ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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空は落ちるものなので初投稿です。


第71話:相談と鏡と、飛び落ちる空

 悩みながら遊んでも、そりゃ身が入らないわけでして。

 久々に春夏秋冬でミッションをやってみても、いつもどおりの恐怖の線やわたしの対応力やトランザム制御力は出てこないわけで。

 被弾する一方のわたしとナツキをフォローする形で、モミジとセツが間に入って迎撃してくれた。けど、それでは根本的な解決にはならない。

 ミッション終了後、いつものようにエントランスエリアのカフェテリアで、カフェオレを飲みながら一段落していたときだ。

 空気を切るようにして、モミジがその話題に割って入ってきた。

 

「なんかあったん?」

「え? いやそんなことないけど」

「うん。お姉ちゃんたち、今日なんか調子悪そうだった」

 

 最近目覚ましい発展を遂げているセツの実力とより磨きがかかったモミジの射撃センスの前に、わたしたちが何か悩みを抱えているのではないかと、暴かれてしまった。

 取るに足らない、というわけではないものの、話しても解決するような悩みでもなかったから放っておいたけど、やっぱり練度に出るみたいだ。

 

「私たち、もうすぐ進路決定の時期でさ。それで悩んでるの」

「なるなる。そいやJKだったね、あんたら」

「進路決定って何?」

 

 セツにとってはまずそこからか。と肩をがっくりと落としてしまった。

 彼女といるとたまに見た目の幼さと比例した知識の無さを披露してくるから、困惑する時がある。それに目ざとく怒ったりすることはないんだけどさ。

 だからわたしはとりあえずざっくりと進路、というものの説明をしておいた。

 簡単に言えば、自分がこれからどういう道を歩くか、ということを選択する機会とでもいうべきか。

 例えるなら、今日はミッションにするかフォース戦をするか。そんな他愛のない選択でもいい。それが今後の人生を左右する重要な選択である、ということを加味しておけば、だいたい伝わると思う。

 

「ふーん。じゃあ、お姉ちゃんたちはこれからどうするの?」

「それを悩んでるんだよ」

「どーしようねぇ」

 

 わたしは元々就職するつもりだったけど、その道を決めかねているだけだし、ナツキはそもそも進学か就職、どっちに行くべきかを迷っているレベルだ。だから選択肢の幅としてはナツキの方が広かったりする。

 

「ハルは写真家じゃないん?」

「ナツキも言うけど、なんでそうなるのさ」

「だってフツーに考えて、ハル写真好きでしょ?」

「…………そうなのかな」

 

 矜持はあると思う。ただそれはこだわりというか、憧れを追い求めているというか。

 それを好きと言えるなら、恐らく好きなんだろう。

 けど夢か、と言われたら、夢と言えるほど大それたものでもなくて。だから、写真家になるなんてのは夢のまた夢で。

 

「そーだよ! セツもハルお姉ちゃんの写真すごいって思う!」

「そうだと、いいんだけどね」

 

 夢はないわけではない。けれど誰かに言えるような理想的なものじゃない。

 夢を追うべきか、そうじゃないか。金銭面も心配ないと言っているし、センスがあるとも褒められた。

 だから最後はわたしは結局どうしたいのか。それだけだった。

 

「お困りのようね、ハルちゃん、ナツキちゃん」

 

 カフェテリアでゆっくりしていたら、不意に聞き慣れた声が耳に入ってくる。

 見上げてみれば、褐色の肌にはだけたジャンバーから見えるセクシーな胸元が彼女の魅力を最大限に生かしている。我らがマギーさんだ。

 わたしたちが何やら悩んでいる風に見えたマギーさんがこうやって声をかけてくれたのだ。こんなに嬉しいことはない。

 

「困っているっていうか、進路の悩みで」

「そう。座ってもいいかしら?」

「いーよん。あたし退くね」

「ごめんなさいね、モミジちゃん」

 

 いつも4人席でたむろしているからかこういう5人目の来訪者が来ると、大抵誰かがのけものにされてしまう。

 そういうときにだいたいモミジが嫌な顔せずに退いてくれるから、流石元ギャル。周りを見ているな。とか思ってたり。

 いつものように店員のNPDが椅子を持ってきて、モミジはその椅子に腰を下ろした。

 わたしはとりあえず今の悩みを吐ける程度に軽く口に出す。

 マギーさんはいつの間にか注文したであろうカフェオレをストローでかき回しながら、進路ねぇ、なんて口に出しながら一緒に考えてくれる。

 

「そういえばマギーさんってリアルじゃどんな事なさってるんですか?」

「あら聞いちゃう? そ・れ・は~……」

「って、言っちゃうんマギっち?!」

「いいわよそれぐらい。アタシはバーをやってるわ、フォースネストと同じく、ね」

 

 心の中で「マギっちって何さ、マギっちって」とツッコミを入れておいたので口に出すことはなかった。でもそれぐらいには衝撃的だったので、後半のバーをやっているという話があんまり入ってこなかった。

 まぁ、バーをやっているってことだけ分かればいいか。でもそっか。バーかぁ。

 

「アタシが言えたことでないけど、進路はあくまでも最初に決める分岐点、みたいなものよ。人生という大きな道のたった1つの選択に過ぎないの」

「でも、みんな重要だって言いますよ?」

「そうね。初めが肝心、なんて言葉もあるし」

 

 でもね。マギーさんはそう言ってから空気を切り替えるようにしてカフェオレを口にする。

 

「人生は意外となんとかなるようにできてるの。第二次有志連合戦みたいに重要な局面だってあるけれど、それはその時の自分自身に問いかければいい。何を信じて、何を貫くべきか、ってね」

 

 人生は選択の連続だ。誰かが言っていた言葉ではあったけど、まさしくそうなのかもしれない。

 重要な選択だと思っても、喉元過ぎればなんとやら、というように大抵の場合はどうとでもなる、らしい。わたしはそれで父と妹を亡くしているから、そうは思わないけれど。

 

「でも、選択には必ず後悔がつきまとう、と思うんですけど」

 

 だから口にしていた。反論したくなってしまったんだ。

 後悔と選択。それは一緒くたにかき混ぜられる表裏一体の存在。

 何を選んでも、何をしても、結局後悔することには変わりない。後悔のない選択なんて、ありえない。わたしの考えはそれだ。

 だから一歩を踏み出せないままでいる。もしもわたしが夢を追うことになったら。何かの手違いでお母さんにまで被害を被ってしまったら。そればかり考えてしまって、どうしても先に進めずにいるんだ。

 だけど、マギーさんは真剣に言葉を返してくれた。

 

「そうね。重要になればなるほど、後悔する選択は必ず増える。どうしようもないことね」

「じゃあどうしたら……」

「過去に目を向けて、今を見つめて、自分が本当にしたいことを真剣に考え抜く。それしかないわ」

 

 真剣に、考え抜く。流されがちなわたしには難しい話だ。

 誰かに何かを言われたから、そんな理由で考え方を変えようとする人が、考え抜いて実行するって難しい。

 未来は変えられるというけれど、それを変えられるのは今の自分しかいない。過去の自分も、未来の自分も考えてはくれないんだ。

 

「あなた達にいい事を教えてあげるわ」

 

 わたしが考え事をしている最中に、視界の端から1枚のウィンドウが表示される。

 それはクエストの詳細な概要らしく、内容はこう書かれていた。

 

「ミラーミッション?」

「そう。月に1回開催されるっていう限定ミッションよ」

「あ、これ聞いたことある。難易度ゲキムズのくせに報酬がバッジ1つだけっつー」

 

 あ、ホントだ。報酬が卒業バッジ1つだけ、というなんとも味気ない内容だ。その割にゲキムズって、いったいどんな内容なんだろう。

 

「いやね~、人聞きが悪いわ~! ただ、待ち受けているのは、あなた達が体験したことがないほどの困難ってことよ」

「困難……」

「具体的には?」

「ヒ・ミ・ツ」

 

 ケチー。思わず口に出てしまった。

 体験したことのない困難、ねぇ。それがいったい今のわたしたちとどんな関係性があるのか、皆目見当がつかなかった。

 

「そうね、1つ付け足すことがあるとすれば、あのタイガちゃんやシャフリちゃん、チャンピョンもこのミッションに助けられた、実績のある由緒正しきミッションよ」

「あんまり人気ないけどねー」

 

 さっきからモミジは一言余計じゃないか。口に出すことはなかったけど、心の中ではマギーさんが少し可哀想だと思ってしまうぐらいには、その言葉は言わなくてもよかったんじゃないと、ツッコミを入れたくなるレベル。

 開催時期も明日1日だけみたいだし、ナツキと一緒に行ってみてもいいかな。ちょうど最近は暇を持て余してた頃だったし。

 

「行ってみよっか、ナツキ」

「私も気になるしね! チャンプまで助けられたことがあるミッションって」

 

 じゃあ明日はナツキとふたりっきりかな。それはそれで少し嬉しいかもしれない。

 まるでデートみたいな……。ふふふ……。

 

「そういえば、モミジちゃんもこのミッション行ったらしいじゃない」

「まぁね。みんなに内緒でこっそりと」

「でかお姉ちゃん、そのミッションってどんなのなの?」

「秘密ー」

 

 わたしの妄想中に意外と重要な事実が暴露されていたが、耳の中を素通りしていったのであまり関係ない。

 ともかく、明日のためにちゃんと準備しなくちゃ。どんなミッションが待ってるかわからないもんね。

 

 ◇

 

 『GBN~四季を超えて~』

 ミラーミッションと呼ばれるこのクエストは基本的には4ステージ+最終ステージの計5つが設定されている、らしい。

 Wikiで情報を調べてみたけど、内容はさっぱり。アスレチックをやったとか、千本ノックをしたとか。後はカラオケで熱唱とかとか。たまにバトルステージが間に挟まったり、最初にやってきたりと、とにかくやりたい放題。

 攻略班もその受注回数の少なさと、パターンの豊富さからさじを投げている。

 そのくせ攻略しても、アバターアイテムの『卒業バッジ』が1個だけ。こんなにも割に合わないミッションを誰がやるだろうか。わたしだって勧められなかったら、やる気はなかったまで言ってもいい。

 でも勧めてくれたのは他でもないマギーさんなわけで。

 あの人には借りがある。だからこういうのを断ることはできない。

 ミッションカウンターに2人で並んでその該当のミラーミッションを見ているんだけど……。

 

「やっぱりどういうミッションか分かんないね」

「うん。掲示板も正直漠然としてたし」

 

 一応専用スレがあったものの、過疎っているミッションだからか、攻略情報が書かれていなかった。

 気になった内容があったとすれば、それは自分自身と戦え。とか、俺強すぎとか、そんなのばかり。要領を得ない内容だ。

 

「行ってみる?」

「集まったしね。ポチッと」

 

 ミッションカウンターのNPDが途中退室できない旨と、一度リタイアしたら向こう1ヶ月再受注できない旨を明記すると、わたしたちは光の柱に包まれて、消滅した。

 

 目を覚ませば、やたらと大きなプロペラ音とやたらと狭い鉄の檻の中にいた。

 窓から見てみれば、そこは一面の雲。これって、えっと……。

 

「第一ステージ、スカイダイビング、だって……」

 

 ナツキが、恐る恐る震えた声を上げる。

 心なしか怖がっているのか、わたしの手を握って震えを抑えているようにも思えた。

 だから、もう片方の手でナツキの手を覆って、窓から見える白と青色に包まれた空を見る。

 ひょっとしなくても、飛び降りろってことだよね、これ。

 曇るナツキの顔と震える手があることを察しさせてくれた。

 

「ナツキ、ひょっとして高いところ苦手?」

「ううん。そういうわけじゃないの。そういうわけじゃ」

 

 目を閉じて、わたしに何かを見せないように唇を一の字で結んで。

 プロペラの音だけが周囲を包み込む。これはGBNで、ミッションだ。死ぬことはない。でもわたしも嫌でも感じてしまう。落ちたその先で死んでしまったら、と。

 大丈夫。その心配はない。だってタイガさんに教えてもらったから。

 息を吸って、吐いて。吸って吐いて……。深呼吸を3度も繰り返せば、自ずと頭は冷静になっていく。

 

「ナツキ」

「……なに?」

「大丈夫。怖くないよ」

 

 ピクリと、肩が揺れた。

 高いところが怖いわけじゃない。だって空を飛んでいるナツキはあんなにも楽しそうだったから。

 ならなんで。分からない。分からないけれど、それはナツキが隠している部分で無理に明かそうとする必要はない。

 だからナツキがそうしてくれたように、わたしも手をつないでそばにいる。怖くないよと、わたしとわたしの言葉で暗示をかける。

 幾ばくかの時を置いて、ナツキは震える唇を強く結んで口にした。

 

「うん。ありがと、ハル」

「……行こ、空の底へ」

 

 勢いよく開かれたヘリコプターのドアからわたしたちは手をつないで飛び立った。

 これからどんなミッションが行われるかはわからない。だけど、ナツキと一緒ならどんな困難だってクリアできる。そう思うから。




向かうは空の底。挑むは鏡の大迷宮
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