果たし状。
拝啓、春夏秋冬の皆様。
元気にご活躍されているようで何よりです。
さて、今回は、前回のヴァルガチャレンジのお詫びということで、クリエイトミッションでの果し合いを所望いたします。
自慢ではありませんが、仮にも私は個人ランク76位の魔物と解釈しています。
故に、今回の戦闘の勝利条件は『私が建物または地面に少しでも触れる』というものです。
こちらであれば、おおよそ互角の戦いができると考えています。
日時については、追ってご連絡させていただきますので、ご検討のほど、よろしくお願い致します。
『タイルドロー』リーダー。タイルより
PS.私が勝ったらサインを頂きます。書く準備をしておいてください。いいですね?
「ってお手紙が届いたんだよ」
『ヒェッ』
『ランカー直々の挑戦状を2度受けるバカたち』
『相当気に入られてるな……』
『百合の間に挟まる殺戮の天使』
『なんで最後、ワザップジョルノ風なんだ』
ファイルムのお披露目配信の後、わたしたちのガンスタグラムのDMに1通のメールが届いた。案の定タイルさんからのラブコール、もとい果たし状だった。
内容は先程聞かせたとおり、少しでも建物か地面に触れればわたしたちの勝ち。全滅すればタイルさんの勝利となっていた。
分の悪い勝負ではないけれど、その条件を加味してもタイルさんに勝てる気がしない。
あの変態マニューバエクシアからの一本は相当重たい代物だ。
おとなしくサイン渡して帰ってもらった方がいい気がしないでもないけど……。
「面白そうだしやろっか」
「えぇ……」
「セツもやりたい!」
『ギャルドン引きで草』
『セツもー!』
『俺も!』
『僕も!』
『私も!』
『拙者も!』
『小生も!』
『我も!』
「便乗し過ぎだってオタクども」
『『『サーセンwww』』』
多数決的には今、2対1なので、わたしの判断次第ですべてが変わると言ってもいい。
奇数人じゃないのに多数決ってしていいかはわたしの判断ではできないものの、少しモミジが可哀想だと思ってしまったわけで。
何故って? そりゃぁ……。
「わたしも賛成かな」
「マジで言ってんの?」
嫌そうなモミジの声を耳にしつつも、わたしは流されてしまわないようにナツキの手を結んでこう言う。
「試してみたいんだ、わたしの、ファイルムの可能性を」
「……まだ6倍トランザムに振り回されてるっしょ」
「それはなんとかする。練習でも特訓でも何しても」
「でもなぁ……」
モミジは渋る。そこに理由があるとすれば、無謀な戦いには参加できないという判断とも言える。
わたしたちの中でも最年長でもあるモミジの判断であれば、『普段だったら』YESの一言で済ませるんだけど、今回はそうもいかない。
2桁の魔物と戦う機会などそうあるわけではない。挑戦状を叩きつけても、突っぱねられるか鼻で笑われるかの2択だ。
そんな相手がわたしたちに興味を持ってもらって、戦いたいという判断をしてくれたんだ。それに答えるのがG-Tuberとしての矜持でもあるだろう。だって面白そうだし。
「ガンプラバトルは遊びである」
「ナツキチ?」
「だから勝っても負けても、そこにあるのは悔しさと嬉しさだけで、命が取られるわけじゃない。GPD時代に流行ってた言葉なんだけどさ、それと同じだよ。ファイターだってガンプラだってその命が壊れることのない。だから本気で一本取りに行かない?」
『さすナツ』
『流行ってたな、そんな感じの』
『遊びだから本気になれる、ってやつだな』
「……はぁぁぁぁぁ」
モミジの口からあらゆる負の感情というか、緊張感が全て溜め込んだような大きなため息を口から吐き出す。
息を吐ききった後、素早く深呼吸して眉間に指を置き、そして……。
「わーたよ。どーせ、遊びなんでしょ?」
「ありがとう、モミジさん!」
「でかお姉ちゃん、愛してるー!」
『ギャル愛してる!』
『好き!』
『オタクにもロリにもリーダーにも優しい元ギャル』
『肩書き増えすぎて草』
「んなら、本気で勝ちに行くから。それはよろしくぅ!」
「うん!」
カフェテリアスペースの、いつもの席で静かに決意を重ねた。
そういえば、そろそろフォースネストほしいなぁ。などと思いながら、今日の配信の雑談を繰り広げていくのだった。
◇
「で、作戦って何するのさ」
ネタバレになるからという理由で配信を終了した後、わたしたちはカフェテリアで作戦の相談を始めていた。
こういうときに役に立つのが大抵モミジなので、実質モミジが参謀みたいになっている。わたしも力になれたらいいのになぁ。
「ガンダムXのノーザンベルでの攻防を再現する感じで」
「なにそれ」
「セツ知ってるよ! コルレルと戦ったときの作戦だよね!」
そのとおり、と口にした後、モミジは今回のクリエイトミッションでの舞台であるとある市内を映し出す。
中央の噴水広場とそこに通じるエリアが複数大通りがクモの巣状に広がる大きな都市。そこで戦いをしようというらしい。ところどころ大きな建物もあるみたいで、これを駆使すれば戦いを有利に運ぶことができるかも知れない。
「あたしとハルで中央の広場におびき出し。残るナツキチとちびっこで落とす」
「わたし? ナツキじゃダメなの?」
確かにファイルムのオールレンジ攻撃は誘導にあたっては最適解だと言ってもいい。
だけど、この戦いは変則ルールの殲滅戦だ。だからナツキを見つけたって追ってくることは間違いない。
「実際のとこ、今回の作戦のフィニッシャーってこのちびっこなんだよ」
「ほえ?」
「情けねぇ声上げんなって。イクスリベイクで足でも腕でも、何でも捕まえられたらそのまま機体パワーに任せて、地面なり建物なりにぶつけりゃゲームセット。あたしたちの勝ちってこと」
セツのイクスリベイクは76門のハモニカ砲だけではない。
ディバイダーの推進力、ツインリアクターによる強力な出力。これだけ取っても、明らかに通常のガンプラにはない強力なパワーがあった。火力の妖精、なんて言われてるが、実際のところは出力の妖精と言っても差し支えないのかも。
あだ名は置いておくとして、あの変態マニューバであっても捕まえることができれば、一気にグッドゲームにまで持っていくことが可能だ。
まぁもちろん、捕まえることができれば、なのがネックなんだけど。
「きっとタイルっちもちびっことの接触を避ける。だから機動力の高いナツキチのオーバースカイでも追い詰めていく。一応ビームチェーンもあるしね」
作戦の隙間は確かにある。そこを突かれない保証がどこにもないというか、相手は仮にもランカーだ。必ず突いてくるだろう。
「おびき寄せて、叩きつけるとして。逃げられたらどうするの?」
「そこは、ほら。臨機応変に柔軟かつ流動的に頑張ってもらうしか」
「結局はそこなんだ……」
そうなる予感はしていた。
でも相手があんなに動き回るのであれば、それこそそれぞれに適した動き方をするしかない。結局はそんな結果になってしまうのだろう。
仕方ないか。と鼻から少し息を漏らして、ずっと座っていて凝り固まった身体を伸ばして新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。
「いざとなればハルとナツキチの6倍トランザムあるし!」
「だいぶコツは掴めてきたんだけどね」
「わたしもガンプラ壊れないし、悪くないと思う。まだ制御まではいけないけど」
「じゃー、ミッションしよ! セツこのミッションやりたい!」
指差したミッションはBクラスミッションの「システム強化祭り」というバトルミッションだ。
NT-DにEXAM、MEPE。スーパー、ハイパー、バーサーカー。トランザムにFXバーストと。ありとあらゆるシステム強化を持つ機体が1機ずつ登場するという高難易度ミッションであった。
代わりに報酬もレア度が高いものが排出され、その手の人には喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。
セツ、これやりたいの? 内心の面倒くさいという感情が顔から出ていたのだろう。セツが急に不安そうな顔になる。
「嫌?」
「ぁ~~~~~~~~~。嫌じゃないっす」
「よかったー!」
コツンと、隣のナツキにこづかれて一言。「流され女」と。
昔からそういう性格なの。ナツキだって知ってるだろうに。
でもセツのこういう顔が見れるなら、わたしの手のひら返しもそう悪いものではないだろう。ね、ナツキ。
「そんなわけないでしょ。ハルはもうちょっとNOと言える日本人になって」
「……善処します」
◇
セツの鬼のようなミッションが終わってから、数日。
わたしはと言えば、ナツキと一緒に6倍トランザムの特訓をしていた。理由なんて明確で、単純にタイルさんとの戦いまでに仕上げておきたかったからだ。
「やっぱ燃料消費激しいね。あと挙動も」
後者は殆どマスターしたと言ってもいいレベルだった。
ナツキの高出力に対応したマニューバを目で追っていたら、自然と力の抜き方や、操作の癖なんかが見えてきた。
トランザム・コネクティブはじゃじゃ馬そのものではあるが、決して乗りこなせないわけではない。
高い操縦技術もそうだが、鋭い集中力が必要になる。
感覚としては通常のトランザムが乗用車レベルなのであれば、わたしの必殺技はF1レベル。だけどあれほど真っ直ぐしか走れないわけではなく、細やかなブーストと攻撃の見切りが必要になるだけで、実際のところ、慣れればそんなに難しくはない。
問題は使用中から終わりにかけての燃費の悪さだった。
「最低でも1分ぐらいかな」
「やっぱそうだよね。私もそれなってた」
わたしのトランザム・紅桜が通常起動でだいたい4分程度。
オーバーブーストモードと重ねればさらに減少するが、それは割愛しよう。
おおよそ3倍の2倍、6倍ともなれば消費する燃料も2倍になるのは必定。
やっぱ、ここだけはどうしようもないか。
「トランザム・コネクティブはいわゆる奥の手。最後の最後に使う切り札だね」
「うん。やっぱ使いづらい」
結論として出てきた所感はそれだった。あまりにも使いづらすぎる。
ハズレを引いたわけではないが、それ以上に使い所が限定されていて、応用が効かない、というのがわたしにとってはもどかしかった。
「でも、これ任意なんだね」
「なにが?」
「だから6倍にする対象」
そんなこと書いてあったっけな。必殺技の項目を表示させて確認してみたけど、確かに言ったとおり『任意のGNドライブ所有機と同調する』と書かれてあった。
「悪さするなら相手のGNドライブと同調して、振り回されてる間に決着付けるとか」
「やったことはないけど、できるかもね」
ただでさえ燃費の悪さに定評のある6倍トランザムだ。
恐らくそういったデバフ効果としての強制起動も最悪できなくもないだろう。
――だけど。
「わたしはナツキとがいいかな」
「へ?」
「誰かとじゃなくて、ナツキと使いたい。そう思ったの」
「……ハルってさ。たまに恐ろしいぐらい恥ずかしいこと言うよね」
「照れてる?」
「照れてない」
嘘だ。だって顔そっぽ向けて、口元を手で隠してるみたいだけど、耳の先まで真っ赤だし。
でも言わなくていいか。言わない代わりに写真には撮る。パシャリと。
「ちょ! ハル何してるの?!」
「わたしが攻めてるの珍しいなって思って」
「……こんのっ!」
ナツキの強靭なタックルによって押し倒されたわたしは床の上に沈む。
いたた。痛みだってフィードバックしてるのに。
空を見上げてみれば、押し倒してきた張本人であるナツキがわたしの腰に馬乗りになっている。ちょっとだけ、扇情的だった。
「な、なに……?」
「腹が立って」
「変な理由」
「ハルは私が攻めるの。だから、これ以上私を興奮させないでよ」
「……ナツキのすけべ」
「リアルだったら絶対襲ってた」
「こわ」
ナツキになら身体を委ねたって……。それはちょっと行きすぎかな。
でも、いつかは重ねてみたい、かも。そんな知識がないわけではないけど、女の子同士で、って言われたら分からないし。
ナツキは前腕をその指で沿わせて、そっと手を重ねる。くすぐったくて思わずうわずった声が出てしまう。
その目は本当にわたしを襲いかねないほど、蠱惑的で魅惑的で。端的に言ってしまえばすけべな目をしていた。
指を絡めて、恋人繋ぎ。もう慣れたことだけど、今日はどことなくアブナイ気配が滲んでいて、心臓を高鳴らせた。
「やばいって、こんなところGMに見つかったら……」
「大丈夫、行為には及んでないし」
ナツキの顔がわたしの顔に近づいてくる。
こ、このゲームってキスもアウトじゃなかったっけ? 待って待って待って! ほんとにそれ以上はまずいって!
ナツキは目を閉じたまま近づいてくるし、こ、これはもう。わたしも覚悟を決めるしかないのでは。
震えるまぶたを閉じて、期待を胸と唇に寄せながらその時を待つ。
しばらくの空白。沈黙とともに触れた感触を得たのは、おでこだった。
「へ……?」
「するわけないでしょ、このむっつり」
ナツキがぺろりと舌を出して、その美しい顔にお茶目さを示す。
こ、この女、わたしを弄んだのか!
「ナツキ!」
「ごめんごめん! でもハルが悪いんだよ。だからこれはその罰」
「うぅ……もう……」
何も言い返せなかった。ごめんってばぁ……。
反省の念を送っていたところ、突如として届いた声はわたしたちがよく知る声だった。
「でかお姉ちゃん、前見えないよ」
「……教育上よろしくないと思わなくない?」
セツの目元を手で隠しながら、こいつらマジありえねぇという愚かな人間たちを見る目でわたしたちを見ていた。
何も言い訳することができない。多分差し入れに来たか、様子を見に来たと思ったら、わたしを馬乗りにしたナツキが恋人繋ぎで襲ってるようにしか見えないのだから。
だからわたしたちは何事もなかったかのように、すっと立ち上がり、一言。
「「おっしゃるとおりで……」」
ガックシと肩を落としつつも、それでも恋人繋ぎをやめないわたしたちは、最年長からのお説教を受けたのだった。
スキあらばいちゃつくナツハル