ところで、わたしたちは主役だろうか?
そんな事を問われたら、わたしはもちろんNOと答えると思う。
何故って、物語の主人公になってしまったら苦難がいっぱいあるし、それに面倒くさい。
常に挑戦し続ける、なんてこと、わたしにはできないし。
ある人は言っていた。主人公とは欲望を持った人間であることを。
金欲、色欲、食欲、挑戦欲。いろんな欲があれど、1つの欲望が極まった姿と言ってもいい。
だったら、わたしにはどんな欲があるだろう。主役ではないわたしに、そんなものを持ち合わせているのだろうか。
◇
「くっそ!」
「このサバーニャ、ラグを介さず……ぐあぁ!!」
F5アタックによるラグは確実に有志連合の士気を下げていた。
隣のSD機体が撃墜される。ムラサメが雷の生贄となって地に落ちていく。
目の前のアストレイとサバーニャは明らかに敵のボスと言っても過言ではない。
他のダイバーたちがどんどん消えていく。言いしれぬ恐怖。すまなかったという責任感。
奥歯を強く噛みながら、わたしはアンダーアストレイに剣を向ける。
あちらもガーベラストレートを携えて、実体剣と実体剣同士が火花を散らして鍔迫り合いを始める。
よく知っている。アンダーアストレイの元になったオーバーアストレイの性能を。
「こいつ、ナツキのフリして……!」
「ハルの見た目をパクってッ!」
怒りがふつふつと湧き上がってくる。
どうしてわたしは恋人のパクリと戦わなくてはいけないのか。
イライラする。こんな紛い物に圧されている自分に。
ナツキならもっとうまくやってる。もっと残像ダッシュをしながら、常に相手との距離を保ってスキを突いてくる。
遅れてやってきたビット攻撃によって引き剥がされたものの、今度はアンダーアストレイのビームライフルによる射撃。
ナツキならもっと精度が高い。あまり撃ってた試しはないが、それでも牽制に対する照準精度は絶対にナツキの方が上だ。
わたしだったらこうする、を体現したような相手。恐らく、わたしがもっとも相手にしたくないダイバーであり、最愛の女性。
そんな相手を……。
『これが、完璧なあなた達です』
カッチーン。今なんて言った?
この程度の相手にわたしが遅れを取るとでも言ってるの?
ただただ成り行きでこんなところにやってきて、それでひっどいラグ攻撃に苛まれ、イライラとした中、目の前にいるサバーニャとアストレイに煽られる。これほどイラつくことはない。
っていうか!
「「あんたがわたし(私)のナツキ(ハル)を語るなッ!!!」」
わたしの怒りとナツキの怒りがシンクロしたように、怒りの怒号が辺り一帯に響き渡る。
「ハルお姉ちゃんが……」「ナツキチが……」
「「キレた……?!」」
普段温厚なわたしだけど、こんなにも相手に煽られたらそりゃキレたくもなる。
目の前のアストレイは踏み込みが足りないし、ナツキならもっとトリッキーに動いてくる。
真正面から斬りかかるアストレイなんてナツキじゃない。ブーストを効かせて向かってくる黒い虚影に突撃を仕掛ける。
振り下ろすタイミングをずらさせば、敵は自ずとスキを作る。前衛職をやるならこのぐらいは覚えて欲しい、ということはナツキに教えてもらったことだ。
そしてこの右腕はナツキとモミジ、ちのが作ってくれた合作だ。こんな奴なんかに撃ち抜ける装甲をしていない。
例えバルカンだろうがなんだろうが、わたしの怒りは止まらない。止めさせない!
「七分咲きッ!」
ソードガンによる限定トランザムを発動させたわたしの目の前にあるのはアストレイの右腕と右翼を切り取った姿。
まだだ。わたしの怒りは収まらない。ソードガンを顔面へと投げ、腰に収納しているロングとショートのビームサーベルを手に取る。
流石に避けられたソードガンだが、後で回収しに行けばいい。そんなことより今はこの目の前の馬鹿者を倒すだけだ。
左肩のビームブーメランを取るために左手を伸ばすが、そんなものを見逃すわけ無いでしょ!
居合刀を抜くようにトランザム七分咲きを起動させて、更に左腕を切断。
代わりにと言わんばかりに左腕から射出されたワイヤーブレイドが右足を掴み上げると、勢いよく横に振り払って隣で戦っていたフォールンサバーニャへとぶつける。
「ハル!」
「うん!」
圧倒的なスキ。これを見逃すほど全ダイバーは甘くない。
そしてそれはわたしたちにも言えることだ。故に……。
「「さっさと落ちろぉおおおおおおおおお!!!!!」」
タイルさん戦以来のシャウトを聞かせつつ、ワイヤーブレイドを回収しながら、スラスターをブーストさせたわたしはエックスの文字のように。
普段ナツキから聞かないようなシャウトを耳にしながら、光の翼を展開したナツキが残像を作り出しながら、縦一文字に。
――一閃。
エックスの文字を刻まれたアンダーアストレイが、縦に真っ二つに切断されたサバーニャが内部から誘発。爆発を開始する。
『完璧であるはず。なのに……』
「分かってないのはそっちだよ」
「私たちは2人で1つ。だから1人で完璧なんて、ありえない」
わたしに欲望があるとすれば。それはナツキへの愛。たった1つだけだ。
共に依存する関係。わたしがナツキに、ナツキがわたしに体重をかけたりかけられたり。
そんな関係に完璧なんて言葉は似合わない。わたしたちに完璧はありえない。
ある人から見たらそれは歪と呼ぶだろう。ある人から見たらそれは未熟者に見えるかもしれない。ある人から見たらそれは半人前かもしれない。
だけどね。わたしたちはこれでいいんだ。2人で共にいることで完璧なんだ。
◇
「もーーーー! キリがないよぉ!」
「私としては、最高に楽しいパーティですがね!」
「戦闘狂と一緒にしないで!」
「あはは……」
GMの尽力によってラグは解消されていく。
チャンプからの指示は相手の母艦を全機撃墜することだった。
でもそれはわたしの担当じゃない。であるなら、せいぜい目の前のレイド戦を楽しむしかない。
「ナツキ」
「うん!」
戦況はこちらに傾いている。だったらもう出し惜しみせずに全力をぶっ放しても誰にも何も言われないはずだ。
スロットの特殊の項目を選択し、該当システムのウィンドウを表示させる。
YESかNOか。そんなの決まってる。当然YESだ!
「トランザム・紅桜!」
「トランザム・オーバースカイ!」
背部のGNドライブから5枚の桜色の花びらが舞う。
翼から青い2枚の翼が空に羽ばたく。
これがわたしたちの翼。これがわたしたちのトランザムだ!
ジグザグに線が引かれるコントレイルの閃光は2本の鳥。桜色と空色の2羽。
蚊取り線香のように寄ってきた敵はすべて両断する。ワイヤーブレイドで挟んだ腹部を剣モードにして切断。ナツキはガーベラストレートで3枚卸しに。
その間にやってきたウィンダムをショートビームサーベルで抑えて、ロングビームサーベルで腹部を貫く。
時々飛んでくるハモニカ砲に、乱反射するビームランチャー。
そこら中に煌めくフルドレスのレーザー砲など、それはもうビームやレーザーの雨あられ。陽気なお祭りだった。
「すげぇ、あのサバーニャ……」
「あっちのアストレイもやばいぞ。先陣を切って突き進んでる」
「こうしちゃいられねぇ! 俺たちもやるぞ!」
「「おう!」」
まるでボーナスステージのような感覚。
ダイバーポイントに変換されないのがもったいないところだが、それでも先程の憂さ晴らしぐらいはできる。
チャージビットを両手に持っているビームサーベルに連結させる。
今回のチャージは射程の範囲アップ。するとどうなるかって。そんなのビームサーベルが伸びるに決まってるじゃん!
「邪魔だぁ!」
エックスの文字を刻みながら目の前の敵たちを両断する。
今のでチャージビットの残量がなくなったみたいだし、続いてこっちも行っちゃえ!
パワービットで2門のパワーゲートを横一列に並べる。
そして四方を囲ったパワーゲート内に膜のようなものを作り出すと、その中にナツキが飛び込んでいった。
「ナツキ?!」
「一度やってみたかったんだー! おぉ! すごいすごい!」
「はぁ、まったく……」
瞬く間に青い流星が流れていき、通った先には爆発とMSの破片が飛び交っていた。
ナツキはしゃぎすぎだってば。まぁ、わたしも何だけどさ!
ビームビットを展開したわたしは目の前のサイコドートレスを捉える。
「GNダブルハイパーメガカノン、トランザムファイア!」
今回は拡散ではなく収束砲。一直線にサイコドートレスの胸元めがけて飛び出した極太ビーム砲だったが相手のIフィールドに阻まれてしまう。
だけど、そんな作り込みの甘さだったらすぐに飽和しちゃうよ。
Iフィールドジェネレーターが爆発したと同時に2本のビームがサイコドートレスの胸部を貫いて、爆散する。
これであとは通常のビット活用ってことで燃料を温存しておこう。
一般ダイバーによる戦闘の介入。GMのバグ修正。
そして、ビルドダイバーズたちの連携攻撃。それがこのレイド戦を終結させた。
◇
「ん~! 終わっちゃったー」
「楽しかったね、レイド戦」
今にして思えば、撃墜したであろうダイバーは死んでいることはなく、いつもどおりの日常を送っているみたいだから、死ぬ、なんてことに過敏になっているのはどうやらわたしだけだったようだ。
自分の思考を鼻で笑いながらも、心の底では誰も死ななくてよかったと、安心していた。
よかった。ナツキも死ななくて。寄りかかる相手である愛しき相手をその手に感じながら帰路につく。
「でもびっくりしちゃったな。ハルがあんなに怒るなんて」
「ナツキもでしょ。あんまりナツキが怒ってるとこ見たことない」
「誰だって怒るでしょ、あんなの」
自慢のガンプラを見せ合いっこしている場に、パクリ機体を出されたら確かに怒ってしまうのも無理はない。と言うか実際に怒ってたし。
わたしの知らない一面だった。自分のことはどうでもいいとしても、ナツキがあんなに激怒するなんて思わなくて。まだまだ知らないこと多いんだな。
未だにナツキの知らないことがあるんだなという情けなさと、まだまだナツキを知れることがある嬉しさが相まって、少し情緒が混乱している。
紛らわすために繋いだ手に力が強まる。
「どうしたの?」
「まだわたしが知らないナツキがいるんだなって」
意外そうな顔をしている。前にわたしへ人に興味がないって言ってくれたことはあったけど、まさしくその通りだ。
父と妹を亡くして以来、人と関わることが怖くなって、徐々に人への関心を失ってしまっていた。
今にして思えば、それはもったいないことだったかもしれない。
世界には同じ中学だったっていうナツキっていう女の子がいて、わたしが人と関わることに積極的になっていれば、もしかしたらナツキともっと早くに知り合っていたかもしれない。
早く知れば、もっと多くのナツキを知れた。それがもったいないって思った。
「わたしはそうは思わないかな」
「どうして?」
「多分、中学の時に私と知り合ってたら、今みたいな関係にはなってなかったと思うし」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
ナツキは多くは語らなかった。
彼女にだって懐に何かを抱えている。それを出さずにいるのは息苦しいと思う。
いつか。本当にいつの日か。わたしがそれを知れたら。ナツキが抱えている何かを知れたら、また一歩進めるのかな。
「さて! 今日は2人で祝勝会だ!」
「今月お小遣いやばいんだよね」
「あー、じゃあコーラだけってことで」
「うん。ナツキと一緒にいれるのが一番だし」
わたしは主役ですか? という答えにわたしは違うと答えるだろう。
きっとGBNの主役っていうのは『ビルドダイバーズのリク』みたいな人のことを言うのだろう。
ではわたしの物語の主役は? と言われたら、間違いなく違うと答える。
何故か。それはわたしだけじゃないから。
わたしと、ナツキの2人が主人公でお互いに愛し合って、お互いにお互いのことを知り合って、そして刻んでいく。
それを欲望に例えるのだとしたら、愛と知識欲に他ならない。
わたしはナツキを知りたい。もっといろんな事を。いろんな、想いを。
家族の事故から止まっていた時間は、ナツキによって動かされた。
だからナツキの歴史を知って、想いを知って。
あわよくば、初めて声をかけてくれた本当の理由を知りたくて。
いつか知れるといいな。何を思ってこんな奴に声をかけたのか。
その時わたしが何を思ったのか。それもナツキに教えてあげたい。
だって、たった1人の恋人なんだから。
2人で1つ。それが彼女たちの強さ
◇アルスの複製(ALS)
正式名称:アクティビティ・ライアー・システム(Activity Liar System)
フェイクν、デュアビスアルケー、リバースターンXなどと同様の複製プランで、
GBNのデータから拾い上げたデータを、GBN上で再構築。生成することで、相手のガンプラをコピーすることができるシステムである。
理論上GBNのどのガンプラよりも強く仕上げることができる万能システムに見えるが、
基盤となるガンプラがエルドラ各機となるため、作り込みは甘い。
また、AIが操作することを想定していないガンプラを選択した場合、その性能は著しく低下する。(原作のトランザムなど)
そのため手数がとにかく多いファイルムや基本1本の刀で戦うオーバースカイなどとは相性が悪い。