バチバチと音を立てながらわたしたちの世界に侵入してくる黒い機体。
それは禍々しく、邪悪で、侵略者としては相応しい見た目だろう。
だけど、わたしが。ううん、わたしたちが屈したらこの世界の笑顔を失ってしまう。ナツキの笑顔を失ってしまう。
だったらわたしは恐怖で震える足で地に足をつける。
揺れる瞳でしっかりとわたしたちの敵を見据える。
息を大きく吸って、吐いて……。よし。
「いらっしゃ〜い! GBNへ、ようこそ!」
わたしたちは1人なんかじゃない。
数は向こうよりも劣っているかもしれないが、その質は圧倒的に上回っている。
それに昨日の強敵たちは、今日は強い味方だ。
撃墜の恐怖をその身で受けながらも、頭の中では勝てない道理はない、と確信していた。
「全軍、攻撃開始!」
チャンプの号令とともに戦況は始まる。
モモの『ペンギンサーチ』とモミジのドローン+レドームによるデータリンクによって敵の情報は常時全機体に共有されている。
よし、わたしたちも行こう。これがわたしの、ナツキの笑顔を守るための戦いなんだ!
◇
――ぬるい。
GNチェーンソーで1機。また1機とドートレスの改造機を両断していく。
そこにカタルシスは何もなく、繰り広げられているのはただの作業に近い。
――ぬるい。
仮にもGBNを守るための戦いだ。だというのに、この敵の情けなさは何だ。
ビームライフルによる攻撃は全てが私の機体を外していく。
当たったとしてもGNフィールドによって阻まれ、ダメージはなかったことになる。
――ぬるい……!
足りない。もっとだ。もっと。もっと面白いものを見せてくれないか。
侵略者なんだろう? もっと戦わせろ。俺のカタルシスを沸騰させる、燃焼させる素敵な相手を俺は所望する。
「祭りなんだろう? だったら、もっと私を楽しませてくれ!」
フレンドリーファイアなど気にせず、GN手榴弾にGNクラッカーなどを前方にばらまく。
その姿はもはや爆弾魔。普段温厚な割に敵味方問わず恐れられているとしたら、それが理由だった。
ただ、それは高い技術があってこそ成り立つ。味方には当たらないように計算しつつ、投げ込んだ手榴弾が、クラッカーが味方に当たることはない。
撃墜されそうな味方をかばい、収納したチェーンソーの代わりに肩にマウントされたビームサーベルで迎え撃つ。
「あ、ありがとうございます!」
「どうということはありません。それより損傷部分がある、後退して支援を」
「はい!」
リック・ディアスの赤い機体が後退していく。
最も、私がこの祭りを楽しむために引かせたようなものなんだけど。
自分の浅はかな考え方に少し反省の念を含めつつも、それでもやはり戦いというものが自分自身を滾らせるのには十分すぎる着火剤だと、口元を歪ませずにはいられない。
「戦え! 私と、戦え!!」
現実に鬱屈した感情を抱いているわけではない。
リアルに過度なストレスがあるわけではない。
ただ求めるのだ。戦いを、決闘を、バトルを。
この血液が、肉が、骨が、魂が。
悪い癖だとは思う。だが、遊びだとしたら、全力で楽しまないといけない。それがGBNを作ってくれた人への感謝の印なのだから。
「だがキミたちはどうだ?!」
ウィンダムを一刀両断し、ダナジンをずたずたに引き裂く。
「キミたちからは何も感じない! 戦いを望む声も、様子も!」
ブルートの装甲を食い破ってテクスチャの塵に返す。
ドートレスを切り裂いて、中に手榴弾を突っ込む。数秒後爆発したドートレスはこの世から姿を消した。
「もっと。もっとだ! もっと私を!!」
鬼神の如き活躍。外側から見れば畏怖と恐怖の対象として『殺戮の天使』と呼称されるそれは、ただひたすらに飢えていた。
春夏秋冬のときの戦いで乾いた土壌が潤ったと思ったんだがな。
鼻で笑いながら、ドートレスを2枚にスライスする。
だが、それも終わりを告げたのだろう。大きな影が私の機体を包み込む。
「ほぅ、あるじゃないか。もっと楽しそうなものが」
新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに、ギラリと優しい顔を歪ませる。
現れたのはサイコガンダムサイズのドートレス。正式名称があるだろうが、そんなのはどうだっていい。今の私は戦いに飢えている。
世界を守る、という建前でたくさん遊ぼうじゃないか!
「さぁ、付き合ってくださいよ、アルスさん!」
チェーンソーがエンジン音を響かせて突撃を敢行する。
やはり楽しいな、GBNは!
◇
「やってるなー」
周りのランカーは基本的に頭がおかしいと思う。
モニターから見る限り、タイルさん、もとい殺戮の天使が楽しそうに相手の機体を切り捨てている。
クオンちゃん、もといジャバウォックの怪物が一斉掃射によって敵を蒸発させている。
FOEさん、この人はダイバーネームわかんないけど、拡散波動砲と言わんばかりに鏖殺の限りを尽くしている。
煉獄のオーガさんは言わずもがな。さっきからまずいまずいと連呼していた。
「ちの、自信なくすなー」
従業員から見れば、ちのも大概頭がおかしい部類なのだが、そんな張本人は基本的に自分に自信がないわけで。
ダイバーランクは上がれど、個人ランキングは上がったり下がったりで、今の位置に固定されている。
そうなれば自分の自信というのは削られていくわけで。
本当にちのは才能があるのだろうか。いや、ないとは思う。だって格闘センスはあんまりないし、アドリブには弱いし。
目の前にのこのこやってきたウィンダムをソードビットで切断しながら、ぼんやりと考える。
こんな状況でぼんやり考え事をするのだって、ホントはダメなことなんだけどね。やっぱ目の前でこんな光景を見せられたらみんな落ち込むってば。
「まいっか。ソードビット展開!」
この憂さ晴らしは目の前の相手で晴らすとしよう。
ソードビットがバスターライフルの前で円を描いて回転を始める。
それはまさにパワーゲートの類であり、ちのの広範囲掃射に置いて2番目に高い火力を誇る武装。
セッちゃんたちの前ではあまり見せてなかったのは、単にソードビットで近づけさせないほうが一番だと考えたから。
だけど、今は完全に後方支援。だったらちのもはっちゃけないとね!
「GN収束バスターライフル! ファイア!」
GN粒子を圧縮したバスターライフルがソードビットパワーゲートを介して、より巨大なバスタービームとして変換される。
目の前のいたMSというMSたちを瞬時に溶かしていき、出来上がったのはモーゼの十戒がごとく、貫いたバスターライフルによる照射だった。
「ふー、スッキリ!」
先にも書いたが、このちのという女も大概ランカーなのである。
普通はフルドレスユニットによるレーザー照射を常に行ったりしないし、海を割ったようなビームは普通撃てないのだ。
そんな事もつゆ知らず、第2射を撃とうとしたちのの目の前に、ドートレスやウィンダムが現れる。
少し驚いたものの、ビームチェーンによってドートレスの胴体を掴んだ後、牽制射撃を行おうとしたウィンダムの壁になるようにドートレスを投げつける。
「それじゃ、バイバーイ!」
バスターライフルのカートリッジがガシャコン、と排出され、森へと落ちていく。
くり抜かれたようにドートレスとウィンダムのお腹はビームによってなくなって爆発する。
だが、それがまるで囮だったかのように、紫色のビームがフィールド全体に対して発射された。
機体全体が揺れる。でも被弾している様子はない。
確かに他の子たちは撃墜されちゃった子もいるだろうけど、問題はそこじゃなかった。
「なんか、ラグい」
自分の行動一つ一つが数フレーム遅れて描写されているような感覚。
はっきり言って気持ち悪い。イライラするとも評することができる。
同時にGBNの空にヒビが割れていく。あっちは崩壊してテクスチャの外側がむき出しになっている。まるであのブレイクデカール事件の時みたいに。
あのアルスって子自体が、この世界のバグのような錯覚さえ覚える。
だけど……!
「ちのだって、仮にもランカーなんだよ!」
バスターライフルで薙ぎ払い、フルドレスでレーザー照射。
ソードビットで喉元を掻ききる。ちののお仕事は前衛が安心して殴れること。
だったらその仕事、まっとうしようじゃないか!
◇
「重くて吐きそう」
「吐かないでよ、お姉ちゃん!」
セツの破壊光線じみたハモニカ砲が周囲の敵を晴らしていく。
こっちも、とは行きたいものの、このF5アタックによる重みは結構なものだった。
ビット攻撃がまともに当たらないし、当たるとしたらこっちのビット。
もう半分近くがやられてしまって、バインダーに収納しているところだった。
それにトランザム七分咲きのタイミングもずれる。斬ったと思った後にトランザムが起動し、体のバランスを崩す。わたしの戦術の半分が消えたようなものだった。
「ハルは私たちが援護するから射撃に回って!」
「ナツキ……。モミジもありがと」
「あたしはついでかい、ってね!」
目の前のドートレスのコックピットがビームランチャーによる狙撃で破壊される。
こんなラグ下においても狙撃はいつもどおりって、やっぱりモミジはどこか頭がおかしい気がする。
ソードガンで敵を牽制しつつ、攻撃を繰り広げていく。やっぱ当たんないって!
「総員、回避行動!」
「へ?」
気付けば一番真ん中の大きな戦艦から熱源反応をビシビシ感じる。
本能で感じるあれは、まずい。恐怖の線が一直線に広がっていく。当たったら、死ぬっ!
急いでスラスターを全面解放して射線上から外れると同時に、青紫色の閃光が戦場を両断し始める。
「ちっ! クソがぁああああああああ!!!」
「やらせはしない!」
「雷神サンダー!!」
「ラァァァアブアタァァァァック!!」
「サテライトキャノン!!」
先鋭たちのビーム攻撃に混ざり、ちのの収束バスターライフルが、セツのクアドラプルハモニカ砲は照射されるが、パワーとタイミングによって阻まれ、敵も味方も構わずに薙ぎ払っていった。
「なんだ、こりゃ……」
あまりにもでたらめな攻撃に有志連合全体の士気が下がる。こんなの反則でしょ!
「まるで、ブレイクデカール事件の再来じゃん……」
モミジは過去のことを思い出す。
穴の空いたGBNの空。赤黒い雷に、絶望を孕んだ巨大ビーム。
こんなの、あの事件の再来だと言われたっておかしくない。
そして目の前には大量の軍勢。そして……。
「ア、アストレイ……?」
「あれは、黒いサバーニャ?」
ELSのごとくエルドラ機が合体を始め、出来上がった機体にわたしたちは見覚えがあった。
黒いボディに青白いアストレイの鎧とデスティニーの翼を身に纏う、まるで『ナツキの機体』に似た何か。
加えて血色の悪いサバーニャの鎧とビットを携えた『わたしの機体』に近い何かが目の前に姿を現したのだ。
『もう、あなた方に打つ手はない……』
その名を『アンダーアストレイ』と『フォールンサバーニャ』。
自分自身が敵であるかのように作り出された紛い物は、わたしたちに牙を向き始めた。
VS完璧なわたしたち
◇フォールンサバーニャ / アンダーアストレイ
アルスがたまたま目にしたファイルムとオーバースカイをコピーした紛い物。
実際は性能の1/10も発揮することは出来ず、6倍トランザムをしようものなら、自壊してしまうレベル。
だが彼は告げるだろう。これがあなた達『1人ずつ』の強さであることを。