ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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ついにバレンタインがやってきてしまったので初投稿です。
麻婆炒飯様のRicordaより、『綺麗な』ズィーベンちゃんをお借りしてます。


第60話:バレンタインは誰と過ごしますか?

 バレンタインとは何か。

 Wikipediaの参照はこの際置いておこう。

 ただ皆さんは言わんとしていることがわかるのではないだろうか。

 

 バレンタインとは友達、親友。気になっている相手。そして恋人にその親愛にも友愛にも恋愛にも似た感情を感謝という形でチョコを渡す行事だ。

 もちろんこのGBNにもバレンタイン人気に便乗してバレンタインフェスが開催されている。

 内容はと言えば、ガンプラで広大なGBN内を彷徨い歩き、期間限定で実っているチョコッグなるエネミーから入手できるチョコレートの実を収集。それをガンプラで調理するという、へんてこな物。

 正直言って面倒くさい、が。ここで折れてしまえばわたしがナツキに対してチョコレートを合法的に贈る手段がなくなってしまう。それは避けなければならない。

 こういうときにモミジがいればちゃちゃっとドローンを飛ばしてもらって、レドームでゲットー、なんて言えたのにな。

 

「人力は、だるい」

 

 それぞれ思い思いのチョコを作るために、現在フォースの面々は散らばって行動していた。

 少しだけ寂しいものの、ナツキからチョコが貰えるんだと思うと心弾むものがある。

 やっぱり定番のハート型かな。それともいっそゴリラ型とかガンダム型とかに挑戦してみて……。

 労力を考えろわたし。そんなことしたら一日じゃとてもじゃないけど終わらないぞ。

 

「印象付ける、って難しいな」

 

 そもそもわたしはバレンタインに家族以外の人にチョコを送ったことがない。

 こんな性格だ。相手がいたとしても、恥ずかしがって天の邪鬼にそっぽ向く、猫みたいなわたしにプレゼントなんてあげる相手はいないのは仕方ない。

 妹のサクラとか父親とかがいたかもしれないけど、それはもう過ぎ去った過去。今じゃない。

 だからわたしがちゃんとチョコをあげる相手、というのはナツキが初めてなんだ。

 ナツキが初めて。ナツキに初めてを渡す……。

 

「ふへっ……」

 

 我ながら大変気持ち悪いことを考えていたらしい。

 無意識下で出たその汚い声を首を振って取っ払う。空中を飛行していると、目の前に機影1。目的のチョコッグだ。

 元となったゴッグ自体がチョコレートっぽい色合いをしているので、大した改造はされていないものの、魚雷がチョコらしくデコレーションされている。

 きっと作った人は器用な職人だったんだろうなと、漠然と思いながら交戦状態へと突入した。

 わたしはソードガンを手に持って牽制攻撃で3発攻撃を放つ。

 そこで足止めを受けたチョコッグは腹部に搭載されたメガ粒子砲を発射させる。

 もはや恐怖の線を見る必要もなく空中で縦1回転しながら回避し、急降下。アイアンネイルを振りかざす間もなく縦一文字切り。チョコッグをチョコレートの実へと変換させた。

 

「げっとー」

 

 手に入れたチョコレートの実を1つ懐に収めて、また飛び上がる。

 多分リポップはするだろうけど、時間がかかるだろうから他を探したほうがいいだろうな。

 空中散歩がてら、持ち替えたGNガンカメラで風景をパシャリ。

 一応ヘッドカメラでも撮れなくはないんだけど、こっちの方が写真としての出来はいいし、あっちはフラッシュがきついし。

 

「航空写真ってだいたいこんな感じかな」

 

 せっかくだし、探すついでに写真でも撮ってみようかなと、暇つぶしに走り始めた。

 実際にどういう物があるかを調べる。やっぱり街の写真とかが多いな。実際に街の航空写真を撮ってみるのもいいかも。

 でもこの辺の廃墟地帯もなかなか様になると思うんだ。

 まぁ、少しはサボってもいいよね、チョコレートの実も1つ手に入れたし。

 わたしはファイルムのスラスターを吹かせて空を走り始める。

 どこかいいところがないかと、目視で探しながらあたりをつけるけど、どうもいいところが見つからない。

 試しにこの辺かな。と考えながらパシャリ。んー、なんからしさが違う気がした。

 

「廃墟。廃墟と言えばかぁ……」

 

 そもそも廃墟というものはわたしが普段から撮っているようなものとは生命力が違うのだ。

 ナツキの写真とか、ハイゴックを撮った時の写真。それからブルースカイ時代の花が手折れた写真に、ナツキの写真。

 どれもこれも、そこには命を感じられるような、生き生きとしていて時に儚さを感じられる写真ばかりだった気がする。

 だからこういう廃墟での1枚というのが考えれば考えるほど、ドツボにはまっていく。

 命がなくなって数十年経過したような、そんな場所を撮ることが、わたしには難しかった。

 

「そもそも航空写真ってのがイケないのかな」

 

 試しに地上に降りてみて、デジタルカメラのファインダーを覗き込む。

 散らばった壁の破片に苔むした草。ガラスは割れて、ひび割れた天井は今にも落ちてきそう。

 これが、そうなのかな。パシャリと写真を撮ってみると、そこに写し出されるのは人の熱などとっくのとうに失ったただただもの寂しい建物。

 違う。そうじゃない。もっと、もっと美しさが必要なんだ。

 いくらか撮ってもその景色は写し出されることはない。

 脳みそがパンクしそうだ。考えるってこと自体わたしはあまり得意とすることじゃないのに。

 

「んー。頭痛い」

 

 ストレージにあったアメを取り出して口の中に放り込む。

 こういうときには休息と糖分補給が重要なんだと、どっかの誰かが言ってたので実践する。

 何事も詰まった時は休憩するに限るね。ファイルムを背もたれ代わりにして空を見上げる。

 やっぱ冬の空は一段と遠いなぁ。なんでそう思うのか。それは分からないけれど、2月の空は乾燥しきっていてトゲトゲしくて、でも晴れた日はとても美しい。

 ナツキが空を好きなのってそういうことなのかな。美しいものに惹かれた。ただそれだけが彼女を駆り立てているのなら、その気持ちがよく分かる。

 GBNの空は美しい。仮初であったとしても、人が作ったものだとしても、そこにあるのは紛れもなく空の理想の姿だ。思わずため息が出てしまう。

 

「行き詰まってるな、わたし」

 

 そもそもこんな事やめちまえばいいのに。お金が出るわけでもない趣味だったら、意地にならずに他の場所で写真を撮ればいい。

 だけどやめられない。なんとなく、わたしのプライドが邪魔をするんだ。もっと撮りたい。もっといろんな景色を写したいって。

 いつの間にか、ルーチンになったのかもしれない。

 ナツキの笑顔を撮って、みんなの笑顔が美しくて。感謝や感想。それらがたくさん来た時に、わたしは少しでも喜んでもらえるって、自分が切り抜いた世界で心を動かしているって気付いた。

 

「夢、か……」

 

 わたしの夢は、あのピクニックの日から決まっていた。

 でも口に出すのは恥ずかしいし、漠然とそれが正しいかと言われたら、何か違っていて。

 だから趣味にとどめておきたかった。でも進路相談は始まっている。

 どこの大学に行きたいとか、どんな職業につきたいとか。

 写真を仕事にするなら芸術系の大学に行くことだ。それは知っている。分かっているけれど、自分の腕を知るのが怖い。それで食いつないでいけるかと言われたら難しい。

 だから迷っているんだ。わたしの夢を追うべきか、母に楽させるべきか。

 

「難しいな、将来って」

 

 白い息とともに漠然とした悩みを空に溶かす。

 やめやめ。バレンタインフェスがあるんだし、もっとチョコレートの実を集めなきゃ。

 悔しいけれど、また今度廃墟の写真を撮りに来るから。だからそれまで待ってて。その時は、ちゃんとした写真を撮ってみせるから。

 誰もいないはずの廃墟から、またおいで、と聞こえた気がしたけど多分気のせいだろう。

 

 ◇

 

『なんですか。私のお姉様への愛は邪魔させませんよ?!』

「あー、うん……」

 

 廃墟エリアから離れて数十分。順調にチョコッグを倒していた時にそれは現れた。

 突如目の前にいたチョコッグが赤いビーム砲に焼かれて焼きチョコ、もといテクスチャの破片へと姿を変える。

 わたしが手に入れる予定だったチョコレートの実はそのエピオンモチーフのガンプラへと吸い込まれていった。

 今のって普通に横取り行為なのでは? わたしは訝しんだ。

 見上げるエピオンの機体は胴体にウイングゼロのパーツと、背中にはナツキと同じくデスティニーのバックパックを装備している。

 どこかで見たことがある。僅かな記憶を遡っても、それは見つからずじまいだった。

 

「あの、それわたしのなんだけど……」

『あ……』

 

 彼女もことの重大さに気付いたのだろう。

 ネトゲに置いていくつかマナーというものが存在する。その1つがこの『横取り』というものだ。

 他のプレイヤーがターゲットしていたモンスター、エネミーを横から失礼すると言わんばかりに経験値やアイテムを取っていく行為を横取りと呼ぶ。

 もちろんマナー違反であることを、目の前のエピオン改造機は知っていることだろう。現に「あっ」って声に上げたし。

 

『でもこれがあれば私の完璧なお姉様へ捧げるチョコが完成するわけですが……いやでも他所様から奪い取ったこのアイテムで作った私の愛をお姉様に受け取っていただけるか……』

「あ、あの……」

 

 こういう時にコミュ障というのは弱い生き物だ。

 ちゃんと言葉にすればいいのに、本当に口にしていいのか憚られる。または勇気がないという理由で声をかけることができない。

 故にこんなカオナシみたいに息を漏らすことしかできないのだ。

 決して誇ることでもないし、なんだったら自分の情けなさに呆れてしまう。

 こんな時ナツキだったら。そう思わなくはないけど、ナツキとわたしは違うので、やっぱりカオナシよろしく、声を中途半端に漏らすことしかできない。

 ということは、会話の主導権は相手が握ることになる。

 

『決闘。そうです、勝負ですよ! そう勝負! お詫びに私と勝負してください!』

 

 主導権を握られた流されやすい女はどういう結論を抱くのか。

 それはもう明白だった。

 

「あっはい」

 

 流されるがまま、チョコレートの実を賭けて決闘をすることになってしまった。

 相手はガンダムエピオンライデンシャフトを駆けるズィーベンという子らしい。その声色から女の子というのは確定していた。

 わたしはバトルモードの承諾をすると、バトルフィールドが形成される。バトル開始だ。

 同時に襲いかかってきたのは先程の高エネルギー長射程ビーム砲。赤い閃光が突如として降りかかるが、流石に真っ直ぐな攻撃。スラスターを展開してその場をすぐに離脱する。

 

『まだです!』

 

 ズィーベンはビーム砲をそのままわたしのいる向きへと砲身を傾ける。

 これは薙ぎ払い攻撃だ。ガンダム作品でもよく見るけれど、実際にされると恐怖という概念が頭によぎる。

 恐怖の線は確実にわたしの方へと向いている。だけど、それは直線の動き。上下に避ければまったくと言っていいほど無意味だ。

 いち早く恐怖の線から抜け出したわたしはスラスターを展開しつつジグザグに接敵を開始する。

 見たところ相手は火力兵器ばかり積んでいるように見受けられる。だったらこちらも火力で行かせてもらうとしよう。

 各種ビットを展開し、ビームビット2基を後方に展開。チャージビットはそのビットにエネルギーを送る係になってもらおう。そして残り8基はまっすぐズィーベンに突撃だ。

 

『くぅ! 私だって……っ!』

 

 左腕からヒートロッドを展開すると、ムチのようにビットへと攻撃を仕掛けてくる。

 だったらパワービットを多少囮にして、ビームビットをサーベルモードに移行させて、側面を攻撃。絡め取られた2基は破壊されるものの、ヒートロッドの両断には成功した。

 

「わたしも、それなりに修羅場はくぐってない!」

 

 右手に持ったソードガンを腰まで持ってきて、居合の構えを取る。

 それを察したズィーベンは返しと言わんばかりに大出力のビームソードで迎え撃とうとするが、まさしくそれこそがわたしの狙いだった。

 キルレンジにはまだ届かないタイミングで右腕のトランザム七分咲きを起動。ソードガンを投げナイフのように勢いよく投げつけ、ビームソードを持った右手に突き立てた。

 唖然としている間にスラスターを全力展開し、一気にキルレンジに。そして刺さっている右手のソードガンを再び回収し、上方へと剣を振るう。

 出来上がったのは右腕が両断された姿であり、切断部分から爆発が発生する。

 そして、ウイングゼロの胸元に剣先を突き立てた。

 

『……参りました』

 

 バトルモードの降参を選んだズィーベンは機体を着陸させて、地面へと降り立った。

 心なし、どころではなく、めちゃくちゃ悲しそうに見える。やりすぎっちゃったか?

 いやバトルはバトルだし。勝ちがあれば負けは存在するし。そう自分に言い聞かせるけど、やっぱり良心が痛む。

 チョコレートの実の譲渡へと進もうとしたタイミングで、わたしは意を決して言葉を紡いだ。

 

「あのさ。そのチョコの実、あなたがもらっていいよ」

「え……?」

「その、事情がありそうだし」

 

 事情があるのはみんな同じだ。それが例え横取り行為に結果としてなっていたとしても、言葉の端々から感じる誰かへの愛がそうさせているのだとしたら、わたしも分かるから。

 

「できません!」

「へ?!」

「オズマならともかく、見ず知らずの方に負け、あまつさえ施しを受けるなんてこと、お姉様の伴侶としての自分が許しません!」

「う? うん……」

 

 言っている意味はめちゃくちゃだけど、とにかく愛は伝わってくる。

 気持ちは分からなくもない。立派な相手に対して対等であろうと、誠実であろうという心。わたしにだって覚えはある。

 でもこういう心って、どうやったって自身が納得しないと行き先が平行線であると相場が決まっている。

 うーむ、どうすれば……。

 

「もしハルがよろしければですが、私とチョコレート集めしませんか?」

 

 それは願ってもないことだった。さっきから寂しくて仕方がなかったので、そういうお誘いは大歓迎とも言うべきだ。

 相手がわたしより年下なんじゃないかという予想と、そんな相手にフォローされたと考えると、すごく頭が痛いのだけど。

 

「じゃあ、お願いします……」

 

 ズィーベンは満足そうな笑みを浮かべて、すぐさまパーティ申請のメッセージを飛ばしてきた。

 まぁ、たまにはこういう野良パーティも悪くないかな。そう考えながらわたしはズィーベンに応急修理キットを渡すのだった。




思わぬ二人旅


◇ズィーベン
出典元:ガンダムビルドダイバーズ:Ricorda(麻婆炒飯様作)
μちゃんが絡んでないので比較的綺麗。
だけど端々に感じるやべぇ愛は、彼女が彼女たる所以だろう。
何故μちゃんと離れていたかはサプライズをしたかった、ということで。
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