ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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手首が腱鞘炎になったので初投稿です。


第62話:決戦前夜は決意を固めますか?

「あぁ~~~~!!!! エルドラチャレンジやりたかった~~~~~!!!」

 

 珍しくちのが荒れている。

 それもそのはずだろう。「ロータスチャレンジ・ver.エルドラ」に呼ばれたものの、自身の進級がかかった講義をサボるわけにはいけなかったから。

 呼ばれもしなかったわたしたちからしてみれば、十分羨ましい事なんだけどな。

 

「まぁまぁ。今度は呼んであげるから」

「うぅ……ひっく……今日は日本酒飲んでやる……。そんで憂さ晴らしに配信を……」

「やめておきなさいな。そんなことしたら永遠の17歳の称号が泣くわよ」

「うぅううううううう!!!!」

 

 乾いた笑いしか出てこなかった。

 珍しくマギーさんがわたしたちに用事があると言って、フォースネストである「アダムの林檎」に立ち寄ったがいいものの、目の前で繰り広げられていた光景はちのが悪酔いして、マギーさんがなだめているところだった。

 なんというか、マギーさん酔っ払いの相手させられてかわいそう。

 

「ちのお姉ちゃん、お酒美味しい?」

「それよりセッちゃんの方が美味しいよぉ~~~。スゥーーーーーーーーハァーーーーーーー」

「うわきも」

「なんか言った?!」

「なんもないっすー」

 

 モミジまで圧される始末だし、もうこの酔っぱらい面倒くさい。

 カウンターで座るちのと、彼女にあすなろ抱きされて勢いよく吸ったり吐いたりされてるセツを見捨てて、わたしは片隅の席に座った。

 よくよく見てみれば2桁ランカーであるタイルさんに、その他もわたしが知っているようなダイバーが勢揃いしている。これは、わたしたち来る場所間違えたかな?

 

「ねぇ、ナツキ」

「うん分かってる。やっぱ場違い感あるよね……」

 

 基本格上しかいない空間に、わたしたちが混ざるとどうなるか。

 イコール気まずい。そう気まずいんだよ! 心が折れそうだ……。

 

「君がギャルスナイパーのモミジさんだろ? 13kmスナイプ、震えたよ」

「あ、どうも……」

 

 さらっとしか見てないけど、モミジはやっぱり有名なのだろう。

 13kmのロングスナイプショットをした彼女のある意味では呪いと言ったところか。どうやら掲示板でも騒がせているらしいし。

 本人はきっと「ドローンもレドームも破壊されなかったからだよ」とか謙遜するのだろうけど。

 

「やぁ。先日はお世話になりましたね」

「あ、タイルさん」

 

 そんな事を考えていたら、タイルさんの方からちょっかいを掛けてきた。

 優しそうな顔と穏やかな口調からは想像もつかないほどの獰猛さ。

 あの配信、結構伸びてて密やかな話題になっているとかいないとか。知名度上げもいいけど、正直穏やかに過ごしたいからこのぐらいで納まってほしいところだ。

 

「これって、どういう集まりなんですか?」

「知らないのですか? とりあえずこちらの動画で予習をしておいてください」

「なにこれ」

 

 G-Tuber「カザミ」。最近マギーさんがガンスタグラムに動画を共有したことによって成り上がったG-Tuberの1人だ。

 内容はと言えば「エルドラ」という舞台で繰り広げられるミッションバトルやNPDたちの会話記録となっており、お世辞にも動画としてはあまり面白いものではなかった。

 ただ一点。他と異なるような内容があるとすれば、その「エルドラ」の舞台設定によるところだろう。

 妙に凝った舞台設定と、『まるで生きているような』NPDの思考パターン。加えて『現実にそこにあったような』バトル体験。

 そのどれもが『リアル』を感じさせる熱を帯びていた。

 フィードバックにしても明らかにやりすぎなような、そんな謎のミッション。

 

「まるで現実っぽい」

「そうだろう? 私もマギーさんから共有してもらって、実際にミッションを探してみたが、それらしいものはなかった」

 

 わたしたちがイチャついている間に世界というのは動いている。

 バレンタインで口にチョコを入れて舐めあうみたいな、砂糖を吐き出しすぎて溺れてしまうほど甘ったるい事をしている間にも、マギーさんは動画を共有していて、みんながその検証にシークレットミッションを血眼になりながら探していた。

 でも結論は『そんなミッションはない』の現実だけだった。

 この「もう1つのビルドダイバーズ」は如何にしてミッションを見つけたのだろうか。

 確かに検証が尽きない内容だ。

 

「で、なんでこれを?」

「それは、アタシから! はーいチューモーク!」

 

 マギーさんが号令をかけ、手をパンパンと鳴らす。

 わたしたちはその音に振り向き、マギーさんの話を聞くととなった。

 だが、内容を聞いている限り、おおよそこの世のファンタジーとSFを混ぜ合わせたようなものにしかならなかった。

 

「つまり、エルドラは実際に存在して、衛星砲ミッションも実際のところは本当に撃たれたもの。それでその余波で通信障害が起こり、わたしたちはその被害を受けた。ってこと?」

「そうよ! そのアルスって子が近々GBNにお邪魔してくるの。それを盛大に歓迎するってこと!」

「それって立派な侵略じゃん?!」

 

 モミジの言うとおりであった。

 言葉にすれば簡単だとは言え、やっていることはこちらの地球への侵略で、GBNはその足がかりにしか思えない。

 

「いや。この動画を見るに、侵略ではなくGBNそのものの破壊、という方が自然かもしれません」

「タイルお兄ちゃん、どーいうこと?」

「彼から見れば、邪魔者は私たちだ。GBNを経由してそのエルドラへと向かうのなら、経由元を削除してしまえば、私たちが出る幕はない。ここまでは正直憶測でしかないですが、この戦いに負ければ彼らに蹂躙される、というのは間違いないでしょう」

 

 侵略どころか、GBN破壊だって?

 ただでさえ分からない事が多いってのに、明確に分かることが侵略って、そんなの。

 

「理不尽すぎる」

「セツ、ここが消えちゃうのやだ……」

「あぁ~セッちゃんが心配する必要はないんだよぉ~。なにセッちゃん不安がらせてんだよ」

「ちのちゃん、どーどー」

「つまるとこ、あたしらはそのエルドラの民からの侵略を阻止しろっつー事?」

 

 マギーさんが口元を緩ませて「そーいうこと」と、ウインクしながら答えてみせた。

 彼女はウィンドウを巧みに操作すると、マップが表示された。広げられた場所は草原や山々が多く点在するメインエリアの1つだった。

 

「あなた達にはチャンプたちと一緒に戦ってもらうわ。もちろん、有志でってことになるけど、どうかしら?」

 

 様々な声が上がった。でもそれはだいたい一本道に通るもので。

 「あのチャンプと?!」だとか「チャンプとなら!」とか。明るいものだったし、タイルさんやちのも賛成していた。

 でもわたしはわたしで、少しだけ疑問点があった。とても小さくて、くだらないと笑われるかもしれないけど、わたしにとっては大きなもので。

 流石にこんな空気で言えるわけがないし、終わるまで口を閉じていることにした。

 

 その日は解散。日時は追って連絡、という形になった。

 わたしは先程の懸念事項を、信頼できるタイルさんとちの、マギーさんだけがいる前で口にする。

 

「さっきの。撃墜されても、死んじゃったりしませんよね?」

「ハル……」

 

 それは取るに足らないことだった。

 GBNには本当の死という概念は存在しない。それはゲームであるから当たり前だし、当然のことだとみんな笑ってバカにするだろう。

 だけどそれは普通のGBNでは、だ。こんな予想外の事態でそのいつもどおりが通じるかどうか、わたしは気になってしょうがなかった。

 わたし一人だけならいい。勝手に消えたらそれで解決なんだから。

 だけどナツキが一緒ならもう違う。もうひとりじゃない。ひとりじゃないから、残された1人になったほしくないんだ。

 だから本当に死ぬなら、この話は辞退するつもりだった。

 わたしたちが幸せに暮らせるなら、それで。

 

「保証は、できないわね。予想外が多すぎるもの」

「そう、ですか……」

「でもこのGBNが失くなってしまえば、多くの人を殺すことにもなるわ」

 

 例えるならばどこか身体が欠損した人。

 例えるならば目が見なくなってしまった人。

 例えるならば、ELダイバーの故郷。

 

 行き場を失った人はどうすればいいのだろうか。その人を守るために、GBNを守るために力を貸してほしいと、マギーさんはそう言ってくれた。

 ちらりと、セツの顔を見た。不安に怯えて、服の裾を握って、恐怖を誤魔化している。

 わたしはそれでいいのだろうか。自分の命とGBNの命を天秤にかける。

 今まで1人で生きてきたわたしだったら、迷わず自分の命を取っていた。

 だけど、もうひとりなんかじゃなくって。

 

「ハルは、どうしたい?」

 

 ナツキの問いかけに答える勇気が出ない。

 口にしたら、死ぬか死なないのか分からない戦場に連れて行かれるんだから。

 だけど、ナツキを、モミジを、セツを。ちのやタイルさんを悲しませたくない。悲しませたくないから、わたしはナツキの手を握った。

 

「わたしは、GBNを守るよ。戦って、勝ち取る」

 

 ねだるな、勝ち取れ。さすれば与えられん。

 どこかのアニメのキャッチコピーだ。ねだっても懇願しても、それは手に入れることはできない。

 だったら、戦って勝ち取る。貪欲に生きなければ、未来はない。

 

「ハルなら、そういうと思ってた」

「ごめんねナツキ。また勇気借りちゃった」

「ううん。ハルのお願いだもん」

 

 やっばい。GBNなのにすっごいキスしたい気分になってきた。

 でも今は我慢我慢。あとで、その。やってくれたら嬉しいけど……。

 

「しょーじき、他所でやってほしいわ」

「ねー。ちのたち集めてやったのがこんなイチャイチャ劇場とか」

「これが生のナツハルってやつなのですね」

「タイルっち、なんか違くね?」

「2人とも仲良しだー!」

 

 愛し合う2人、幸せの空。というやつだ。今ノリで言ったからよく分かってないけど。

 まぁそんなわけで、わたしたちもアルスレイドバトル戦へのエントリーを決めたのだった。

 

 ◇

 

「ちびっこさぁ」

「なーに?」

「自分の死とか、考えたことある?」

 

 あたしには不可解だった。

 確かにハルは異常なまでに人の死を恐れる。それは今までの経験上間違いなかった。

 ここはゲームだ。自分が死ぬとか死なないとか、そんなことはゲーム内だけの話で、よくあるVRMMO系の死んだら自分も死ぬ、みたいなのはありえないわけで。

 でもハルは鼻で笑わずに、真面目な顔で口にした。

 

「ないよ。だってELダイバーが死ぬかわかんないんだもん!」

「それもそっか」

 

 あるとすれば、データとしての魂がどこかへ消えてしまった時のことだろうか。

 なんとなく。そうなんとなく。嫌だなと思った。

 ちびっこが、セツがまたどこかに行ってしまうことをあたしは望んでない。

 妹みたいな存在だからこそ、引き剥がされたら、また探しに行くと思う。

 そのぐらいには大切な相手だった。

 

「ハルお姉ちゃんはすごいね。ちゃんとり、りすく? まねじめんとをしてるから」

「リスクマネジメントな。まぁ、そうよなー」

 

 いつも流れやすいはずなのにな。

 口では貶めるものの、内心は褒めていた。

 あたしの時もそうだったけど、彼女はナツキチのブーストがあれば何だってできる気がしてる。

 流石に犯罪には手を染めないだろうけど、それだけナツキチを信頼しているというか、酔心しているというか。

 あたしには、できないな。未だに引きこもっているオタクの友達、ユカリを引っ張り出すとか。

 でもナツキチが言うなら多分ハルは成し遂げる。ホント、すごいよハルは。

 絶対にああはなりたくない、という思いも込めて。

 

「セツね。モミジお姉ちゃんもすごいと思うの」

「あたしが?」

「うん。モミジお姉ちゃんはセツに欲しい言葉をくれた。それが嬉しくって」

 

 あんなの、見てれば分かる。

 ワガママを露骨に避ける幼女とか、正直言ってありえない。

 何かバックボーンがなかったら、不自然極まりない行動だった。だから口にすればきっと戻ってくれるっていう確証もあった。

 打算は、ないわけではない。でもあの時口にした言葉に偽りはない。

 あたしたちになら、ワガママを言ったって許してくれるような関係なんだから、気にすんなと。そう心から思ったんだ。

 

「当たり前のことを言っただけだし」

「でもお姉ちゃんの言葉、すっごく刺さったんだ」

「そーかよ」

「お姉ちゃん照れてる」

「照れてねーし!」

 

 ニマニマしたいやらしい顔であたしの顔を覗き込んでくるこの電子の精霊を殴りたくなってしまった。殴らないけど。

 まぁでも。褒められて嬉しくないわけもなく。

 あたしは17cm小さい頭に手をおいてグリグリと頭をシャッフルさせる。

 

「うわーうわーうわー! お姉ちゃんなにー?!」

「ま、ありがと」

「うえー吐きそうー!」

 

 こうでもしなきゃ、22歳年下に素直になることができないなんて、あたしも老いぼれたな。

 目を回すセツ。あーあ、げっそりした顔しちゃってまぁ。

 

「絶対勝とう、セツ」

「……! うん!」

 

 滅多に口にすることのない彼女の名前を口にして、決意を固める。

 なにが出るかはわからない。だけど、勝たなきゃこいつにはもう会えなくなる。

 それが嫌だから、あたしも本気出して戦うことにしよう。

 GBNの月明かりに照らされながら、あたしたちは静かに誓うのだった。




月下の約束。


情報アップデート
・ハル
ハルは結局、死について克服できてないフシがあり、
タイガーウルフとの特訓も、
あくまで『死への恐怖』を死の線という形で乗りこなしているに過ぎない。
故に物語も後3章で終わろうというのにも関わらず、こんな感じである。
なお治そうとすると、弱体化必須。
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