ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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総合UA1万に感謝しながら初投稿です。
皆さま、読んでいただき本当にありがとうございます。

ついでにストック分が最終話まで迎えました。
あとは投稿するだけですね、奥さま!


第70話:将来と不安と、留まる一歩

 幸せな時間というのは意外とあっさり終わってしまうものだ。

 3年時になったわたしたちを待っていたもの。それは大したことはない、進路希望調査票の提出だ。

 正直未だに将来をどうするか決めていなかった。

 他と比べて遅いと思うし、なんだったらとりあえず進学、といきたいところだったが、事はそう簡単には進んでくれないのが常。

 母親曰く、大学に行くだけのお金は父親の遺産として残していると言っている。用意周到な親だったと感心するけれど、それとこれとは別で。

 このお金があればお母さんは少なくとももう少し楽をした生活が送れていたんじゃないだろうか。また過ぎ去った過去のこと思って教室の机にため息をぶつけた。

 わたしは、結局どうしたいんだろうね。やりたいことも定まってない。けれど進学なんてやっても意味ないかもしれないし。うーん……。

 

「おはよ。相変わらず眠そうだね」

「ん、おはよ。実際眠いの」

 

 3年時になってもクラスは変わらず一緒になったことへの嬉しさはあるものの、進路への不安の方が大きく、ここ最近あまり寝れてない日々が多い。

 ふあぁ……。とポッカリと開いた口を限界まで引き伸ばして空気の入れ替え、もといあくびをする。少し涙まで出てくるってことは、これは相当眠いということなのだろう。

 元々朝は弱いし、ここ数日の睡眠不足も相まって、今日はGBNをせずに寝たいところだった。

 

「ふあっ……。いけない、私もあくびでちゃった」

「あくびって釣られるからねぇ……ふあぁ……」

「だからって釣られちゃうハル、かわいい」

「うるさい」

 

 基本的にGBNとふたりっきりのとき以外ではまともにいちゃつくことはない。

 まぁ、でも。机の上に乗っている手ぐらいは握っても構わないだろう。それぐらいは女子高生みんながやっていることだ。

 報復、と言わんばかりにそっと手を握って、眠い目をこすって相手を慈しむように、微笑みかけてみた。

 すると案の定ナツキは反応して、少し顔を赤らめつつも、そちらも優しく微笑みかけてくれた。あぁ、かわいい。

 

「ハルがこんな事してくるなんて珍し」

「報復だから。さっきの」

「どんだけ根に持ってるのさ」

「過去を根に持つ女なの」

 

 実際家族の件とかは間違ってはいないけれど、この時に言ってる過去というのはほんの十数秒前の釣られちゃうハルかわいい、のところだ。

 というか、なんとも言えない甘ったるい空気が、胃の中に沈んでいってもたれてしまいそうなぐらい砂糖みたいで、周りの反応が少し気になってしまった。

 ちらりと、横目で周囲を確認してみると、反応は様々だ。

 そもそも気にせず勉強している人、わたしたちに動揺してペンを落としている人、前と同じクラスだったからか話しかけようにもそんな雰囲気ではないと諦める人。そして同じようにいちゃつくモブ男女に、男男、女女。

 他にもたくさんあるから、まさしく社会の縮図と言ったところか。

 気付けば色んな人がいるというよりも、わたしが世界に目を向け始めていたから、なのかもしれない。でもどんなに世界を知ったって、世界の中心はいつでもナツキだ。

 そんな世界の中心さんがむくれた様子でわたしの顔を横から挟んで、強引にナツキの方へと向けさせられた。

 

「私をちゃんと見てよ」

「見てるって」

「今よそ見してた」

「めんどくさい女か!」

 

 完全にメンのヘラを拗らせた女の子の発言だったと思う。俗に言う面倒くさい女。

 まぁ多分わたしたち2人とも、その面倒くさい女にカテゴライズされるタイプの女であることはお互いに重々承知している。

 かたや寂しくて死んでしまいそうになるウサギ系面倒くさい女。

 かたや献身的で、愛が重たい女。そこに違いはあれど、同じく一緒にいたいという気持ちが大きくて過ごしているところがある。

 そして軽く気付いた。わたし、なんでナツキに愛されているのか、ってことを。

 可哀想だからと思っていても、こんなに優しくしてくれる理由はどこにもない。だからたまに不安をいだいてしまうのは当然のこと。

 

 ――どうして。

 

 その言葉を口にしても、ナツキは答えてくれるだろう。

 でも今じゃない。わたしは、ナツキの口から喋ってくれることを切に願っているのだから。

 ワガママなわたしでごめん。でもこれくらいのワガママ、恋人なら叶えてくれたっていいと思うんだ。ね、どうかな?

 期待と不安が入り混じった瞳を眠い目を擦りながら、わたしはナツキを見上げる。

 

「どうしたの、ハル?」

 

 伝わらないのは分かっている。だって口にしてないから。

 そもそもこんなところで口にすることははばかられるとか、もっとふたりっきりの時にやれだとか、そういう意見はあるだろうけど、今、この瞬間、少しだけ魔が差しただけだ。そこに理由はなく、答えなくてもいい。でも気になる。そんな程度に思ってくれていいから。

 

「ううん。なんでも」

 

 やっぱりナツキは卑怯だ。わたしの進路への不安を誤魔化してくれる。いずれ来る恐怖を先送りにすることができる。

 ナツキへの不安や、悲しみ。恐怖と言ってもいいかもしれない。どんな事をしたらナツキに嫌われるのか分からなくて。

 だから卑怯なんだ。もうナツキがいないと不安で押しつぶされてしまいそうな体になってしまったから。逆にナツキに嫌われたりでもしたら、それこそ心中する覚悟でいるぐらいには、怖くて怖くて。怖くて……。

 また、1人に戻るのが嫌なんじゃない。ナツキと、半身と離れ離れになるのが嫌なんだ。

 わたしはもう一人前になれない。ナツキと一緒で初めて人として成り立つことができる。欠けていたものを、ようやく取り戻すことができる。

 にこやかな笑顔の裏には、いったいどんな闇が潜んでいるのか、それをわたしから聞き出すことなんてできなくて。

 あぁ、やっぱりヘタレだな、わたし。

 

 ◇

 

「ハル、進路どうするの?」

 

 昼休み。いつものようにコンビニで買ったパンをもそもそ食べていると、ナツキはわたしの地雷ワードを堂々と踏み抜いてきた。

 今口に入れているパンの端っこを歯で噛み砕いてすりつぶして喉の奥に入れて、一息ついて一言。

 

「知らない」

 

 明らかに拒絶したようなワードでなんとなく察したのだろう。

 ナツキはハの字眉で申し訳無さそうに、ごめんごめんと口にする。

 まぁ、ナツキになら何言われてもいいんだけど。

 

「よかったー! 一瞬ハルに嫌われたのかと」

「むしろナツキだったから致命傷で済んだまである」

「どんだけ傷ついてるの」

 

 だって、今一番悩んでることだし。

 口にしたパンを引きちぎって、口の中で咀嚼。所詮はコンビニのパン。もちっとしているものの食感だけであり、味は大したことない。これなら学校と真反対にあるパン屋のクリームパンを食べたくなってしまう。

 ナツキは今日お弁当か。いつも見ているけれど、家庭の味、というのをひしひしと伝わってきて、正直わたしの分はないだろうかといつも期待して、打ち砕かれる。

 

「で、ハルは写真家にでもなるの?」

「はい?」

 

 なんでいきなりそんな話になったんだ。あ、将来の話からか。

 いやだからっていきなりもいきなり。GBNで初手トランザムをするかのような奇襲行為に思わず喉の奥をつまらせてしまう。奇襲は大成功だった。

 急いで牛乳を口に入れてパンを喉の奥のパンを流し込んだけど、危なかった。ナツキに殺されるところだった。

 ……女囚ナツキ。わたしだったら嫌がらせと言わんばかりに、どんないやらしいことをさせるだろうか。

 なに妄想してるんだわたし。ナツキはそんなんじゃなくて、ただ単純に綺麗だからそういう女囚の役みたいなのがぴったりというか。体のラインも、えっちだったし。

 

「人が真面目な話してるのに、何いやらしいこと考えてるの!」

「痛っ!」

 

 額に中指が突き刺さる。いわゆるデコピンというやつだ。痛い。

 というか、なんでわたしがいやらしいことを考えてるってバレたんだろ。口に出してるわけじゃないのに。

 

「ハル、変なこと考えてるとき、左の親指を握る癖あるから」

「えっ?! 初耳なんだけど」

「指摘する相手いなかったじゃん。てことで私がハルの初めてもーらい」

「だからってパン取っていかないでよ!」

 

 この食いしん坊か、お前は。

 仕方ないので食べかけのパンを一口渡すことで終戦することにしようと、パンを差し出した。

 

「え、いいの?」

「一口だけね」

「やったー! いただきまーす!」

 

 口を大きく開けて、ぱくりと一口。その一口が明らかに大きいことをわたしは口をつけられた後に知るのだけど。

 何という遠慮のなさ。食べかけだったパンの半分が根こそぎ持っていかれた。図々しさハル杯グランプリ賞を飾れるな、これ。

 

「で、話を戻すけどさ」

「進路ね。うんまぁ、悩んでる」

 

 悩んでる理由も半分は金銭面、と言いたいところだが、実際わたしが突き進もうとすれば、必ずお母さんは後押ししてくれるだろう。

 だけど、わたしの勇気がないばかりに、踏み込めずにいた。

 

「写真家、かぁ。一応誘われてはいるんだよね」

「え?!」

「あ、学校の紹介程度ね」

 

 誕生日の時にグレイさんから教えてもらった大学、専門学校をいくつか見てはいるが、ピンとくるものが見つからない。

 写真の分野は芸術科という扱いになるらしく、市内にもそれなりに大学や専門学校は建っているものの、果たしてそこに行くかどうか、というのは話が変わってくるわけで。

 

「この辺はわたしの思い切りのなさが原因かなって」

「ハル、流されやすいしヘタレだしね」

「悪かったな」

 

 でも。ナツキはそう言って箸を机に置く。

 

「夢が決まってる分すごいよ。私なんか全然だし」

「ナツキは、どこ行くか決めてるの?」

「ううん。進学だろうけど、どこに行くかまでは……」

 

 そっか。ナツキはナツキで将来への不安を抱えている。

 わたしみたいに勇気がないんじゃなくて、ただただ夢がない一般的な現代っ子のナツキがそう簡単に今後どうしたいですか、と聞かれて答えられるわけがない。

 わたしだけだと思ってたけど、そっか。ナツキもなんだ。

 

「一緒だね」

「そんなところで言われてもなー。ハルは決めてるだろうし」

「……そんなに写真家にさせたいの?」

「へ?」

 

 ナツキが望むなら。そう言いかけて、やめた。

 これはあくまでも自分で決めることであって、他人に判断を委ねることじゃない。

 ましてやナツキに、将来への不安を抱えている子に、決めさせてはいけないんだ。

 

「なんでもない。どうしよっか」

「ね。どうしようかなー」

 

 努めて明るく振る舞っていれば、明るい話題が出ると思っていたけれど、出てくるのは無言の時間と、パンの包み紙の音だけ。

 ナツキと一緒にいて、こんなに沈黙が続いたのは初めてだ。それも、悪いタイプの沈黙が続いたのは。

 

 本当は言いたい。わたしはわたしの道を突き進むべきかどうか。

 条件は揃っている。後は学力を上げたり、芸術の勉強もして。

 でも踏み込む勇気が出ない。それが人からは軽い一歩だったとしても、わたしには鉛のように重たい一歩だ。

 ……結局、わたしは何がしたいんだろうか。

 廊下側の席から窓際を見て、遠く望む青い空を目に映してため息をつく。

 憂さ晴らしに今日もGBNに潜ろう。そんな気分になった。




大海は広く、迷いやすい
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