久々に原作キャラを出してる気がする……。
人は当たり前のように歩くし、鳥は例外を除いて当たり前のように飛ぶ。
それは自然なことで、私も何の例外もなく当たり前のようにガンプラを作っている。
でも、それはふとしたきっかけですぐに挫折してしまう。
例えば人なら足を折ったり、失くしたり。鳥も例外なく翼を失えば飛ぶことが出来ず、餌を取ることも叶わずそのまま朽ちてしまうだろう。
私は、実際そういう類の、翼を失くしかけた鳥だった。
「はぁ……タッグフォースバーサス、かぁ…………」
ハルからのメールを確認したあと、秒で返事を書いてまたG-Tubeの動画をバックグラウンドにしながらガンプラを作る。
パチパチと一定周期でやってくる音を耳にしながら、私は少しだけ黄昏に浸っていた。
私は、とあるトーナメントで惨敗したことがある。
動画が残ってたはずだし、当時の二つ名で検索をかければ、迷わずヒットするタイプの黒歴史。
翼を失えば、鳥は飛ぶことができない。なら、飛べなくなった鳥はどうやって飛べばいいだろう。
私はその答えを得ている。人に頼ることだ。
人の手を借りて、私はやっと飛び立つことができた。だけど、こうして過去のことを振り返って、実際に目にして。そしたらまた昔の頃を思い出してしまったんだ。
『蒼翼のサムライ』。
この二つ名を欲しいままにしていたのは、紛れもなくシライシ・ナツキという人物だった。
文字通り、侍の刀である日本刀。ガーベラストレートを手に、自由自在に空を駆ける空中戦の支配者。今はハルに甘々な女子高生だが、GPD時代、この辺の地方で仰々しい名前を得ていたのが私だ。
その異名は、GPDのエリア高度限界からの急降下奇襲に加え、様々な空中戦での戦法を有していたからにすぎない。だから、私には過ぎたあだ名。
「まだ過去に縋ってるのかな」
そんなわけなくて、今の方が数千兆倍幸せなのは確定的に明らかだ。使い方の重複をしているように見えるが、昔のネット用語でこんなのがあったから見逃して欲しい。
ふと思うことがある。もしもGPD地区大会決勝で、脇目も振らず全力のガンプラで、全力の勝負をしていたら、と。
仲間たちは、解散しなかっただろうか。私のせいで『頑張る』という言葉が嫌いになったりしなかっただろうか。
抜けるように、1つ息を抜く。
暇つぶしに作っていたダブルオースカイのレプリカが一段落ついたので、私は大きく背伸びをした。
ぐぐぐと、背中が伸びる感覚はやっぱり心地がいい。
こういう細かい作業の後の伸びが気持ちいいってのは、誰しもが共感してくれることだろう。
「もう時間か」
今日はハルとは別行動で、彼女は彼女で何かを撮影しに行くみたい。
だから私もGBNの空を堪能する日にした。正直、ハルと一緒じゃないと空を飛びたくないけれど、いつまでも甘えたことを言っている場合じゃない。
自分自身、タッグフォースバーサスについて考えたいこともあったし。
父親からもらったアタッシュケースの中に、オーバースカイを収納して、ガンダムベースへと出かけた。
◇
「あ、ハルもう潜ってる」
VRというのはどうしても外側の目は見えない。
だから私がこっそり隣に行っても、ハルは気付かないしどんなに愛の言葉を囁いても、きっと届くことはない。
試しにハルのえっちとか、むっつりとか言ってみたけれど、反応がないので聞こえてないってことだろう。なんだか、寂しいな。
ま、いっか。私も久々に1人を堪能することにしようと思う。
ダイバーギアを装填して、私はもうひとりの私へと電子変換されていった。
エントランス・ロビー。特にやることもないし、そのまま格納庫へとエリア移動しようとしていたところで、何やら妙にロビー内が騒いでいた。
なんだろう。野次馬精神で覗きに行ったところ、長身の男性2人に女性1人が、浅葱色のケモミミ少年のアバターに絡んでいるところを発見する。
あの独特なフットボーラーみたいな格好と妙に上から目線の態度に、私は心当たりがあった。
フォース『ボルケーノ』と呼ばれる3人組。リーダーまでは覚えてないけれど、その悪名は知っている。
自身の評判の良さを盾に、打倒ビルドダイバーズを掲げている期待の新星、といえば聞こえはいいが、掲示板内での評判はもっぱら初心者潰し。相手へのリスペクトの欠片もない態度と、舐めてかかった態度はマナーが悪いフォースとして晒されているレベルだ。
少年も運が悪いな。と思っていたけれど、その少年は少年で、最近少し話題になっていた人物だった。
浅葱色の髪で片目を隠した見た目とぶかぶかなダイバールックは控えめな印象を受けるし、頭に立った2つのケモミミと大きな尻尾、そして少年の丸み帯びていて小さい見た目はまだ幼いことを理解させるには十分なほどだった。
でもその名前は一部で轟いている。
『BUILD_DiVERSのパル』。
大文字小文字差はあれど、どちらも有名なフォースであることは間違いなかった。
かたや第2次有志連合戦の英雄。かたやあのエルドラチャレンジを攻略した謎の4人組とも評されたりと、とにかく名前は大文字ビルドダイバーズと同じぐらいには知れていた。
この関係のつながり。ボルケーノの打倒ビルドダイバーズの思想と、パルのビルドダイバーズという名前は、つまるところぶつかりあう定めにあった。
「リーダー、こんなちびっこいのがビルドダイバーズの名前を語っているんですか?」
「あ、あの……僕、この後用事があって……」
「んなことより、俺たちとバトルしてくれよ。俺たち打倒ビルドダイバーズを掲げててさ。いいだろう、同じBUILD_DiVERSのよしみで、さ?」
「あ、えっと。その……」
あれは完全に押され負けてしまいそうな弱々しい瞳だ。怯えていると言ってもいい。
その割には周りの人たちは助けようともしないし。
はぁ、私も一応Cランクだし、喧嘩なら買ってくれるかな。
何も縁はないけれど、ここで見逃したらハルと顔向けする時に心にささくれができたみたいに痛むだろう。だから私は一歩足を前に踏み出すことにした。
「あ、パルくん、こんなところにいたんだ!」
「え? えっと、どな……」
(今は話を合わせて)
秘技、知り合いと見せかけて友達と合流。そして離脱するの作戦だ。
これのいいところは誰でも簡単にできて、なおかつ相手が勢いに任せて気圧されてしまうところだ。
そして当然悪いところもあるわけで。
「リーダー! こいつ春夏秋冬のナツキですよ! ELダイバー奪還戦の!」
「へぇ……」
顔が割れてる時にやると、とてもとても面倒なことになる、ということだ。
女性が薄汚れた笑みを浮かべ、天パーの男がニヤける。そして、リーダーの七三分け男が獲物を見つけたと言わんばかりに、口元と目元を鋭いものに変える。
「あはは、私も有名になったもんだね」
「そりゃああんだけ派手に動画配信してたもんなぁ?」
「そうそう! アハハ!」
不愉快極まりない。まるで、私たちの活動をバカにしているような感覚。
私はバカにされてもいい。ただ、ハルたちが、ハルがバカにされることだけは耐えることができなかった。
とは言え、BUILD_DiVERSのパルヴィーズくんも巻き込んでしまっている。だから彼にも確認を取るべきだ。
「パルヴィーズくん、私と臨時パーティ組んでくれる?」
「……はい! 助けてくださったお礼もしたいので」
利口な子と可愛い子は好きだ。もちろん一番はハルだけど。
ともかく、私とパルヴィーズくんが即席パーティを組んだことを把握したボルケーノたちはすぐさまバトル許諾の申請を投げてきた。
「俺たちと、やってくれるんだな?」
「速攻で膾切りにする」
YESボタンと同時に宣戦布告を叩きつけて、私とパルヴィーズくん。そしてボルケーノの奇妙な戦いの火蓋を切ったのだった。
◇
「ごめんね、パルヴィーズくん。あのまま突っ切れると思ったんだけど……」
「いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございました! 僕のことは『パル』って呼んでください!」
「じゃあパルくん、ありがとね!」
作戦:いのちだいじにガンガンいこうぜ。
一応数の上では3対2であるため、こちらが劣勢なのだけど、向こうの練度を見るに正直、私のオーバースカイより数段格下と言わざるを得なかった。
故に、パルくんのエクスヴァルキランダーと私のオーバースカイによる性能のゴリ押しで、ズゴックEの3枚卸しにAGE-1タイタスの丸焼き。最後にウィンダムを溶かしてハイ終わり、という凄惨たる結果になってしまったわけで。
「空中を飛ぶのなんて卑怯よ!」
とか。
「その刀はチートか!!」
とか。
酷い結果に、フォース『ボルケーノ』は当たり散らすことしかできずに泣き寝入りしてしまった。
個人的には精錬したガーベラストレートをチート呼ばわりされたのは許せなかったが、空を飛ぶこと自体、ウィンダムでもやってるんだから言われる筋合いはないと、ふざけた暴言を地面に叩きつけてやった。
まぁ、そんなどうでもいいことはいいのだ。格納庫内でパルくんの機体を見てて思うことがあった。
翼持ちのガンプラをいくらか見てきたものの、パルくんのガンプラは空を飛ぶことに目を据えている。
頑丈でしなやかな白き翼と身体は、まるで神話の中の聖獣みたいな美しく幻想的で、この世の誰しもが魅了するように目を引かれるものがあった。
「パルくんのガンプラ、すごいね」
「分かりますか?! モルジアーナ、じゃなくてエクスヴァルキランダーは僕がフォースの皆さんと、エルドラの皆さんと一緒に空を飛ぶために組んだガンプラなんです!」
「へ、へぇ……」
その食いつき方に私はびっくりだが、そこまでの熱い想いがあるからこそ、このエクスヴァルキランダーの白き翼は光り輝いて見える。
私のオーバースカイにはあるだろうか、そんな煌きが。
「ナツキさんのオーバースカイもすごいです! 長年手入れされているようで、少し傷も目立ちますが、それでも丁寧に整備されているのが分かります! 戦闘中、目を引かれてました! すごい愛が込められているって!」
「そう、なのかな……」
ガンプラはビルダーと鑑写しである。誰かが言っていたような気がするけど、きっと誰しもが思っていることだ。
確かに愛は込めた。シャフリヤールさんに言われてから、一番を目標にして今も絶妙な改良を続けている。
一番愛を込めたであろうこの機体に、果たして空を冠するだけの名前は必要だったのだろうか。そんな事を思い描きながら。
「何か、お困りなんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、ちょっと空が怖くってさ」
GPD地区大会決勝戦の敗北のときから気付いていた感情。
私がいつまでも『夢』という形で追い続けている、ことにしている理由が、多分これだった。
――私は、空が怖い。
ハルにはまだ言ってないけれど、GPDが終わってからGBNができなかった唯一にして最大の理由がこれだった。
決勝戦の時、追い詰められた私がいつものようにGPDのエリア高度限界まで飛んでいったときのこと。
相手は私のことを理解していて、ガンダムアシュタロンの改造機、ガンダムパラザイルによって空の端まで追い詰められていた。
いつもなら高度限界スレスレで切り替えして転換。ガーベラストレートで一刀両断がセオリーだったのだが、パラザイルはエリア限界でも臆することなく攻め入ってきた。
決勝戦であること、仲間の期待を一身に背負っていること、そしてガンプラの状態が十全ではなかったこと。
どれを踏まえても、あの時の私の手を止めるには十分な材料だった。
足を止めた私に襲いかかってきたのは2本のシザーアーム。捉えたのはデスティニーフレームの翼。
背面で掴まれたのもあって、抵抗できずに2枚の翼は折られ、そして落ちていく。
『飛べなくなった鳥に、空を駆ける手段はない』
その言葉と、仲間たちの絶望に暮れた顔が、いつまでも離れない。
だから、私は……。
「ナツキさん?」
「……あ、ごめん。ちょっと、昔のこと思い出して」
イケない。私がちゃんとしなくちゃパルくんにもハルにも迷惑を掛ける。
だからいつもの元気な私に戻って、平和な日常を送ればいいんだから。
「僕も、空が怖いです」
「……え?」
「僕も昔少しあって。ある時まで空を飛べなかったんです」
昔の思い出を懐かしむように、撫でるみたいに目を細めながら、パルくんはゆっくりと語ってくれた。
その過去は私の知るところではないにしろ、共通して言えるのは空から落ちた経験があったということだろう。
「でもヒロトさんが、フォースの仲間が教えてくれたんです。『心から望めばガンプラは応えてくれる』って。それで、克服したわけじゃないんですけど、空が飛べるようになって」
仲間、か。
ふとハルのふにゃりと曲がった笑顔がよぎった。
初めてガンプラで空を飛んだ時のハルの顔が、未だに忘れられない。いや、忘れたくない。愛しい人が憧れの空に心を奪われる姿を。
同時に感じていた。私は彼女を利用していたことを。
「今も、やっぱりちょっと怖いですけど。でも僕もモルジアーナを、エクスヴァルキランダーを信じてるから」
「そっか。それなら、私もなのかな」
愛は信頼とも言い換えられる。なら一番の愛を注ぎ込んだこのオーバースカイを、私は最も信頼していなきゃいけない。
ガンプラを見上げて。傷の残った翼を、注いだ愛の形を見上げて。
いつか、言える時が来るだろうか。あの時のことを、感じた絶望を。
何故だか、そう遠くない未来に口に出せる気がした。
ねぇハル。私、謝らなきゃいけないことがあるんだ。
心の中で今言っても意味がないことを思い描く。
空を飛ぶことの怖さを知った。
◇パルヴィーズ
出典元:ガンダムビルドダイバーズRe:RISE
かわいい。原作の設定は割愛。
ナツキへの印象は助けてくれた恩人であり、空に憧れを抱く同志。
なんとなく暗い過去を感じているが、
それでも前を向いている姿に尊敬の念を抱いている。あとかわいい
◇フォース『ボルケーノ』
出典元:ガンダムビルドダイバーリゼ
かませ。私の推し機体にフルボッコにされたフォース。
原作の設定は割愛。ナツキへの印象は憎き七光り。
俺たちにもELダイバーという特別がいれば、とか思っちゃうタイプ