ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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セイバーの劇場短編、賢人が生きていただけで私にとっては神映画でした


第8話:「たかがメインカメラをやられただけだよ?!」

 2WAVE目は青い1つ目、グフが現れてヒートロッドやミサイルが飛んでくる中、1体1体処理していく必要がある。

 もちろんそれをパーティメンバーである火力担当セツを除いてのことだ。

 要するに……。

 

「めっちゃ大変なんだけど!」

「楽しいねぇ、ハル!」

「なんでそんなに楽しそうなのさ!」

 

 ブルースカイのハイマットモードによる高機動戦闘についていくのなんて無理だし、近づけばその辻斬りのように横一閃、または縦一閃。はたまたクロス斬りと多種多様なやり方で敵を膾斬りにするガーベラ・ストレートの錆になることは明白だ。

 だからわたしは遠距離からちまちま狙っていくことにしたのだが、スナイパー初心者。サポートありきの照準機能に感謝しながらも、それでも外してしまうのは、どうしてだろう。

 答えはわたしの腕が下手っぴだからだろうね。

 よほど近づかなければ当たらないし、かと言って近づけばスナイパーとして優秀なガンダムファインダーはその機能を1つ失わせることになる。どうすればいいかなんて分からないけど、目の前に現れた青い影をスコープを覗いて狙い撃つ。

 

 このゲームにはコックピット判定と呼ばれる即死の当たり判定がある。

 当たれば確一という言葉を聞けば分かるだろう。あるものは理不尽な設定であると憤怒し、あるものはガンダムらしい設定だと褒め称えるものもいる。

 弱点はコックピットの位置。つまり胴体。なのだが、初心者のわたしはそれを理解するに至っていない。故に……。

 

「ヘッドショット決まったのにこのグフ動くんだけど!」

「たかがメインカメラをやられただけだよ?!」

「コックピット狙わなきゃ!」

 

 その言葉をあと数秒前に聞きたかった。潜伏していた場所がバレ、即座にサブカメラからわたしを認識し、ミサイルポッドからの連射。ギリギリのところでなんとか避けれたけど、首なしの亡霊は更に追い立てるようにヒートロッドを振りかざす。即座に判断するという行為はまだわたしには難しい。なので、巻き付かれた左腕は熱によって融解。爆発とともに腕を失う。

 フィードバックとしてコックピット内のわたしにまで衝撃が走る。本物の痛みにもよく似た、それでも偽物の痛みはわたしの思考をかき乱すのには十分だった。

 

「どうすれば。どうして。どうやって」

 

 混乱する思考は例えNPDで、真っ直ぐに攻撃するような木偶の坊だったとしても、わたしはそれを驚異としか認識しない。

 だから頼ってしまう。ガンダムファインダーの特殊システムを。

 

「トランザムッ!」

 

 それはオリジナル太陽炉、ひいては進化した擬似太陽炉にのみ使用可能の特殊システム。

 高濃度圧縮GN粒子を全面開放することにより、一時的にそのスペックを3倍にまで引き上げる必殺技とも思える力だ。

 特徴として機体は赤く発光するのだが、それは一旦置いておくとして、初心者が自分の機体制御もままならないまま、スペックを3倍にまで引き上げた機体がどうなるか。答えは明白だった。

 

「動き、っすぎる!」

「ハル?!」

「ハルお姉ちゃん、止めて止めて!」

 

 止め方が分からないから止まらないんだよ!

 コントロールを少し、わずかに傾けるだけで3倍の速度で動くそれは、当然グフを置いてけぼりにするのだが、それ以上にわたしの思考も判断も置いてけぼりにする。

 避けた拍子に傍にあったビルに大激突。倒壊したのは無理もないが、それでも止まらない。いくつものビル群を破壊し尽くしたガンダムファインダーのトランザムは操縦が効かないまま、粒子残量の低下に伴うトランザムの強制終了が入る。

 

「はぁ……はぁ……うっっぷ」

「ダメじゃんもう! セツちゃん、サポートお願い!」

「らじゃー!」

 

 猛烈なスピードと幾度もの激突も確かにフィードバックとしてわたしの身体に響いていく。要するに胃からこみ上げ来るものがあったんだけど、なんとか食道で抑えて、身体を落ち着かせる。

 なまじ出力があった分、その圧倒的なパワーによって逆に頭まで冷静になったと言うべきか。とにかくヒートアップしてた思考はなんとか正常値まで戻っていく。

 それでも機体性能の低下は避けられない。動こうにも先程まで動いていた身体が言うことを効かない。この諸刃の剣は、ちゃんと練習して克服した方がいいと分かるのにそう時間はかからなかった。

 

「だいじょーぶ?」

「正直、やばい」

「ヤバそうだったね……」

 

 あのセツですら気を使って大きな声を出さないので、相当イカれた動き方をしていたのだろう。

 ちなみにビルの倒壊によってわたしを追っていたグフは沈黙。ナツキの尽力もあってなんとか2WAVE目を突破することになったのだが……。やっぱりわたしの体調は優れなかった。

 

「どうする? 一回やめる?」

「ぅあー……。できればそうしてほしい」

「えっ?! ……ぇ。あー」

「どうしたの、セツちゃん」

 

 どことなく。というか露骨にやめることを嫌そうにつぶやくセツはモニター越しの表情だったとしても暗かった。

 ともすれば、自分のエネルギー残量を確認したらしく、うん。と一言つぶやいて言葉を口にする。

 

「セツとナツキお姉ちゃんがいればなんとかなる。ううん。セツだけでなんとかする!」

「待って待って。セツちゃんの言いたいことは分かるけど、ハルが……」

「ハルお姉ちゃんはそこで待ってて。なんとかするから」

 

 必死とも受け取れる説得は第3WAVEに登場するドムが現れるまで続いた。

 ミッションの途中リタイアはできるものの、マルチである今の状況は誰か1人が欠けると全員がリタイア扱いになってしまう仕様だった。

 セツはどうしてもそれを避けたかった。何故だか分からない。けれど、何か後ろにいるみたいな錯覚を味あわせてくれた。リタイアしたくない、しちゃいけない。したら……。強迫観念とも取れるセツの説得は鬼気迫るものだった。

 結局わたしが流されて、3WAVE目はセツとナツキの2人でやることとなった。わたしはビルの影で粒子残量と体調が元に戻ることを待つだけ。

 あとはわたしの近くにドムが現れないことを祈るしかない。

 

 戦闘が始まって数分が経過した。なんとか体調も元に戻って、粒子残量もそこそこ溜まってきた。よし、わたしも戦線復帰しよう。というところでミッションクリアのアナウンスが表示されてしまった。終わっちゃったのだ。

 

「じゃーセツはこれで!」

「あ、待って」

 

 すぐにその場を去ろうとするセツに向かって、わたしは少しだけ声を張って引き止めた。

 

「なに?」

「フレンド登録しない?」

「……うん、いいよ!」

 

 若干の間があったものの、それを補ってあまりあるほどの元気で、疑問は霧の中へと消えていく。

 セツの名前と機体情報を交換して一言。わたしは言いたかった。

 

「ありがとね、付き合ってくれて」

「え?」

「だってセツが頑張ってくれたからBCとダイバーポイントをもらえたんだし。まぁ、わたしはポイントちょっとしかもらえなかったけど。それでも、誘ってくれて嬉しかったよ」

「…………あ、うんっ」

「セツちゃんどうしたの?!」

 

 わたしがお礼を言ったからいけなかったのだろうか。それは分からないけれど、セツの目には明らかに涙が浮かんでいた。光の粒のように輝く透明な糸は頬を伝って、ロビーの床へと落ちていく。

 

「ごめんっ…………ごめん、なさい……」

「あぁ、えーっと……」

 

「おい、あの子たち子供泣かせてるぞ?」

「どんなこと言ったんだよ」

「女の喧嘩こえー」

 

「とりあえずこっち。こっちに行こう?」

「うん……」

 

 鼻水をすするような音とヒックヒックと何度も鼻の奥を鳴らす声はその日のロビーに響き渡った。少しだけガンスタグラムに話題が載ったけれど、たったそれっきりだったのは救いだ。

 

「落ち着いた?」

「うん。ごめんね。セツ、変なの」

 

 たはは、と笑う彼女の顔には少しだけ曇りで陰っていたように見える。それでも笑顔を絶やさぬようにと、無理やり笑っているような。

 ナツキもそれに気付いていたのだろう。お互いに顔を見合わせて、それで首を横に振った。

 そうなんだ。わたしたちはただの赤の他人なんだ。フレンドとは言っても、オンラインゲームのフレンドなんて薄っぺらいもので、フレンドになってもそれっきりというパターンが多かったりする。

 だから無理に踏み込むことができない。踏み込んだらどんな大怪我があるか分からないから。結局自分の身が一番可愛いのだから。

 

「お姉ちゃんたちありがとう! それじゃあね!」

 

 逃げるようにしてわたしたちの元から離れる彼女の栗毛が宙に舞う。

 誰しもが何かを抱えているのだろうけど、それに容易く踏み込むことは許されない。それは他者を傷つけることであり、自分をも斬り裂く行為だから。

 でもなんとなく、彼女とはこれっきりの縁とは思えなかった。なんでだろう、第六感もそこまで強力じゃないんだけどな。

 

「続き、しよっか」

「そうだね。正直あのトランザムを習得したいし」

「あはは。酷かったね、ホント」

 

 あとでハイマットモードの操作感覚を教えてもらうことにしよう。

 きっと参考になるはずだ。

 

「ねぇ、あの子」

「うん。また会えると思うよ」

 

 そう遠くない未来。分からないけど、そんな気がする。

 縁というのは妙なものだ。なんとなくでしか分からないのに、そのなんとなくがうまくいくと確信してしまう辺り、本当に妙なもの。

 

「ギャルのお姉さんも言ってたし、今後もよろ~ってことで」

「そうだね。じゃ、たくさんしごいてあげるから、覚悟しててね」

「びえー……」

 

 悪魔がいる。そう思ったのはどうしようもなく彼女がニヤニヤしていたからであろう。やめてください、今度こそ死んでしまいます。




子供を泣かせる外道二人組
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