「んーふー……」
「なに変な声あげてるの?」
「考え事してる」
アイカとの戦いの後、それこそまぁ色々あったのだけど、語ることでもないので言及するのはやめておくことにする。
結果から言うとアイカは途中で敗退。悔しそうにしている姿はやっぱり胸の内にクルものがあったり。頑張ってほしかったけど、出た結果は覆らないのも事実。わたしも来年は頑張らなきゃな……。
そのためにはまずこのガンダムファインダー・ブレイブの新たなる形を作り描く必要があった。
設計図というものをおおよそ数週間ぶりに引き始めようとしているけれど、ノートは一向に真っ白のままだ。
ナツキが座っているわたしに対して、両腕を首元に巻きつけるように抱きついてくる。いわゆるあすなろ抱きというやつだ。昔どこかでそういう名前を見た。
後頭部にお腹の柔らかさと直上の胸の感覚が少しくすぐったい。嫌ではないけれど、恥ずかしいので首を左右に振って誤魔化していたら離れていってしまった。それはそれで残念。
「やっぱミキシングすべきかな」
「そういえばファインダーの元はケルディムだけだっけ」
「うん。面倒だからって、ミキシングせずにそのままにしてた」
手持ち無沙汰になったナツキは、わたしのベッドに上がると枕をクッション代わりにして胸に抱く。あれ、わたしが寝る枕だから匂い付きそうだな。夜たまらなくなったりしないだろうか。
邪推なことを考えるものじゃない。もう一度首を振ってピンクな妄想を頭から追い出す。今はプラスチックの白を考えるべきなのだから。
ガンダムファインダー・ブレイブ。その前身であるガンダムファインダーも含めて、すべてケルディムガンダムの延長線上でしかなかった。
故に今までミキシングやら追加武装の改造などはあまりすることはなく、完成度を高めることによって解決させてきたフシがある。だけど、それだけはダメだと気付かされたのは直近の2戦だった。
6倍トランザムを使いこなすには機体全体を出力に耐えうるほどの強度をもたらすこと。それに伴う次なる強化案。それが重要視されている。
ただのケルディムだけでは恐らくもう戦えない。いや、わたしについてこれない。だからより調整したわたし専用のガンプラが、必要となっている。
「ミキシングなら同じ00要素組み込むとか? サバーニャとか」
「それも考えてる。ライフルビットとホルスタービットはかなり強そう」
「あとはハルの接近戦要素を汲み取るならダブルオーとか」
それも悪くない。だけど、わたしらしさっていうか、そういうのが足りない気がして。
「あー、ハルといえばケルディムみたいなとこあるよね」
「それに、せっかくナツキが選んで、わたしが適当に決めたガンプラだから」
思い出は大事にしたい。シンプルな理由はただそれだけだった。
家族のことだってそうだ。未だにピクニックに行ったことに思いを馳せて、たまにノスタルジックに浸っている。
引きずっている、とも言えることだけど、わたしにとってはどれもこれもが大切なもので。
特にナツキに出会えたことが、とってもわたしを色づかせているのだ。
「わたしさ。ナツキがいなかったら、ガンプラもGBNも始めてなかったし、通信障害のときだって、ひょっとしたら寂しすぎて1人で死んでたかもしれない。それぐらいには、ナツキに感謝してるんだよ」
「ハル……」
なんて、少し重いかもしれない。だけどナツキだってそうだ。この熱に浮かされたような瞳を見れば何となく理解してしまう。
彼女も何か隠している。それが知られたくないことなのか、聞いてないから言ってないだけなのかは分からない。
だけど、きっとわたしにとって毒であることには間違いない。そんな毒も鎖も解き放って、いつかわたしの事を信頼してくれるように、胸の内で言葉にしておく。
それが、わたしにできる唯一のことだと思って。
「ナツキ、好きだよ」
「ん、私も」
振り返れば彼女がいて、胸に抱えていた枕をわたしに渡すと、挟むようにして体を預けてくる。
その瞳は普段わたしより高いところにいるナツキからは想像もつかない上目遣いで。
この女、本当にかわいいな。こんなの、たまらなくなっちゃうじゃん。
「ハル……しよ?」
「ん……」
指を溶け合うように絡めあう。融解しているみたいに、わたしたちの手が1つになっているような感覚。
最初の頃は力が入っていた指先には、もう遠慮なんていらないと言わんばかりにこわばった力が抜けていた。だから溶け合うように自然な恋人繋ぎ。
ついばむようにナツキの唇に吸い付く。柔らかなナツキの下唇がマシュマロみたいに溶けて優しいナツキ味を感じる。
「どこでこんなの覚えたの?」
「……調べて」
「ハルのむっつり」
くちばしを離すと今度はナツキの方から唇をくっつけてくる。
押し付けられる官能的なリップの味はいつまで経っても慣れない。慣れたくない。ずっと初恋の味を脳裏を焼き付けて離れないようにしたい。
だってわたしのナツキだ。離したくない。二度と離れたくない。
いつしかナツキの匂いと感触だけで脳がとろりと端から溶けているんじゃないかってぐらい意識が朦朧としてくるのを感じる。
「ハル、エロい目してる」
「そんなことないでしょ」
「とろけてるみたいで、すっごい、えっち」
3度目のキスはもっと過激に。
ナツキの唇の間から少し硬度を感じながらも、ザラザラとした肉塊がわたしの唇に侵食してくる。
こじ開けるように、ゆっくりと間を割っていくそれがナツキからの愛のメッセージだということに気付いた。同時に、ナツキの今できる最大限のえっちなこと……。
「ん……ふぁ……」
「ひゃるぅ…………」
舌の先と先を絡めあって、わたしとナツキの汁の味を交換しあう。
クチュクチュと混ざりあって、溶け合って。元々1つの生命体だったかのように口の中をナツキが支配していく。
わたしは今、ナツキと繋がってる。1つになっている。ナツキの匂いも、味も、声も、感触も視覚も、全部全部わたしのもので。
独占欲が膨れ上がっていくのを感じる。幸福度が100%のメーターを突き抜けてオーバーフローしている。
好き。
「しゅき……」
好きだ。ナツキへの好きが高まって高まって、溢れて止まらない。
わたしの好きはここにあって、ナツキの好きも、きっとここにある。
わたしが、ナツキの好きの全てになって、ナツキの一部として、血として肉として流れていく。
やばい。どうにかなっちゃいそう。もう脳みそが液体状になってるんじゃないかってぐらい原型をとどめていない。
「なしゅき……」
「んっ…………ひゃるぅ……!」
いつまでも繋がっていられないのは分かっているだけど、もっと求めたくなる。
肩で息をしながら、舌と舌の間に透明な糸を引いて、一度ナツキと顔を見合わせる。こみ上げきた愛情が、羞恥心へと変わっていった瞬間だった。
「……ナツキだって、すけべ」
「ハルだけだよ」
なんてことを言うんだこの女は。そんなんじゃもう一回求めたくなる。
繋いでいた手を引っ張り上げて、強引にナツキの顔を近づける。
「ちょっ!」
今度はわたしから。もう前座なんていらない。唇をくっつけたら舌をナツキの口内に侵略していく。
もうわたしのなのか、ナツキの唾液なのか分からないけど、わたしというものがナツキの中に入っていくのは気分がいい。
舌同士を絡め合いながら、ほっぺたの裏側やナツキの歯茎、舌の下の方などをありとあらゆるナツキの肉へと触れる。
反撃と言わんばかりにナツキもわたしの口の中をもう一度侵食していく。
わたしはナツキ色に、ナツキはわたし色に染め上がっていくみたいにヒートアップして、そして……。
「はぁ……はぁ……ハルのむっつり」
「んっはぁ……ナツキが悪いんだよ」
高揚した2つの顔が、出来上がってしまっていた。
◇
「しまった……」
「うん。ちょっと白熱しすぎた……」
それからもキス合戦をしていたら、時間が1時間ぐらい経過していた。
まさかわたしのナツキ欲がこんなにも高まっていたなんて思いもしなかったけれど、堪能できたのであれば、それに越したことはない。
とはいえガンプラを考える時間がまたなくなってしまったんだと考えたら、なんだかファインダー・ブレイブに申し訳ないと感じてしまう。
ごめんね、ファインダー・ブレイブ。わたし、彼女とイチャついててあなたのこと放置しちゃた。
「ねぇハル」
「ん?」
「やっぱりサバーニャ使わない? 工夫すればまた格闘戦仕様にできると思うよ」
「そうかな」
わたしにはサバーニャが格闘戦できるとは到底思えないのだけど。
と考えていたところに、ナツキが1つのプランとしてノートにライフルビットとホルスタービットの改修案を書き出していった。
これは、ビーム砲? いやビームサーベルかな。でこっちはホルスタービットと変わらないけど……。
「GNビームビットとパワービットって名前。ビームビットは文字通りビームに関する事全般ができる遠隔操作装備かな」
2パターン記載されており、それぞれビームライフルとしてのライフルモードと、ビームサーベルを生成するサーベルモードの2種類が描かれていた。
「手間はかかるだろうけど、できたらファングにもファンネルにもなるすぐれものだね」
「こっちのパワービットは?」
「チャージビットの派生、かな。覚えてる? 前にパワーゲート作るときにGPDの二人組を参照したの」
「あー、あれね」
それなら覚えている。なにしろ壮絶な殴り合いが印象的な試合が多い二人組だったから。
元々チャージビットはパワーゲートを作る際の一種の派生に過ぎない。
故に、本来想定していたパワーゲートとはパワービットによる四方を囲んだゲートのことだった。
「ホルスタービットには元々粒子ビームの拡散や収束を手伝う機能があってね。それを応用したのがこのパワービット、って設定」
「いいじゃん、それ」
「えへへ、ありがと。で、GNドライブも第5世代のものになってるから、エネルギー効率も上昇してるはずだし」
「6倍トランザムも、出力オーバーしない、と」
「そういうこと。まぁガンプラの完成度によっても変わってくるし、どうなるかは分からないんだけどね」
ちょろっと舌を出しながら、彼女は解説を終了した。
確かに、これまで狙撃機であったケルディムに比べて、サバーニャはライル仕様に構築された弾をばらまくような戦い方だ。接近戦の補助にはぴったりかもしれない。
強度を上げれば、6倍トランザムにも対応できそうなほどだし、これほどぴったりなものはないだろう。
でもあと1手。そうあと1手足りない。接近戦要素というべきか。
切り札になりうる何か特別な装備、またはシステムを考えなくちゃ……。
「そのへんもだよねー」
ガンダム00に登場した機体をいくつか探してはいるものの、ビームサーベル以外には思いつかない。
なんだかんだ言ってグラ……ミスター・ブシドーが駆けたマスラオのビームサーベルの使い勝手がいいのだ。それレベルに、または同じような装備を付けたほうがいいのだろうか……。
エクシアを中心に調べていると、1つ気になった機体が見つかる。
「これ、エクシア?」
「あー、それね。ガンダムエクシアリペアⅣってやつで、グラハムがELSと同化して復活したときに乗った機体なんだ」
「なにそれ初耳なんだけど」
「割と最近だから、この話……」
左腕のフレームがむき出しになっているように見えるけど、これは左利きのグラハムが剣を振るうためにグラハム専用に作られたってことなのかな。
あ、でもそういうデザイン設計をされてるみたいだ。やっぱりグラハム専用じゃん。
「瞬間的にトランザムを使える第6世代の技術、か」
「ハルにぴったりじゃない?」
「そう?」
「トランザム使い荒いでしょ」
ま、まぁ。たまに粒子残量を気にしないとダメなケースが多いけどさ……。
でも瞬間的であれば粒子残量を気にする必要が減る。それにインパクト時の打点強化にもつながるから、これすごくいいアイディアなのでは?
「まぁ、パーツがないのはネックだけど」
「そうなの? GBNのパーツデータならありそうじゃない?」
「ビルダーかー。探してみるのも悪くないかも」
相談して、とりあえず右腕だけ第6世代の技術を転用することに決めたものの、元々は左腕のパーツだ。実際に右腕が見つかるとは思えないため、その辺はもうフルスクラッチするしかない、という結論に至っていた。
「これだけの改装するなら名前も変えなくちゃかな」
「だねー。ふあぁ……。頭使ってたら眠くなってきちゃった」
「アイディアだけ書き出して一緒に寝よ」
「うん!」
ふやけた笑みを浮かべた彼女はやっぱり可愛らしい。美しさの中に少女らしさが残っているというか。この子がわたしの彼女だって思うたびに胸をキュッと愛に締め付けられるみたいだ。
独占欲強めなのかな、わたし。寂しさでどうにかしてるのか分からないけど、こうやって一緒にいてくれることに感謝を抱かなきゃね。
そんなことを胸の奥底で抱きながら、わたしたちは書き出したアイディアをノートにまとめると、一緒のベッドに入って一夜を過ごした。
未だ新たなる翼は遠く