デート。
デートとは、日時や場所を定めて男女が会うこと。逢い引き。
男女のペア以外にも、愛し合う2人が会うことをデートと呼ぶこともある。
(参照元:Wikipedia)
デートかぁ~~~~~~!!
強制振り袖イベントはともかくとして、初デートにお祭り、というのはなかなか洒落ているのではないだろうか。さすがナツキだと褒めて遣わしたいところではあるが、調子に乗りそうなので、言うのはやめておく。
そっか。デートか。デートか、ふふふ。
自分から口に出しておいて恥ずかしいところではあるものの、なし崩し的に2人でデートすることになるとは、思わなかったし、とても嬉しい。
一緒に帰る時と同じく、右手をナツキの左手に絡めて彼女の熱を感じる。
外気の寒さを肌で味わいながらも、わたしの右腕はフィードバックシステムによってリアルと遜色ない暖かさに包まれていた。
「どこ行こっか」
「どうしよ。全然決めてなかった」
そもそもついさっき呼び出されたのだし、まさかふたりっきりでデートをする、だなんてことを聞いているわけもなく。
あと、わたしのお祭りの知識、というものが基本的にたこ焼きと焼きそばぐらいしかいないので、その他にどういう出店があるか皆目検討もつかない状態だった。
「まー、ナツキの行きたい場所で」
「ハルのそういう流されやすいとこ、好きだけど今は嫌いかもしれない」
「なんでさ!」
流されやすいのは図星なので置いておくとして、嫌いと言われてしまうと少し凹んでしまう。
だって、わたし昔からこういう性格だし。2年前の事故からさらに悪化したまであるし。だしだしづくしの言い訳人間とはまさにこの事を言うのだろうけど、それより嫌いと言われたことの方が問題だ。
「私だっていつもこうって決めてるわけじゃないの! とりあえず焼きそば食べよっか」
「わたしはそういう謎に決断が早いとこ好きだよ」
「都合のいいこと言っちゃって」
「ナツキは都合のいい女だから」
「酷くなーい」
実際わたしを孤独から救い出してくれた都合のいい女なのだけど、詳細なところまで言ってしまうと恥ずかしい地雷が起動してしまうので口には出さない。
まぁ、ナツキにだけ言うならまだいいんだけど、ここだと誰が聞いてるかわからないし。わたしはナツキだけに聞いてほしいのだ。
焼きそばの出店にたどり着くと、300BCを生贄に鉄板の上で焼きそばを焼き始める。
野菜を炒めて、焼きそば麺をほぐしながら、ソースを容赦なくぶっかけて、絡めていく。
大抵は作りおきの焼きそばを手渡されるので、こういう臨場感は実際のお祭りでもないことだ。ちょうど切らしていた作りおきに感謝をしながら、青のりと紅生姜をプラスチックの容器に一緒にいれればはい完成。
立ち上る煙からはできたてほやほやの熱とソースを焦がしたようないい香りが鼻孔を刺激する。美味しそう。第一にでてきた感想がそれだった。
わたしたちはまず最初に焼きそばを手に入れたのだが、そういえばベンチとかないとこういうのって食べれないよね、という初歩的なミスに気づく。
できたてのうちに食べたかったんだけど。順序を立てていればまず間違いはなかっただろうに。失敗したなぁ。
「ハル、お忘れではありませんこと?」
「どうしたの急に」
「乗ってくれないと、私だけ恥ずかしい思いするじゃない……」
え、乗らなきゃいけないの?
めんど、いや最後まで言うのはやめておこう。恋人がこう言っているのだ、彼女として、彼女の興に乗ってあげるのも1つの甲斐性というやつに違いない。
でも面倒くさいのでやや棒読み気味で驚いたふりをする。
「な、なにかなー?」
「ここはGBN。時間経過でアイテムが冷める、なんと事はないんですのよ、奥さま!」
「な、なんだってー?!」
ここは本気で驚いた。
そっか。仮にもゲームの世界だから、そういう面倒な設定は流石に行っていないらしい。
じゃあ暖かいまま2人で食べられる。そしたらきっと、2人であーんとかしてみたりとか。やばい、思考が乙女に毒されている。
「どうしたの?」
「いや、なんも。あのチョコバナナ食べよ」
「なんか誤魔化された気がする」
誤魔化したんだよ! だってそんな乙女回路まっしぐらな事を考えてたなんて言ったら、ナツキにからかわられるかドン引きされるだけだろうし。
言わぬが花ってやつだよ、言わせるな恋人。
「まぁいっか。2本くださーい」
手渡されたチョコバナナ。そういえば食べたことないかもしれない。
そもそもこういう機会もなければ、チョコとバナナをかけ合わせて食べようだなんて機会はめったに訪れない。
例えばチョコフォンデュパーティーとかがあれば、チョコレートタワーに輪切りにされたバナナをチョコレートに浸けて食べるってことはあるだろうけど、そもそもチョコフォンデュパーティーってなんだよ。どんなリッチ階級なんだ。わたしたち平民にはチョコ+バナナは割り箸に刺さているこれしかないんだよ。
何故かキレ気味でツッコミをしてみたが、心の中なので誰にもバレていないと言えるだろう。
試しに一口先っぽの方をパクリ。うん、チョコの甘くも、少しだけ苦味を含んだほろ苦さがバナナのフルーティな甘みで中和されて、口の中という錬金釜の中で美味しさの錬成をしているみたいだ。パリパリの食感も合わさって、なかなかに美味しい。
「ハル、なんか食べ方エロい」
「え?!」
「普通唇で舐めるように余韻残さないって」
「え、しないの?」
「え?」
ん? わたし、もしかしてなんかやっちゃいました?
気にせずもう一度先の方を噛んでから、周りのチョコがこぼれないようにと少し吸い込みながら口に入れる。
「やっぱエロい」
「な、何がエロいのさ!」
「その、私に言わせるつもり?」
「なにがエロいかわかんないもん」
「……バキュームしてるっぽく見える」
あ、そういう……。
元来バナナというのはそういう比喩めいたものに使われることが多い。例えばイメージビデオなり、官能小説なり。
とにかくその大きなマーラ様めいた御神体と言えば、バナナと言ってもいいだろう。
バナナはゴリラだけのものではないとは言えども、確かにこれは超恥ずかしい……。
「……食べるのやめます」
「えー、なんでー!」
「だってそんな突然、バキュームしてるっぽいとか言われたら、嫌じゃん」
「私は、楽しみだけどな……」
「な、何が……?」
「これから、が?」
やばい。なんかおへその下あたりが少しムズムズしてきた。
うぅもう! ナツキなんでそういう下ネタ関連には前のめりで私の方に寄りかかってくるのさ。だからこの前の夜だってナツキで手を汚してしまったし。
わたしだって、そういうの期待しちゃう方なんだよ?
「や、やめよう! こんな話! ほら人形焼! 食べよう、ね!!」
「そ、そうだね。うん。なんか急に人形焼食べたくなったなー」
うんうん。こういうシモっぽい、もとい湿っぽい話は置いておこう。
期待するのはまた今度でいい。だって、一緒にいてくれるって約束してくれたから。
そう考えるだけで、また好きって気持ちが溢れてきてしまう。ホント、わたしナツキにベタぼれだな。
この感情をどう処理すればいいだろうか。今すぐにでも溢れ出してきてしまいそうな、この想いを。
「ねぇナツキ」
「ん?」
「……すき、かも」
照れくさそうに、しかも自信なく伝えてしまった。
言霊というものは確かに存在していて。
口に出してしまえば自分の中で処理できない感情を自然と消化できた気がした。
初めてナツキに伝えた好意の言葉は、自然と自分から溢れ出たものだと思ってもらえたら、なんというか嬉しい。
「ハル、わたしも……!」
ナツキははにかみながら、夏の涼しい日に木陰から抜けてくる控えめで眩しい太陽みたいな笑みを浮かべてそうつぶやく。
あ、今わたしたち通じ合ってる。嬉しくてたまらない。好きって言葉は、こんなにも人を幸せにするんだ。
ガラにもなく口に出してよかった。
「ナツキ、もっと。その、好きって言った方がいい?」
「ううん、ハルの好きなようにして。貴重なハルの好きをずっと噛みしめるし」
「それに!」とナツキと繋いでいた手にギュッと力がこもるのを感じる。
「ハルってば、分かりやすいし」
「そう、かな?」
「猫みたい」
それって人が気まぐれだとでも言いたげな例え方だな。
構ってもらえないと寂しいウサギみたい、とか言われたらそれはそれで怒るだろうけど、猫みたいと例えられるのもなかなかに癪だった。
「猫って身体をこすりつけてきたりするし。ハルもたまにやってるよ?」
「わたしを愛猫みたいに言わないで」
「それだけ愛されてるんだなーって、思ってるだけだよ!」
ナツキはわたしの頬にほっぺたをすりすりとこすりつける。
ん、なんかくすぐったい。唇同士をくっつけたことはあっても、こうやってほっぺた同士をこすりつけ合うのって何故だかキス以上に恥ずかしい。
「ほら、目の前のカップルもやってるよ?」
目を配らせれば、くせっ毛の強いピンク髪の女の子と銀髪でロングの女の子が仲良さそうにほっぺたをすりすりとお互いにマーキングしている。
あれ、もしかして普通のことなのかな。実は目の前で行われていることは一般的なことであり、ほっぺたをこすりつけあう行為に何も間違いはないのか……?
……なら仕方ない。わたしもそれに習って、少しだけ。そう遠慮がちに押し当てられたほっぺたを擦り返すことにしよう。すりすり……。
「でも普通はああいう事しないよね」
その一言でわたしのガラスのような心は一瞬にして砕けた。
あーそうかいそうかい。君はそうやってわたしの事をたぶらかしていい気になっているんだな。そうだ、仕返しにほっぺたではなく頭をグリグリしてやろう。うりうり。
「ちょっと痛いってば! 何怒ってるの?」
「別に。ノセられたのがすごく腹立たしいだけ」
「怒ってるじゃん!」
怒ってないし。腹立たしいを言い換えれば怒ってるということは知っているが、直接的に言うのは嫌だっただけ。
ひとしきり頭をグリグリした後、痛そうに顎を手で押さえている。ちょっと痛くしすぎたかな。
「まぁ、ハルが望むならいつやってもいいけど」
「……ナツキそういうとこ」
「なにが?」
自然にわたしが望むならとか。わたし次第でどんなことだってされても構わない、してもいい、みたいな言い方は本当にダメ。
これ以上ナツキっていう沼にハマっていったら、抜けなくなっちゃう。
「人形焼買お」
「う、うん?」
なんのことか分かってない全肯定ナツキbotは置いておこう。置いていかないと、わたしの身が持たない。
◇
「あ、お姉ちゃんたちー! こっちー!」
だいたい正午過ぎて1時間ぐらい。
わたしたちはそれぞれのデートを終えてから、とある大会の会場へとやってきていた。
天地神社恒例行事。元旦ガンプラ羽根つき大会。
ガンプラのガンプラによるガンプラのための羽根つき大会である。
羽根つきにも公認の大会ルールみたいなものがあるらしく、それに準じて勝敗を決めていくらしい。
というのも、モミジ以外のわたしたちも参加する予定なのだ。
モミジは接近戦がトラウマなのと、この大会の内容も事前に確認をとっておりG-Tubeの動画として投稿していいと言われたので、遠慮なくカメラマンに回るため、不参加という形をとっていた。
ちゃんと対戦相手には確認を取る予定でもある。そのへんに抜かりはない。
「優勝賞品は天地神社無料宿泊招待券かぁ」
「お泊り……」
普段からナツキと2人で自宅に泊まっているものの、そこは自宅であり温泉宿ではない。
神社宿泊という微妙に謎な概念はさておき、めったにない場所でふたりっきりならさぞや盛り上がることだろう。勝ち取りたい。
「ちなみに武装なしだってさ」
「マジで……?」
チャージビットを羽子板代わりにして360度守備範囲を固めるつもりだったからがっかりだ。
でも特殊システム。トランザムやFXバーストなどは使用してもいいとのことなので、ガンガンに使っていこうと思う。
「んじゃ、頑張っていってらー!」
「高みの見物はいいご身分ですこと」
「お姉ちゃんだって参加すればよかったのにー!」
「さすがにあたしはなー」
武器が使えないなら狙撃戦術も使えないだろうし、仕方ないか。
でも半ば超人じみているモミジなら羽根にビームを当てて撃ち返すみたいな芸当もできなくもなさそうだ。
「つーことで、最初の対戦カードはーっと……」
1戦目の対戦カードはガンタンクマスターズの元旦男というダイバーみたいだ。
ナツキとセツもそれぞれ対戦相手を確認したらしく、よく操作ができるように手首を柔軟に動かしている。
「ハル」
「ん?」
わたしもついでにと、柔軟運動を進めていると、ナツキが隣から声をかけてきた。
「頑張ろうね」
「うん。ナツキも、頑張って」
ナツキは夏の日の太陽みたいなニッカリとした笑顔をわたしに向ける。
よし。ナツキのお願いだ。頑張って優勝、狙ってみよう。
心に太陽を灯されたわたしは、静かに闘志というやる気を燃やすのだった。
そして戦いは、エクストリーム羽根つきへ……