守次 奏様のアナザーテイルズより、またまたミワちゃんをお借りしています
諸君。お祭りと言えば何を思い浮かべるだろうか。
出店の特に美味しいわけではないけれど、お祭りという補正がかかっているため美味しく感じる食べ物たちだろうか。
全ツッパして引いた紐くじに何も吊るされていなくて、振ると伸びる紙のおもちゃだろうか。
あたしはぜんぜん違う。確かに前者も後者もとてつもなく素敵なものに違いない。それは認めよう。
だけどあたしが望むのはそんなものじゃない。
普段マッパーとして働いているものの、これでも狙撃手として、スナイパーの端くれとして負けられない戦いがある。
それは……。
「お姉ちゃん、ホントは楽しみだったよね?」
「んなこたない。でもさー、こう腕試しって感じしない?」
「しないよ。セツは見てるだけでいいや」
「そう? まぁいーんだけど、っさ!」
恐らくガムが入った箱を射抜いて、後方の空きスペースへと叩き込む。
ビューティフル。これで1ポイントゲットだ。
「セツ、ガムって食べたことない!」
「んじゃ、ガム系狙っていっか!」
「わーい、お姉ちゃん好きー!」
「はいはい」
おおよそ子供がお父さんに対して言うような軽い好きだろう。
あたしだって、好きと言われただけで惚れてしまうようなちょろい女ではない。その辺の軽い女とは一緒にしてほしくはないのだ。
まぁ、惚れたこともあまりないのは言うまでもないんだけど。
考え事をしていたら弾が1ミリ反れて、倒れはしたものの、思ったような倒れ方ではなくて少し悔しい。
まぁいいか。倒れたものは倒れたってことで。
3発目は緑色の箱を狙ってトリガーを引く。気持ちいい空気砲の音とともに、コルクがパコンと緑の箱にクリーンヒット、そのまま奥の方へと落ちていった。3ポイント目だ。
「あんな細かい箱を狙い撃つなんて……」
「俺知ってるぞ。あの人ギャルスナイパーだ」
「隣の子はセツちゃんね。可愛いわ」
ギャルスナイパーってなんだよ。4箱目を綺麗に当ててからまた弾を詰める。
まぁ噂されて悪い気分はしなけれど、有名になったとされるであろ13km超ロングショットは流石にもうできる気がしない。
あれは、なんというか。絆の力という感じというか。愛の力だって言われたら全力で否定するけれど、絆パワーと言われたら納得して首を縦に振るだろう。
あの時限りのロングショットをまた再現してほしいと言われても、無理って断ると思う。
5箱目もやっぱり当てて物思いに耽けていると、狙っていた6箱目をよそから飛んできた弾によって被弾し、奥へと落ちていった。
「あ……」
よそからの狙撃、誰だ。と思って発射元である隣を振り向いてみると、見知った、というかこっちが勝手に因縁付けているとあるスナイパー、緋いスナイパーと呼ばれる眠たそうでありながら、その実、明確な殺意を感じる女が2箱目に狙いをつけていた。
「赤砂のミワじゃん。なんでこんなとこにいるのさ」
「……暇だったからだよ。この時期シャフランダムのマッチングも傭兵稼業もなにもないから、さっ!」
ミワが2箱目に狙いをつけて発射した弾が目標に届くことはなかった。
何故か。それはあたしが構えて発射していた弾が先に箱に到達したからに他ならない。
あたしは隣の眠そうな女に向かって、一言。
「さっきのお返し」
それでお互いに、火が点いてしまったのだった。
◇
「セツ、こんなにガムいらないよぉ!」
そんな話は知ったことか。ブリキのおもちゃも、あわ玉も射的屋の商品を根こそぎ奪ったあたしたちは、最後の1つであり、あれは流石に取れねぇだろと言わんばかりに鎮座するスナイパーライフルのモデルガンを目標に捉える。
GBNはゲームだ。ある程度HPというものが設定されており、それを0にした場合に射的の的が取れる、という仕様となっている。
良くも悪くも、ゲームだから理不尽という物があってはいけないという良心的な設定とも言える。
さて、さっきからあたしたちが持ちうる全てのクリティカルポイントを命中させているのだが、一向に倒れる気配がない。
「ふぁ……なにこれ」
「あたしが聞きたいよ。クソゲーかよ」
「セツ、別にあれ欲しくないよ?」
「ちょっと黙ってて。今、ミワたちは戦ってるから」
弾は残り3発。向こうも残り3発と言ったところだった。
さて。どこを狙う? クリティカルポイントを3回当てたってHPが0になることはない。
なら6発ならどうだ。ミワと協力すれば恐らく残り6発でスナイパーライフルのHPを0にすることができるだろう。
が、これは戦いだ。あたしの数少ない長所を遺憾なく発揮できるポイント。それをこんなハルよりも眠たそうな女に取られるわけにはいかない。
焦りは禁物だ。駆け引きだ。駆け引きをするのが一番だ。自分のものにしたい、自分の狙撃手としての腕を相手に認めさせたい。
息を噛みながら吐く。集中は思考を巡らせる。
まず1発。ミワと同時に発射された射線は同じ場所。重なることもなく、2つの弾がクリーンヒットする。
ちらりとあたしより身長の小さいミワ相手に心の中で舌打ちする。
狙っている場所が一緒なら、あたしが考えていることもそのまま通じていると認識していいだろう。
なら……。
「へー、あんたも同じとこ狙ってたん、だっ!」
「そっちもねぇ……っ!」
2発目もミワと同じところにクリーンヒット。
弾を込めながら、最後の1発をどこにしよう。と考える。
今、一番耐久値が脆いところは分かっている。そこを当てればHPが0になり所有権は自分たちのものとなるだろう。そこにある問題を除けば。
ミワもそれを感じている。そしてこの戦いは6発目ですべてが決まる。そう、先に撃った方が負けるというクソゲーだ。
「分かってるよね?」
「然り然り。同時に発射。それで決めよ」
「意外。勝負に乗ってくるんだ」
「こんな楽しいこと、久々だからねぇ……」
彼女はあくびをしながら、じっとりとした目に炎と氷を宿らせて目標を見つめる。
自己満足のためではあるけれど、負けられない理由があるとすれば、後ろにいるちびっこだろう。
あたしは決してかっこいい大人ではない。元マスダイバーの情けない女だし、自分の狙撃テクニックにも自信はない。
だけど、スナイパーとしての矜持は少ないながらもしっかりと持っている。
誰よりも上手いのだと。少なくとも、ちびっこを笑顔にするだけの力があるんだと、そう信じさせたい矜持が。
どちらともなく、引き金を引く。
コルクが空中を切り裂きながら、目標に向かって飛んでいく。
お願い。このときばかりはお祈りするしかないけれど、それでもあたしの中の負けず嫌いがそう願わずにはいられない。
2つのコルクが箱に衝突する。揺らぐモデルガン。
後方へ倒れていく姿に達成感を覚えつつも、所有権は誰のものになったか確認する。
ウィンドウのアイテム欄。
そこには、スナイパーライフルのモデルガンの情報は書かれていなかった。
「モデルガン、もらったよぉ」
勝者はミワだった。
周囲から拍手が鳴り響く。切れた集中力とともに、身体を射的台に寄りかかって1つため息をつく。
っぱり、勝てなかったかー。最後の1発。確かに真っすぐ飛んでいったけど、コンマ数ミリずれていたのは感じていた。
あたしのミスで勝利を逃したって感じだなー。
「お姉ちゃん、お疲れ様! はいガム!」
「おう」
「お姉ちゃんも! はい!」
「……ありがとう」
ミワは意外な表情を浮かべる。そんなに変なことかな。こいつならよく言うと思うけど。
口にした労いのガムの味はミントの味がする。
スースーするのはミントのせいなのか、それとも敗北の味なのか。いずれにせよ、射的屋の商品は全部取りきっちゃったし、完全敗北って感じ。悔しいなぁ。
「……モミジちゃん、だったよねぇ。今度会ったら覚えておく」
「あたしを?」
「然り然り。ミワを追い詰めた相手、なんて大それた事は言わないけど、それだけのスナイパーなんだよ」
「そ、そっか」
緋きスナイパーなんて物騒な異名を付けているものの、彼女も存外悪い子ではないのかもしれない。
でもさっきからビシバシ感じるこの殺気はどうにかしてほしい。
何かあったってことは分かるけど、それを八つ当たり気味に振りまく行為だけは、ちょっといただけないから。
「お姉ちゃん、辛いことあったの?」
「お前っ! ごめんね、バカが変なこと言って」
「バカって言わないでよ! セツはお姉ちゃんが心配で……」
「……大丈夫だよ。ミワは大丈夫だから」
その大丈夫は、本当に大丈夫な人のそれだろうか。
何人も見てきた。そんな仮初の大丈夫を口にして、心を砕いていった人を。
実際あたしもそうだったと思う。自分に大丈夫だと言い聞かせて、初心者狩りを次々と倒していった。
この子は懐に何かを抱えている。だけどそれを殺意という形でストレスを表に出しているだけ。
見たところまだ学生みたいだし、いい人と誰かと出会えればいいな。
無責任を1つ心の中で思う。きっとあたしじゃ引き出すことすら難しいと思うし。
「じゃああたしら行くよ。またいつか」
「うんうん。今度は戦場でね」
物騒な単語ではあるが、多分ミワと次に出会うのはまた戦場だろう。
それが味方か敵かは分かりかねるが、できれば味方がいいなと、思うあたしだった。
「お姉ちゃん、か。……梨々香ちゃんも…………」
一緒に妹とGBNで遊びたい。
だけど自分のせいでここでも曇った表情を浮かべるんじゃないだろうか。
漠然とそんな考えてもしょうがない事を冬の空に吐息とともに溶かす。
彼女の、彼女たちの物語は、まだ始まってすらもいないことを、モミジとセツは知る由もないだろう。
◇
「んん~~~~! つっかれた」
「でかお姉ちゃん、かっこよかったよ!」
「そ。んなら嬉しいわ!」
手元で噛んだガムを消滅させながら、あたしたちは出店を回っていく。
ミントに口の中を蝕まれながらも、歩いた先々でたこ焼きやら焼きそばやら。チョコバナナやら。
どれもが初めてとなるちびっこは懐のBCなんてお構いなしにジャリンジャリンお金を落としていった。
あぁ、これもまたお祭りの醍醐味よなぁ。その辺で見つけた唐揚げを頬張りながら、あたしたちはお参りに拝殿まで歩いていくことにした。
「初詣って美味しいんだね!」
「ちびっこ、初詣を食べることと勘違いしてね?」
「違うの?」
やっぱりだった。焼きそばで汚した唇をハンカチで吹きながら、あたしは初詣の知識を改めてつけさせることにした。
「初詣っつーのは、1年で初めて神社に行くことを指しててな? 旧年の感謝とともに新年がいい年になるようにっつー、それはそれはありがたい願掛けみたいなもので……」
「たこ焼きおいしー!」
「こいつ聞いてねぇな」
思わず口に出てしまった。まぁ初詣がどうとかあたしたちにゃ関係ないし、そもそもGBN内で初詣っていうのはそれありなのかどうか分かりかねる。
第4世界なんて評されるほどだし、きっと物好きな神様が八百万の神に仲間入りしていて、GBNも守っているのだろうということにする。
そうでもしないとここで神社作ってる意味もなさそうだし。
「お姉ちゃん、このたこ焼き美味しいよ!」
「ん? その差し出したたこ焼きは?」
「食べる? って意味! はいあーん!」
あーんって、恋人じゃないんだからそういうことはあたし相手でなくてもいいだろうに。
別に恥ずかしがる理由もないし、相手は子供なんだからそのぐらいのは付き合ってやるか。
あたしは口を開けて比較的小ぶりなたこ焼きを口の中に収める。
やや熱さを感じながらも、やけどしない程度には熱くなく、それでいてたこ焼きのクリーミーな生地とクニクニとしたタコの感触がベストマッチ。
「ん。マジで美味しい」
「でしょー! 当たりだね」
パクリとさらにもう1つたこ焼きを食べて、船の中身はなくなった。
しょうみ言えば、あたしももう1個食べたかったんだけど。まぁしゃーないか。
あらかた買ってきた食べ物を胃の中に収めると拝殿の前までやって来る。
実体化させた25BCを手に、順番が来るのを待っていた。
「お姉ちゃん、なんで25円なの?」
「二重にご縁がありますように、っつー語呂合わせみたいなもんだな」
「ふーん。じゃあセツも25えんー!」
ま、これあたしが勝手に思ってるだけで、実際にご利益があるかは分からないんだけどね。
こういうのは気分だよ気分。
予めちびっこに教えていた二礼二拍手を一緒にしてから、目を閉じて神様に祈る。
願うことなら、みんなと一緒に今年も1年仲良く遊べますように。仕事が程よく暇になりますように。そして、できれば恋愛的な出会いがありますように。
欲張りな欲望3点セットを天へと届けて、一礼してお参りを終わらせる。
っと、なんかちびっこはまだ何かを祈っているようだった。
「ちびっこ?」
「……お姉ちゃんと、ずっと一緒にいれますように」
一礼して、あたしの方を向いてニッコリと笑う。
「くじ引き引こ!」
「わーたから、そう引っ張んなって」
ちびっこはあたしの手を引っ張っておみくじ販売所へと引っ張る。
あーホント、今年も1年仲良く遊べそうだわ。早速願いがかなったよ、神様。
神に祈るは、些細な幸せ
◇ミワ
出典元:ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ(守次 奏様作)
時期はだいたいエルドラチャレンジ前の出来事なので、荒れてる。
普段はこんな事をしないが、一時的とは言えども自身を追い詰めたモミジとの対決に興が乗ったため、射的屋の商品を総なめにしたとか。
妹がいるらしいが……?