これから4話ほど青いカンテラ様のGBN総合掲示板より、
ニューイヤーフェスの話をお借りしてます。
ただ時間軸はやや違うつもりです
お正月は寝正月である。
格言めいた言葉はさておき、作り置きしていた煮物を朝食にしながら1月1日という日を送っていた。
お母さんは休みを返上していることもなく、きっちり働いた分正月の三が日は休みを勝ち取っている。とはいえ疲れというのは蓄積していくもので。
「お母さん、だらけすぎ」
「それだったら血筋ね」
「わたしもそうだって言いたいの?」
午前9時。もちゃもちゃと煮物を食べながら、つまらないお正月のバライティ番組を眺める。この時間を無限に浪費している感覚、実に正月って感じがする。
ナツキやモミジ、セツにちのと、GBNで関わった人にはお正月の挨拶をしたし、今やることはないなーと、ボケーッとしていた。
な~んでこんなときに限ってナツキがいないんだろう。親の目があるのでキスとか公然といちゃつくことはできないが、一緒につまらないテレビを見て、笑い合いたかったな。はぁ、ナツキにくっつきたい。
「そういえば、ナツキちゃんとはどうなの?」
「へ?!」
まさしく彼女のことを考えていたので、思考が筒抜けになっていたのではと、焦りを覚えて箸を落としてしまった。
「ん~? もしかしてナツキちゃんの事考えてたの~?」
「そ、そうじゃないし!」
母親のジト目が明らかに人をいじるためのものへと姿が変わっていく。
そ、そうなんだけど、そうじゃない。わたしがいつもナツキのことを考えていると思ったら大間違いだ。ちゃんと将来のことを考えたり、ガンプラのことを考えたり……。
「そーなの? なーんだがっかり」
「なんでがっかりなのさ」
「だって、最近楽しそうにしてるから、ナツキちゃんのおかげなのかなーって」
最近、楽しそうにしてる、だろうか?
わたしには分かりかねる。でもここ2ヶ月は忙しくなったと言ってもいい。
GBNを初めて、ガンプラを初めて、配信を初めて。いろんな初めてを繰り返しながら、多くはないけれど、わたし史上ではかなり多めの人々と関わっている。
それを楽しそうにしている、というのであれば、ナツキのせいなのだろう。
「まぁ、そうなんじゃない」
「素直じゃないなー。そういうところは誰に似たんだか……」
お父さん譲りだろう。生前は素直じゃないとか、リアルツンデレだとか、お母さんが言ってたことを思い出す。サクラも素直じゃなかったし、一族はみんなそういう性格をしているのだろう。まぁ、もう確かめようがないんだけど。
「……今度ハルの事よろしくーって、ナツキちゃんのお母様に言わないと」
「なんでナツキのお母さんなのさ」
「だって、私ずっと忙しいじゃない? ハル、寂しいかなって思って」
寂しくない、と言われたら嘘になる。
反抗期は2年前にとっくに終わっていて、わたしは今でもお母さんに甘えたいと思っている。だけどそれは叶うことのない夢のようなもの。お母さんはわたしと自分の生活のためにお金を稼がないといけないし、わたしだってワガママを言うつもりはない。
家族の寂しさを、誰もいない孤独を、わたしはナツキに押し付けている。付き合う前からずっと感じてたことだ、今更どうするつもりもない。
ただ少しだけ、願うことなら。またお母さんと、お父さんとサクラと4人で、食事がしたいなってほんのちょっとだけ考えてしまうことがある。
もう、いないのにね。
「お母さんはわたしの事心配し過ぎだよ」
「そう?」
「わたしちゃんと家事もできるし。高校出たら、就職しようと思ってるし」
「……私も、少しハルに甘えたいのよ」
「お母さん……」
意外でもなんでもない。お父さんを亡くして、一番悲しいのはお母さんだ。
だから彼女もまた、心の傷を忙しいことを理由にして隠している。
それを察することができないなんて、わたしもまだまだ子供だな。
「実はね。タクミさん、お金貯めてたみたいなの」
「え?」
「大学に行けるだけのお金をね」
それは初耳だった。
確かに子供が2人もいるのに、色んな所に連れて行ったり、買い物をする機会も多かった気がする。
「ハルがナツキちゃんと一緒に大学に行きたいって言うなら、喜んで力を貸すわ」
「わたし、まだ愛されてたんだね」
「ホントね。タクミさんの用意周到さには恐れ多いわ」
お母さんは「でも」と付け足すと、昔を懐かしむように、初恋の相手を想うように、こう言葉にした。
「そんなところが、素敵だったのよね……」
わたしもこんな風にナツキを想えるだろうか。
ちゃんと好きだけど、なし崩し的に付き合ってるし、半ばわたしが依存しているような付き合い方だったけど、数年が経って、そういえばこんな事もあったね、って言える日が来るだろうか。
未来は分からないことだらけだ。でも、わたしは少しでもナツキと一緒にいたい。それがわたしの好きだから。
「湿っぽい話はおいておいて! ハル、さっきスマホに通知が来てたわよ」
「え?」
内心放置しすぎてヤバいかも、なんて思ったけど、わたしの返信が早かった試しがなかったのを思い出す。それほどヤバいことでもなかった。
スマホのロック画面を解除してから、LINEを確認すると、そこには新年初のお誘いのメッセージが届いていた。
◇
荘厳なる鳥居をくぐれば、長い参道にはたこ焼きに焼きそば。人形焼きやらチョコバナナなどなど。いろんな食べ物と当たるかも分からない紐を引くタイプのくじ屋だったり、射的屋など、遊べる場所も多いそれは、まるでお祭りを彷彿とさせる彩りだった。
ここは天地神社。ナツキがニューイヤーフェスでお参りができるとはしゃぎながらメッセージを飛ばしてきたので、内心楽しみにしつつそっけなく返事しておいた。
鳥居の前ではモミジとセツ、そしてナツキが振り袖に袖を通してお出迎えしてくれた。気合入ってるなー。
「……なんでハルは振り袖じゃないの」
「そーだそーだ!」
「ハル、イケないなぁそういうのは……」
1人はブスリとした不満げな表情で。
1人はそれに便乗するように背後に回って。
最後の1人は手のひらに拳を包みながらゆっくりと近づいてくる。
何か本能が叫んでいる。ここから逃げなければ、ナニカされる。その何かが分からないけれど、きっと羞恥的ななにかであると。
後ろを振り向く。が、先程言ったようにセツが背後に回り込んでいる。
ならば横に。しかしながらナツキとモミジが左右に広がっていて、逃げようものなら捕まってしまうことだろう。
そう、これはトライフォースの陣形。点と点を三角形に結び、その間を通るものを線で捉えるという、あのトライフォース陣形だ。名前は今考えた。
「な、何をするつもりなのかな……」
「そりゃあ、もちろん。ねぇ?」
「お姉ちゃん、実は持ってるんでしょ?」
「な、何を……?」
視界の前や端にチラチラ映るそれは、まるでわたしを煽るように袖がだらりと落ちている。
あれは虎柄の振り袖かな。奇抜だけれど、デザインがまとまっていてデザイナーのセンスを感じる一品だ。
あっちはウイングガンダムをモチーフにした振り袖だろうか。白い羽根が可愛らしくてわたしとしては好きな振り袖かもしれない。
迷彩色に水玉、クマをモチーフにしたアッガイなど、色々ある。
けど、正直に言おう。わたしは恥ずかしいから着たくないのだ。
今着てるダイバールックだって、最初はめちゃくちゃ恥ずかしかったし、今でも慣れないところは多い。というか、ナツキみたいなラフな格好が良かったと、ずーーーーーーーーーーっと後悔しているレベルだ。
なら身なりを変えろと言われたら、それはそうなのだけど。
まぁそういう理由から、振り袖、しかもピンクで桜な模様がついた可愛らしいやつなんて、わたしには似合わない!
「いや似合う!!!!」
「っ! っくりしたー」
「ハルは絶対似合う! だって可愛いもん!」
「そ、それはほら。衣装が可愛いからっていうか……」
「ハルはそれ以上に可愛い! いい加減自覚して!!」
自覚?! 自覚とかなくない?
わたしクラスで浮いてる方だし、告白されたことだってないし。
「クラスで可愛い子は? って男子諸君に聞いたら4人に1人はハルって答えるよ!」
「えぇ……」
それ、美的感覚大丈夫?
モミジに助け舟を出そうと、目配りさせたら口元が上へ向く。もしかしてこの状況を論破してくれるような素敵な案が!
「チョー分かるわー。ハルってば可愛すぎて孤立しちゃってる、的な?」
「チクショーーーーーー!!!」
上へ向いた口元が歪むのを感じる。この女、絶対あっち側だ! わたしが味方だと思っていたのに最悪だ!
セツの方を向いても、ニッコリと笑って「お姉ちゃんはかわいいよ!」と元気に言ってのける。だ、駄目だ……。味方がいない。
「つーことで!」
いつの間にか後ろに回り込んでいたモミジがガッチリと両腕をホールドする。そして、ゆっくりと。そうゆっくりと地を這う蛇のようにナツキは下から上へと近づいてきて、そして……。
「着替えよっか!」
「……うっす」
その笑顔は、なんというかこの世で最も欲望に満ちた清々しくもねっちょりとした笑顔だった。
◇
「じゃー後でねー」
「うっす! 行くぞちびっこ!」
「ハルお姉ちゃんかわいいよ!」
このちび、言わせておけば……。
結局わたしはナツキたちにせがまれるまま、振り袖に無理やり着替えさせられた。
わたしの趣味はどうやらピンク色、というか桜色に偏っていて、振り袖も例にもれない。
桃色を基調とした色とそこから染められたであろう端々にが紅色が目を光らせる。それだけならただの無地の振り袖になるのだが、それでは寂しいというのがデザイナーの考えなのだろう。
模様はもちろん桜なので帯から下または袖の部分を埋め尽くさんとするぐらいに華やかに咲き乱れている。帯にまで年輪の色を思わせる意匠で作られているので、まるでわたし自身が桜になった気分だ。
「やっぱハルはかわいい」
「振り袖じゃなくて?」
「振り袖ハルがかわいいんだよー」
そういうもんかなぁ。両腕をTの字にして袖をブラブラしてみる。大した意味はないが、なんとなく楽しいからやっているだけ。
「そういうとこも」
行動1つ1つに可愛いと言われるのはずっと監視されているみたいで落ち着かない。
ここは1つ、わたしも仕返しに出るのはどうだろうか。
ナツキの振り袖は夏の夜空を思わせるような振り袖だった。
深い青に光を思わせる白色が滲んでいる。模様には白やピンクの小花が咲き乱れており、草原の中1人で寝そべって空を見上げているようなイメージを彷彿とさせた。
それに今日は髪をまとめているらしく、普段とは違う装いに大きな髪飾りが晴れやかなイメージのあるナツキにはぴったりだ。
そんなイメージをひっくるめて、わたしは朗らかな笑みを浮かべながら一言ナツキに対して言い放つ。
「ナツキも、綺麗だよ」
「……ありがと」
GBNのフィードバックシステムというのはかなり精度がいいらしい。
ぽっと花が咲いたみたいにナツキの顔がうっすら色づく。目線も斜め下にそらしているし、口元隠してるし、照れてるのかな、珍しい。
ふつふつと湧き上がるいたずら心とこの子は自分の彼女なんだと思う優越感。
みんな見てるか? この子、わたしの女なんだぜ! なーんて、口にすることはないけれど、綺麗で可愛らしい恋人はとてつもなく周りに自慢したくなってしまうほどだ。
「かわっ……」
「ハル、普段そういう事言わないくせに」
「いつもそう思ってるし」
「……ぅううう! あーもう、かゆいかゆい! ハルをいじめるのは私の役目なのに!」
「翻弄されている気分はどうだい、嬢ちゃん……」
「ログアウトしたあと覚悟しておいて」
「ピッ」
処刑宣告のようなことを言われてしまった。
こ、これはログアウト後が怖いような、少し楽しみなような。
胸の奥に感じる幸せな充実感と、ログアウトした後の何を考えているか分からないけど、目一杯ナツキを感じさせてくれるんだと考えるだけで今回のデートは成功なのかもしれない。
……ん? もしかして、今日が初デートだったりします?
「ナツキ、これ初デートじゃない?」
「……あー。うん。そういえば」
なし崩し的に初デートになってしまったけれど、まぁ悪くないからいいか。
いつもどおり右手をナツキの手に絡めて、手をつないだら出店のある参道へと歩いていくのだった。
お前ら、いちゃつけ