目標をクリアすれば、次に待つのは新たな目標である。
わたしはそういった何かを努力するという経験を怠ってきたようなものなので、どうやったら次の目標を定めることができるか、分からなかった。
「どうしようね」
「う、ん……」
「相変わらず眠そうだね」
「いつもこんなで、ごめん」
「気にしてないから、ゆっくりおやすみ」
特に病気でもなんでもない。人並み以上に朝に弱く、午後の活動の方が目がぱっちり覚めやすいだけなのだ。あと素がちょっとテンション低めの低血圧女子だというのもわたしが眠そうに見える一端かもしれない。
どちらにせよ、相手してくれているナツキには失礼だと思うから、このクセ直したいんだよなぁ。そういった病気ではないって、1度かかった先生が言っているのだ、間違いない。
眠りの中でわたしは何を見るのか。それはわたしにも分からない。だけど、明確に存在していたのは夢を見たという事実だけ。
青い空と白い雲と、3人の家族。何よりも尊ぶべきかけがえのないそれを、願うことならもう一度撮りたい。ファインダーに収めたいというのだって夢だと思いたい。
でもそれは夢だなんて言えるほど程遠くて。目標にするのもバカバカしい内容だった。
だから彼女の申し出には全面的に賛同せざるを得ないところがあった。
ミッションである。片っ端からミッションを攻略していって、とりあえずフォースというチームを結成することができるランクDを目指すこと。それを今の目標にすれば、きっと今より楽しめるだろう、という算段だった。
わたしはこのままでも楽しめるけれど、お金がほしいのは確かだった。
ゲーム内マネー「ビルドコイン」はブツブツ交換する際に必ず必要となる、リソースの1つ。これがあればあるだけ、嬉しいというのは人間の悪質で人間らしさ残る修正とも言えるだろう。
そのBCがなくては始まらない内なる目標がもう1つある。ナツキにも言ってないが、わたしはカメラがほしい。デジタルカメラなる高いアイテムが。
スクリーンショット機能でいいじゃん、と思う人もいるだろう。だが、世の中には凝り性という人種が存在する。こと写真に置いては例外なくわたしもその内の1人だった。
スクリーンショット機能では細かいところまでは調節できない。
そりゃ画像編集ソフトである程度編集することはあっても、外部を介さない生身の写真では、明らかにデジタルカメラの方が美しく出来上がる。加えて、薄っぺらいカメラ型のウィンドウではちゃんと撮れているか疑問だったりする。いつもと違う機材を使うのは、歴戦の勇士が新しい武器を使いたがらないように、不安なのだ。
だからお金が欲しい。BCが欲しい。金欠ビンボーライフではお腹は膨れない。
「手早く稼げて、ポイントも稼げる夢のようなミッション」
「そんなのある?」
「探さないとわっかんないよ?」
例えば電脳迷宮「アキバ・ラビリンス」は未だ攻略者0という超絶ゲキムズ鬼畜難易度がある。
クリアすれば3000億BCという、前に戦ったダイとかいうF2千兆よりは桁数が少ないものの、べらぼうな額のお金が手に入る、という話がある。
先にも話したとおり、めっちゃ難しいので、クリア者0なわけなので、わたしたちが迷宮に潜ろうものなら、すぐさま迷宮モンスターたちに惨殺されてしまうだろう。
例えば鉱山採掘。
ミッションではないものの、ピッケルとスコップさえあればできる簡単なお仕事であり、運と時間というリソースを全部はたいて手に入れる激レアアイテムを売れば、それなりの金額になることだろう。
ただ、ログインしている時間の殆どを石と土に囲まれた世界で過ごすのだ。そんなの常人の神経では発狂ものであり、アイテムが見つからなければ虚無の時間を過ごしているに他ならない。
「これは? 草を刈ろうってミッション」
「却下。説明文が詐欺っぽい」
文字通り草を刈るだけのミッションなんだけど、説明文をよくよく見れば「草を刈るだけで簡単なお仕事です。アットホームなミッションで、福利厚生充実! 初心者大歓迎」みたいなよくあるブラックカンパニーの宣伝文句だった。こりゃダメだ。
「ねぇ、やっぱりちゃんとしたミッションの方がいいと思わない?」
「それは一理ある」
「こっちの公式連戦ミッションとかさ」
「ナツキ、戦いたいだけじゃないの?」
「そんな事ないよ」
ならこっちの目を見て話してほしい。
まぁ安心できて、じわじわとBC稼げて、さらにポイントも稼げるなら連戦ミッションでも構わないけれど、わたしたち2人だけじゃ戦力が足りなさすぎる。せめてあと1人。火力担当となるダイバーがほしい。
そう考えているところに、ちょいちょいと服を引っ張られるような感覚を感じた。
ナツキかなと思って振り返ってみると、そこには綺麗な栗色の髪をした少女がわたしを見上げている。目と目が合った。パーッと、表情の花が咲いたみたいに彼女は言った。
「セツも仲間に入れて!」
「……へ?」
◇
意訳。わたしも連戦ミッションに興味があるから、一緒に参加してほしい。
そう言ってきたダイバーセツはわたし達よりも明らかに幼い印象を受ける少女だった。
見た目年齢はおおよそ12歳程度。白い制服に白いスカート。胸の下にベルトを身につけた謎の栗毛少女は言ってしまえば可愛い。そして……。
「おぉーーーーー! このガンプラすごいね、お姉ちゃん!!」
「ありがとう。私が丹精込めて作った自慢のアストレイだからね!」
「こっちのガンプラは……あんまりうまくないね!」
「初心者だからかな」
うるさい。12歳相当の見た目とは言ったが、見た目相応ならもう少し5℃ぐらい温度が低くても許されるだろうに、この子のうるささは夏場のギラつく太陽みたいで、めちゃくちゃ鬱陶しかった。
きっとこんな子の近くでは寝れないだろう。そう思う程度には。
「セツちゃんのガンプラは、ガンダムXベース?」
「そう! ガンダムダブルディバイダー!! すごいでしょ、かっこいいでしょ!!」
「うんうん、かっこいいかっこいい」
ガンダムXと言えばその身の丈に余るほどの大きなサテライトキャノンという印象が半分。換装武装であるディバイダーというイメージが半分だろう。
セツのガンプラは例に漏れず、ディバイダー装備のガンダムXがベースだった。
それだけ聞けば普通なのだが、ディバイダーは腰にマウントされておらず、両腕2本にくっつくようにして2枚装備されている。そう2枚だ。
ガンダムダブルディバイダーはその名の通り、2枚のディバイダーを身につけたガンダムXなのだ。
わたしたちが望んでいた火力装備である。まったくもって丁度いいけれど、改造案がバカみたいじゃないか?
それにしても、この設備ドックは絵になる。等身大になったガンダムファインダーも、ブルースカイも、そしてダブルディバイダーも。ピカピカに整備されていて新品同様なほど美しく、素晴らしい。
これなら1枚撮ってみても悪くないかな。
「ねぇ。セツのも合わせて写真撮っていい?」
「いいの?!」
雪のようなセツとは裏腹に暑苦しい太陽のようなテンションだが、子供はそれくらいが丁度いいのかもしれない。
ナツキがセツの肩をポンと叩いて、カメラの前に立たせるみたいに誘導する。
「じゃあセツちゃんも混ざる?」
「え。いいの……?」
今度は控えめに。ちょっと怯えたように口にするそれは子供なんだから気にしなくていい、というガーベラ・ストレートのようにバッサリ切り裂いた一言によって解決した。
「ハルもこっち来る?」
「無理。カメラの調整あるから」
タイマーもあるけれど、わたしはカメラに映るタイプじゃないし。
カシャリとやや俯瞰で撮ったガンプラと2人は悪くない仕上がりと言っていい。
やっぱスクリーンショットだからこそ、画質はいいみたいだ。そこはカメラにはない利点かもしれない。
でもやっぱデジタルカメラ欲しい。BCを溜めてやると、わたしは心に誓ったのだった。
出撃すると見えてくる景色は市街。戦場であることを証明する炎があちらこちらに広がっており、隙間を縫うようにザクⅡたちが闊歩している。
連戦ミッションとは読んで字の如く、いくつかのWAVEで出てくる機体を全部倒すミッションだ。
内容を聞いて通り、NPDの強さとWAVEの数によって難易度はピンきりだ。
わたしたちが挑戦しているミッションは「初心者のための連戦ミッション」という比較的易しめで、ザクⅡ、グフ、ドムの三種類の機体が各WAVEごとに現れる。
つまり3WAVE出てくるNPDたちを全滅させて、BCとダイバーポイントを稼ぐ。それがこのミッションでのやることだ。
「ザクが10機かな」
「まっかせて!」
ダブルディバイダーの両腕を胴と顔の前で平行に並ぶように突き出す。
そして盾状だったディバイダーが地獄の門を開くように少々の煙とともに発射準備完了の片腕19門の全門38門からなるビーム砲群「ハモニカ砲」が姿を現す。
覗かせているのは物量を物量で押し殺す圧力。エネルギーバランスなんか皆無であると、そう大声で叫んでいるようなくらい、バカバカしくなるほどの装備。
弾幕はパワーだ。なんて誰かが言っていたが、それを地で行く人をわたしは初めて見た。
そして、ガンプラはそれに答えてくれる。
「ダブルハモニカ砲、はっしゃー!」
桃色のレーザーが周囲の街という街を焼き尽くす。ビームの雨。太陽光による一斉掃射。残るものは跡形無なく消し飛ばす無慈悲な暴力の塊は、地面を焦がし、沸騰させて、蒸発させる。
あぁ、なんというパワー。火力なんだろう。うっとりとした声で「すき」と囁いたセツの声は、雅でしっとりと汁っ気を帯びていて、その筋の変態がいたら間違いなく興奮ものの一言だっただろう。やっていることはただの暴力なんだけど。
現実へ引き戻すようにダブルハモニカ砲から熱放出の煙が噴射される。これで1WAVEクリアなのだから、ゲームというのはちょろいものだ。恐ろしいことに。
「セツ、しばらく動けないから」
「は?」「え?」
「だってぶっぱしたらチャージに時間がかかるのは基本だよ?」
差も当然のごとく言っているが、ブリーフィング段階でそんな話は一言も聞いていなかった。まさしく気持ちよく撃ったあとで、残りは任せたと言わんばかりに場外すれすれの場所でゆっくりと待機している。
なんと、形容すればいいだろうか。バカ野郎と叫べばいいのか、それともちょっとは戦えと言うべきなのだろうか。
頭では描いていても、結局出てくる言葉は1つ。
「あっはい」
流されやすい女は流されるままにこの自体を放置することに決めたのだった。
刹那のセツではないです。
でもセッちゃんって呼んであげてください
名前:セツ
性別:女
身長:144cm
見た目:12歳相当
機体名:ガンダムダブルディバイダー
茶髪碧眼ツーサイドアップ。かなり可愛い。サラッサラ。
胸は年相応になだらか。今後に期待
力こそパワー!がモットーの猪突猛進ガール
性格はにぎやかでうるさい。元気
良くも悪くもかなり子供っぽい。ただ駄々はこねない
◇ガンダムダブルディバインダー
ガンダムXディバイダーの改造機
名前の由来は、2枚のディバイダー
火力。火力こそが正義。というコンセプトから、
盾と制圧射撃の両方を兼ね備えたディバイダーを2枚用意した機体。
基本的にはガンダムX+2枚のディバイダー
基本ベースはガンダムXディバイダー
最大の特徴は、2枚のディバイダーを両腕部に装備することで、
大型スラスターによる機動性も獲得。
その分ピーキーな性能となっており、使いこなすには時間がかかったとのこと。
また、後頭部には装甲の隙間を縫うようにしてナドレの頭部のようなセンサーが見受けられるが……。