしれないからこれがいい。
熱い思いなんてさせたくないしね。
「それにしても、今年もいろんな事があったねー」
「うん。セツが生まれてからまだ数ヶ月なのに、いろんな事があった……」
『よかったなー、ほんと』
『12月が濃厚すぎた』
『モミセツのラストショットが印象深い』
『俺はリビルドのブーケトスかな』
『ヴァルガは犠牲になったのだ』
『モミジさんとはうまくやれてるの?』
「うん! って言ってもまだお買い物だけだけど」
お買い物。という名の実質デートはセッちゃんから言い始めたことだった。
変なことにならないよう、裏で隠れながら目を光らせていたけれど、あの通信障害のせいで全てがパー。結局ウィンドウショッピングをしながら、アバターパーツを見せ合いっこしているだけにしか見えなかった。
セッちゃんがなんの意図で、なんで誘ったのか。それがよく分からなくて、今でもモヤモヤしている。
直接聞いちゃえとも思うけど、流石にこの辺はセッちゃんとモミジちゃんの領分で、ちのには関係のないことだ。でも親心としては、セッちゃんの動向が気になる。これが俗に言う親バカ、というやつなのだろう。ちの、まだ20歳なんだけどな。
「アバターパーツ探してたよねー」
「……お姉ちゃん、なんで知ってるの?」
「ぁ……」
『お?』
『おっと?』
『おや?』
『正体現したね』
「つ、つけてないから! 私つけてない!」
「んー、なんかあやしー……」
顎の下に乗っけていたセッちゃんの顔が疑いの表情を浮かべている。
目がTの字みたいにジト目になってて、なんという可愛らしさ! 思わず頬ずりしてしまいたくなる。いやしてる。
「セッちゃんは可愛いなー! えへへへー」
『キモオタがいるぞ』
『誤魔化してるけど誤魔化しきれてない』
『セッちゃんの顔がさらに不機嫌に!』
「お姉ちゃん、隠してるでしょなんか!」
「別にぃ~? 可愛いなぁ、セッちゃん」
「ん~~~! む~~~~~!」
逃げようとしても無駄だ。何故ならセッちゃんの身体は胴回りをガッチリとホールドさせている。ちょっとやそっとの力では剥がれようがないし、暴れればこたつがひっくり返ってしまう恐れもある。悪魔の包囲網、ちのトライアングル完成の瞬間だ。
『ちのセツてぇてぇ』
『おやこあい』
『シスコンのロリコンなのでは?』
『ちのちゃんキモい』
「キモくないし、ロリコンでもないやい!」
「でもモミジお姉ちゃんが、こういうときになったちのお姉ちゃんから離れろって」
モミジちゃん、そんなことまで吹き込んでいたのか。なんという用意の良さ。やはり年上の女は侮れない。
流石にやりすぎたのは反省するので、ごめん、と謝ってからやっぱり頬ずりする。はぁ、1年の汚れが取れていくようだ。
『これは撮れ高タイム』
『あのお嬢が反省する日が来るとは』
『モミジちゃんgj』
「ちのはセッちゃんを愛でてるだけだよーだ。あ、そろそろ年跨ぐよ」
予め画面上に表示させていたタイマーが残り1分を切っていた。
今年もおしまいか。セッちゃんと会えてからは時がすぎるのが早かった気がする。
セッちゃんの後見人になって、ハルちゃんたちと会えて、そしてメデューサ姉妹からセッちゃんを取り戻して、やっと送れるようになった日常を噛み締めて。
「ちのお姉ちゃん」
「ん? なーに?」
「今年も1年、ありがとうございました!」
「ちのも。出会って数ヶ月だったけど、楽しい1年だったよ!」
ありがとうの言葉は人を幸せにする。
いつも言い慣れている言葉だけど、そこには人を幸せにする言霊というのが存在するんだ。
口にするだけで人を笑顔にする。心から嬉しくなる。そんな魔法の言葉。
1年の計は元旦にありと言うけれど、逆に1年の礼は大晦日にあるんだと思う。
今上手いこと考えたと思うけど、どうだろう。口には絶対出さないよ。
そしてタイマーがカチリ、と新年を迎えたことを教えてくれた。
『あけましておめでとうございます』
『あけました』
『あけおめ~!』
『ことよろ!』
「じゃあセッちゃん、一緒に言うよ!」
「うん!」
「「あけましておめでとうございます。今年も1年、よろしくおねがいします!」」
◇
ガンスタグラム TL
ちの @chino_Wonderland
配信お疲れさまでした~!
セッちゃんと一緒にまた1年過ごせると思うと、とっても嬉しい!
あと従業員さんたちもね! 今年も1年よろしく!
セツ @ELsetsu_na
返信先: chino_Wonderland
お姉ちゃんあけおめ!
でも後でモミジお姉ちゃんの件は聞かせてね
モミジ @MOMIZI_GYARU
返信先:@chino_Wonderland
あけおめ!
やらかしと聞いて
ナツキ @Natsuki_sky
返信先:@chino_Wonderland
あけおめ!
こちらこそ1年よろしくね!
ハル @Harucamera
返信先:@chino_Wonderland
あけおめ。なんかやらかしたの?
◇
「ったく。誰のせいだーっていうのー」
GBNからログアウトした私はスマホの通知を確認しながら、年明けという新鮮な余韻に浸っていた。
同時にログアウトしていたセッちゃんも同じく小さい身体で大きなスマホを触りながら、フォース内の仲間たちに返信をしている。
「お姉ちゃん、やっぱりストーカーしてたの?」
「……なんというか、心配で」
えへへ、と口に出してみたものの、セッちゃんの反応はあまり芳しくない。
こりゃ嫌われちゃったかな。私だってデート中を親に監視されていた、なんて分かったときには親に怒ったりするだろう。
まぁ、私はデートなんて女の子らしいことやったことはなかったんだけども。
「お姉ちゃんも一緒に来ればよかったのに!」
「え?」
「セツはでかお姉ちゃんに恩返しというか、お礼を言いたかっただけなの。ありがとうって」
「デートではなくって?」
「うん。だってでかお姉ちゃんは女の人だし!」
そ、それもそうかーーーーー!
そりゃデートと言ったら男女がするもので、女の子同士がやるようなことではないもんなー。
え。じゃあ私、変な勘違いをしていたのでは?
徐々に顔に熱が入るのを感じる。まだ夜中だよ? 初日の出にはまだ早いと思うけどな。
そんなくだらないことを考えていると、セッちゃんが指を差して笑ってくる。
「お姉ちゃん顔真っ赤ー! なんでー?」
「あ、あはは……なんか、やらかしちゃった」
子供にからかわれる大人というのはきっとこういう感じなのだろう。
また1つ人として成長できた気がする。
……それはそれとして、モミジちゃんとセッちゃんの動向は今後も監視しなくちゃ。
親として、友達として。
感謝の印は言葉に乗せて