1基は難なく撃墜。だがもう1基がフリーだ。
恐らくマニュアル操作されているソードビットの残り1基は間違いなくあたしのビームランチャーを狙っていた。
背後に回り込まんとするビットに対し、あたしができることは少ない。
普段からもっとハルやナツキチと一緒に格闘戦の練習をすべきだったと後悔したが、もう遅い。だから見様見真似で。あの2人の戦闘データは誰より何より、あたしが一番近くで見ていたんだから。
振り下ろされた右腕のビームサーベルがソードビット1基を両断した後、すぐさまもう1基の処理へと移る。
下方向に斬ったビームサーベルの刃がマストドライバーのように弧を描きながら、上へと上り詰めていく。対象なんて、鼻からもう1基のソードビットに決まってる。
ビームランチャーを狙った剣先が触れる前に、桃色の閃光が端末に熱を帯びさせる。
「2基!」
ソードビットはあえなく両断。融解された胴体たちは真っ二つに引き裂かれ、先から爆発する。
やった。やりゃあできんじゃんあたし。自分をすぐさま褒めて遣わしたいところだけど、今はそれどころじゃない。
コックピット内はまだイエローコーション。続くセンサーのレッドコーションは直上。
『ラスト・ワルツ』
真上に展開されたウィングガンダムの翼に、背中に直結されたG-にゃんドレスワルツのバインダーを見て、冷や汗が止まらなくなった。
溜まりに溜まっている先端部分のエネルギー体。その大きさはこの前狙い撃ったものよりも遥かに大きいものになっている。
あのチャージはほぼ完了しているに近い。流石にあたしでも早打ちの心得はない上に、ツインバスターライフルクラスの一撃をまともに受けきれる気になれない。
だったら、三十六計逃げるに如かず。逃げるんだよ、モミジィ!!
『フル、ファイア!!!!』
襲いかかるツインバスターライフルクラスの威力はまさに隕石が落ちてくるような流星。
黄色い流星は対象を焼き尽くさんと、伸びる、伸びる、伸びる。
言うなればコロニーレーザーのように相手を確実に殺す、という明確な意志がなければこんなビームは発射できないだろうというぐらい、馬鹿げた威力。
木々を焼き、葉っぱを焼き、草を焼き。そして、地面を焦がす。
着弾してないにも関わらずだ。何だあの威力。やっぱりおかしいって。
やがて、地面に着弾すればビームの余波、爆発のエネルギー波、そして爆風。その諸々が全て周辺全体へと拡散していく。
なぎ倒された木々はもはや生命活動の維持をすることも敵わない。
焼かれた草は雑草だろうと名有りの薬草だろうと二度と同じものは作られないだろう。
そして、焦がされた大地は永遠に草すら生えない不毛の大地へと姿が変わる。
黄色い流星が落ちた場所は、まさしくそういう場所だった。
爆風に対してあたしも防御姿勢を取ったけれど、モビルスーツが吹き飛ばされてしまうほどの衝撃波に腕の装甲を、膝から先の脚部を。そしてもうまともに機能してない頭を、全て全て溶かしていってしまったのだ。
地面に転がる衝撃で幾度かボールの弾のようにバウンドして、今はない顔面部分からスライド。地面に倒れ伏した。
当たれば決まる。そんな彼女の必殺技の話題を聞いた気がする。
ウソつけ。当たんなくても頭おかしい衝撃波で死にそうだわ!
くそ。サブアームなんて精密機械はさっきので破壊された。一応まだビームランチャーは生きているからそれをマウントから外して、生きている左腕で上体を起こしながらすぐさま右手にビームランチャーを手にする。
その射線の先。構えるスキのないほどに接敵していたちのっちに右腕を絡み掴まれる。これは、ビームチェーン?!
『接近戦も行けるじゃん、モミジちゃん』
「お世辞をどーも。それより右腕離してくれない?」
『いーよ!』
ビームチェーンによって掴まれた右腕は前腕部から握りつぶされるように切断され、地面にビームランチャーがガシャンと落ちる。
「そーいう意味じゃねーんだけど」
『ごめんね、これも戦いだから』
「……いーけど、どうすんの。ちびっこが断ったりでもしたら」
正直今回の騒動はちのっちが初めたことだ。
あたしも巻き込まれただけだし、その上でちびっこですら自分の意見を言ってない。
だからこれは独りよがりな遊び。どちらが勝っても負けても、恐らくセツの意思はない。
『セッちゃんは後々置いておくとして、実はモミジちゃんと一戦交えたかったんだよ』
「……は? あたしと?」
猫耳付きの頭部がコクリと縦にうなずく。
なんでちのっちがあたしとバトらなくちゃいけないのさ。勝敗なんて明確に見えてるだろうに。
『自分でもみっともないの分かってるんだけどさ。私、モミジちゃんに嫉妬してたの』
「へ?」
『大好きなセッちゃんを取られちゃって。本来私が言わなきゃいけないことを、モミジちゃんに先越されて』
レッドコーションの影響で話があんまり耳に入ってこないけど、要するに娘を取られて嫉妬したのがちのっちってこと、なのかな。
『だからこれは私の一方的ないじめ。嫉妬した相手より強いって事を自分に納得させるための。ホントみっともない。セッちゃんが幸せなら、それでいいはずなのにね』
ちびっこが幸せなら。それはあたしにだって分かる。
あいつはもっと幸せになるべきだ。エンカウントの振り子妖精だとか、火力の妖精だとか、そんなのは置いておいて、あいつはちゃんとした健全なダイバー生活を送れればいい。きっとちのっちもそう思っているはずだった。
でも冷静な頭とは裏腹に、心はどうにもならない。直情的で感情的な心は、いつだって冷静な判断力に欠けている。今回も、それが原因だったはずだ。
きっかけは些細。でも、積み重なって、膨れ上がって、自分の容量をいっぱいにしてきたそれはいずれ爆発する。それが今回の例だっただけで。
だからあたしはそんなのも踏まえた上で、あたしの意見を口にしようと思う。
「いいんじゃない、それで」
『……いいのかな、こんな自己満足で』
「あたしもきっと同じ立場ならそうしてるだろうし、そういうもんでしょ」
『やっぱ、モミジちゃんは軽いね』
「あんたより年くってるからな」
正解とは言えないと思う。心の暴走を、誰も正解だとは言わない。でも間違いだとも言い切れない。分かり合うことでしか、その心に手を差し伸べることはできないんだ。
『……でも、それはそれとして』
でも、バスターライフルの矛先をあたしに向けて、感謝の意を込めてあたしの機体を溶かすのはちょっとどうかと思うな。
◇
「勝っっったーーーーーー!!!!!」
『そらそうよ』
『むしろモミジさん頑張ったまで言いたい』
『恥ずかしいセリフ禁止!』
「うるさいなぁ。ちのが勝ったからいいんですー!」
デスポーンしてきてやってきたるはさっきのカフェテリア。
一応あたしたちのフォースネストもあるんだけど、なんかカフェテリアの方が落ち着いてしまって。
腰に根が張ってしまったというのはこういうことだろう。あたしたちのお尻とカフェテリアの椅子はズッ友なのだから。
「モミジお姉ちゃんも、ちのお姉ちゃんもお疲れ様!」
「ん、おつかれ」
「お疲れさま!」
三者三様のフォースメンバーのおつラッシュが今は少し心を痛める。
やっぱまだまだ3桁の壁は分厚いな。なんだかんだ切り札は切らせたけど、それでも全身健在で、あたしは欠片もダメージを与えることができなかった。
「まぁよくやった方だと思うよ、スナイパーとしては」
「あんがと」
根本的にあたしとちのの相性が悪すぎる。どんなに一撃で狙撃しようとしても、技量の差やソードビットの有無。圧倒的な経験則や勘でその場をしのいでくる。
これがランカーか。スナイパーのランカーが少ない理由もなんとなく分かってしまう。
スナイパーは1人じゃ何もできない。あくまで前線で戦うファイターのサポーターがあたしの解釈。もしくは暗殺だけで、一撃入れたらあっちが終わるかこっちが終わるかの差だ。
そんなスナイパーが上位陣相手に戦えるかと言えば、だいたいビームや弾丸を切り払いされた後に特定。そのまま追いかけ回すが常。現実が非情なのは変わらないということ。
だからよくやった方だと言われるのは、素直に嬉しい。が、やっぱりちびっこを取られるのは少し寂しいものがあった。
「さーセッちゃん! ちのの胸元にダイブして!」
『お嬢きも』
『いつもの』
『初見ですが、ちのちゃんのファンやめます』
「なーんでよー! 初見さんいかないでー!」
キレッキレの泣き芸に少し吹き出しながら、あたしはちらりとちびっこの方を見る。
どうやら相手も視線に気づいたようで、ふにゃりとした笑顔であたしを出迎えてくれる。
かわいいと思うが、そういうのはあたしじゃなくて生放送の画面でやってほしいものだ。
「ほら、行きな。ちのっち待ってるよ」
「…………」
珍しく黙り込む彼女から先程の笑顔が消えていて、表情に陰りを見せていた。
正直、あたしはこいつが何考えてるか分からなくなる時がある。
こういう時イノベイターならトランザムバーストなり、クアンタムバーストで対話を試みるんだろうが、そんな便利なものをあたしは持ち合わせていない。
伝えたいことは口にしなければ届かない。そんな当たり前のことやる勇気なんてあたしにはこれっぽっちも存在しない。
だから、時々ナツハルの2人が羨ましく思うことがある。
あいつらは心の内側を曝け出して、お互いに受け入れた上で、付き合ったんだと聞いたことがあった。
まるであたしとセツみたいだよな。なんて考えてしまう。
でもこいつはまだまだ子供だし、考えてることもよく分からない。あたしとちのっち、どっちが一番なのか未だに知らない。そんなの、あたしには関係ないはずなのに。
今が、聞く機会なのかもしれない。あたしとちのっち、どっちの隣りにいたいか。それを決める権利はあたしにも、ちのっちにもなくて、セツにしかない。
「ちびっこ、あんたはどうしたいのさ」
「……セツは」
ちのっちが両手を胸元で握りこぶしを作りながら期待のこもった瞳を浮かべる。ルビーレッドの瞳が綺麗だ。
コメントも盛り上がっているところ。モミセツかちのセツかで投票始めってるし。
まぁ、あたしも。少し期待してる。あたしを選んでくれるかどうか。なんだかんだ一番一緒にいたのはちびっこだ。期待しない方が無理な話だ。
「セツね……」
緊迫がハルの生唾によって引き起こされる。
この後の一言が、重要なんだと関係ないナツハルでさえ理解しているし、きっと画面の向こう側のコメント主たちもそうだろう。
口を開いたセツの口から飛び出した名前は、たった1つだった。
「モミジお姉ちゃんと、一緒に遊びたい!」
あたしの方を向いて、ニッコリと笑う。
胸が少しだけキュッと嬉しくて縮まってしまうくらいには、感謝していた。
選んでくれたことへの感謝と、あたしがそばに居ていいんだと言われた感謝。2つ合わせて謝謝だ。
目の前で崩れ落ちるちのっちを尻目に、あたしはサラサラなセツの髪の毛をグッシャグッシャにかき回すことに決めた。
「な、何やってるの、でかお姉ちゃん!!」
「いーや、なんもー!」
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『モミセツてぇてぇ』
『完全敗北セツに選ばれなかったちのちゃんUC』
『悲しいな』
「うがああああああああ!!! 試合で勝ったのに勝負に負けたー!!!!」
「どんまい、ちの」
「あはは!! 笑っちゃってごめん、ほんとごめんね、ちのちゃん! あはは!!!」
嬉しさと喜びを大鍋に入れてかき混ぜたらどうなるか。
そんなの希望に満ちた結果しか生まない。あたしが掴んだのはそういう類の歓喜だった。
ちのっちは傷心のであるはずなのだがおもむろに立ち上がって、あたしたちに指を差して一言宣言した。
「タッグフォースバーサス、絶対モミセツペアをぶっ潰す!」
『ヒェッ』
『ヒェッ』
『ヒェッ』
『ヒェッ』
『ヒェッ』
『ヒェッ』
「てことでタッグフォースバーサスのメンバー募集してまーす。後でメールフォーム作っとくねー」
「切り替えはっや」
「そこがちのお姉ちゃんのいいところ!」
なんだかんだちびっこも信頼してるし、親としてのちのを気に入っているだけなのかもしれない。ちのママか、ありかな。
ちのママが配信終了の準備をしている中、あたしたちは目の前に座っている2人に話しかける。
「んじゃ、後はナツハルエントリーだけか」
「私は……あはは、どうしようかな」
「ナツキが出ないなら、わたしも出ないだろうし」
正直、ナツキチがここまで拒む理由もよく分からない。無理強いするのはよくないと分かっているから、ここで追求は止めておくけれど。
でも張り合いがない。せっかく同フォースなんだから競争して、負けた方に何かを奢らせるとか考えてたんだけど、まぁいいか。
「あたしも作戦練らなきゃ」
「だねー!」
まぁでも。こいつの幸せそうな顔を見てたら、それも些細なことなのかもな。
窓の奥で桜が舞っている。そろそろ春か、なんて漠然と思いながら、隣のちびっこの笑顔を堪能するのだった。
親の心子知らず。逆もまた然り